shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

The Real Me / The Who

2011-06-29 | Rolling Stones / The Who
 私はザ・フーは大好きだがロック・オペラはどうも苦手である。「ア・クイック・ワン」や「ラエル」のように1曲だけならまだいいが、1枚丸ごとオペラ形式のコンセプト・アルバムとなると正直しんどい。だからアメリカで大ヒットしたアルバム「トミー」は一応CDで持ってはいるものの滅多に聴かない。コンセプト・アルバムというタガがはめられたせいか、私がザ・フーに求める野放図なエネルギーの爆発が希薄なのだ。そもそも何でロックにオペラなどというクラシックもどきの要素を取り入れにゃならんのか理解に苦しむ。私がザ・フーに求めているのは一にも二にも “ロックの初期衝動” であって、 “アタマで考えて精緻に作り込まれた音楽” というのはザ・フーには似合わない。
 そういう意味では世評の高いロック・オペラ第2弾アルバム「クアドロフェニア」も私的にはビミョーである。まぁ「トミー」よりは数段マシだが、それでも「フーズ・ネクスト」を聴いた耳にはイマイチ物足りない。もちろん曲単体ではめっちゃ気に入ってるものもあるし、随所に顔を覗かせる演奏技術の高さはさすがザ・フーと言えるものなのだが、アルバムとして考えた場合どうしてもロック・オペラ的な(というか映画のサントラっぽい...)構成がしんどくて、この2枚組を丸ごと通して聴く気にはなれないのだ。1枚に絞り込んで普通のロック・アルバムとして出ていたら愛聴盤になったかもしれないが...(>_<) 結局いつも好きな曲を何曲かだけ “つまみ聴き” しているのが現状だ。
 そんな中でも特に「ザ・リアル・ミー」はザ・フー名曲トップ10に入れたいぐらいの愛聴曲。ウネウネと上昇下降を繰り返しながら凄まじいグルーヴを生み出すジョン・エントウィッスルのリード・ベースが圧巻(←これホンマに凄いです...)で、信じられないような手捌きで縦横無尽に暴れ回るキース・ムーンの爆裂ドラムとの絡みがめちゃくちゃスリリング! この曲だけは何としてもアナログの良い音で聴きたいと考えた私は eBay でシングル盤を狙うことにした。
 いざ検索してみるとUS盤とフランス盤が5アイテムほど出てきたのだが(← UK ではシングル・カットされてない)、その中に何とステレオとモノラルが片面ずつに入った US盤プロモ・シングルがあった。1973年にモノラルって??? 一般的に言うと、モノラル・ミックスが作られていたのは1969年頃までで、ビートルズでいうと「ホワイト・アルバム」、ストーンズでは「レット・イット・ブリード」あたりまでということになり、それ以降はステレオ・オンリーになっていくのだが、1973年という時期を考えればザ・フーのこのモノ・ミックスにはめちゃくちゃ興味をそそられる。
 というのも私が持っているゼッペリンの「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ / コミュニケイション・ブレイクダウン」の USシングルがモノラルで(←ゼップのモノラル・ミックスってめっちゃレア。ブラジル盤とかでは色々ありそうだが...笑)、それがもうエゲツナイぐらいのド迫力サウンドだったからだ。ゴリゴリ度ではゼップに引けを取らないザ・フーのこと、しかもこの「ザ・リアル・ミー」もバリバリの疾走系ロック・チューンなので、是非ともモノラルのガツン!とくるサウンドで聴いてみたい。幸いなことに BUY IT NOW で $9.75 だったので即ゲット、送料を入れても1,200円という超お買い得価格である。
 それからちょうど1週間ほどしてアメリカからブツが届いた。ワクワクしながらオルトフォンのモノ針を落とす。このモノ・ミックスはプロモ盤オンリーで通常盤には入っていないレア音源なのだが、耳に馴染んだ CD ヴァージョンよりもヴォーカルが前面にグイグイ出てくる感じ。ジョンの超絶ベース・プレイをクリアな音で楽しむならステレオに限るが、スピーカーから迸り出るエネルギーの奔流を味わうなら断然このモノ・ヴァージョンだろう。しかも “Can you see the real me me me me...” とヴォーカルをリピートしながらスパッと断ち切るように終わるアルバム・ヴァージョンとも普通に演奏が終わるサントラ盤ヴァージョンともエンディングの処理の仕方が違っていて、こちらは演奏がフェード・アウトしていく。コース料理ではその食事全体の印象は最後に出てくるデザートの一皿で決まると言われるが、曲のエンディングもほんのちょっとした違いで全体の印象が変わるから面白い。私の場合、このようにミックス違いで楽しませてくれるのはビートルズとザ・フーぐらいだ。
 せっかくなので YouTube にアップして聴き比べてもらおうと思ったのだが、心の広い UMG さん(笑)の妨害で動画がブロックされてしまい断念。しゃあないので趣向を変えて1996年ハイド・パークでのリユニオン・ライヴ(←ピートが難聴でアコギ弾いてた時のヤツ)と、トリビュート・バンド(←めっちゃ似ててワロタ...)がこの曲を演ってる動画を貼っときます。

