雫石鉄也の
とつぜんブログ
キウィ大福

ワシは酒も飲むけど甘いもんも食う。ま、どっちか選べといわれたら酒を取るけど、甘いもんも決して嫌いではない。
そんなワシが甘いもんをよう買う店がある。場所は芦屋や。阪急芦屋川駅を降りて、すぐ北側の商店街をちょっと西へ行ったところ。谷崎の細雪に出てくる医院を通り過ぎたところにある和菓子屋さん杵屋。ここの和菓子がおいしいから、おりおりにここの和菓子を食べとる。
この杵屋さん。JR芦屋駅北側の竹園旅館にも和菓子を入れとるそうな。竹園旅館つうと甲子園で試合があるとき巨人が定宿にしとる旅館や。そやから原さん以下、阿部、村田、坂本、杉内といった連中も杵屋さんの和菓子を食っとるやろ。ま、せいぜい杵屋さんのおいしいお菓子を食って元気をつけて、阪神タイガースにかなうよう、がんばりたまえ。
ま、それはさておき、きょうはキウィ大福をつくったぞ。イチゴ大福は毎年イチゴの季節には必ず作って食うけど。イチゴ大福ちゅうと広島のレギュラーになりきれへん中東のおかあさんが、毎年、広島のキャンプにイチゴ大福をようけつくって作って差し入れすんねんて。今年の広島の調子がええのんは、中東のおかあさんのイチゴ大福がいつにましておいしかんったんやな。
で、キウィ大福やけど、作り方はイチゴ大福とまったく同じ。中身をイチゴからキウィに替えただけ。キウィもなかなかイケたで。大福に入れるには少し酸味が強めのもんがあうみたいやな。
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鶏肉の串カツ

串カツである。串カツは大好き。ビールを飲むシーズンに最低、3回は自宅で串カツを揚げる。
大阪の会社に勤めていた時代は、よく梅田の松葉で串カツを食った。けんど、この松葉の串カツでロクな目にあわんかった。松葉の串カツにはツミはないが。
ウチで串カツを揚げる時は、メインの素材は牛、豚、鶏やが、今回はは鶏だ。もも肉と、胸肉の2種類の鶏肉を使った。これは胸肉の串である。うまみが濃いもも肉、さっぱりした味の胸肉。ワシは両方好きやな。
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とつぜんSFノート 第58回

「NULL」である。「復刊第1号」とある通り、この「NULL」というファンジンは復刊である。「NULL」は元々は筒井康隆さんの家族誌であった。
だからこの復刊NULLは「ネオ・ヌル」と呼ばれた。旧NULLははるか昔の太古の時代のファンジンであるからして、小生は名前だけは知っている。また旧NULLの会員だったという人が昔、星群にいたのでウワサだけは知っていた。
小生は「ネオ・ヌル」に入会した。この「ネオ・ヌル」編集は畏友岡本俊弥で、関西の多くの知り合いのSF者が多数会員だった。
この復刊1号の表紙は当時のクィーン神戸の人。このネオ・ヌルの表紙はずっと若い女性で、今月号のSFマガジンで、SF雑誌らしからぬカバーガールの表紙でびっくりしたが、ネオ・ヌルは40年も前からカバーガールが表紙のSF雑誌だったのだ。
この雑誌が育てたSF作家は多い。夢枕獏はショートショート「カエルの死」をこの雑誌に掲載されデビューのきっかけとなった。ショーショート研究家の高井信も「シミリ現象」が掲載された。西秋生、山本弘、牧野修といった作家たちもネオ・ヌルにデビュー前に作品を投稿掲載されている。また、堀晃、かんべむさしの二人はデビューはSFマガジンだが、このネオ・ヌルが本格的なデビューへの助走となった。
この雑誌の名物はショートショートの全応募作に筒井康隆が講評を加えるというもの。チャチャヤングが終わって、ショートショートの発表場所に飢えていて関西のアマチュアのショートショート書きたちがたくさん応募した。チャチャヤング卒業生たちももちろん応募した。だいたいが編集長の岡本俊弥がチャチャヤング卒業生なんだから。
なかには、毎号毎号ものすごい量の応募する人がいた。それもろくでもない作品ばかり。筒井さんもええかげんイヤになって、なんどいっても向上の見られない人には、いちいち講評しないで、「!」と記することになった。
このネオ・ヌルの第1回例会が1974年6月16日に神戸文化ホールの会議室で行われた。もちろん小生も参加した。この当時には堀晃さんとは知己を得ていたが、かんべむさしさんは知らなかった。会場で例会が始まるのを待っていると堀さんが入ってきはった。二人連れだ。なんだか知らない小柄なご仁とごいっしょだった。それがかんべさんだった。
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阪神、最強の救援投手「雨」に助けられて勝つ
甲子園は絶対に屋根付き球場にしたらあかんのが、きょうでよう判ったやろ。6回までは、今季初登場の狩野の大活躍があったりして、ヤクルト投手陣をタコ殴り。10対0で、こりゃゆうゆう勝ちやな。やっぱり阪神は甲子園に戻ってくると元気やな、と思うとった。内ベンケイの弱いもんいじめやな。
ところが、7、8、9と後半3回にヤクルトに5点入れられる。9回は、渡辺、榎田の二人1アウトも取れず。とうとう呉昇桓まで引っ張り出される。ところが阪神には最強のピッチャーがおった。雨というピッチャーが。呉昇桓は1球も投げずに降雨コールドゲーム。
甲子園に屋根がなくて良かったな。バレンティンがおらへんとはいえ、のせたらコワイヤクルト打線。逆転されとったかも知れん。
ところが、7、8、9と後半3回にヤクルトに5点入れられる。9回は、渡辺、榎田の二人1アウトも取れず。とうとう呉昇桓まで引っ張り出される。ところが阪神には最強のピッチャーがおった。雨というピッチャーが。呉昇桓は1球も投げずに降雨コールドゲーム。
甲子園に屋根がなくて良かったな。バレンティンがおらへんとはいえ、のせたらコワイヤクルト打線。逆転されとったかも知れん。
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大江戸恐龍伝 第三巻

