エコポイント制度がスタートした。
ITプラスでは、このように紹介されている。
なるほど。
エコという名前からして、主導しているのは環境省なのであろうと思ったら、どうやら違う。
肝いりはあくまでも経済産業省。これに総務省が地デジ普及の思惑から一枚噛んでいる形だ。
環境省は?
まあ、アレだね。名前を使われただけ。アリバイ提供。飲み会の名目に誕生日を使われる若手社員みたいなものだ。
「あ、今晩遅くなるから。ほら、2課のヤマグチね。今日はアイツの誕生日でさ。オレらでひとつパァーっとやることになったわけ。総務のOLさんたちも混ぜて」
「ヤマグチさん? 聞いたことないけど」
「ま、話題にのぼるような男じゃないし。逆にそういうふうに地味なヤツだから、みんなで祝って盛り上げてやらないといけないわけだよ。営業部的には」
バラ撒きでもハコモノでも、昨今は、エコがらみのイクスキューズを錦の御旗にしておかないと話が通りにくい、と、おそらくはそれだけの話だ。一種のエコ偽装ですよ。
環境省は、被害者ですらある。
というのも、突然始まったエコポイントのおかげで、環境省が以前から推し進めようとしていた「エコ・アクション・ポイント」が置いてけぼりを食らった形になっているからだ。
エコ・アクション・ポイントについては、このリンクを踏んでみてほしい。事情を読み取ることができるはずだ。
なにしろ、ロゴマークが悲しい。あるいは、ロゴマークというよりも、地デジカと同じ「推進キャラ」という立ち位置なのかもしれない。でも、名前も背景も与えられていない。そこにいるというだけ。予算不足のお座なりキャラ。どことなくクマっぽいたたずまい。丸い耳。どう突っ込んで良いのやらわからない。
目と口は、それぞれ、「エコ・アクション・ポイント」の頭文字である「e・a・p」になっている。
可愛いと言えば可愛い。特に「p」の口が。棒の部分がよだれっぽい。左右不均等な涙目(e,a)も同情を誘う。
私は「よだれ熊」と名付けた。
飢えた子熊みたいに見えるからだ。たぶん親熊にネグレクトされている。環境省と同じ。経産省あたりから継子扱いを受けてしょげている……そういう絵に見える。ぜひリンク先のイラストをみてあげてほしい。できれば、アナロ熊の時みたいにテーマソングを作ってやってくれるとうれしい。まあ、私がねだる筋合いの話ではないのだが。
「エコ・アクション・ポイントとは、消費者による温暖化対策型の商品・サービスの購入や省エネ行動を経済的インセンティブを付与することにより誘導する仕組みです!」
と、環境省のHPは、語尾に「!」(エクスクラメーションマーク)を置いて、強い言葉で説明している。女子アナ文体。意気込みが伝わってくる。
で、さらに、上記の一文のすぐ下に、枠で囲ったカタチで、以下の補足説明を加えている。
「エコ・アクション・ポイントは、国民のみなさまが温暖化対策型の商品やサービスを購入する際などに付与されます。貯まったポイントで、様々な商品・サービスとの交換や、その他のポイントや電子マネーとの交換などができます。」
いじらしい文体。
でも、これ、エコポイントとどこが違うんだろう。区別がつかないぞ。
けなげな環境省は、さらに解説を重ねる。
《「エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業」については、本モデル事業とは異なります。》
と、赤い字(巨大フォント)で注意を促し、さらに
《 →詳しくはこちらをご覧ください。》
と、アンダーライン付きの文言でリンク先を明示している。
リンク先の文章がまた切ない。
「エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業の実施について」
と題するテキストの冒頭で、環境省はふたたび
《本事業は、環境省が単独で推進しているエコ・アクション・ポイントモデル事業とは異なります。》
と明言している。うむ。行間に無念さがにじみ出ている。弱小官庁の悲哀。アリバイ機関の弱腰。出来星の限界。新参部局の右顧左眄。
で、ひととおり経過説明をした後、「よくある質問」に対してのQ&Aを付け加えている。
世話女房型官庁らしい親切さ。素晴らしい。
でも、そのQ&Aがヤブヘビになっている。
Q3 まだ使える家電製品を買い換えることは環境保全に反するのではないでしょうか。
Q10 エコポイントはどのような商品と交換できるのですか。
この二つの質問は、回答者にとってどうにも苦しい。
ちなみにQ3への答えはこれ。
A3 エネルギー効率の低い旧型の家電製品を使い続けることにより、余分にエネルギーを使用し、CO2を排出することになるため、本制度では省エネ効率の高い製品への買い換えを促進するものです。なお、使用済み家電については、適正なリサイクルを進め、買い換えにより新たに環境問題が起きないように配慮しています。
……苦しい。
「環境保全に反するのではないか?」という質問には直接答えず、代わりに「配慮しています」と、関係者の努力を強調するカタチになっている。全体の構造としては
