ファストフード大手の「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」を運営する日本ケンタッキー・フライド・チキンは、4月1日、「KFC高田馬場店」をリニューアルオープンした。
同店は、「オリジナルチキン」や「チキンフィレサンド」といった定番のメニューを揃えているのに加え、昼間はカフェ、夜はバルの顔を持つ。店舗デザインは、赤色を基調とした従来スタイルではなく、20~30代の女性をメインターゲットに、カフェダイニング風に改装した。
提供するメニューは、朝(午前7~10時)、昼(午後10時から午後5時)、夜(午後5時以降)と時間帯によって異なる。
昼の時間帯は、産地にこだわったコーヒーや紅茶のほか、複数種類のケーキが食べられる。
特徴的なのは夜のメニューだ。チキンを使ったサラダプレート(780円、税込み、以下同)やポテト付きのオリジナルチキン(300円)、「まるごとトマトのタプナードソース バケット付き」(750円)など、アルコールに合うメニューを新たに開発した。
アルコールは生ビールだけでなく、「常陸野ネストビール」(600円)、「コナビール」(650円)といったクラフトビールのほか、カクテルやサワー、ワインもある。中でもサントリー酒類と開発したオリジナルのハイボール「カーネルハイ」(460円)は、ベースとなるハイボールの配合比率、独自ブレンドのスパイスなどによる工夫で、オリジナルチキンとの相性の良いアルコールを目指したという。
想定客単価について同社は明らかにしていないが、売上高は改装前に対して25%増と予想している。
アルコールとの親和性は高いが、本格展開に遅れ
外食業界では、ここ数年、仕事帰りなどにアルコールをちょっとだけ楽しむサービス「ちょい飲み」が広がっている。「吉野家」や「天丼てんや」などでは、夕方以降、アルコールを片手に食事している客の姿が当たり前のように見られる。
KFCといえば、オリジナルチキンのイメージが強く、フライドチキンはアルコールとの親和性が高いといえる。だが、アルコールを提供する店舗は一部。他社の後塵を拝している。
KFCの一部店舗は、2000年ごろに缶ビールを飲めるようにしていたこともあった。だが、もともとKFCは車での来店が中心となるロードサイド店が多く、そうした店舗ではアルコールの提供はなじまない。一方、都心部の店はスペースが狭く、冷蔵庫を置くのが難しいといった課題があった。
だが、今回の高田馬場の業態開発にもみられるように、アルコールの提供に後ろ向きだったわけではない。2015年7月から9月には関東と大阪、奈良の駅前や繁華街、ショッピングセンターを中心に計72店舗でビールをテスト販売した。オリジナルチキン2ピースと生ビール1杯で840円といったセットなどを用意。Pontaカードの顧客データからは、30~40代男性の1~3人といった少人数の利用客が多く、新規顧客の獲得や再来店の促進につながったという結果が出ている。
一定の結果が出た理由としては、アピール面の改善も挙げられる。これまでビールを提供していた一部の店では、ポスターなどによる告知などを積極的には行っていなかった。一方、2015年のテスト販売の際には、手書きの黒板によるアピールなども行っている。
日本ケンタッキー・フライド・チキンの近藤正樹社長は、以前、日経ビジネスの取材に対し、「これからの時代は、画一的な店を作っていくのではなく、店の立地や時間帯、顧客に合わせて、店ごとに提供するメニューやサービスを変えていく必要がある」と語っている。
同社によれば、現状では全店でアルコールを提供することまでは考えていないが、今年も4月下旬から秋にかけて繁華街にある通常店舗など121店で、昨年と同様のビールのテスト販売を実施する予定だ。その際には、2015年時と同様に、アピール面での工夫も凝らす考えだという。一方、高田馬場店のようなバル業態については、立地などを勘案しながら、新規出店や既存店からの転換を検討していく
ちょい飲みで客数を伸ばしている競合からは「ケンタッキーのオリジナルチキンとアルコールと組み合わせに飛びつく消費者は多いはず。ハレの日しかKFCを食べていなかった顧客の掘り起こしになるだろうし、業界での競争は激しくなるだろう」との声が聞こえてくる。
KFCはちょい飲みの「台風の目」となるかもしれない。
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