秋葉原からつくばエクスプレスで30分。柏の葉キャンパス駅を降りると、そこには真新しい町並みが広がる。駅前には大型ショッピングモール「ららぽーと柏の葉」(千葉県柏市)があり、オフィスなどが入る複合施設「ゲートスクエア」や高層マンションが立ち並ぶ。
「都心に乗り入れる最後の通勤鉄道」と言われるつくばエクスプレスが開業したのは2005年8月のこと。柏の葉キャンパス駅は、かつて三井不動産が運営していたゴルフ場のど真ん中に位置する。
つくばエクスプレスの開通が決まり、2001年にゴルフ場は閉鎖。土地区画整理事業が行われ、駅前エリアは三井不動産が開発を手がけた。
そして、この街は日本で初めて、公道をまたぐ2つの街区で余った電力の融通を実施するスマートシティでもある。
ららぽーとの屋根の上には約500キロワットの太陽電池が据え付けられている。そして、道を挟んだ向かい側のゲートスクエアにも約220キロワットの太陽電池が同様に設置してある。2つの街区の間を走る市道の上には、行き来できるブリッジがあり、そこを自前の電線(自営線)が走る。
ゲートスクエア内にある「柏の葉スマートセンター」では毎朝、気象情報などから2つの建物の電力需要を予測。電力需要が少ない方から多い方へ、太陽電池で発電した電力を送る設定をしている。こうすることで電力料金を引き下げられる。
仕組みはこうだ。ららぽーととゲートスクエアは、それぞれ東京電力から電力を購入している。企業向けの基本料金は、過去1年間の最大電力量で決まるため、最大電力量を引き下げる努力をすれば、翌年の料金が下がる。
そこで三井不動産では、電力消費量がピークを迎える昼間の3時間ほどの時間帯などを対象に、2つの街区間で電力を融通している。「今日はららぽーとの電力消費量が増えそうだから、ゲートスクエアから電力を送ろう」という具合だ。電力融通でピークカットしているわけだ。
こうして最大電力量を引き下げることで、2015年度は2つの建物で東電から購入する電気料金を約1000万円、引き下げることができる見通しだという。
実は、この電力融通を実現するまでには、足掛け3年半の時間を要した。構想が持ち上がったのは、柏の葉スマートシティで政府に特区申請しようとした2010年末のこと。電力融通を開始したのは今年7月だ。
この3年半の間に、東日本大震災が発生。東電の原子力発電所事故が起き、日本の電力事情は根底からガラガラと変わった。三井不動産の検討期間にも、その変化が見て取れる。
震災前だった検討当初の様子を三井不動産・柏の葉街づくり推進部事業グループの橋本隆仁主事はこう振り返る。「電力融通の手法について経済産業省に問い合わせても逐一、東電に様子を確認しているようだった」。
三井不動産が検討を始めて数カ月後に震災が発生する。東電が原発事故対応に追われたこともあり、協議は一時、中断した。再び検討が進み始めたのは2011年末のことだった。
三井不動産は、電力融通を「特定供給」という手法を使って実施しようと考えていた。特定供給とは、自家用発電機を持つ大規模な工業団地などで敷地内の複数の工場などに電力を供給する際に利用してきた制度だ。例えば、A社の工場の自家発で発電した電力を、B社とC社の工場へ供給するといったケースだ。A、B、C社があたかも1社のように見なせるため、認められる。
特定供給には経済産業大臣の許可が必要。しかも、厳しい許可基準を満たさなければならない。それは、「供給先の電力需要の50%以上の発電設備を持たなければならない」というものだ。
例えば、ゲートスクエアから、ららぽーとに特定供給で電力を送ろうとすると、ゲートスクエアにはららぽーとの電力需要の50%を賄う規模の発電機が必要になる。ららぽーとのような大型施設は、電気料金が年間数億円に上るほど大きな電力需要がある。その半分を満たすような発電機を準備するには、設備投資が大きくなりすぎる。しかも、発電機は「安定した電源」であることが条件であり、発電量が変動する太陽電池などは対象外だった。
そもそも、通常の特定供給では、電力会社から電力を購入するのは供給者のみ。ららぽーともゲートスクエアも大部分を東電から電力を購入し、ピークカットだけに太陽電池の電力を融通するという前例はない。
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