20年以上デスクワークを続けてきた筆者は慢性的な腰痛に悩まされている。正確には痛みではなく、ひどい腰のコリが主症状で、毎日のストレッチポールでの腰ほぐし運動が欠かせないほど。
そこで今回、立って仕事ができる机「スタンディングデスク」になる、オカムラ(岡村製作所)の電動上下昇降デスク「スイフト」のレビュー依頼があった際に、喜んで引き受けた次第だ。
オカムラによれば「2時間座り仕事を続けるよりも、1時間ごとに10分から40分の立ち仕事を加えたほうが、『腰の痛み(違和感)』に対する自覚症状が軽減するという研究結果が出た」という(公益財団法人 大原記念労働科学研究所と岡村製作所の共同実験より)。これであれば、長年の悩みである腰痛を軽減することができるかもしれない。
立っても座っても使える
スイフトは内蔵する電動モーターで650〜1250ミリの範囲で高さを調整できる上下昇降デスクだ。固定式のスタンディングデスクと違い、立ち姿勢でも座り姿勢でも自由なポジションで利用できるというのが売りだ。
本製品は、天板の形状・カラーや、本体カラー、奥行き(675、775ミリ)や幅(1150、1350、1550、1750)などを自由に組み合わせることが可能だ。
今回オカムラから借用したのは、天面手前が下向きに傾斜しているスムースフォルムエッジタイプ、天板カラーと本体カラーはホワイト、インジケーター付きコントロールパネル、幅1150ミリ、奥行き675ミリという仕様の「3S20AD」モデルだ。組み立て作業費を除いた税込み価格は約15万円前後となる。
オフィスインテリアメーカーの製品だけに、天板にコンセントを設ける「コンセントユニット」、周囲の空間を仕切るラウンドパネルやブース、PCディスプレーを装着する「M2モニターアーム」など多くの純正オプションパーツが用意されている。互換性を気にせず購入できるので、純正オプションパーツが充実しているのは嬉しいところだ。
予想を上回るヒットに
このスイフトは2015年1月に発売され、オフィス向けの上下昇降デスクとして人気を博してきたが、予想を上回るヒットとなり、現在では楽天市場などで個人でも自宅用に購入できる。
また現在、クラウドファンディングサイト「+Style」では、同サイトを通じた自宅バージョン販売に向けた意見を募集しており、近日リリース予定のスイフト専用iPhoneアプリ「+Standing App」が紹介されている。時期や価格は未定だが、+Standing Appは通信ユニットを追加することによって、これまで発売されてきたスイフトでも利用可能となる予定だ。
ケーブルの取り回しに手間取る
スイフトを購入する際、別途組み立て作業費が3000円〜1万8000円(筆者調べ)が必要となる。製品のみを購入して、自分で組み立てることはできない。
今回貸し出し機を設置するにあたって、もちろん作業に立ち会ったが、自分で組み立てるのはかなりしんどい……というのが率直な感想だ。実売約15万円前後と高額な商品で、また重量もそれなりにあるので不用意に組み立てれば床や家具に傷をつける恐れもある。もし自分で組み立てできるとしても、筆者であれば作業費を支払い、プロの手にまかせることを選ぶだろう。
設置は作業員さん任せだったのでラクだったが、PC関連ハードウェアをのせて、スムーズに上下昇降できるようにケーブルをうまくまとめるのに予想していたより手間取ってしまった。
ノートPCを使うのであればほとんど配線の必要はないが、筆者は仕事場でデスクトップPCをメーンPCとして利用しており、また2台のディスプレーを接続し、さらにVR機器「Oculus Rift」のセンサーを卓上に置いている。そうすると机の裏側はケーブルだらけとなるので、見栄えが悪い上に、上下昇降を繰り返しているとケーブルが絡まり、端子から抜けてしまう可能性もある。
そこでケーブルをいくつかのグループに分けて、マジックバンドテープで数カ所結束することにした。立ち上げ配線ダクトなどですべてのケーブルをひとつにまとめることも検討したが、デスクトップPCのメンテナンス性が悪くなるので断念した。またデスクトップPCと電源タップからそれぞれケーブルが伸びているので、そもそも立ち上げ配線ダクトでひとつにまとめるのは筆者の環境では無理というのも理由だ。
約14秒で上下する
さて、ここでスイフトの基本的な使い方を説明しておこう。今回試用したスイフトはインジケーター付きのモデル。コントロールパネルには、左から上下ボタン、3つのメモリーボタン、メモリーセットボタン、高さを表示するインジケーターが配置されている。ちなみにインジケーターなしのコントロールパネルには上下ボタンしか用意されていない。
