カレーチェーン店の「CoCo壱番屋」を展開する壱番屋が廃棄した冷凍ビーフカツの流出を端緒として、廃棄物処理・リサイクル業者ダイコー(愛知県稲沢市)の廃棄食品横流し事件が波紋を広げている。排出事業者として、マルコメみそ、ニチレイフーズ、セブン&アイ・ホールディングス、ローソン、イオンなど大手食品製造・流通企業の名前が次々と挙がっているからだ。
1999年に発覚した日本最大規模の不法投棄事件である「青森・岩手県境不法投棄事件」を思い出した読者もいるだろう。当時、青森県と岩手県は、不法投棄を実行した廃棄物処理業者だけでなく、マニフェスト(産業廃棄物管理票)などから判明した排出元の企業に対しても、廃棄物を現場から撤去する「措置命令」を出した。企業にとっての廃棄物管理の重要性がクローズアップされた事件だった。
今回の横流し事件では、生活環境保全上の支障が起きなければ措置命令の対象になる可能性は低いとみられるが、倉庫などに食品廃棄物が放置され処理が困難だと行政が判断すれば、ダイコーに処理を委託した企業は自主的な撤去を求められることもあるだろう。さらに、事件に関与したことに対する風評被害は免れない。企業の間には改めて廃棄物のコンプライアンスを見直す動きが広がっている。
ただ、食品廃棄物に関する法律の規定が複雑すぎて実態からかい離している現状があり、それが今回の事件の一因になっている点も見逃せない。本稿では、まず規制と実態のかい離を確認した上で、企業はどのように対処すればよいのかを考えたい。
守りたくても守れない法律
この問題を検討するに当たり、まず食品廃棄物への規制がどうなっているのかを見ておこうと思う。ここが曖昧だと、さまざまな誤解を生むことになる。
食品廃棄物を規制しているのは、廃棄物処理法と食品リサイクル法だ。廃棄物処理法は主に廃棄物が適正に処理されるように規制を定めている。これに対し、食品リサイクル法は、食品廃棄物を排出する企業がリサイクルを効率的に進めるために廃棄物処理法の規制を緩和するという性格を持つ。
事業活動に伴う食品廃棄物は、大きく2つのルートから排出される。第一はスーパーやコンビニ、飲食店などから廃棄される「流通ルート」、第二は食品メーカーの工場や倉庫から廃棄される「工場ルート」だ。
流通ルートから廃棄された食品は、一般廃棄物(一廃)になる。弁当工場や給食センター、外食チェーンのセントラルキッチンなど、調理で出るものもこちらに該当する。一廃は主として自治体が処理するが、大量に廃棄される場合には自治体の清掃工場などで受け入れを拒否されることがままある。この場合、その地域に民間の一廃処理施設がなければ、事実上、産業廃棄物(産廃)として処理されることになる。
産廃とは、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、紙くずや木くずなど廃棄物処理法で定められた20種類を指す。食品系では「動植物性残さ」「廃酸」「廃アルカリ」「廃(食)油」などが、この20種類に該当する。ここで注意が必要なのは、動植物性残さはすべてが産廃になるわけではないことだ。「食品製造業、医薬品製造業、香料製造業」から排出されるものに業種が限定されている。これに対し一廃は、産廃以外の廃棄物と定義されている。だから、流通ルートは一廃になる。
一廃と産廃では規制の内容が異なる。例えば産廃は、排出する際にマニフェストを交付し処分が完了するまで管理することが排出企業に義務付けられているが、一廃にはマニフェストの交付義務はない。処分する施設も一廃と産廃では許可の種類が異なる。
2つ目の工場ルートから廃棄される食品は業種指定に該当するので、産廃となる。ただし、賞味期限切迫などによる物流倉庫からの在庫廃棄は、荷主が食品メーカーか流通企業かによって、産廃になるか一廃になるかが決まる。これも大量廃棄される場合は、事実上産廃として処分されることが多い。
さらに細かなことを言うと、壱番屋の廃棄冷凍カツの場合、自社工場や協力工場からの廃棄は産廃、協力工場から自社倉庫、物流倉庫に入庫した後の廃棄や店舗に出荷した後の返品の場合は一廃になると考えられる。
