「大阪都構想」の投票日前日、大阪・なんばで街頭演説をする橋下徹市長

 「大阪を再びニューヨーク、パリ、ロンドンと並ぶような世界有数の都市にする。東の東京、西の大阪となるのは、最高の政治家の夢」

 「大阪都構想」の是非を問う住民投票。投票日前日の5月16日、夜7時から大阪・なんばで多数の聴衆を集めた街頭演説で、大阪市の橋下徹市長はこう語りかけた。

 だが、結果は反対70万5585票、賛成69万4844票。僅差で反対票が上回り、橋下市長の大阪都構想の夢は潰えた。大阪府知事時代の2010年に構想を打ち出してから5年。大阪市を二分してきた議論にようやく終止符が打たれた。

 速報が報じられた後の記者会見の席上、橋下市長は事前の公約通り「今年12月の市長任期を全うしたら、政界を引退する」との意思を表明した。

沈黙する反対派陣営に突如、歓喜の声

 過去の類のない住民投票。しかも大接戦とあって、反対派の陣営では開票の途中経過を見守りながらの緊張が続いた。テレビ画面には僅差ながら賛成票が多いことが報じられていた。開票率も60%以上になり票数も多くなってきていたからだ。そうした中、異変が起きた。

 「勝った!」「ホンマや!」

 夜10時30分過ぎ、NHKが反対派優勢とみて都構想否決の速報を伝えたのだ。大阪市内にある自民党大阪府連本部では歓声が上がった。

 その後の記者会見で竹本直一府連会長(衆院議員)は「(反対派、賛成派がお互い手を取り合って)ノーサイドで府民、市民のために安定した大阪をつくっていきたい」と語り安堵の表情を浮かべた。

自民党大阪府連本部での記者会見。柳本顕市議団幹事長(写真左前)は「劣勢だったがよくここまで頑張った」と反対派の活動を評した。写真右前は竹本直一自民党府連会長

反対派の足並み揃わず苦戦

 今回の投票を巡る戦いは、都構想を推進する賛成派の大阪維新の会と、自民、公明、民主、共産など反対派の他の政党との分かりやすい構図となった。

 だが、反対派は苦戦を強いられる。地域政党の大阪維新が一丸となり、都構想を打ち出した橋下代表をシンボルに多額の活動費を投じて戦いを進めた一方、反対派の足並みは揃わない。

前大阪市長の平松邦夫氏は都構想への反対活動のため、後援会を立ち上げ「大阪市をおもちゃにさせへん」と訴えてきた。

 前大阪市長で反対運動を推進してきた平松邦夫氏は「直前の4月には統一地方選挙があり、政党ごとに戦いを繰り広げていたので、反対派には党派を超えた一体感を作るのが難しかった。『大阪市を守る会』といった反対活動だけに特化した組織を作り、橋下氏に対抗するシンボル、つまり代表者を置いて戦う方がよかった」と振り返る。

 2011年の大阪市長選で橋下氏に敗れた平松氏は投票日当日まで「反対派優勢と報じられても、そう感じる手ごたえがない。橋下氏は選挙巧者で不利な状況から最後に追い込みをかける『橋下マジック』には全く油断ができない」と話していた。

 橋下氏は過去には投票日直前に敗北宣言をして、同情を集めて自分の陣営の支持を高める戦術を繰り広げたこともある。そんな橋下氏の投票日前日の街頭演説に市民の関心が集まった。

 今回の投票は通常の選挙と異なり、投票日当日も賛成、反対を訴える活動ができる。賛成派が劣勢との事前報道もあり、状況を打破するために橋下氏は「反対派は全国から人を集めものすごい攻勢をかけてくる。各投票所には30人もの応援スタッフを送り込んできます。対する我々、維新はせいぜい2人。賛成していただける市民のみなさん、短時間でもいいです。投票所で我々スタッフと一緒に応援してください」と呼びかけた。

 選挙当日の午後5時ごろ。大阪市中央区にある投票所では、2カ所の入り口に賛成派のスタッフがそれぞれ2人、合計4人がビラを配り、賛成を訴えかけていた。一方の反対派も同様に4人。入口近くを抑えたのは賛成派で反対派は少し離れた場所で活動をしていた。

 「30人が押し寄せてくる」と文字通り信じた有権者がどのくらいいるかを推測するのは難しいが、最後の訴えとして多くの有権者に「橋下氏をなんとかして助けたい」と感じさせたのは事実だろう。

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