9月の24日、文化庁が2012年度の国語に関する世論調査の結果を公表すると、早速、民放各局の情報番組が、いくつかのネタを引用して、5分ほどの小コーナーを作っていた。ちなみに、記事はこちら。文化庁の調査結果はこちらだ。
毎度のことだ。
「日本語の乱れ」
「カタカナ語の氾濫」
「敬語の誤用」
「慣用句についての思い違い」
「世代間のギャップ」
こういうお話は、視聴者にアピールしやすい、と、少なくとも制作現場はそう考えている。
「最近の若いヒトは言葉を知らないから」
「噴飯ものの意味も知らないなんて噴飯ものですよね」
おそらく、テレビ視聴者の多くは、自分より無知な人間が国民の多数派を占めているというふうに思い込んでいる。
ん?
ということは、平均的なテレビ視聴者は平均的な日本人より賢いのだろうか?
真相はわからない。調べようもない。
ただ、無知な人々の多くは、自分より無知な人間が多くないという事実を知らないのだと思う。
自分自身の話をすれば、私は、必ずしも語彙の豊富な書き手ではない。
漢字の読み書きもどちらかと言えば苦手だ。
テレビでやってる「漢字博士バトル」みたいな企画に担ぎ出されたら、かなり盛大に恥をかくことになるはずだ。
事実、用字用語や慣用句の使い方について、校閲からゲラ経由で誤りを指摘された経験は、それこそ数えきれない
なので、ひとこと、例にあげられた慣用句について、それを誤用する人たちを擁護する文章を書いておきたい。
「国語に関する世論調査」の中で、とりあげられている慣用句は、いずれも「字面から自然に類推される意味内容と、辞書の上で正しいとされている用法の間に、著しく齟齬のある言い回し」なのだと思う。
ということはつまり、例に挙げられた慣用句は、どれもこれも「出来の悪い言葉」なのであって、誤解を恐れずに言うなら、そんなものは、誤用されて当然なのである。
無論、誤用する人々の側に責任がないわけではない。
しかし、全国民のうちの半数以上が、正しい用法よりも誤った使い方のほうを採用しているのであるとすれば、問題は、人々の側よりも、言葉の側にあると考えなければならない。とすれば、人々の誤用の主たる原因は、その慣用句が、「誤解を招く表現」である点に帰せられるべきなのだ。
紹介されている中にあった例では、「役不足」の本来の意味は、「本人の力量に対して役目が軽すぎること」ということになっている。
とすると、
「スガさんには、幹事長ではまだまだ役不足ですね。やはり、ぜひ首相になってもらわないと」
のような使い方が、正しい用例になる。
個人的に、いかにもすわりの悪い表現だと思う。
私は、こういう言い回しを自分の原稿の中で使いたいとは思わない。
調査によれば、「役不足」については、「本人の力量に対して役目が重すぎること」と、逆の意味に解釈している人の方が多い。つまり
「ハンカチ王子は開幕投手には役不足でしたね」
という感じで使ってしまっている人が多数派を占めているわけだ。
私自身も、誤用だと知っていてなお、こっちの用例の方が感覚的にフィットする。
誤用と思わない人が過半数ということは、この慣用句は読者に誤解される危険が大きい。
安全を考えるなら、事実上、使えないということだ。
間違って覚えている人間が無知だとか、正しい意味を知っている人が教養人だとか、そういう問題ではない。
要するに、「役不足」はダメな用語だ、と、そう考えて、この言葉は、他人に読ませる文章用のの辞書からハズしてかかった方が無難なのだ。
「噴飯」は、わりと使用頻度が高い。
当コーナーのコメント欄にも時々登場する。
個人的には、コメントを投稿しがちな読者は、デスクを飯粒だらけにしているタイプの人が多いのであろうという感じで受けとめている。
ツイッターの@欄にも噴飯付きのリプライが一定のタイミングで届く。
「こんな文章を書いていてコラムニストとはまさに噴飯」
「日経の記事拝読しました。正直に申し上げて噴飯ものの内容でしたね」
こういうコメントが毎日のように届く。
なので、文化庁の調査結果は意外だった。
データでは、「噴飯」を「おかしくてたまらないこと」と正しく理解した人が20パーセントである一方、「腹立たしくて仕方ないこと」と間違って解釈している人が49パーセントいたことになっている。つまり、間違って覚えている人の方が、正しく理解している人の倍以上もいた計算になる。
本当だろうか。
この結果には、多少、補足が必要だと思う。
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