食品リサイクル法の規定も一廃と産廃では異なる。一廃の収集運搬については、広域運搬を可能にするために、通常は市町村単位で取得しなければならない収集運搬の許可が免除される特例がある。同法の登録再生利用事業者への運搬や、認定事業者(再生利用事業計画の認定を受けた食品関連事業者)からの委託が対象になる。一方、産廃の収集運搬には許可の特例はない。
処分については一廃にも産廃にも許可の特例がないので、流通ルートと工場ルートの両方の食品廃棄物を処分する処理施設(リサイクル工場)は一廃と産廃の両方の処分業許可が必要である。必要な許可が一つでも欠ければ、無許可処分として処罰の対象になる。
上記に紹介したように法的には一廃だが事実上産廃として処分されている廃棄物を、一廃の許可がない施設で処分すれば、処理委託契約書の締結やマニフェストの交付など外形的には合法な手続きを踏んでいても、厳密には違法な委託であり、無許可の処分である。
このように、食品廃棄物の一廃と産廃の区分は複雑であり、法律と実務に大きなかい離を生じている。1971年に廃棄物処理法が施行されてから45年が経過するのに、いまだに「守りたくても守れない法律」という混乱が続いているのである。これは立法の懈怠(けたい)といえる。しかし、規制に構造的な問題があるとしても、企業が今回のような事件に関係した時に、それを言い訳にはできない。現状に合わせて自衛する他ない。
要注意の「堆肥化」
流通ルートの末端で売れ残った食品は、必ずしも廃棄処分されず、再加工・再販売されることが多い。例えばスーパーの店頭で売れ残った肉や魚、卵、野菜を、店内でお弁当やお惣菜に加工するということは普通に行われている。また、スーパーや食品卸売業者などから、賞味期限切れまたは期限切迫食品を買い取って再販売するブローカーも普通に存在している。インターネットで「期限切れ買い取り」と検索すると、複数の業者がヒットする。期限切れ飲料や食品を輸出している業者もある。
再加工せずに期限や生産者などを付け替えれば当然虚偽表示になるが、食品として適正に管理され腐敗や変質などの劣化がなければ、賞味期限切れ食品を再加工し、新たな期限を付けて販売しても食品衛生法上は違法にはならない。先進国で最も食料自給率が低く、食料廃棄率が世界一高いとされる日本の現状を考えると、一概に賞味期限切れ食品をすべて廃棄すべきというわけにもいかない。安全性を担保しながら食品を無駄にしない方法を工夫していく必要がある。
現状、コンビニチェーンなどの大手流通業者や食品メーカーは、賞味期限が切迫した食品を再販売することはなく、すべて廃棄処分している。新しい商品を適正価格で売りたいわけだから、古い商品を安価に販売させることは営業的にはあり得ない。
では、廃棄物となった食品はどのように処分されているのか。2001年の食品リサイクル法施行後は、従来からある焼却や埋め立てではなく、飼料化や肥料化、メタンガス化などのリサイクルが優先されるようになった。とくに肥料化は、廃棄物処理法の施設設置許可の対象外になり、設備も簡易なことから施設が乱立し、1トン当たり3万円程度の焼却費よりも安い1万円程度の費用で受け入れるリサイクル業者が目立つようになった。ダイコーは1万2000円で受け入れていたと報じられている。
排出事業者からすれば、食品リサイクル法の報告書(食品廃棄物等多量発生事業者の義務)や環境報告書などに記載するリサイクル率の目標を達成しやすくなり、コストをかけずに処分できる堆肥化(特殊肥料化)施設を重宝するようになったのである。
しかし、堆肥化は処理業者の姿勢次第では問題を起こしやすい処分方法である。堆肥化とは、廃棄食品や下水汚泥などに、もみ殻やおがくずなどを混合して含水率を調整した後、好気性発酵させて水分や臭気などを飛ばし、肥料成分(窒素、リン酸など)を均質化する処理のことだ。熟成期間として数週間から数カ月を要する。
まともに堆肥を作ろうと考えていない不正業者にとって、熟成期間をコントロールすれば、施設の受け入れ能力(見かけの処理能力)はいかようにもなる。例えば8週間で完熟する堆肥を4週間で出荷すれば受け入れ能力は2倍になり、2週間で出荷すれば4倍になり、まったく熟成しないなら無制限に受注できることになる。初めから熟成させる気がない業者は、堆肥化が難しい廃棄物も無差別に受け入れるようになる。粗悪な堆肥は含水率調整材として安価な木くずチップを使うので、白蟻駆除剤由来の亜ヒ酸、銅・クロム化合物、有機リンなどが検出されることもある。
