産業革新機構主導で進んでいたシャープ液晶事業とジャパンディスプレイ(JDI)との統合構想が消えた今、JDIは単独で生き残るために大規模な構造改革に踏み切った。東浦工場と茂原工場の旧式ラインを順次停止するほか、加工を手掛ける中国の後工程ラインの見直しにも着手。45歳以上を対象とした早期退職も実施する。構造改革の狙い、今後の成長戦略についてJDIの本間充会長兼CEO(最高経営責任者)に聞いた。

シャープが台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下で再建することが決まりました。この決着を待って今回の構造改革の実施に至ったのでしょうか。

本間:いいえ、(シャープの件は)全く関係ありません。昨年の夏に改革プロジェクトの号砲を打ち鳴らした時から、今期中には工場のライン停止など抜本的な固定費削減のメスを入れようと思っていました。こうした改革を断行していかないと、生き残れないという危機感は常に持っています。

ジャパンディスプレイの本間充会長兼CEO。1970年三洋電機入社。2008年副社長。2015年6月から現職(写真:竹井 俊晴)
ジャパンディスプレイの本間充会長兼CEO。1970年三洋電機入社。2008年副社長。2015年6月から現職(写真:竹井 俊晴)

本間:表示装置が必要な製品は何かと考えたとき、医療や生活、車載など、たくさん分野はあります。しかし、これらは必ずしも全てクリアに表示されているとは言えません。ここには今後大きなビジネスチャンスがあると思っています。

 JDIは売上高に占めるスマホ依存がとにかく高い(約9割)。早い時期にスマホ依存を脱し、こうした新しい分野の事業を立ち上げなくては、この会社の安定的な収益確保はできないと考えました。

 既存の工場設備を見渡すと、どれも稼働率がぐっと落ちています。それが結果的に会社全体の稼働率も落としています。新規事業をやるにも、スマホ向けのディスプレーを進化させるためにも、技術開発や設備投資は必要です。古い設備を持ちながらでは新しい挑戦もできない。ここを新しくしようというのが、今回の構造改革プロジェクトです。戦える素地を作っていきます。

安定経営基盤を構築するためのJDIの成長戦略
安定経営基盤を構築するためのJDIの成長戦略
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スマホ市場の環境が大きく変化しています。JDIのビジネスの9割を占めるスマホ市場の現状についてどう見ていますか。

本間: 2016年1~3月期は私の想像以上に変化しましたね。私も三洋電機で電池事業を引っ張ってきました。市場環境の変化は民生の分野である程度経験していたのでそこまで大きなショックではありませんでしたが、7月に経営改革を始めて12月に一定の成果を出した直後にドッときたので、若干戸惑いはありました。

 市場の伸びが未来永劫続くとは思っていません。そうした危機感を持ちながら仕事をしていましたが、予想以上に需要が急落したと言うことですね。

 2016年4~6月期は多分まだ引きずっていくと思うので、この改革をやることによって成果が出てくるのは2016年7~9月期以降でしょう。

こうした状況下で石川県白山市に新工場が立ち上がります。予定通り6月に稼働するのでしょうか。

本間:稼働するなら、フルで稼働したいと思っています。6月になんとしても立ち上げると言う意気込みでこれまで動いていましたが、需要の変動や設備の搬送遅れなどなどで、立ち上げが少しずつ後ろにズレています。お客さんとの話の中でも、この状態で立ち上げるのはリスクがあると言うことで、稼働時期を後ろ倒しすることを考えています。

 いつ稼働するとはまだ明言できませんが、中途半端な立ち上げはよくないので時期を見ながらスタートさせようと思っています。あまり急いで立ち上げると品質問題にも発展してしまいます。タイミングについては慎重に考えています。

LTPSを車載、パソコンにも

JDIの強みは高精細のLTPS(低温ポリシリコン)液晶ですが、今後はスマホ向け以外にもLTPSを応用していくのでしょうか。

本間:車載向けは今アモルファスシリコンが主流ですが、うちはLTPSの陣営に車載を引き込みたいと思っています。車の世界が大きく変わっているので、高精細でタッチ機能に優れたLTPSの需要は十分にあると思います。

 あと今年の末くらいからパソコン向けに中型LTPS液晶を市場に投入していきます。パソコン市場も厳しいと言われていますが、それはアモルファスシリコンの市場であって、高精細LTPSはまだまだ伸びしろがあると思っています。既に海外メーカーからの受注も得ています。中型LTPSは当面茂原工場で作りますが、将来的には、白山工場以外の石川地区のどこかを考えています。

