全世界で記録的なヒットを収めている「アベンジャーズ」が8月14日、ついに日本で公開となった。アメリカンヒーローが一同に介する映画は、なぜヒットしたのか。そして、この映画を制作した米マーベル・スタジオは、親会社である米ウォルト・ディズニー・カンパニーと共に今後どのような事業を展開したいと考えているのか。同スタジオのケヴィン・ファイギCEOに聞いた。
「日本よ、これが映画だ。」という挑戦的なキャッチコピーが、日本国内で大きな話題になっています。
ファイギ:(横に置かれた「アベンジャーズ」の日本市場向けポスターを見て)ああ、ここに書かれている日本語のコピーはそういう意味なの? それはグッドだね。
言っていることは事実だよ。「これが映画」。まさにそうなんだ。今年最大のヒット作がこの映画。日本は、アベンジャーズがいちばん遅く公開される国。世界中でヒットを飛ばした上で、あえて日本に持ってきた。だからこういったコピーになったのだろう。
全世界に遅れる形で日本公開に踏み切ったのはなぜですか。
ファイギ:映画配給を担当した、ウォルト・ディズニー・ジャパンのアイデアでそうしたんだ。宣伝期間が十分でないまま全世界と同じタイミングで公開するより、世界でヒットした事実を市場に浸透させた上で公開する。そうすることで、日本の観客に「他の国でこんなに記録的なヒットを飛ばしている作品なら、ひとつ見てみるか」と思ってもらえるのではと。あくまで戦略として、日本での公開を遅らせたんだ。
日本ではマーベルのアメコミ(アメリカンコミック)キャラクターがあまり知られていないからこそ、世界でヒットした事実を前面に打ち出す戦略を取ったということですね。ちなみに、4月から順次、世界各国で公開し、既に、『アバター』『タイタニック』に次ぐ歴代興行収入3位にランクインしています。ヒットの要因はどこにあると思いますか。
ファイギ:何と言っても娯楽性の高さだろうね。見ていてとにかく楽しい。
おかげさまで世界中で大ヒットしているけれど、もしかしたら映画館を訪れた観客の多くが、映画に登場するヒーローのことを何も知らなかったかもしれない。アベンジャーズに登場するキャラクターを使った過去の映画作品についても、一切ご覧いただいていない人が多かったのではと思う。
我々はこの映画を「パート1」、すなわち入門編と捉えて、全世界の人に広く観てもらえればと思っていた。だからあえて、登場するキャラクターのことを知らなくても十分に楽しめる作品にしたんだ。映画の随所に含まれるユーモアと、観客が共感できるような人間味をそれぞれのキャラクターに与えたことが、事前の知識がなくても楽しんでもらえた理由でしょう。
映画には「アイアンマン」や「キャプテン・アメリカ」「ソー」など様々なアメリカンヒーローが登場する。彼らはそれぞれ悩みを持っている。欠点もある。ヒーローなのにとても人間くさい。だから観客は共感できるし、これだけ世界の人たちに愛されたのだと思うよ。
アメコミのヒーローが集結する映画であるにもかかわらず、作品中に「ヒーローなど、もう古い」といったニュアンスの台詞が出てきたのが印象に残りました。
ファイギ:我々が描いたのは、いわゆるパーフェクトなヒーローやスーパーヒーローではない。他のヒーローものとはあくまで一線を画していると思ってます。
重要なのは、衣装を着ているときのキャラクターが格好いいのはもちろん、鎧を脱いだときも魅力的であること。例えば、映画に登場する雷神ソーは人間ではなく神という設定。そんな彼にも異母兄弟であるロキとの確執や葛藤がある。ヒーロー同士の間にも葛藤がある。内部分裂寸前のところまでいくけど、最後は力を合わせて悪を倒すといったところも観客が引き込まれるポイントでしょう。
映画のロケシーンやヒーローのキャラクター設定など、ストーリーの随所にインドやロシアなどBRICs経済圏が出てきます。背景には、BRICs市場の観客を取り込みたいとの意図があったのでしょうか。
ファイギ:インターナショナルマーケットは、いまやアメリカより重要といっても過言ではない。その意味において、やはりBRICsを意識して映画を作らざるを得ないのは事実だね。同時に、今回の映画では壮大な物語を伝えたいとの思いもあった。だから映画の中には様々な国のシーンが含まれている、と捉えてもらえばいいんじゃないかな。
今後、あえて日本を続編映画の舞台に選ぶ可能性はあるのでしょうか。
ファイギ:いつかはそうなればと願っているよ。僕の父親は何年間か日本で暮らしたことがあるし、日本には思い入れが強い。日本でもいつか、ビッグなバトルを展開してみたいね。
2009年に米ウォルト・ディズニー・カンパニーがマーベル・ エンタテインメントを買収しました。あれから3年。ディズニーと組むメリットや、ディズニーと協力するからこそできることなどあればお聞かせください。
日経ビジネス電子版有料会員になると…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号13年分のバックナンバーが読み放題