中国経済はバブルか

 「バブルとは何か? それは弾けなければ分からない」と言われる。確かにバブルを定量的に定義することは困難だ――土地の価格がいくらになればバブルと呼ぶのか? しかし「使用価値ではなく、交換価値が主体となって動いている市場」を前提にすれば、現在の中国の不動産市場はバブルだと断言できる。その証拠に、中国政府が2010年9月、初期の不動産抑制策を打っている。個人が購入する3軒目の住宅に対してローン規制を行った。頭金として必要な額を20%から30%に引き上げた。

 なぜ、中国で不動産バブルが起きているのか?

 経済学では、不動産バブルの発生しやすさを「動学的非効率性」という概念を用いて説明する。「動学的に非効率性である」とは「名目成長率が名目利子率を上回る」経済状態のこと。投資が過剰になっていることを指す。このような状態では、生産設備拡大のために通常の投資をさらに行うよりも、いわゆるバブル資産に資金を投入したほうが投資家の利益になり得るため、不動産バブルが発生しやすいとされる。名目成長率が名目利子率を上回っている限り、バブルが続くのである。

 動学的な非効率性の条件から見て、中国の経済はどのような状態だろうか。

 バークレイ・キャピタルは「2008年に起きた金融危機への対策として中国政府は4兆元もの景気対策を打った。これが公共投資の浪費、効率低下を招いた」という見解を示している(英フィナンシャルタイムズ、6月7日)。政府部門を含め、中国全体が投資過剰状態にあることは間違いない。

 スイスのベルン新聞(5月27日付)によると、中国経済は名目成長率が20%前後であるのに対して名目利子率は約6%となっている。従って、リーマンショック後に発生した不動産バブルは、「名目成長率>名目利子率」という条件の下で続いてきた。この均衡状態が崩れて、「名目成長率<名目利子率」という状態になれば、バブルはいきなり崩壊してしまうだろう。

名目利子率が急騰し始めた

 中国は、高い成長率を長期にわたって続けているのに、なぜ低い利子率の状態を維持できるのだろうか? 長年にわたる超金融緩和政策がそのカギを握っている。

 人民銀行の呉暁霊元副総裁は2010年11月に発行された雑誌「中国経済週刊」のインタビューの中で「中国のマーシャルのk(GDPに対するマネーサプライの割合)は現在260%にまで膨張している。資産バブルとインフレの原因になっている」という注目すべき発言を行った。マーシャルのkは先進国では50~100%が一般的だ。1980年代末の日本でさえ120%程度であったことを考えれば、260%という数字は異常である。

 同氏によれば、2009年末時点の中国のGDPは、1978年に比べて92倍に拡大した。この同じ期間にマネーサプライは705倍に拡大した。さらに、リーマンショック以降の2年間でマネーサプライは50%以上増加したという。

 これを受けて中央政府は2010年秋以降、引き締め政策に転じた。中国でインフレ傾向が顕著になってきたためだ。中国は現在も大きなインフレ圧力に直面している。GDPの規模で米国の2.5分の1にすぎない中国のマネーサプライは米国の1.2倍になっている。インフレ拡大が大規模な社会的対立につながるリスクを懸念してのことだ。しかし、一度発生した「インフレ期待」を抑え込むのは尋常な手段では不可能であろう。

 不動産開発会社に対する貸し出し抑制など、中国政府による度重なる不動産融資規制を受け、2011年5月下旬から、不動産開発会社の資金調達コストが高騰している。銀行からの借り入れが困難となった不動産各社は民間の信託会社から借り入れを行うようになった。その利息と手数料は借入額の最大25%に上っている(SankeiBiz、5月23日)。ちなみに人民銀行の1年物貸出基準金利は6.31%だ(同)。

 不動産開発業者は、海外から流入するホットマネー――外資系金融金からの融資――を「頼みの綱」にしている。だが、インフレを抑制するために人民元が大幅な切り上げに追い込まれれば、ホットマネーが流出に転ずる懸念がある。そうなれば調達金利は「青天井」のように急騰しかねない。

名目成長率が急激に減速

 世界経済の成長に減速感が出てきている中、中国は今後も高成長を享受できるだろうか?

 北京科学技術大学の趙暁教授は「21世紀経済報道」のインタビューに応えて「中国経済は過去30年で最大の転換期に直面している。高成長は持続できない」とコメントした(大紀元、5月12日)。このコメントを待つまでもなく、成長の急減速は現実性のあるシナリオになってきている。名目成長率は1ケタになる可能がある(2009年第1四半期の名目成長率は3.6%だった)。

 電力不足や借り入れコストの上昇のため、日本の鉱工業指数に当たるPMI製造業指数は2011年5月に低下している。市場関係者の間では、工業生産の今年の伸びは鈍化するとの見方が強まっている。

 不動産業界は、2011年の住宅販売額は前年比で約10%減少する可能性があると予測する(ブルームバーグ、5月31日)にもかかわらず、今年1~4月の不動産関連固定資産投資額は前年比34%増である(サーチナ、5月11日)。従って、今後、住宅在庫が急増し建設活動を縮小せざるを得なくなるのは必至である。

 販売台数で世界一になった自動車市場も2カ月連続で前年割れとなった(時事通信、6月9日)。今年の自動車販売台数は前年比10%減になるとの暗い見通しも出ている(ブルームバーグ、5月26日)。

 以上、中国政府による金融引き締め策と、経済成長の鈍化により、中国経済は足下で「名目成長率<名目利子率」になっている可能性が高い。

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