The Who - The Real Me


The WHO -The Real Me w/bass WCSX by LIVE THE WHO Tribute

誰にも見えない、匂いもない 2011 / ランキン・タクシー & ダブアイヌバンド

2011-06-26 | J-Rock/Pop
 昨日サムから “デイヴがこんなん見つけたけど、どうよ(^.^)” というメールをもらった。それがこの「誰にも見えない、匂いもない 2011」(by ランキン・タクシー & ダブアイヌバンド)というメッセージ・ソングで、福島の原発事故発生以降私がずーっと感じていたモヤモヤ感を吹き飛ばしてくれるような痛快な歌詞に大いに共感、早速このブログでも紹介することにした。
 私は日本のレゲエ・シーンに疎いのでこのランキン・タクシーという人のことは名前すら知らなかった。色々調べてみたところ、この曲はチェルノブイリ事故を受けて1989年に彼が発表した反原発ソングがオリジナルで、今回の事故の直後にダブアイヌバンドの Oki という人がこの曲を再プロデュースしてリメイク・ヴァージョンを作ろうと思い立ち、ランキン・タクシーに連絡を取ってこのプロジェクトがスタートしたという。
 このニュー・ヴァージョンは今回の事故に合わせて原曲の歌詞を一部書き換えたもの(←チェルノブイリの描写が “まだ警戒区域” から “今じゃゴーストタウン” にアップデートされてる...)だが、ランキンのヴォーカルはオリジナル・ヴァージョンよりも更に説得力を増しているし、バックのサウンドもパワーアップされていて、聴く者に強烈なインパクトを与える完成度の高いメッセージ・ソングに仕上がっている。プロモ・ビデオもよく出来ていて、ブラック・ユーモアに満ちたこの曲の世界観を見事に表現している。それにしても原曲で歌われていたシュールな内容の歌詞がまさか現実のモノになろうとは...(>_<) 
 この歌は反原発メッセージ・ソングなのでまず歌詞ありきなのだが、後半部で「Old McDonald Had A Farm(ゆかいな牧場)」のフレーズである “イヤイヤヨ~♪” を織り込むなど、楽曲としても中々巧く作ってあると思う。レゲエの単調なリズムに乗って繰り返される、一聴コミカル実はシニカルなフレーズの数々はライミングも絶妙で(←ウルトラセヴンとレベル7にはワロタ...)、気が付けば脳内リフレイン状態だ。
 それと、 “放射能ツヨイ... 誰にも負けない~♪” のフレーズを聴いて、去年の M1 で準優勝したスリムクラブが漫才ネタで “この世で一番強いのは... 放射能” とやって笑いを取っていたのを思い出したのだが、あの漫才のオチは確か “何とかならんかねぇ”---“民主党ですか?” で、場内大爆笑だった。あれから半年が経ったが、未曾有の大震災の後も無策で迷走を続ける今の日本政治のアホバカぶりにはさすがに笑っていられない。それにしてもホンマに何とかならんのかねぇ、被災地の事は二の次で我がの事しか考えられへんクサレ外道だらけの今の政府は...(*_*)
 尚、この音源は DIY STARS というサイトで投げ銭形式のファイル・ダウンロードでの配信が行われており、その収益はすべて震災の復興支援に充てられるとのことなので、興味のある方はコチラ↓をどうぞ。
http://www.diystars.net/hearts/DL0031.html

Rankin & Dub Ainu Band "You can't see it, and you can't smell it either "


【1989年のオリジナル・ヴァージョン】オバマ、サルコジ、ビヨンセ、、ペヨンジュンらが登場するニュー・ヴァージョンに対し、こちらはマイク・タイソン、ベン・ジョンソン、聖子、明菜、光源氏と、1980年代という時代を感じさせる名前が並んでます。
誰にも見えない、匂いもない / RANKIN TAXI


【おまけ】反原発ソングといえばまず思い浮かぶのがコレ。23年前にエディー・コクランのロックンロール・クラシックにこの歌詞を乗せて歌った清志郎は今の日本の危機的状況をあの世からどういう思いで見ているのだろう...
SUMMER TIME BLUES
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スリラー / ペトラ・ヘイデン

2011-06-23 | Rock & Pops (80's)
 先日、時間つぶしにレココレ(←正式名称は「レコード・コレクターズ」という、コアなマニア向けの洋楽ロック雑誌)でも見よかと本屋に入ったところ、最新号は何とキャンディーズの大特集!!! 歌謡曲のアイドルがレココレの表紙を飾るなど、私の知る限りでは今までになかったのではないか。しかも詳細なディスコグラフィーからレア音源・別ヴァージョン・別ミックスの紹介まで、いかにもレココレらしいマニアックな切り口で50ページにもわたる物凄いヴォリュームの特集が組まれており、その中身の濃さに大コーフン(^o^)丿 いつもは大量に売れ残っているレココレが発売4日後でもう1冊しか残っておらず、その最後の1冊を慌ててレジへ持っていった。帰ってネットで調べたらアマゾン他で売り切れ続出(←ファンの方はあるうちにゲットしましょう!)というからビックリ(゜o゜) 改めてロック・ファンの間でのキャンディーズ人気の凄まじさを思い知らされた感じがする今日この頃、みなさん、いかがお過ごしですか(笑)
 さて、ここからが本題である。未知のアーティストの音楽性を知るにはスタンダード・ナンバーのような有名曲のカヴァー・ヴァージョンを聴くのが一番分かりやすい。「ザ・フー・セル・アウト」のスピンオフ的展開でその存在を知ったペトラ・ヘイデン、ザ・フーのカヴァー盤がすっかり気に入った私は他の音源も聴こうと色々 YouTube で検索してみたところ、ビーチ・ボーイズの「ゴッド・オンリー・ノウズ」、ジャーニーの「ドント・ストップ・ビリーヴィン」、トム・ウエイツの「アイ・ドント・ウォナ・グロウ・アップ」といったロック・ポップス系から「ムーン・リヴァー」や「星に願いを」といったスタンダード・ナンバーに至るまで、私の期待通りに色んなカヴァーをやっていて、そのどれもが絶妙な脱力ぐあいで実にカンファタブル。女性アカペラ・コーラス隊(ザ・セルアウツという名前らしい...笑)とのコンビネーションもバッチリだ。そんな彼女の作品の中で私が一番気に入ったのがマイケル・ジャクソン「スリラー」のアカペラ・カヴァーである。今は “ザ・フー祭り” の真っ最中なのだが、マイコーの命日も近いので今日はペトラの「スリラー」をご紹介。
 私が調べた限りでは残念なことにこの音源は CD 化されておらず、ネットでフリー・ダウンロードするしかないようだ。マイケル・ジャクソンの曲は彼のオリジナルの完成度が圧倒的に高いので中々秀逸なカヴァー・ヴァージョンに出会えないのだが、このペトラのヴァージョンはアカペラということで実に新鮮な印象を与えてくれる。それでいて基本的なアレンジは原曲に忠実なので “変なことやっとるなぁ...” という違和感は全く感じられない。何よりも、ボビー・マクファーリンのような器楽的唱法を取り入れ、彼女一人で幾重にもヴォーカルをダビングしたワンマン・アカペラで原曲の持つスプーキーな雰囲気を巧く表現しているのが凄い。私的にはマイケル・ジャクソン・カヴァーの最上位に位置するヴァージョンだ。

Petra Haden


【おまけ その1】YouTube で偶然見つけて大爆笑! 2008年のスーパーボウルの時に作られた飲料水CMで、ナオミ・キャンベルとトカゲが一緒にスリラーを躍るというおバカな発想がめっちゃ好き(^o^)丿
Thrillicious 2008 SoBe Life Water Super Bowl (PubAD).wmv