インジケーター付きのコントロールパネルでは3段階の高さを記憶できる。上下ボタンで高さを調節したのち、メモリーセットボタンを押してからメモリーボタンを押せば、そのメモリーボタンに高さが記憶される。それ以降は、設定済みのメモリーボタンを押し続ければ、記憶されている高さに自動的に昇降する。
メモリーボタンをワンプッシュではなく、押し続けなければ設定位置まで昇降しないのは、いうまでもなく安全のためだ。スイフトは上昇、下降いずれの場合でも過負荷がかかった場合には安全装置が働き、自動で約3センチ戻るように設計されている。それでも幼児が操作すれば、思わぬ事故になる可能性はあるだろう。利便性ではなく、安全性を優先するのは当然の措置だ。裏コマンドでワンプッシュ操作を有効にできればいいなとは思うが、それはわがままというものだろう。
昇降のスピードは上下ともに同じ。たとえば129センチから76センチまで53センチ移動させた場合で約14秒。そして、さらに76センチから69センチに移動する際には安全のためスピードが遅くなり、約9秒の時間を要する。ただし69センチから上昇させる際には、通常どおりのスピードに戻る。
1カ月間使ってみたら……
さて、今回スイフトをオカムラから長期借用しており、記事執筆時点で試用を開始してから24日が経過している。そこで長期間利用した上での率直な感想をお伝えしよう。
まず筆者の場合、座り仕事と立ち仕事の割合は、現在大体2:1ぐらいとなっている。試用を始める際にはできるだけ長く立って仕事をしようと意気込んでいたが、徐々に座って仕事をする時間が長くなり、現時点では座り仕事をする時間のほうが長くなってしまった。単に身体的な疲労感を比べるなら、やはり座っているほうが疲れ自体は少ない。そもそも8時間連続して立ちっぱなしで仕事をするのは現実的ではない。
しかし、たとえ1時間のうち20分間しか立たなかったとしても、腰への負担は明らかに軽減されている。立つことにより必然的に姿勢がよくなるうえに、椅子に座っていないので前屈、後屈や、腰回しの運動などを適宜行なえるためだ。座らないということがいかに姿勢を自由にするかということを改めて強く実感した。
また副次的な効果としては朝の仕事のスタートダッシュが早くなった。多少寝ぼけまなこでPC画面に向かっても、身体を揺さぶりながら朝のニュースを眺めていると5分ほどで頭が覚醒してくる。このことを知ってからは、寝る前にPCの電源を落としたら、必ずデスクを立ち仕事の高さに上げて、椅子を部屋の端に追いやることにした。
立ったほうが能率がいい
個人差はあるだろうが、立って仕事をしているときのほうが私の場合は能率がいい。座っているとついダラダラしてしまい、仕事には関係のないウェブ記事を読んだり、SNSに張り付いたりしてしまいがちだ。しかし作業が終了するまで立ち続けると決心して仕事に臨むと、終わるまで座るわけにはいかないので必然的に仕事に集中できるのだ。
最初はできるだけ立って仕事をしようと意気込んでいた筆者だが、いまは立ったり座ったりを頻繁に繰り返している。20分間立ち続けようと無理するのではなく、立つのに疲れたら座り、座っていて腰が凝ってきたら立つという、身体の欲求に正直に従っている。立ったり、座ったりを5分置きに繰り返せるのも、電動で上下昇降できるスイフトのメリットだ。
記事執筆時点では「腰がまったく凝らなくなった!」「1カ月で5キロ痩せた!」という劇的な効果は正直実感できていない。脚に筋肉が付いてきて、階段の上り下りがラクになった気がするが、体重など身体的に大きな変化があるとしても半年、1年はかかると思う。
しかし、これまで1日中座り仕事をした夜は、腰のコリが気になってなかなか眠れなかったが、スイフトを使い始めて1カ月弱が経過した現在はスムーズに寝付けるようになっている。小さな身体の変化だが、個人的には十分満足のいく恩恵だ。
手動で昇降するデスクなら、2万円で購入できる製品が発売されている。しかし手動では短時間に何度も昇降させるのは面倒だし、そもそも2万円の製品とスイフトでは机本来の耐久性も段違いだ。腰への負担を軽減するため、そして身体の欲求に素直に従って立ち姿勢と座り姿勢を無理なく繰り返したいという人には、スイフトは投資に見合うだけの価値があるだろう。
(文/ジャイアン鈴木 編集/日経トレンディネット)
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