夢枕獏 小学館
第2巻で平賀源内が設計していた、ニルヤカナヤ探索用の大型船が、この巻で完成した。その船は「ゑれき丸」と命名された。
源内は杉田玄白、伊奈吉らを伴って、いよいよ琉球に出立する。と、いうわけで、この第3巻の舞台は琉球。
源内はこの琉球で興味深い人物と知り合う。自称江戸学者牧志朝典。のんだくれのじいさんで、人に飲み食いをたかって暮らしている。ほら吹き、うそつきと呼ばれ村八分同然のじいさん。ところが、かっては江戸に留学したこともあるエリートだったとか。
朝典と酒を酌み交わした源内は、このじいさん、自分と互角の博識の持ち主であることが判る。この朝典、琉球の文物にもくわしく、よそものは絶対立ち入り禁止の加良間の祭りにニルヤカナヤの謎の重大なヒントがあることを源内に教える。
危険を冒して、源内と朝典は加良間に潜入。ヒントをつかむ。そしてとうとうニルヤカナヤを特定。源内一行に朝典も加わって、ゑれき丸はニルヤカナヤを目指して出帆する。
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ねじまき少年

類似書 パオロ・バチガルピ「ねじまき少女」
自力優勝の望みがなくなり、トラ構造が激変した近未来のハンシン。遺伝子組み換えピッチャーを先発させたアンダースン・ワダは、ある日、勝てると思うとったサワムラをいっこも打てんかった。一昨年、トーインで踊る少年型アンドロイドシンタロウと出あう。ワダとシンタロウの出会いはセ界の運命を大きく変えていった。きょうもシンタロウが投げたが、遺伝子組み換え動物のサワムラに投げ負けた。氷河賞、根平賞、炉糟賞、キャンベル・コーンスープ記念賞受賞。世界の主要なSF(さんざんフジナミ)賞を総なめにした鮮烈な話題作。
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阪神、4番ゴメスの一打で勝つ
昨日負けたから、きょう、負けたら阪神の自力優勝がなくなるとこやった。今日の試合は昨日の裏返しやった。4番阿倍のホームランで試合のすう勢が決まり、阪神の守護神呉昇桓を攻めて巨人サヨナラ勝ち。
今日は、阪神が巨人の山口マシソンを打って、最後は呉昇桓がまた阿倍にホームランを打たれたけど、1点差で逃げ切った。ゴメスのホームランがツーランで良かったな。
今日は、阪神が巨人の山口マシソンを打って、最後は呉昇桓がまた阿倍にホームランを打たれたけど、1点差で逃げ切った。ゴメスのホームランがツーランで良かったな。
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首位目前にて