【おまけ その2】iPads vs iPhones という、いかにも今の時代を感じさせるパロディ動画。ツイッターは大嫌いだが、パロディ・ネタとしては面白い。歌詞にIT用語が一杯出てきてワケわからんとこ多いけど、“Don’t go above the 140 letters max (140文字以上は打てないぜ)にはワロタ (^.^)
TWEET IT - iPads vs iPhones (Michael Jackson "Beat It" spoof)


【おまけ その3】フィリピンの刑務所で受刑者たちが踊っているのはご存じ“スリラー”と 1995 MTVビデオ・ミュージック・アウォードの時の “デンジャラス” ダンス。何かめっちゃ楽しそうな刑務所やな(笑)
CPDRC Philippines -Michael Jackson Thriller - NOV 2009

Dancing Inmates are "Dangerous"

Petra Haden Sings: The Who Sell Out

2011-06-20 | Rolling Stones / The Who
 ザ・フーのカヴァーと言えば、ヴァン・ヘイレンの「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」、ラモーンズやグレイト・ホワイトの「サブスティテュート」、スコーピオンズの「アイ・キャント・エクスプレイン」、WASPの「ザ・リアル・ミー」、シェリル・クロウの「ビハインド・ブルー・アイズ」、ピンク・クリーム69の「ピンボール・ウィザード」なんかが思い浮かぶ。中にはスミザリーンズの「トミー」のようにアルバム1枚全部ザ・フーのカヴァーなんていう凄い盤もあるが、これらのカヴァーに共通しているのはみんなザ・フーへの愛情とリスペクトに溢れているということ。ハードロック系であれ、パンク系であれ、ザ・フーが後進のロック・バンドに与えた影響はとてつもなく大きい。
 私はビートルズを筆頭に、大好きなバンドのカヴァー曲を発掘するのがライフ・ワークの一つなのだが、最近 YouTube で The Who の動画を検索していて凄いカヴァーを見つけてしまった。何と女性だけのアカペラで、初期の名盤「ザ・フー・セル・アウト」をアルバム1枚丸ごとカヴァーしているのだ。タイトルはそのものズバリ「ペトラ・ヘイデン・シングス・ザ・フー・セル・アウト」。最初ペトラ・ヘイデンという名前を聞いても “誰、この人?” という感じで全くピンとこなかったが、調べてみたら何とあのジャズ・ベーシスト、チャーリー・ヘイデンの娘ではないか。蛙の子は蛙というか、鬼才の娘は鬼才ということなのだろう。
 それにしてもアカペラだけでザ・フーのアルバムを丸ごとカヴァーするとは何とまぁおバカな企画だろう(笑) 以前このブログで取り上げた「ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン」のアカペラ盤に比肩する大胆不敵な発想だ。実際に聴いてみると、ヴォーカル・パートはもちろんのこと、各楽器のサウンドからジングルやCM、挙げ句の果てはインナーグルーヴ(←例の “Track Record, Track Record...” と延々繰り返すパート)に至るまでアカペラで再現したマニアックさといい、細部まで徹底的にパロッたユニークなアルバム・ジャケットといい、原盤を知っている者にとってはこたえられない面白さである。
 ユル~いヴォーカルでテープの逆回転を再現した①、もう笑うしかないぐらいピタリとハマッたCM曲②、美曲の随を見事に引き出したコーラス・アレンジが絶品の③⑤⑫、ヤル気のないケイト・ブッシュみたいな④、ピートが作った愛らしい旋律の美しさを再認識させてくれる⑥⑩、幾重にも重ねられたコーラス・ハーモニーで原曲のキャッチーなメロディーが浮き彫りになった⑦、肩の力を抜いてお茶でも飲みたくなるような素っトボケた味わいがたまらない⑧、このまま CM に使えそうな⑨、アカペラ曲として立派に通用する名唱⑪、キースのドラミングまでアカペラで表現した驚異の⑬、パロディー盤はこうでなくっちゃと言いたくなるような最後っ屁⑭と、約40分にわたって女性だけのアカペラによるポップな “アメイジング・ジャーニー” が楽しめる。この CD は曲単位でつまみ聴きするのではなく、1枚丸ごと一気呵成に聴くとその素晴らしさが分かる仕掛けになっている。
 ザ・フーの全アルバム中、最もポップな味わいの「セル・アウト」からメロディーの美しさを抽出して濃縮還元したようなこのアルバムは初めて聴いて一発で気に入り、今ではドライヴの BGM としてもヘビロテ状態の超愛聴盤だ。ザ・フーのオリジナル・ヴァージョンをご存じの方にとってはニヤリと笑えるような仕掛けが満載の超オススメ盤だが、たとえ出自を知らなくても明るく楽しいアカペラ盤として十分通用するクオリティーの高さを持った大傑作ポップ・アルバムだと思う。尚、“リクエストによる埋め込み無効” ということで貼り付けられなかったが、2005年7月にロスで行われたプレミア・ライヴでの「アイ・キャン・シー・フォー・マイルズ」のパフォーマンスが YouTube にアップされていたので “アカペラで聴くザ・フー” に興味のある方はこちらをご覧下さい。

