環境に優しい「近未来の日常の足」として注目を集める電気自動車(EV)。なかでも、軽自動車より小さい1~2人乗り用の「超小型モビリティ」の開発競争が激しさを増している。日産自動車の「ニューモビリティーコンセプト」やホンダの「マイクロコミューター」など大手自動車メーカーが先行するなか、さらに新しいコンセプトの超小型EVが、実は新潟県で開発されている。
ITに強い新潟にポテンシャル
なぜ、新潟なのか――。
地域経済活性化のために新産業の創出を目指している新潟県は昨年12月、小型電気自動車の日本市場導入に向けた研究活動を開始すると発表し、「新潟県小型モビリティ推進委員会(委員長:大聖泰弘・早稲田大学教授)」を設置した。
国内大手自動車メーカーの生産拠点を誘致するのではなく、海外の車体をベースとした超小型EVを採用し、エネルギーや環境などの面の課題を解決する狙いとともに、地元企業の叡知を結集させ、車体の生産から運用、サービスに至るまで総合的に産業振興を図るプロジェクトとなる。
県内には完成車工場がないなど、もともと自動車産業は少なかった。しかし、「情報通信(IT)関連など電子技術に優れた中小企業が多く、新潟でのEV産業発展にはポテンシャルが大いにある」(新潟県産業労働観光部の渡辺琢也・産業振興課長)との判断が働いた。
新潟県としては、新産業創出に必要な最初のリスクマネーを拠出するほか、企業同士のコラボレーションを促すなどして、委員会を通じて事業体制やビジネスモデルの構築を支援していく。
ベースはスペインの「Hiriko(ヒリコ)」
新潟県がベース車として選んだ車体は、スペインの「Hiriko(ヒリコ)」だ。同国バスク自治州の自動車産業協会や米マサチューセッツ工科大学(MIT)などが共同プロジェクトで開発したものだ。新潟県は、バスク自治州政府や、このヒリコの普及を手がけているフォー・リンク・システムズ(東京都中央区)と組んで、ヒリコの“日本版新潟モデル”の開発、導入を目指す。
ヒリコの大きさは全長が2.5メートルで、幅が1.7メートル。最高速度は時速90キロメートルで、航続距離は約120キロメートルだ。スペインでの販売価格はバッテリーを除いて1万2000ユーロ(約160万円)。
4つの車輪の向きがそれぞれ変わるため、その場で車体が360度旋回するなど、自由に方向転換できる。前方部と後方部の一部がスライドする構造になっており、折り畳むような格好で前輪と後輪との距離(ホイールベース)が縮むと全長は1.5メートルまで縮小。このため狭いスペースにも駐車できる。その動きはまるでロボットのようで、クルマが小さくなったというよりは、おもちゃがクルマになった印象だという。
もっとも、このスペイン版ヒリコは、そのまま日本で走らせることはできない。1.7メートルある幅を軽自動車と同じ1.48メートルに狭める必要がある。物理的な要素が大きく変化すれば、制御系システムなども変えなくてはならないという。
この国内仕様に改良される、言わば「1.48モデル」となる新潟モデルの組み立てやメンテナンスを手掛けるのは、フォー・リンク・システムズの100%子会社「Hiriko JP(ヒリコ・ジェーピー)」(新潟県柏崎市)だ。今年2月に設立され、現在は人材と出資先を募っている。
来年3月末までをメドにプロトタイプを完成させる予定という。制御面などの課題をクリアした完全な動きを実現できる車体の開発には、さらにもう少し時間がかかるとみられるが、来年中には実車が披露される見通しだ。
クルマを構成する部品やモジュールは県内の各企業で構成するコンソーシアムがスペインの企業から技術ライセンスを受ける形で生産することになる。
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