類似書 ネヴィル・シュート「渚にて」
第三次セ世界大戦はとうとつに起こった。ベイ、ドラ、スワはすでに壊滅した。しかしセ界戦争はまだまだ終わらない。銃弾が飛び交うことはなくなったが,核の放射能は確実に着実に生き残ったジャイ、トラ、カップにもしのびよってきた。
地球上に残された少ない安全地帯である、トキオドムを領有するジャイにトラが難民としてやってきた。トラとしてはここでジャイを駆逐しないと生き残る道はない。トラは壊滅の渚に立った。
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桐島、部活やめるってよ

監督 吉田大八
出演 神木隆之介、橋本愛、東出昌大、大後寿々花、清水くるみ
バレー部のキャプテン桐島がバレー部を辞めた。学校にも出てこない。選手として有能で人望も厚い桐島。バレー部をはじめ、学校内に波紋が広がっていく。
映画の前半はずっと金曜日。同じ時間の、複数の人物のそれぞれの視点から描いて行く。桐島が辞めたというのは、きっかけにすぎない。バレー部、吹奏楽部、バトミントン部、野球部、さまざまなクラブのさまざまな高校生たちの、考え、価値観、描かれる。
と、こんなレビューは面白くない。実はこの映画を見ながら、桐島なんかどうでもええやん。と、思っていた。で、映画の登場人物にも桐島なんかどうでもええ。と思っている連中がいる。前田をはじめとする映画部だ。
顧問の先生が書いたまっとうな青春ドラマは無視。自分たちが造りたい映画を造るとゾンビ映画を撮影し始める。
この映画部、学校のクラブの中では最下層民。部室も剣道部の奥の暗い狭い部室。もちろん女子は一人もいない。おたくっぽい男の子ばかり。実績を積めばそれなりの扱いも受けようが、どこやらの映画コンテストで1次予選を通過はするが2次予選で落ちる。撮影も順調とはいえない。吹奏楽部のサックス吹きの女一人にじゃまされる。屋上で撮影していたら、キリシマがいたとのことで乱入してきたバレー部や運動部にめちゃくちゃにされる。
映画部の監督の前田がなんともマニアック。クエンティン・タランティーノ、ジョージ・A・ロメロといった作家。スクリーム、脳男、ザ・フライ、ボディ・スナッチャー、遊星からの物体X、なんか忘れちゃいませんか。ビデオドロームを忘れているのでは。といった作品名が出ただけでニヤニヤ。しかし、映画内で造っている映画ってどうしてゾンビ映画がお好みなのだろう。「キツツキと雨」でもゾンビ映画を造っていた。
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真っ赤かな広島に三連敗はでへんで
真っ赤かな広島に3連敗して、3位転落の危機さえあったけど、後半一気に逆転して勝った。初もん外国人ヒースにてこずっとたけど、新「代打の神さま」関本が神さま稼業をなして、逆転。きのう早退したマートンが、きのうのウサ晴らしにスリーランをかっ飛ばして突き放す。最後はセーブはつかへんけど呉昇桓がしめて試合終了。
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ゴーヤチャンプルー

さあて、今夜はひとつ沖縄料理といくか。メニューはラフティとゴーヤチャンプルーだ。調味料として泡盛も買ってある。残りはロックで飲む。
ゴーヤチャンプルーは夏には必ずする料理。暑い夏にはゴーヤの苦味が心地よい。
ゴーヤチャンプルーにはいつもは豚肉を使うのだが、メインのおかずがラフティなので豚肉が重なってしまう。そこで、豚肉の代わりに厚揚げを使った。豆腐も使うから、大豆食品が重なるが、ま、いいか。
さて、ゴーヤだが、小生が料理を始めたころ、最初に調理して食べた時は、ものすごく苦くて食べられなかった。これはゴーヤの扱いを知らなかったから。
小生はこうしている。ゴーヤを二つに割って、中の白いワタをスプーンでこさげとる。小さく切る。中華鍋をカンカンに熱する。お湯をチンチンに沸騰させる。中華鍋で切ったゴーヤを炒める。しばし炒めて、熱湯をそそぐ。しばしゆでる。こうすることによって、ゴーヤの苦味が薄らぎ、青臭さがとれる。ただし、炒めすぎ、ゆですぎは禁物。苦味が抜けすぎる。苦味ゼロのゴーヤはおいしくない。
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チクチリソース