petra haden sings the who sell out - armenia city in the sky

Petra Haden sings the who sell out - heinz baked beans

Petra Haden sings the who sell out - mary anne with her shaky hands

petra haden sings the who sell out - tatoo

petra haden sings the who sell out - sunrise

petra haden sings the who sell out - rael

The Concert For New York City DVD / The Who 他

2011-06-17 | Rolling Stones / The Who
 ザ・フーの真骨頂は聴く者の魂を揺さぶるようなそのライヴ・パフォーマンスにある。そんな彼らのライヴの成否の鍵を握っていたのはドラマーのキース・ムーンだった。ピートがインタビューで “ジョンのベースがリード楽器で自分はリズム・キープ、キースのドラムがオーケストラだ。” と語っていたが、ザ・フー・サウンドの要であるキースが絶好調だった1970年前後あたりがライヴ・バンドとしてのザ・フーの全盛期であり、「ウッドストック」、「ワイト島」、「ロンドン・コロシアム」、「リーズ大学」など、名演が目白押しだ。逆に「キルバーン」(1977)なんかは死兆星を見てしまったキースの不調が響いたのかバンド(特にピート)のテンションが下がってしまっているように感じられる。まぁそれでも凡百のロック・バンドよりは遙かに演奏のレベルが高く、見ていてついつい引き込まれてしまうのがザ・フーの凄いところなのだが...
 キースの死後に2代目ドラマーとなったのは元スモール・フェイセズのケニー・ジョーンズ。彼のプレイはとても正確でスピード感もあり決して悪いドラマーではないと思うのだが、残念なことにザ・フーには合わなかった。ドラマーが変わったことによってザ・フーをザ・フーたらしめていた野性味が消えてしまったのだ。ちょうどドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズからジミー・コブに変わって地味になったマイルス・デイヴィス・クインテットのようなモンである。このあたりの違いはキース時代の「アット・リーズ」(1970)とケニー時代の「フーズ・ラスト」(1982)とを聴き比べれば一聴瞭然だが、とにかくザ・フーのあの唯一無比のサウンドはキースの手数の多いドラミングが生み出すうねるようなグルーヴがあって初めて成立する類のものだということを痛感させられる。だから不本意ではあるが “キース抜きでザ・フー・サウンドの復活はありえない” と諦めざるを得なかった。
 ところがそんな私の考えを木っ端微塵に打ち砕いたのが、キース・ムーンにドラムを教わったというザック・スターキー、何を隠そうあのリンゴ・スターの息子である。いくらリンゴの血を受け継いでいても、いくらキースの愛弟子だといっても、ザ・フーのドラマーの重責を果たすのは正直キツイんちゃうかと思っていたが、初めてザック入りザ・フーの演奏を聴いた時、まるで墓場からキースがよみがえってきたかのようなそのエモーショナルでダイナミックなプレイに圧倒された。今ではザック入りのザ・フーはどれもこれも大好きだが、中でも私が一番気に入っているのがこの「コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ」である。
 これは9・11テロで殉職した消防士や警察官の遺族のために2001年10月20日にニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで行われたチャリティー・コンサートのライヴDVDで、ポール・マッカートニーの呼びかけでミック・ジャガー&キース・リチャード、エリック・クラプトン、デビッド・ボウイ、ビリー・ジョエル、ボンジョヴィといった錚々たる顔ぶれが集結したのだが、そんな中で圧倒的に素晴らしいライヴ・パフォーマンスで “全部持って行った” 感がある(←英語で steal the show というらしい...)のがザ・フーである。
 このコンサートで彼らが演奏したのは4曲。まずはキャッチーな「フー・アー・ユー」、背後からガンガンとプッシュしまくるザックの躍動感あふれるドラミングを得て生き返ったかのようなピートの豪快な風車奏法全開でMSGはコーフンのるつぼと化す(3分48秒)。マネージャーに “長年ザ・フーを見守ってきたがあんな凄いステージは初めてだ...” と言わしめたこの超絶パフォーマンスの立役者は間違いなくザックだろう。下に全曲貼り付けておいたので、ザックのスリリングなプレイに注目してご覧下さい。
 2曲目は「ババ・オライリー」、オーディエンスの大合唱が起こるところなんか見ていて熱いモノがこみあげてくるが、この曲でもザックのドライヴ感溢れるドラミングが音楽を前へ前へと押し進めていく様が圧巻だ。3曲目は「ビハインド・ブルー・アイズ」、曲の半ばでスロー・パートからテンポ・チェンジするところでマイクをブンブン回しているロジャーにピートが体当たりし、ロジャーが嬉しそうな表情でよろめくシーン(2分55秒)がたまらなく好きだ。
 ピートの We are honored to be here. (この舞台に立てて光栄だ)という言葉に続いてラスト曲はもうコレしかない「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」、バックのスクリーンには星条旗に挟まれたユニオンジャックが誇らしげに映し出されている。会場の盛り上がりは最高潮だ。キースの魂が乗り移ったかのように全身全霊でドラムを叩き続けるザック、あんまり画面に映らへんけど黙々とリード・ベースを弾き続けるジョン(←例のガイコツのジャンプ・スーツ着てたらもっと映ったかも... 笑)、そして出たッ!!! ピートとロジャーのシンクロナイズド風車(4分47秒)、まさにライヴの鬼、ザ・フー完全復活である。ステージ右脇のTVカメラを持ったスタッフが曲に合わせて大声で歌いながら撮影(5分38秒)してるのには大笑い(^.^) バックのスクリーンに映るのは自由の女神の向こうにそびえ立つツインタワーだ。ニクイなぁ、この演出。
 そしてシンセの長~い間奏で “くるぞくるぞ...” と緊張感を目一杯高めておいて一気に キタ━━━(゜∀゜)━━━!!! という感じで炸裂するザックのドラム連打にロジャーのシャウト... これこそまさにこのコンサートのハイライト! もうカッコ良すぎて言葉が出ない(≧▽≦)  客席のシェリル・クロウもノリノリだ(8分30秒)。とにかくロック・ファンでいてホンマに良かったなぁと思わせてくれる怒涛のエンディングで、コブシを突き上げて総立ちのオーディエンスの姿が全てを雄弁に物語っている。 “やったぜ!”という感じで肩を組むピートとロジャーの姿にはファンとして感無量のモノがあるが、二人ともとても60歳前のオッサンとは思えないカッコ良さだ。ただ、最後のロジャーの言葉 “We could never follow what you did.” の日本語字幕が “過ちを繰り返すなよ” という意味不明のアホバカ訳だったのには呆れてモノも言えない。何で人々のために頑張った人達の行いが “過ち” やねん! ここは “君たちの勇敢な行為は俺たちにはとてもマネのできないことさ” とでも訳さないとその後に湧き起った大歓声の説明が付かないだろう。「キッズ・アー・オールライト」の時にも書いたが、日本盤 DVD の字幕の酷さには目を覆いたくなる。よぉこんなんで金取るわ(>_<)
 理不尽なテロにより失意のどん底に突き落とされた人々に夢と希望を与えたザ・フーの力強いロックンロール、私はこの DVD を見て音楽の持つ底知れぬパワーを実感させられた。Long Live Rock!!!

