60を過ぎた私の父親は、毎晩大音量のいびきをとどろかせながら寝る。隣に寝る母親は「もう何十年も一緒だから慣れたわ」と笑い、当の本人は「昨日もそんなにいびきかいていたかあ」と頭をかく。これがもう何十年と続く我が家の見慣れた光景だ。

 その音量は、隣の隣の部屋まで響くほどの大きさで、私が実家で暮らしていたときは、受験で夜遅くまで勉強している部屋にも聞こえ、隣で寝ているのかと思うほどの大きさだった。

 病院で診てもらったことはあるものの、睡眠時無呼吸症候群(SAS)とも診断されず、結局はいまだに治療といった治療もしていない。

 そんな父親のことに思いをはせながら、先日ある企業の取材をした。「ナステント クラシック」を開発するセブンドリーマーズラボラトリーズという会社で、2015年には全日空商事など8社から15.2億円を調達したベンチャー企業だ。ナステント クラシックは、いびきを軽減する医療器具。鼻腔に挿入した医療用シリコンでできたチューブが、口蓋垂(のどちんこ)まで入りこむことで、気道を確保し、睡眠時に呼吸をしやすくする。

いびきを軽減する「ナステント クラシック」
いびきを軽減する「ナステント クラシック」

 コンタクトレンズのように一度医療機関などで自分に合った長さを処方してもらえれば、そのあとはオンラインなどで買い足して使うことができる。価格は7本4200円。8月21日からビックカメラの一部店舗での取り扱いも開始した。

 SASと診断された患者は、CPAP(シーパップ)という医療器具を使って治療をするのが一般的だ。SAS患者は、国内だけでも200万~300万人とされるが、潜在的な患者数はそれよりずっと多い。

意外に多い「いびき難民」

 「睡眠時無呼吸症候群とまでは診断されなくても、いびきに悩む“いびき難民”は、日本だけでも1000万人近くいるはず」(セブンドリーマーズの阪根信一社長)。

 阪根社長は、自身がSAS患者かつ、CPAPの愛用者でもある。一方、飛行機で仮眠を取ったり、友人と旅行に行ったりする際など、CPAPの持ち運びにストレスを感じることもあったという。

 阪根社長自身は、CPAP利用に何の抵抗もなかったというが、人によっては、CPAPという機具を付けること自体が眠りの妨げになるというケースもある。

睡眠時無呼吸症候群患者が利用するCPAP。巨大なマスクから空気を送り込む仕組みだ
睡眠時無呼吸症候群患者が利用するCPAP。巨大なマスクから空気を送り込む仕組みだ

 ナステント クラシックは、そうしたSAS患者へ「第二の選択肢」を提供する。さらに、ターゲットは冒頭の私の父親のようなSASと診断されない人にまで広がる。実は、私自身も、妊娠した際に、いびきで旦那を困らせた経験がある。セブンドリーマーズヘルスケア事業部の平田裕美副事業部長にそのことを話すと「妊婦さんは、妊娠している間、体がむくみやすくなったり、一時的に体重が増加したりして、いびきに悩む方も多いんですよ」とのこと。

 特に女性の場合、いびきで病院に行くケースは少なく、自己流で対応するといったケースも多いという。確かに私も、鼻に貼り付けるテープなどで何とかその場しのぎの対策をした。

鼻の穴から口蓋垂(のどちんこ)付近まで挿入する。いびきの原因となるのど付近の脂肪などによってチューブがつぶされないような硬さになっている
鼻の穴から口蓋垂(のどちんこ)付近まで挿入する。いびきの原因となるのど付近の脂肪などによってチューブがつぶされないような硬さになっている
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