「分かりやすく、和を重んじて、スピーディーに」を大切にして仕事に取り組んでいる。いずれも、結果ではなくプロセスに関するモットーだ。柴田さんがプロセスにこだわる理由は何か。
(聞き手は森 永輔)
2012年4月にオープンした渋谷ヒカリエのレストラン階のコンセプト作りが評判を呼んでいます。
柴田:ヒカリエは、東急電鉄が、渋谷をもっといい街にするための再開発プロジェクトの第1弾に位置付けたプロジェクトです。「レストランフロアに特徴を持たせたい。それを、お客様にヒカリエを知っていただくきっかけにしたい」というリクエストを受けました。
渋谷は日本を代表する街、日本を語る上で欠かせない街です。その再開発プロジェクトにかかわらせていただくことは、非常にやりがいがあると思いました。
6階と7階がレストランフロアになっています。6階のコンセプトは、お客様が「あそこのあれを食べに行こう」と目的を持って訪れるフロアです。お客様が、想像しただけでよだれが出てしまうような個性際立った専門店をテナントに選びました。
いっぽう、7階は「よく分からないけど、あのフロアで待ち合わせしよう。行ってから食べるものを決めよう」という「場所」としてのレストランフロアを目指しました。
この前、ある若者が電車の中で「取りあえず、ヒカリエの7階で集まればいいよね」と友達と話をしているのに出くわしました。「ああ、狙い通りだ」。狙いが現実になった時は、すごくうれしいですよね。
ターゲット顧客を細部まで想像する
柴田さんは「コンセプトクリエーター」と名乗られています。「ブランド」と「コンセプト」はどう違うのでしょう。
柴田:ブランドは、企業や商品、サービスがある特定の特徴を持っていて、ファンに支持されるものですね。この特徴がコンセプトです。以前、ローソンのスウィーツ「UchiCafeSWEETS」に取り組みました。このブランドのコンセプトは「いつでもおうちがカフェになる」でした。
タクシーの日本交通のブランド力を高めるためのコンセプトは「ビジネスクラスのタクシー」です。川鍋一朗社長がお考えになりました。タクシーは料金やクルマの広さで差別化することが難しい。だから、サービスの質を、支持される特徴にした。
「コンセプト」って、どうやって作るんですか。
柴田:コンセプト作りは、クライアントの強みと弱みをきちっと把握して、それから、市場で受け入れられるかどうか時代性を測って、そして、それらをミックスするときにアイデアというスパイスをちょちょっと入れる。
どんな才能が必要なんでしょう。学校に行って勉強すればなれるものですか。それとも特殊な才能が必要でしょうか。
柴田:学校に行ってスキルを身に付ければ、「クリエーター」と呼ばれる職業に就くことはできます。ただし、一流のクリエーターになるためには才能が必要だと思います。
なるほど。具体的には、どんな才能が必要なんですか。
柴田:人が思い付かない表現、人が共感する表現を考える力。理由もなく心が動くものを作る力。マーケティング調査には表れない「時代」をとらえるセンス。などだと思います。
アイデアってどんな時に浮かぶんですか。
柴田:私の場合は、そのことについて一生懸命、考えてる時ですね。
それと、対話をしている時。スタッフと話をしている時とか。1人の時は、本と話をする。
本は、どんな本ですか。
柴田:商業施設の本とか、建築物の本とか…
ビジネスに関連する本なんですね。小説を読みながら……はない。
柴田:それはないですね(笑)。
柴田さんの著書を読むと、アイデアを作る時に「個人」が重要な役割を果たしていますね。「エミコさん」とか、「アレックス」とか。
柴田:そうですね。強いコンセプトを作るにはイメージターゲットが必要なんです。ターゲットを限定した方が、万人受けする茫洋なものではなく、魅力的な個性を持ったコンセプトができる。だから、なるべく個人をイメージする。この個人は、現実に存在する人でも、架空の人でもかまいません。
プロジェクトメンバーとアイデアを共有し、それを深める時も、そのターゲットの人となりやプロフィールが明確であればあるほど、皆さん、想像しやすい。「20代女性」と言っても、メンバーが思い浮かべるイメージはばらばらじゃないですか。共通の目標に向かった会話ができない。でも「年収が300万円」という情報が加われば、「300万円だと、そんなところ行きませんよ」と議論が一歩先へ進む。
イメージは映像です。頭の中に、複数の映像を同時に映すことはできません。だから、イメージターゲットを「1人」にまで限定することが大切ですね。このターゲットの設定を間違えると商売自体もうまくいかないです。
そして、このターゲットのライフスタイルの中に、アピールしたいブランドが自然な形で組み入れられるように考える。
ヒカリエのイメージターゲットはどんな人だったんですか。
柴田:7階の場合、青山の骨董通り、南青山あたりのデザイン事務所に勤めている……。
そんなところまで考えるんですか。
柴田:そうです。
いつも仕事が終わるのは遅い。でも金曜日に、食事をすることにした。だけど、みんな終わる時間がばらばらじゃないですか、そういう人は。5時にチャイムが鳴って終わりということがないから。7時に終わる人もいれば、9時ぐらいまでかかる人もいる。
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