The Who-Who Are You@Concert For New York City 1/4


The Who-Baba O'Riley@Concert For New York City 2/4


The Who-Behind Blue Eyes@Concert For New York City 3/4


THE WHO " Won't Get Fooled Again" Concert For NYC 10-20-2001
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The Who Sell Out

2011-06-14 | Rolling Stones / The Who
 今日はザ・フーの 3rd アルバム「ザ・フー・セル・アウト」である。 Reactionレーベルの活動停止もあって、このアルバムは彼らのマネージャーであるキット・ランバートとクリス・スタンプが設立した Track Record から、ジミヘンの「アー・ユー・エクスペリエンスト」に続く同レーベル第2弾として発売された。前2作はイギリスではモノラル盤のみのリリースだったが、このアルバムはモノラルとステレオの2種類でのリリースだ。
 ただ、この「ザ・フー・セル・アウト」の UK ステレオ・1stプレス盤は音がかなり悪いらしいので要注意。 Steve Hoffman Music Forums という海外マニアの情報交換サイトの “Who Sell Out --- best vinyl & CD versions” によると、このレコードはUK モノラル盤がベストだが、ステレオ盤に関して言えば、US Decca の1st プレスが一番良いとのこと。UK ステレオ盤では1st プレスよりも1970年に Back Track と題してオレンジ色のジャケットでリイシューされた 2nd プレスの方が音は良いらしい。ステレオ嫌いの私は最初からUKモノラル盤狙いなので問題なかったが、ただでさえ希少な盤なのにそういう事情もあってかビッドが集中し、結局£37.00で落札と相成った。盤もジャケットも EX コンディションのピカピカ盤だ(^.^)
 ピートによるとこの「ザ・フー・セル・アウト」はイギリスのロックンロール・シーンを形成した立役者とでも言うべき海賊ラジオ局(←民法ラジオ局がなくBBCの独占状態だったイギリスに向けて公海上に停泊した船からロックンロールをガンガン流した)へのトリビュートということで、曲間のブリッジにラジオ・ジングルを入れたり CM を入れたりすることによって、海賊ラジオ局の雰囲気を出したかったのだという。一言で言えば架空のラジオ局仕立てのコンセプト・アルバムで、中身の音楽の方でもジャケットでメンバーが宣伝している製品を扱った曲がいくつか含まれており、A②「ハインツ・ベイクト・ビーンズ」(ロジャーが浴槽で浸かってる豆の缶詰)やB②「メダック」(キースが顔に塗ってるクリーム)のようにもろにCMソングをやっている独立したトラックもあれば、A④「オドロノ(ピートが腋の下にしてる体臭防止スプレー)」のように歌詞の中に商品名を入れたり、A⑦のエンディングに「チャールズ・アトラス」(ジョンが宣伝してるボディー・ビル・コース)の短いCMを入れたりと、中々凝った作りになっている。
 面白かったのはビートルズの「サージェント・ペパーズ」を真似たのか、B面内周のインナーグルーヴに “Track Record, Track Record...” と延々繰り返す音溝が彫ってあったこと。私はこういうユーモアのセンスが大好きなので最後の最後でやってくれるわ!と喜んだものだが、CDでは何故かボートラのラスト曲「グロウ・ガール」のエンディング部分で20秒ほどコレが繰り返されている。とにかく “レコード上で広告スペースを売る” というコンセプトに則って自分のレコード会社の宣伝を入れるあたり、さすがはザ・フーである。
 個々の曲では何と言ってもA⑦「アイ・キャン・シー・フォー・マイルズ」(邦題:「恋のマジック・アイ」)に尽きる。ザ・フーに名曲名演数あれど、これほどキャッチーでありながらラウドでハードにロックンロールしている曲があるだろうか。ピートが “絶対に売れる!” と自信を持って発表したシングルだったが、英では10位、米でも9位(←それでもザ・フー唯一の全米トップ10入りシングルなんよね...)止まり。何でコレが1位にならへんねん!と怒りたくなるようなカッコ良いロックンロールだ。
 この曲はポールが「ヘルター・スケルター」を書くきっかけとなったことでも有名だが、初めてこの曲をCDのステレオ・ミックスで聴いた時はそれほどヘヴィーだとは感じなかった。不思議に思ってネットで色々調べてみたところ、Hypertext Who というサイトに the mono version makes the stereo sound like The Carpenters(モノ・ヴァージョンを聴いたらステレオ・ヴァージョンなんてカーペンターズに聞こえるぜ)という一文があり(笑)、早速 eBay で検索、取りあえず手に入れやすそうなシングル盤を狙うことにした。今時ザ・フーのシングルなんて誰も来ぇへんやろとタカをくくっていたら5人もビッドがあってビックリ(゜o゜) 何とか£6.75で逃げ切ったが、改めてザ・フー人気の高さを思い知らされた。
 その後入手したこのモノラル・アルバム・ヴァージョンもかなりヘヴィーだったが、UK シングル・ヴァージョンは更にジョンのベースをオーヴァーダブしたスーパー・ウルトラ・ド迫力なサウンドで、ミックスひとつでこうも印象が違うものかと驚かされた。地響きを立てて怒涛の勢いで押し寄せるジョンのベース、狂気さえ感じさせるキースのドラミングと、凄まじいまでの荒々しさを堪能できて大満足(^o^)丿 血湧き肉躍るとはまさにこのことだ。このシングル・ヴァージョンを聴いて「ヘルター・スケルター」の一件は大いに納得がいった。この曲の素晴らしさについてはいくら書いても足りないくらいだが、先に進まなくてはいけない。
 A①「アルメニア・シティ・イン・ザ・スカイ」はヴォーカルの電気処理といいテープの逆回転を多用したサウンドといい、ビートルズの「リヴォルヴァー」の影響が強く感じられるサイケなナンバー。ジョン・キーンというピートの友人の作ということだが、歌詞もドラッグでトリップしているような内容で、アルバムのオープニング・ナンバーとしてのインパクトは抜群だし、曲の前後に入れられた “Monday, Tuesday, Wednesday...♪” や “Wonderful Radio London~♪”(←実在した海賊ラジオ局)といったジングルもチープな雰囲気を醸し出していて面白い。
 ザ・フーというと荒々しいロック・バンドというイメージが先行しがちだが、彼らのアルバムには時々ハッとさせられるような美しいメロディーを持った曲が隠れている。このA③「メアリー・アン・ウィズ・ザ・シェイキー・ハンド」なんかその典型で、めちゃくちゃポップでメロディアス、爽やかさ横溢のフォーキーなナンバーだ。(←歌詞の内容は爽やかとは程遠い下ネタやけど...笑) この曲にはアルバムに収録された “アコースティック・ヴァージョン”(←shakyに引っ掛けてエンディングで音を震わせるサウンド・エフェクトが面白い)の他にもA⑦のUSシングルB面に採用された “エレクトリック・ヴァージョン”(←US盤ではタイトル表記が hands になってる)やアル・クーパーのハモンド・オルガンを大きくフィーチャーした “グルーヴィー・ヴァージョン”(←コレ結構好き!)があり、それぞれ味があって甲乙付け難い出来なので、アレコレ聴き比べて楽しむのもいいかもしれない。
 このアルバムは他にもピートが刻むギターのリズムが妙に耳に残るA④「オドロノ」、美しいコーラス・ハーモニーに息をのむA⑤「タトゥー」、ビーチ・ボーイズ風でありながらキースの爆裂ドラム一発でザ・フー色に染め上げたA⑥「アワ・ラヴ・ワズ」、ピートがササッと書いたようなさりげないポップ・ソングB①「アイ・キャンと・リーチ・ユー」、ピートの奏でるアコギの美メロに心奪われるB⑤「サンライズ」、イントロのコーラスからいきなり BB5節を炸裂させ後半では「スパークス」のリフまで登場するミニ・オペラ第2弾B⑥「ラエル」と、聴き所満載だ。中でもジョン作のB④「サイラス・スティンジー」は “どこかで聞いたことがあるような気がするのに中々思い出せない” 類のマイナー調のメロディーがめっちゃ気に入っている。
 ザ・フーのアルバムの中では異色とも言えるポップな内容のこのアルバム、 “ハードなザ・フーはちょっとしんどいな...” というカタギのポップス・ファンに超オススメの、ライトでポップ感覚溢れる楽しいザ・フー盤だ。

