2017年も、自動車業界にとって激動の年になりそうだ。

 振り返れば2016年は、年初から混乱を予想させる出来事があった。トヨタ自動車がダイハツ工業を完全子会社化すると発表。小型車の開発を実質的にダイハツに任せる体制を敷いた。都内ホテルで記者会見が終わり、帰り道で副編集長と先輩記者と一緒に、「今年は業界が動きそうだ」と話したことを覚えている。

提携に向けて動き出したトヨタとスズキ(写真:竹井 俊晴)
提携に向けて動き出したトヨタとスズキ(写真:竹井 俊晴)

 結果、その話は現実化した。4月に三菱自動車による燃費不正問題が発覚。国土交通省によるメーカーへの自主調査の要請によって、スズキでも不正が見つかった。その後、6月に日産自動車による三菱への出資が発表された。10月にはトヨタとスズキが提携に向けたスタートラインに立った。

 こうした同業による合従連衡の一方で、異業種を巻き込んだ提携も目まぐるしく進んだ。トヨタは6月、ライドシェア大手の米ウーバー・テクノロジーズと資本・業務提携。ホンダは7月にソフトバンクとAI(人工知能)の共同研究を開始した。

 年の瀬には、グーグルを傘下に持つ米アルファベットとホンダが自動運転で提携に向けた協議を開始するというニュースも飛び込んできた。これまで“鎖国”を続けてきたホンダの動きは、危機感の裏返しに写った。

 「自分なりの勉強方法でせっせと勉強を続けてきたけれど、頭の良い“帰国子女”の方法も参考にしようということだ」。ホンダ関係者は記者にこう語った。

サムスンがハーマンを買収したワケ

 日系メーカーだけでなく、米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲンなどの大手も同様に、異業種というこれまでとは別次元の提携へと歩みを進めた。

 周知の通り、こうした提携合戦の背景にはテクノロジーの急激な進化がある。「全方位で技術開発を続けるためには規模が必要になる。開発費が限られる小規模メーカーは提携なしには生き残れない」。こうした文言を2016年の1年間で何度書いただろうか。

 今年も、「自動運転」と「電動化」を2大キーワードが迫る自動車メーカー各社の動きは止まりそうにない。加えて記者が注目しているのは、日系部品メーカーの動きだ。

 自動車メーカーや外資系部品メーカーに比べ、日系部品メーカーの“進化”は進んでいないように見える。

 例えば韓国サムスン電子は2016年11月、自動車部品大手の米ハーマンインターナショナルを80億ドル(約8600億円)で買収すると発表。サムスン史上最大の買収劇となった。

 サムスンがハーマンを買収したのは、「つながるクルマ」や自動運転などの新技術によって、自動車部品市場の成長が期待されているからだ。

 2016年10月には、スマートフォン向けチップで世界トップシェアを誇る米半導体大手クアルコムが、車載チップ事業を狙って同業のNXPセミコンダクターズを買収することで合意した。クアルコムは今年1月3日、同社のチップセットが独フォルクスワーゲンの次世代車に搭載されると発表したばかり。クルマへの注力は明らかだ。

 異業種各社は自動車メーカーとの提携だけでなく、「スマホの次」の成長市場として車載部品に触手を伸ばしている。

部品再編の機は熟した

 外資系部品メーカーは異業種の“取り込み”に必死だ。仏ヴァレオは2016年11月、AI(人工知能)ベンチャーである米クラウドメイドの株式の50%を取得したと発表。同社の持つビッグデータ解析技術やAIを使って、それぞれの運転者に適した運転支援機能を提供する。

 世界最大手のボッシュや、買収巧者と言われる独コンチネンタルも、積極的なM&Aを続けている。

 一方で、日系部品各社の動きは鈍い。

 欧米に比べて、自動車メーカーと部品メーカーがケイレツ関係にある日系では、そもそも提携の動きが進みにくいのは事実だ。とは言え、機は熟したと言っていいだろう。

 トヨタグループは2014年ごろから始めた事業再編に一定のめどが付いた。シートやブレーキ事業を統合。デンソーが富士通テンを子会社化し、自動運転などの先進技術開発を進める。

 デンソーは2016年10月に東芝とAIの共同開発に着手したほか、12月にはNECともAIで提携すると発表した。脱トヨタが一層進めば、今年はさらなる動きがあってもおかしくない。

 日産自動車は子会社のカルソニックカンセイの株式売却を決定。日産自動車は日経ビジネスの取材に対し「子会社でなくなることが、カルソニックカンセイの拡大の余地を生む」と話した。独立したカルソニックカンセイが独自の戦略で他社との提携を進めることは十分に考えられる。

 技術開発の側面だけでなく、三菱自動車が日産の傘下に入ったことによる部品メーカー同士の競争も激しくなる。

 自動車業界の産業構造そのものに変革を迫る技術革新の波。2017年は、部品メーカーを巻き込んだ再編に発展するかどうかが一つの焦点となる。

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