「わかってください」
というお願いに近い。
わかってさしあげたい気持ちはヤマヤマだが、私は笑いましたよ。
だって、「まだ使える家電製品を買い換えることが環境保全に反する」ことを、誰よりもよくわかっているのは、環境省の職員の皆さんたちで、その彼らの心痛が行間に横溢してしまっているからだ。
実際、某自動車メーカーが一時言っていた(今でも言ってる?)「エコ替え」の場合でもそうだが、商品の買い替えという手段でエコに貢献するには、非常に高いハードルを超えなければならない。
白熱電球を蛍光灯型電球に替えるみたいな、単純な話でさえ、環境負荷の算出は簡単ではない。
1. 白熱電球を廃棄する際に生じる環境負荷
が
2. 蛍光灯型に付け替えた時に節約される電力
で、精算されていなければならない。また、「節約される電力量」自体、
3.電球の使用頻度および白熱電球の残り寿命
を仔細に検討しないと答えは出ない。
クルマみたいなデカい商品で、省エネルギー効果を出すためには、そもそも廃棄する側のクルマと、買い替え後に乗る車の燃料消費効率に、巨大な格差がないと話が成り立たない。
ということは、エコ替えを成功させるには、クルマを新型に変えるだけでなく、より排気量の小さいクルマに替えないと意味がないわけだが、小さくて、遅くて、安いクルマというのは、実は自動車会社があんまり売りたいクルマではなかったりする。ここが難しい、というよりも、ヤブヘビなポイントで、だから最近、関根君はエコ替えの話をしない。
仮に、クラウンからプリウスに乗り換える(←トヨタにとっては、本音では想定さえしたくないタイプの乗り替えだと思う)のだとして、それでも、地球に優しくなったのかどうかを知るためには、さらに1カ月あたりの走行距離やら、廃棄車両の処理方法やらを細かく調べないとならない。
面倒な話なのだ。
家電の場合も同様。
買い替えで省エネ効果を出すためには、なにより、ブツをスケールダウンしないといけない。というよりも、エコな買い替えを実現するために、われわれは、より狭小なテレビ画面に適応し、より容量の小さい冷蔵庫で間に合わせるべく食生活を工夫し、より冷却力の乏しいエアコンで夏場をしのぐに足る精神力を身につけなければならないのである。
エコポイントがそこまで考えて策定されているのかどうかは、後述するが、疑問だ。
Q10も、キツい質問だ。というのも、本当の答えは、
A10 ごめんなさい。まだ決まっていません。
だからだ。
ちなみに、環境省のHPが掲載している答えはこうだ。
A10 エコポイントの交換商品については、[1]省エネ・環境配慮に優れた商品、[2]全国で使える商品券・プリペイドカード(環境配慮型のもの)、[3]地域振興に資するもの、以上の3分野とします。各分野における具体的な商品については、例えば第三者委員会などの透明性のある手続きの下で選定していきます。
かわいそうに、上から言われた台詞をオウム返しに繰り返す以外にどうしようもないのだな。クレーム処理のために菓子折を以てやってきた下っ端社員みたいだ。
彼らがうまく答えられなかったのは当然なのだ。
だって、そもそもがヘンな話なんだから。
第一、予算の手当がついていない(←現状は、補正予算の可決を待つカタチになっている)時点で、バラ撒きをはじめてしまったこと自体どうかしている。しかも、ポイントの使い途さえ、決定していない。
拙速という表現にすら値しないと思う。周章漏売。
聞けば、4月中に、エコポイント制度の構想をアナウンスしてしまったことで、買い控えが起きているという指摘があって、それであわてて見切り発車せざるを得なくなったらしい(関連記事はこちら)。
実際、新しい家電を買うことがエコなんだろうか?
ところで、私はたったいま、「エコだ」という形容動詞の連用形(「エコなんだろうか?」)を使ったが、エコは、既に「エコロジー」の略語である立場から逸脱しつつある。
つまり、「エコ」は、すでに名詞オンリーの言葉ではなくなってきているのであって、活用語の語幹として、様々な派生語を生んでいるわけだ。
「エコだ」:「お弁当ってエコだよね」
「エコな」:「エコなクルマ」「エコな暮らし」「エコな交際」
「エコっぽい」:「エコっぽいイタメシ屋」
「エコい」:「下駄ってエコいのかなあ?」
「エコく」:「最初なんだから、エコく電車デートで決めておくのが無難だぞ」
「エコがましい」:「ってかさ、自由が丘近辺の八百屋って、店頭のディスプレーからしていちいちエコがましくてムカつくよな」「ナスビがスカしてんじゃねえって感じ?」「そう。トマトなんかも、トメィトゥってな感じで鎮座してやがるわけだよ」
「エコったらしい」:「民社党ってここんところやたらエコったらしくねえか?」
その他、「エコ狂おしい」ぐらいの応用も考えられる。実際の用例を耳で聴いたことは無いが。
いずれにしても、エコは、新たな錦の御旗になりつつある。
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