The WHO - I Can See For Miles (1968)


The Who - Armenia City in the Sky


{alt version} Mary Anne With The Shaky Hand ~ The Who (1967)


Silas Stingy
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A Quick One / The Who

2011-06-11 | Rolling Stones / The Who
 ザ・フーのデビュー・アルバム「マイ・ジェネレイション」はアメリカではDecca 、イギリスでは Decca 傘下の Brunswick レーベルから発売されたが、レコーディング等すべてが管理される状況に嫌気がさした彼らはプロデューサー、シェル・タルミーとの契約を破棄し、クリームのマネージャーであるロバート・スティグウッド(クラプトン関係のリイシュー盤でよく見かける赤べこ・マークのRSO は Robert Stigwood Organization の略ですね)が興したインディ・レーベル Reaction へと移籍した。
 この Reaction というレーベルは1966~67年のわずか2年弱という短命だったこともあってLPはわずか3枚しかリリースしていないのだが、その3枚というのがクリームの1st「フレッシュ・クリーム」、2nd「ディスラエリ・ギアーズ」そしてこのザ・フーの 2nd アルバム「ア・クイック・ワン」というのだから恐れ入る。ウエスト・コースト・ジャズ・ファンにとっての “タンパ” や “イントロ” と同様に、ブリティッシュ・ロックのオリジ盤マニアにとってはまさに垂涎モノの “幻のレーベル” なのであり、私なんかあの濃いブルーのセンター・レーベルを見ただけでコーフンしてしまう。
 マニア垂涎の希少レーベルだけあってこのアルバムのアナログ・オリジ盤落札競争は熾烈を極め、私は何度も競り負けた挙句、状態の良さそうな VG コンディションの盤を£23.50でゲット。 with just some light superficial surface marks (ちょっと表面的な擦れがあるだけ)という説明通りのキレイな盤で実際のプレイ・グレードはほぼNM 、「マイ・ジェネレイション」の時と同様に安く買えて大ラッキーである(^o^)丿 ザ・フーの初期盤3枚は EX や NM の盤を買おうとするとどうしても購入価格が1桁高くなってしまうので、VG 表記で状態の良さそうな盤が狙い目だ。
 1966年にリリースされたこの「ア・クイック・ワン」は有名なヒット曲が入っていないせいか世間一般の認知度は低く、バンドが新しい方向性を模索していた時期の過渡期的な作品ということもあってファンの間でもついつい見過ごされがちなアルバムなのだが、私はA①「ラン・ラン・ラン」がめちゃくちゃ好きなので、この1曲のためだけにでも買う価値があると信じている。この曲は疾走感溢れるストレートなロックンロールで、「マイ・ジェネ」に通じるようなアタック音の強さは天下一品! ジャカジャカジャ~ンとかき鳴らす感じのピートのギターは超カッコイイし、ビートリィなコーラス・ハーモニーも絶妙な味わいを醸し出しており、何でこの曲をシングル・カットしなかったのか不思議なくらいの名曲名演だ。特にロジャーの辛口ヴォーカルはどこかジョン・レノンを彷彿とさせるところがあって、ビートルズ・ファンなら一発で気に入るのではないか。「ラバー・ソウル」あたりに入っててもおかしくないようなスーパー・ウルトラ・キラー・チューンである。
 B③「ソー・サッド・アバウト・アス」はホリーズあたりが歌えばぴったりハマりそうなメロディアスなナンバーだが、「キッズ・アー・オールライト」の流れを汲むキャッチーなこの曲をキースのパワフルなドラミングで凡百のビート・ポップスとは激しく一線を画す作品に仕上げているところがザ・フーらしい。 “曲は甘く、演奏は辛く” という理想的なパターンだ。
 9分を超えるタイトル曲のB④「ア・クイック・ワン、ホワイル・ヒーズ・アウェイ」は、「ハー・マンズ・ゴーン」「クライング・タウン」「ウィー・ハヴ・ア・レメディ」「アイヴァー・ザ・エンジン・ドライバー」「スーン・ビー・ホーム」「ユー・アー・フォーギヴン」という6つの異なったパートから成る組曲風の作品で、ピートの言葉を借りると “ミニ・オペラ” ということになるのだが、これが後にロック・オペラ「トミー」へと発展していったことを考えればバンドにとっては非常に重要な1曲と言える。確かにビートルズも「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」でこの手法を用いているし、70年代のプログレではもう当たり前田のクラッカーだ。そういう意味では時代を先取りしていたとも言えるが、ピートがインタビューで語ったところによると、アルバムを作っていた時に最後の10分だけ空きが出来てしまい、プロデューサーに “他の曲と関連性のある10分間の大作を書いてぇな” と言われ “ロックは昔から2分50秒に決まっとるやん。そんなん無理や!”とピートが答えると “ほんなら2分50秒の曲を集めて10分の曲を作ったらエエがな” という経緯でこの曲が出来たという。こういう偶然が必然になってしまうところがスーパー・グループたる所以だろう。ただ、このスタジオ・ヴァージョンはやや大人し目なので、ストーンズを喰った「ロックンロール・サーカス」やジミヘンの機制を制した「モンタレー・ポップ・フェス」でのスリリングなライヴ演奏が超オススメだ。尚、タイトルの意味は “旦那の留守を狙った短い情事” ということらしく、そのせいか Decca は曲を一部差し替えて US盤のアルバム・タイトルを「ハッピー・ジャック」に変えて発売したという。
 このアルバムではザ・フーのメンバー全員がコンポーザーとしてオリジナル曲を提供しているのだが、コレは 1st アルバムの印税の大半をシェル・タルミーに搾取され、更にステージで楽器を壊しまくって超金欠状態だった彼らが “一人2曲ずつ曲を書いたら印税を前払いする” という音楽出版社との契約に飛びついたため(←ロジャーは1曲しか書いてへんけど...)と言われている。確かにお金が無くて大変だったというのは本当らしく、このレコーディングも予算不足でチェロが使えずB④のラスト・セクション「ユー・アー・フォーギヴン」のアタマの部分で本物のチェロの代わりに “チェロチェロチェロチェロ..♪”と口でコーラスしたという笑うに笑えないようなエピソードもある。
 ということでピート以外のメンバーが書いた曲ではキースのA③「アイ・ニード・ユー」がエエ感じ。日本の GS みたいなマイナー・メロディーといい、絶妙な味を出しているハープシコードのアレンジといい、キース・ムーンの隠れた才能を見る思いがする。後のライヴで定番になったジョンのA②「ボリス・ザ・スパイダー」(←邦題の「ボリスのくも野郎」にはワロタ...)も不気味な雰囲気が出ていて中々面白い1曲。A⑤「ヒート・ウエイヴ」はアルバム中唯一のカヴァー曲だが、このトラックだけ時計の針を逆戻りさせたような感じがして全体の流れの中で何となく浮いているように思える。この曲はリンロン・ヴァージョンが一番好きだ。
 「イエロー・サブマリン」のアニメを手掛けたイラストレーター、アラン・オルドリッジによるポップ・アートなジャケットがユニークなこのアルバム、ロック史に残る大名盤とは言えないかもしれないが、ザ・フーのファンが目を細めて聴き入る愛すべき1枚だと思う。