 こうした新規事業は、これから第2の軸になります。収益基盤を強固にするなら、2020年ぐらいまでには新規事業の売上高を全体の50%まで高めなければと思っています。

残り50%は今後もスマホ向け事業が占めます。有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)に注目が集まっていますが、スマホ向けのディスプレー市場は今後どう変化していくと考えていますか。

本間:まず、スマホの世界で液晶が有機ELに置き換わることはないと考えています。

 有機ELは高精細にしようとしても、現状の解像度は最大でも400ppiです。自発光なので、寿命も液晶に比べて短い。ただ、有機ELはフレキシブルと言う利点がありますね。折り曲げるとか。これはガラスの液晶ではできません。

 有機ELを否定しているわけではありません。研究開発もしているし、試験ラインも入れています。2018年の早い時期には量産を開始したいと思っています。今後はスマホ以外でも活用できるので、パネルメーカーとして製品群の一つに有機ELを入れる必要はあると思います。

 しかし、有機ELは小さく生んで大きく育てる事業です。大きくなる時期をよく見極め、投資の判断をしていくべきです。

 液晶は、高精細化やタッチ感度の向上など、まだまだ技術的な発展余地は多くあります。有機ELの開発に力をいれながらも、我々は愚直なまでに、液晶でできることをやっていきたいと思っています。

液晶に2つの競合

本間:私は液晶の世界のなかで、競合は2つあると考えています。対中国パネルメーカーと、対有機ELです。

 中国メーカーには、とにかく技術で対抗していきます。タッチ感度の向上やより高精細化させるなど、LTPSの技術をどう進化させていくか。技術で負けたら終わりです。

 これまで技術は優れていましたが、スピード感覚が足りませんでした。ここは中国メーカーの強いところですね。スピード感を持ちながら、積極的に我々の新しい技術戦略を込めたものを市場に出していきます。

 もう一軸の対有機EL戦略に関しては、まだあまり多く言えません。ただ有機ELを意識した高解像度のシート型LTPS液晶を現在開発中です。液晶の製品ラインナップの一つに加わると思います。

有機ELでは、産業革新機構傘下の有機ELパネルメーカー、JOLEDとの連携も今後はあるでしょうか。

本間:この辺りは産業革新機構の考え方によりますが、個人的には相乗効果は非常に大きいと思います。JOLEDはインクジェットで大型パネルを作れるのが強みです。一方のJDIは高精細が得意分野です。これらを組み合わせれば、幅広い顧客に有機ELを紹介できます。

産業革新機構が進めていたシャープ液晶事業との統合が消えたことに関して、JDIとしてはどのように受け止めていますか。

本間:シャープに関しては、我々としては一貫して「来れば受け入れるし、来なければそれでもいい」というスタンスでした。今回の構造改革は単独で成長していくための戦略の第2フェーズです。外部環境に左右されず安定的に成長できる体制を早期に築いていきます。

今回シャープが鴻海傘下に入りましたが、JDIにとってこの連合は脅威になるでしょうか。

本間:液晶に携わるメーカーはどこも脅威ですよ。しかし、シャープを傘下にした鴻海をことさらに脅威に思っているかというと、そうではありません。最終的にどのメーカーのパネルを使うのかと言うのは、技術の信頼感、マネジメント同士の信頼感など、いろいろ踏まえたうえで顧客が決めていきますから。

意識改革が最も重要

シャープは外国資本で再建することになりましたが、JDIは今後厳しい市場のなかで生き残ることができるのでしょうか。シャープと同じ道を歩まないために、何が必要だと考えますか。

本間:これまで申し上げた技術、スピード感に加えて、意識改革が必要だと思っています。自分たちは決してトップではないと。やっていることはトップだけど、口にも出すな、行動にも表すなと、社内でもこの点は厳しく言っています。

 「中国メーカーは立ち上がりが遅いし品質も悪い」などと社員が言っていたら、「では、お前たちはどうなのか。彼らは倍速のスピードで追いついてきているぞ」と。「韓国勢もこのスペックまでは来ませんよ」と言っていたら、「このレベルまで来たらどうするんだ。いかないと言う前提でものを考えるな」と。傲慢おごりの気持ちを持った時点で、私達は負けると思います。その意識を醸成しています。

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