受注が過大になった堆肥化施設では、堆肥として売れない未熟成堆肥を土壌改良材として農地造成現場や牧場などに多量に出荷するようになる。さらには未処理廃棄物を横流ししたり、不法投棄したりするようになる。施設内のストックヤードが満杯になれば、場外受け入れや場外保管を始めるなど、手口がエスカレートしていく。ダイコーでも場外保管(無許可積替保管場)が指摘されている。
売れ残りより廃棄物の方が再販価値が高い
スーパーやコンビニの店頭で賞味期限が切迫した食品は、期限が付いたままでは販売することができないので、お弁当などへの再加工が必要になる。だが、メーカーや流通業者の倉庫からの在庫廃棄の場合は、賞味期限がまだ十分に残っていることが多く、しかも量や品質も揃っているので、そのままでも売れてしまう。
とくに今回の壱番屋の冷凍カツのようなロット単位の事故廃棄の場合は、賞味期限がそっくり残っている。つまり、店頭売れ残り食品よりも廃棄物(メーカー在庫廃棄食品)の方が再販価値が高いことになる。
ダイコーは、福島第一原発事故の風評被害を受けた廃棄食品を受け入れたことをきっかけとして、在庫廃棄食品の価値の高さに気付いたと報じられているが、横流しを常習化させ、より安価に処理を受注できるようになり、さらに多数の企業から廃棄食品を集めるという悪の循環に陥ったと考えられる。廃棄カツ1枚を33円でみのりフーズに転売した(複数のブローカーを経由し、スーパーの末端価格は80円)ということだが、廃棄物の価格ではあり得ない。価格支配力が売り手側のダイコーにあったことがうかがわれる。
一般的に流出品や盗品という事情が分かっていて取引する場合には市価の1割以下、正規品に偽装して取引する場合は6割程度の価格である。
そのまま販売するのであれ再加工するのであれ、廃棄物となった食品を再び人が食べる食品として流通させることは悪質極まりない。食品としての管理が行き届かないし、廃棄された時の事故の状況などが、再流通過程では分からなくなるからである。幸い今回の事案で今のところ健康被害は報告されていないが、もしも有害な細菌やカビの繁殖、有害物質の混入があれば、広域食中毒に発展する。この事件だけではなく、類似事例を徹底的に洗い出すとともに、再発防止に万全を期さなければならない。
こうした不正の悪循環を食い止めることはできなかったのだろうか。国や県が審査や検査で違法な処理を見落とした、あるいは気付いたものの改善指導が十分ではなかったという問題はさておき、排出事業者にできることはあったはずである。
廃棄物処理法では2011年4月から、排出事業者に対して現地確認の努力義務を課すようになっている。マニフェストの返送だけでは、最終処分(リサイクルを含む)までの確認方法として十分ではないとして、年に1、2回、チェックリストなどを使いながら、処理施設を実地調査することを勧奨している。壱番屋など社名が挙がっている企業の多くも、法に従ってダイコーの現地確認はしていたようだが、不正を見抜けなかったという。
実地調査では適正在庫かを確認せよ
現地確認のコツは、(1)処理前在庫、(2)処理、(3)処理後在庫の流れに沿って、定量的な把握をすることである。偽装リサイクル施設では処理前在庫が過大で、特定の品目に偏っていることが多い。処理施設はろくに稼働していないか、処理能力がぜんぜん足らない。そして何より、まともな処理後在庫が存在しないか、極めて少ない。以前に作った良品や他社製品を見せ玉に置いていることもある。つまり、インプットとアウトプットがまるでバランスしないのである。
問題になった廃棄冷凍カツの場合でいえば、以下の3つを確認する必要がある。
(1)処理前在庫の確認:高たんぱくなので飼料化やペットフード化には向いている。ただ、炭水化物をもっと含む他の原料と混ぜる必要があるが、それはあるか。肥料化する場合には、たんぱく質と脂質からアンモニアが多量に発生するので、熟成に数カ月かかる。熟成期間が長くなるとヤードが足らなくなる。