Run Run Run - The Who


The Who So Sad About Us


The Who - I Need You


A Quick One, The Who @ Monterey Pop

My Generation / The Who (Pt. 2)

2011-06-08 | Rolling Stones / The Who
 私は喜び勇んで自室へと駆け上がってアンプのスイッチを入れ、盤をターンテーブルに乗せた。針を落とす瞬間の何とも言えない緊張感、十分許容範囲内のサーフェス・ノイズ、そしてモノラル特有の音の塊がダンゴ状態でスピーカーから物凄い勢いで飛び出してきた時の天にも昇る心地良さ... やっぱり50~60年代の音源はアナログ、それも絶対にモノラル盤に限ると思う。これはあくまでも私個人の好みなのだが、音場的に広がった音ではなくゴリッとした密度の濃い音に、ツルツルスベスベではなく野太くザラついた音にリアリティを感じるのだ。ロックンロールは何はさておきエネルギー感、グルーヴ感に尽きる、というのが私の信条。この迫力満点のサウンドを体験してしまえば、疑似ステレオなんてニセモノは気持ち悪くてとてもじゃないが聴いてられない(>_<) とにかく VG- となっていたこのレコードだが、見た目のヴィジュアル・グレードは VG+ で、ウチのオーディオ装置での実際のプレイ・グレードは EX+ コンディションだった\(^o^)/
 このアルバムは全12曲入りで、うち9曲がオリジナルで3曲がカヴァーという構成。1965年ということで、いかにも60'sといった感じのブリティッシュ・ビート・グループっぽい曲と、R&B 色の強い曲が巧くバランスされて収められているが、そんな中で強烈な存在感を誇っているのがビートリィでも R&B 風でもない、まさにザ・フーというバンドのオリジナリティーここにありといった感じの凄まじいグルーヴで聴く者を圧倒する2曲、A⑥「マイ・ジェネレイション」とB⑥「ジ・オックス」であり、この2曲をそれぞれ LP の両面ラストに持ってきた絶妙な曲配置にも脱帽だ。
 A⑥「マイ・ジェネレイション」はザ・フーを、いや60年代ロックを代表する1曲だが、これはもうザ・フーの4人にしか作り得ない原始的なエネルギーに満ち溢れたロックンロール。イントロからアクセル全開で縦横無尽に暴れ回り、0分55秒から “ドゥンドゥン ドゥドゥドゥン ドゥンドゥドゥ ドゥンドゥン~♪” とハードボイルドなソロを炸裂させるジョン・エントウィッスルのカッコ良さにはゾクゾクさせられる。 “リード・ベース” という、ベース・ギターの概念をひっくり返すような空前絶後のソロである。2分24秒あたりから爆発的な勢いで叩きまくるキース・ムーン怒涛のドラミングも圧巻だ。
 これまで聴いていた CD もオリジナル・モノ・ミックスということで中々良い音を聴かせてくれたが(←「デラックス・エディション CD 」に入ってるのはギター・リフが欠落した中途半端なステレオ・ヴァージョンなので要注意!)、さすがにオリジ盤の音圧は凄まじい。まるでラオウの天将奔烈、北斗剛掌波の直撃を食らったような感じである。それと、ただ本能の趣くままに暴れているような感じを抱かせる3人のアンサンブルだが、緩急というかメリハリの付け方が絶妙で、急加減速を繰り返しながら3分20秒を一気に駆け抜け、そこにつっかえたように歌うロジャーのヴォーカルが乗っかって、これ以上ないと思えるぐらいのタテノリ・グルーヴを生み出しているところもザ・フーならではだ。
 B⑥「ジ・オックス」はメンバー4人の共作によるインスト・ナンバーだが、私の耳にはどう聴いても “ザ・フー版ワイプ・アウト” 。キース・ムーンの破天荒なドラム・スタイルはジーン・クルーパやバディ・リッチといった古き良き時代のスウィング・ビッグ・バンドのドラマーからの影響を感じさせるのだが、ここではベンチャーズのメル・テイラーを彷彿とさせる凄まじいグルーヴ感(←「ライヴ・イン・ジャパン」みたいなドタバタ・ビートが最高!)がめちゃくちゃ気持ちイイ(^o^)丿 ジョン・エントウィッスルの轟音ベースはまるで “ブレーキの壊れたダンプカー” みたいな暴れっぷりだし、ロック界屈指のリズム隊が叩き出すグルーヴに拍車をかけるようなニッキー・ホプキンスのピアノもノリノリで、スリリングな疾走感と血湧き肉躍るような高揚感を煽り立て、破壊力抜群の暴力的なサウンドを生み出している。1965年の時点で、ヴォーカル抜きのインスト・ナンバーでこれほど聴き手の心をワシづかみに出来るバンドはザ・フーをおいて他にはいなかったのではないか。尚、タイトルの“オックス”とはベースのジョンの愛称から取られたもので、「スワンの涙」とは何の関係もない(笑)
 アルバムの半分近くを占めるビートリィなナンバーの中では何と言ってもB③「イッツ・ノット・トゥルー」が出色の素晴らしさ。メロディー良し・演奏良し・コーラス・ハーモニー良しと三拍子揃った名曲名演で、特に「ハード・デイズ・ナイト」の頃のジョン・レノンのようなロジャーの辛口ヴォーカルが気に入っている。 “務所にいたとか、11人もガキがいるとか、中国人とのハーフだとか、父親殺しだとか、どれもこれもみんな嘘っぱちだ!” という歌詞もユニークで面白い。多分ザ・サン(←悪名高いイギリスのゴシップ大衆紙)あたりへのあてつけなのだろう。
 ビートルズっぽいということではA④「ラ・ラ・ラ・ライズ」やB①「キッズ・アー・オールライト」なんかモロにそれっぽいし、A③「ザ・グッズ・ゴーン」ではストーンズっぽさが顔を覗かせる。そうかと思えばジェームズ・ブラウンの A②「アイ・ドント・マインド」や B②「プリーズ・プリーズ・プリーズ」、ボ・ディドリーの B④「アイム・ア・マン」のようなコテコテの R&B カヴァーをやっていたりと、非常にヴァラエティーに富んだ構成で聴く者を飽きさせないところもこのアルバムの大きな魅力の一つだろう。そしてそれを可能にしているのが様々なタイプの楽曲に合わせて歌唱スタイルを微妙に変える器用さを持ったロジャーのヴォーカルで、キース、ジョン、ピートという超名手揃いのザ・フーの中にあって何かと過小評価されがちなロジャーだが、私に言わせればザ・フーのリード・ヴォーカルは彼以外には考えられない。
 ブリティッシュ・ロック史上に燦然と輝くザ・フー衝撃のデビュー・アルバム「マイ・ジェネレイション」、執念で手に入れたこの UK オリジ盤は一生モノのお宝だ。今年はコレを聴いて鬱陶しい梅雨を乗り切るぞ!!!!!