中華の定番エビチリソース。私も大好きです。ピリ辛でエビがプリプリ。おいしいです。ビールのアテにも、メシのおかずにもよくあいます。
調理もさして難しくはありません。海産物を使った中華料理の基本ワザを磨くには適した料理ではないでしょうか。
さて、今夜もエビチリソースを作りましょう。でも、普通のエビチリではおもしろくない。エビを使わないエビチリです。エビの代わりに竹輪を使いました。チクチリソースです。調理の仕方エビチリソースとまったく同じです。
確かにエビのプリプリ食感はありませんが、これはこれでおいしいです。なによりうれしいのは、エビを使うより材料費が安くつくことです。
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そいつ
「そいつ」はこの星の上空で産まれた。この星は生命に満ちている。生命は他の生命を捕らえ喰らわなければ生きていけない。
むしゃむしゃと生命をむさぼって、己の命をながらえる。そして子孫を残す。この星の生命はこうやって増えていった。そして、己の命を維持すること以外で、他の生命の命を奪う生命が、この星に産まれた。
銃弾が額に当たった。その銃弾は後頭部から出て行った。額には小さな穴が開いたが、出口の後頭部は大きな穴が開いた。銃弾が脳と頭蓋骨の後ろ半分を空中にぶちまけた。その刹那、「それ」が産まれた。「それ」は憎しみ、悲しみ、後悔、恐怖、くやしさ、無念、人間の持つ全ての負の感情がひとかたまりになったものだ。最前線のその兵士は死ぬ直前に「それ」を吐き出した。
「それ」は上空に昇った。この星の上空には「それ」がかたまっている。かたまった「それ」は「意識」を持って「そいつ」になった。
飲みすぎ。あきらかに酒井はそういう状態だった。さっきから尿意をもよおしている。さっき3件目のスナックで小便してきたばかりなのに。男もこれぐらいの年になると前立腺が肥大するのだ。もう少し行くと駅だ。そこまでがまんできそうにない。そこで立ち小便しよう。
その手の本やDVDの店の看板の陰に立って、ぞろりと一物を出して放尿した。
「うん、あれにしよう」「そいつ」は地上に到達した。
小便はなかなか止まらない。ブルッとふるえた。冬に小便をすると、よくそういう現象が起きるが、今は夏だ。不思議だ。と思った、と、ある感情が自分の中で生まれた。薄い乳白色のもやの一点に真っ黒い雲がわいた。その真夜中のような黒い雲は、たちまちのうちに、酒井の感情のすべてを塗りつぶした。真っ黒い雲。男は自分自身がどういう感情に囚われているのか、最初は判らなかった。突然、その感情が何なのかわかった。怒り。ものすごい怒り。何に対しての怒りなのか判らない。ともかく、身体が爆発するほどを怒りが自分自身の中に充満している。
店の中から男が出てきた。
「こら、どこで小便しとんねん」
酒井は爆発した。看板を持って振り上げた。台座のコンクリートもふくめると30キロぐらいだろう。台座の部分で、店の男の頭を強打した。台座の角が店の男の脳天にまともに当たった。すいか割りのすいかのようにパックリと割れた。周囲に血が飛び散り、割れ目からどろりと脳漿がこぼれ落ちた。
酒井はふと気がついた。どすん。手に持っていた看板を落とした。こんな重いものをオレはなぜ持っていたんだ。全身が真っ赤になっていることに気がついた。なんだこの赤は。生臭いにおいがする。足元をみると原型をとどめない頭部の男が倒れている。
「そいつ」が酒井から離れた。三つに分かれた。
「今夜は接待なんだ。遅くなる」
吉田は妻にそういって家を出た。家のすぐ前がバス停だ。そこからバスに乗って私鉄の駅まで行く。通勤時間2時間。こんな不便な所の、こんな小さなマイホーム。自分の家を持てただけでも良しとするか。
バスを待つ。停留所のメンバーはいつも同じだ。朝のうちだけでも少し涼しくなった。ゾクッ。吉田は突然寒気を感じた。夏風邪でもひいたか。
ガタガタ震えだした。夏なのに氷点下の外気にさらされているようだ。歯がカチカチなり、ヒザがガクガクする。とても立っていられない。その場にしゃがみこむ。
「あなた、どうしたの」隣の主人の肩にぶら下がって吉田が帰ってきた。顔が真っ青。「奥さん、急病らしいんです。私はバスに遅れるので、これで」
「熱はないみたい。杉原先生に往診お願いするわ」
杉原医師は首を傾げながら帰った。吉田は健康そのもの。身体中どこも異変はない。真夏なのに布団をひっかぶって寝ていた吉田が首だけ出してポツンといった。
「こわいんだ」
「なにがこわいの」
「ともかくこわいんだ。お前もこわい」
それから吉田は餓死するまで布団から出なかった。
「オレを殺す気か出て行けえ」
2ヶ月たって離婚した。会社はとうに解雇されている。知人、親族が訪ねてきても、ものすごい恐怖にかられて、狂ったように暴れる。だれも手がつけられなくなった。
