「大阪都構想」の否決と橋下徹大阪市長の「政界引退」表明の余震が続いている。安倍晋三政権は国会運営や憲法改正を巡る戦略の修正を迫られ、野党では再編をにらんだうごめきが。橋下氏の「復活」構想も取りざたされ、永田町で起こり始めた化学反応の行方が注目される。
「大阪都構想」が住民投票で否決され、即座に「政界引退」を表明した橋下徹大阪市長。「政治は僕の人生からは終了です」とさばさばした表情で語ってから2週間が経過したが、永田町では「引退宣言」の余震が続いている。
戸惑う安倍政権
まずは安倍晋三政権側の戸惑いだ。安倍首相や菅義偉官房長官は後半国会の焦点である安全保障関連法案の成立に向け、橋下氏と連携を深めることで野党を分断し、国会審議を有利に進める戦略を描いていた。野党側で維新の党は協力を得られそうな数少ない勢力だからだ。
だが、安保で安倍首相と足並みを揃えてきた橋下氏の維新の党内での影響力低下は避けられない。さらに、江田憲司前代表の辞任を受けて急きょ登板した松野頼久代表は、安保関連法案の今国会での成立に慎重な姿勢を表明している。
安倍首相に近い自民党議員は「野党の一部からの賛成を取り付けずに強行採決に踏み切れば印象が悪い。内閣支持率が急降下しかねない」と懸念する。
与野党対決の構図の労働法制を巡っても、維新は正社員と非正規社員の賃金格差を縮める「同一労働同一賃金推進法案」を民主党などと共同で衆院に提出。野党共闘路線を鮮明にし、政権を揺さぶり始めた。
さらに、安倍首相の悲願であり、来年夏の参院選の大きな争点になるとみられる憲法改正についても目算が狂いそうだ。改正発議は衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成が条件。自民、公明の与党は参院では議席数が足りず、安倍首相は「改憲勢力」の貴重なパートナーとして維新の協力に期待している。
維新は憲法改正に関しては「できるところから着手すべき」との立場。だが今後、橋下氏を欠くと維新の党勢低下は避けられそうになく、参院選で維新が議席を上積みできるか不透明だ。民主は安倍政権下での改憲論議には慎重な構えだけに、自民幹部は「改憲へのハードルが上がったのは間違いない」と漏らす。
こうした維新の「急変」ぶりを受け、安倍首相や菅氏らは政権とは「是々非々」で対応する姿勢の維新との関係継続に腐心している。
安倍首相は国会内であいさつ回りに訪れた松野氏を激励。菅氏も松野氏と国会内で懇談して親密ぶりをアピールする一方、橋下氏に近い維新の「大阪系」議員に頻繁に電話するなど、良好な関係の維持に努める構えだ。
官邸も気になる「橋下争奪戦」
特に憲法改正を見据え、「橋下さんの発信力や突破力を生かさない手はない」と、安倍首相は周辺に語る。そこで焦点になるのが、今年12月に大阪市長の任期満了となった後の、橋下氏の身の振り方だ。
維新の大阪系議員を中心に、なお橋下氏の引退を思いとどまらせようという動きはあるものの、「橋下さんの性格上、いったん政界から退くのは間違いない」(維新議員)との見方が大勢だ。関係者によると、大阪の民放番組でのキャスター就任説なども取りざたされ、早くも水面下で「争奪戦」が激化しつつあるという。
それでも、菅氏が周辺に「市長を辞めても、また(政界に)出てくるだろう」と語るなど、橋下氏がいずれ政界に「復活」するとの見方は根強く、政界関係者の期待も大きい。
維新や改憲に積極的な自民議員の間からは来夏の参院選への出馬を求める声が続出している。さらに「安倍さんは衆参ダブル選挙に打って出て、橋下さんの衆院出馬を促すことも視野にある」と証言する自民議員もいる。
ただ、引退から半年での政界復帰には「早すぎる」との声も上がりそうだ。そこで、安倍首相に近い自民議員などの間では「統治機構改革」や「道州制」などを担当する内閣官房参与に任命したり、憲法改正に向けた国民運動を盛り上げるための「受け皿組織」とポストを用意したりして、側面から支援してもらう構想も浮上している。
安倍首相や菅氏は今後も橋下氏や松井一郎大阪府知事との関係を維持しつつ、橋下氏のパワーを最大限生かすための「活用策」を練る見通しだ。
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