(2)処理の確認:熟成中の肥料は温度が上がり、湯気が立ち上ってくるので、温度や水分の管理状況を見れば処理のよしあしは一目で分かる。なお、壱番屋は廃棄冷凍カツの堆肥化を委託したようだが、ダイコーは飼料化が主たる処理方法であり、堆肥化は能力(熟成ヤードの広さ)がそもそも不足していた可能性が高い。
(3)処理後在庫の確認:完熟した肥料は、水分が抜けて掌からパラパラと落ち、臭いもほとんどなくなっているはずである。
――こうした知識と経験をもって現地調査を実施していれば、処理前在庫、処理、処理後在庫のいずれかの問題に気付けただろう。どんな工場でも、管理のよしあしを見極める基本は適正在庫(原料在庫、仕掛品在庫、製品在庫)である。在庫が多くても少なくても疑わしい。
この事件の背景として、食品リサイクル法による登録再生利用事業者制度による認定をダイコーが国(農林水産大臣)から受けており、これを悪用したことが指摘されている。しかし同法では、登録申請に対して要件を満たしていれば登録しなければならないとされており、登録に際して国の自由裁量は認められていない。
登録の要件や審査が厳しいかどうかはともかくとして、この制度の最大の問題は情報公開がないことである。実は、情報公開を前提とした廃棄物処理法の優良産廃処理業者認定制度も信頼性は高いとはいえず、認定業者の不祥事が後を絶たない。ましてや登録業者リストが公開されているだけの登録再生利用事業者では、信頼性を検証するすべがない。
だからといって排出事業者の言い訳にはならない。情報公開をしていない登録業者と契約するかどうかを判断しなければならない場合には、廃棄物処理法の優良産廃処理業者認定制度で情報公開が必要なことを逆手にとって、同程度の情報開示を求めればいい。もし、情報を出し渋ったり、出てきた情報に不備や疑問があれば、契約を取りやめる理由になる。
コラボレーションのススメ
食品メーカーなどの多量排出事業者にとっては、適正なリサイクル方法を処理業者と共同開発していくことが最も安全な方法である。食品リサイクルは、食品一つひとつの成分や性状が違うこと、またリサイクル後の用途についても、どのような家畜やペットに食べさせるか、どのような野菜や果物を育てるかで、求められる製品の品質が異なる。どんな廃棄物でも受け入れられ、どんな用途にも使える万能の食品リサイクルというものはない以上、排出事業者と処理業者が共同研究しながら進めることが不可欠である。
このような共同研究には成功例もあれば失敗例もある。例えばイオングループが処理大手の大栄環境グループ(大阪府)と提携したイオンアグリ創造の農場経営は、堆肥化の成功例とされる。その一方で大手コンビニチェーンが廃棄弁当の飼料化を計画し、提携先の処理業者が新工場まで建設したのに事業がとん挫し、倒産したという失敗例がある。
最近では、食品リサイクルに限らず、農業と廃棄物処理業とのコラボレーションがブーム的に進展している。両者は資源循環産業として共通点が多い。とくに資金力とノウハウを持つ廃棄物処理業者が、法人経営農業を席巻しているといってもいい。農業の法人経営解禁の先べんをつけたのも廃棄物処理業者だったのである。循環産業型農業の普及をめざす動きに水を差す今回の事件は残念の限りである。
あまり報じられていないが、使用期限切迫品、不良品、キャンペーン品などの廃棄後再流通リスクは、化粧品、医薬品、家庭用品でも共通している。化粧品などはパッケージやシールの軽微な意匠変更で大量の在庫廃棄を生じており、ディスカウントショップなどに流出しているのではないかという噂が絶えない。有害なものでなければ在庫廃棄品の再販はかならずしも消費者の利益にならないわけではないが、安全性を確認するルールが必要である。
今回の事件を契機に、国、自治体、排出事業者それぞれに処理施設の一斉点検が始まっているが、一過性の取り組みで終わらせず、この事件を教訓にして、廃棄物処理の適正化とリサイクルがさらに進展していくことを期待したい。
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