「こわい」「こわい」「こわい」「こわい」「こわい」
吉田は、ただただ恐怖を感じながら死んでいった。
「そいつ」が吉田から離れた。六つに分かれた。
首を吊った女子高生の足もとには遺書があった。こう書かれていた。
「さみしい。さみしい。さみしい。さみしい」
「そいつ」は世界中に拡散した。恐怖と寂寥と憎悪と後悔と無念に包まれて人類は終わった。
むしゃむしゃと生命をむさぼって、己の命をながらえる。そして子孫を残す。この星の生命はこうやって増えていった。そして、己の命を維持すること以外で、他の生命の命を奪う生命が、この星に産まれた。
銃弾が額に当たった。その銃弾は後頭部から出て行った。額には小さな穴が開いたが、出口の後頭部は大きな穴が開いた。銃弾が脳と頭蓋骨の後ろ半分を空中にぶちまけた。その刹那、「それ」が産まれた。「それ」は憎しみ、悲しみ、後悔、恐怖、くやしさ、無念、人間の持つ全ての負の感情がひとかたまりになったものだ。最前線のその兵士は死ぬ直前に「それ」を吐き出した。
「それ」は上空に昇った。この星の上空には「それ」がかたまっている。かたまった「それ」は「意識」を持って「そいつ」になった。
飲みすぎ。あきらかに酒井はそういう状態だった。さっきから尿意をもよおしている。さっき3件目のスナックで小便してきたばかりなのに。男もこれぐらいの年になると前立腺が肥大するのだ。もう少し行くと駅だ。そこまでがまんできそうにない。そこで立ち小便しよう。
その手の本やDVDの店の看板の陰に立って、ぞろりと一物を出して放尿した。
「うん、あれにしよう」「そいつ」は地上に到達した。
小便はなかなか止まらない。ブルッとふるえた。冬に小便をすると、よくそういう現象が起きるが、今は夏だ。不思議だ。と思った、と、ある感情が自分の中で生まれた。薄い乳白色のもやの一点に真っ黒い雲がわいた。その真夜中のような黒い雲は、たちまちのうちに、酒井の感情のすべてを塗りつぶした。真っ黒い雲。男は自分自身がどういう感情に囚われているのか、最初は判らなかった。突然、その感情が何なのかわかった。怒り。ものすごい怒り。何に対しての怒りなのか判らない。ともかく、身体が爆発するほどを怒りが自分自身の中に充満している。
店の中から男が出てきた。
「こら、どこで小便しとんねん」
酒井は爆発した。看板を持って振り上げた。台座のコンクリートもふくめると30キロぐらいだろう。台座の部分で、店の男の頭を強打した。台座の角が店の男の脳天にまともに当たった。すいか割りのすいかのようにパックリと割れた。周囲に血が飛び散り、割れ目からどろりと脳漿がこぼれ落ちた。
酒井はふと気がついた。どすん。手に持っていた看板を落とした。こんな重いものをオレはなぜ持っていたんだ。全身が真っ赤になっていることに気がついた。なんだこの赤は。生臭いにおいがする。足元をみると原型をとどめない頭部の男が倒れている。
「そいつ」が酒井から離れた。三つに分かれた。
「今夜は接待なんだ。遅くなる」
吉田は妻にそういって家を出た。家のすぐ前がバス停だ。そこからバスに乗って私鉄の駅まで行く。通勤時間2時間。こんな不便な所の、こんな小さなマイホーム。自分の家を持てただけでも良しとするか。
バスを待つ。停留所のメンバーはいつも同じだ。朝のうちだけでも少し涼しくなった。ゾクッ。吉田は突然寒気を感じた。夏風邪でもひいたか。
ガタガタ震えだした。夏なのに氷点下の外気にさらされているようだ。歯がカチカチなり、ヒザがガクガクする。とても立っていられない。その場にしゃがみこむ。
「あなた、どうしたの」隣の主人の肩にぶら下がって吉田が帰ってきた。顔が真っ青。「奥さん、急病らしいんです。私はバスに遅れるので、これで」
「熱はないみたい。杉原先生に往診お願いするわ」
杉原医師は首を傾げながら帰った。吉田は健康そのもの。身体中どこも異変はない。真夏なのに布団をひっかぶって寝ていた吉田が首だけ出してポツンといった。
「こわいんだ」
「なにがこわいの」
「ともかくこわいんだ。お前もこわい」
それから吉田は餓死するまで布団から出なかった。
「オレを殺す気か出て行けえ」
2ヶ月たって離婚した。会社はとうに解雇されている。知人、親族が訪ねてきても、ものすごい恐怖にかられて、狂ったように暴れる。だれも手がつけられなくなった。
「こわい」「こわい」「こわい」「こわい」「こわい」
吉田は、ただただ恐怖を感じながら死んでいった。
「そいつ」が吉田から離れた。六つに分かれた。
首を吊った女子高生の足もとには遺書があった。こう書かれていた。
「さみしい。さみしい。さみしい。さみしい」
「そいつ」は世界中に拡散した。恐怖と寂寥と憎悪と後悔と無念に包まれて人類は終わった。
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虎の首風雲録

