多摩大学(東京都多摩市、寺島実郎学長)が6月下旬、新しい研究所の新設を発表した。「ルール形成戦略研究所」。世界各国の専門家とのネットワークを活用し、最先端のルール形成動向を把握することで、新しい技術の標準化や規制などの制度づくりに影響力を行使するような人材の育成が狙いだ。

多摩大学の寺島実郎学長(写真中央)、新設したルール形成戦略研究所の國分俊史所長(同右)ら。
多摩大学の寺島実郎学長(写真中央)、新設したルール形成戦略研究所の國分俊史所長(同右)ら。

 ルール形成戦略研究所では、政治家や官僚、企業の実務者らを客員研究員として受け入れ、属性によって4つのグループに分類。ルール形成戦略テーマごとに、各グループのメンバーが横断的に連携し、国内外の関係機関と情報交換、政策提言などを行う仕組みだ。

 研究テーマでは、次世代エネルギーと気候変動対策▽IoT(モノのインターネット)ビジネスとサイバーセキュリティ▽安全保障経済政策▽人口増と長寿社会▽TPPを含む自由貿易協定・経済連携協定―の5分野を特に重視する。

 例えば、気候変動対策では、今年11月にモロッコで開催される第22回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP22)で、水素技術を使った再生可能エネルギー、化石燃料の利用効率の最大化など日本企業が強みを持つ技術を盛り込んだ国際合意形成の実現を目指す考えだ。

 新たな人材育成にも力を入れる。多摩大学では来年4月、社会課題起点のルール形成戦略、国際通商ルールと経営戦略、安全保障経済政策論などの座学講座を開設。既存のMBA(経営学修士)コースに組み込み、学生がルール形成戦略に関連する科目を選択できるようにする。修了者は研究所内の研究グループに所属し、ルール形成活動に当たることになる。

 2014年には、経済産業省が基準や規制などの国際ルールづくりを目的としたルール形成戦略室を設置するなど、ルール形成戦略を巡る議論が盛り上がりを見せている。

 背景にあるのは、日本勢が国際ルールづくりに関わることができず、結果として自国に不利な規制や制度を受け入れざるを得ない状況に陥ってきた「負の歴史」だ。

 技術力で優れていても世界標準としては採用されない。そのような失敗を犯してしまう日本企業は少なくない。

 代表的な事例が、非接触ICカード「フェリカ」だろう。

 ソニーが開発した独自技術で、国内ではICカード乗車券「スイカ」など幅広い用途で使われているが、海外ではほとんど採用されていない。国際標準化機構(ISO)で国際基準に選ばれなかったのが最大の原因と言われている。

2000兆円の新ゲーム

 「日本企業の多くはルールが作られてから守ればいいと考えているが、大きな間違い。いかに自社に有利な規制や制度を導き出すかという点こそが重要になる」。多摩大学のルール形成戦略研究所長に就いた國分俊史氏はこう指摘する。

 対する欧米の多国籍企業はルール形成戦略に積極的だ。政府や官庁、シンクタンク、NGO(非政府組織)などと連携し、絶えず情報を共有することで、最先端のルール形成動向に目を光らせている。

 今、大きな潮流として注目を集めているのが、国連が昨年採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」だ。貧困や飢餓、エネルギー、平和的社会など17の目標、169のターゲットからなる取り組みで、2030年までに全世界で総額2000兆円超の投資を計画している。

 國分所長は「SDGsはルールへと姿を変える。ある種の新しいマネーゲームだと捉えないといけないが、日本企業の準備はできていない。このままではこのツールを利用して攻勢を仕掛ける欧米勢に敵わないだろう」と指摘する。

 ルールは守るものではなく、つくるもの。ルールづくりこそが国際競争を生き抜くための「唯一のルール」だということに気付かなければ、日本企業は同じ轍を踏みかねない。

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