類似書 筒井康隆「馬の首風雲録」
暗黒星雲中にむらがる六つの惑星。虎の首星域は戦乱に包まれていた。暑い真夏、上下真っ赤な軍服に身を包んだカップ共和国軍と交戦状態になった、ハンシン国軍は、超兵器マエケンの猛威の前に手も足も出ず、あえなく敗戦。
非情な戦争は行商人の老婆「ワダ婆さん」の宝、三人の息子をも奪った。長男トリーこそ一矢を報いたが、次男マトン三男ゴメはなすすべなく戦死。そして虎の首星域の戦乱は拡大の一途をとげるばかりであった。
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京都市営地下鉄 丸太町

京都市営地下鉄丸太町の駅である。かっては月に一度は必ずこの駅で降りていた。降りる専門である。この駅から乗ったことはない。
昔は、星群の例会は京都の府立勤労会館でやっていた。今は、府立総合社会福祉会館という建物になっているが、昔は府立勤労会館だった。丸太町の駅を降りてすぐ前が、その勤労会館だ。
大昔は遅いエレベーターに乗って和室へ行った。そこで例会をやっていた。そのうち会員数が増えて、和室じゃ手狭になった。そこで勤労快会館で最も大きな会議室第9会議室を借りて例会をやるようになった。第9会議室は、会館の入り口を入った所にある専用階段を上がったところだった。多い時には20人以上のメンバーが、この第9会議室に集まっていた。そこには10代の少女だった菅浩江や三村美衣も居た。
この勤労会館第9会議室での例会を終わると、烏丸御池の「アインス」という喫茶店で2次会。そこから河原町までぶらぶら歩いて移動。河原町の居酒屋で3次会。それからスナックで4次会。夏なら鴨川の床で飲むこともあった。
で、しこたま京都で飲んで食って、阪急四条河原町から阪急電車で神戸に帰った。梅田でコケて5次会ということもあった。だから、この丸太町の駅は降りるの専用で、ここから乗ったことはなかった。1次会だけで帰ることはなかったからだ。
小生が星群に入会した当時は、京都に地下鉄はなかった。そのころは、烏丸まで阪急で来て、そこからバスで丸太町まで行っていた。烏丸から丸太町までのバスでは、これから楽しい例会というんで、ワクワクしてうれしかったなあ。
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