The Who- My Generation Bass Solo


The Who - The Ox - John Entwistle ( Check More Info)


The Who - It's Not True (A Whole Scene Going 1-5-66)

My Generation / The Who (Pt. 1)

2011-06-05 | Rolling Stones / The Who
 キタ━━━(゜∀゜)━━━!!! 今年に入ってUKロックのオリジ盤熱が再燃したことは前にも書いたが、ついに本年度最大の収穫とでも言うべき1枚をゲットした。それがこの「マイ・ジェネレイション」、言わずと知れたザ・フーのデビュー・アルバムのUKオリジナル盤である。このアルバムが発売されたのは1965年12月なのだが、発売元の Brunswick レーベルが67年に閉鎖されたこともあって実際に店頭に並んでいた期間が2年弱と非常に短く、そのまま “幻の名盤” 化してしまったという曰くつきのレコードだ。
 それから13年後の 1980年になってやっと Virgin レコードから再発されたが、(←ジャケット右上のレーベル名も Brunswick から Virgin に変えられていた )、オリジナル・ジャケットそのまんまのカウンターフィット盤(←いわゆるひとつの海賊盤ですね)が出回ったり、21世紀に入ってからもあの Classic Records から200g高音質盤がリイシューされたりと(←大好評につきその後更に150g盤でも再々発されたらしい)、とにかくこのアルバムの人気は凄いモノがある。この盤の権利はバンドではなく当時のプロデューサー、シェル・タルミーが持っており、そのせいでこのアルバムだけ中々CD化が実現しなかったこともアナログ盤人気に拍車をかけたのかもしれない。
 私はまずCDで安く買い、何度も聴き込んで “コレは一生モノ!” と思えた盤だけをオリジナルLPで買うことにしているので、アナログ再発盤には何の興味も無い。大枚叩いてLPを買う理由はただ一つ、良い音で聴きたいから、それも可能な限り最高の音で聴きたいからである。特に50~60年代に出たレコードのオリジナルLPは再発盤やCDの薄っぺらい音とは異次元の濃厚にして豊潤、迫力抜群のサウンドが楽しめるので、大好きなレコードは可能な限りオリジ盤を入手したいのだ。
 しかしこの「マイ・ジェネレイション」は上記のような理由で希少盤化してしまい、オークションでも中々出てこない。英Record Collector Price Guide によると状態の良い物は£400(= 約53,000円!)もするという(゜o゜)  試しにヤフオクで調べてみると 38,000円と52,500円の2枚が、eBay では £125 と£300の2枚が出品されていた。そんな超入手困難盤ではあるが、やはりザ・フーの全アルバムの中で最も若々しいエネルギーに満ち溢れたこのデビュー盤は何としてもUKオリジ盤で聴きたいと思い、4月の半ばからずぅ~っと密かに狙い続けて何度も獲り損ねた挙句、先月末にやっとのことで落札したのだ。それも£27という信じられないくらいの超安値、送料込みでも4,500円である。これが喜ばずにいられようか?
 このアイテム、商品説明に “Record is in Very Good Minus Condition with a lot of surface marks/light scratches, however it plays very well with no skips or pops. Picture Sleeve is in Good Condition” とあり、 “マイナス” という言葉や “たくさん擦り傷あり” “それでも針飛びは起こさずちゃんと聴けますよ” という表記でコレクター達が敬遠したのかもしれない。私は盤の写真をパソコンに取り込んで拡大解析し、 “コレくらいのキズやったらモノ針使えばイケルやろ...” と判断して入札したのだが、余りにも安く落札できたのでかえって不安になり(←この気持ち、ワカる人にはワカリますよね)、実際に届くまではハラハラドキドキだった。
 で、先週の水曜日に仕事から帰ると待ちに待ったこのアルバムが届いていた。イギリス特有のスモール・パケットを開封して中からこのジャケットが出てきた時は大袈裟ではなく感無量(^o^)丿 スリーヴ・コンディションは Good (この場合の Good は “良い” ではなく “及第点” ぐらいの意味。レコードのグレーディングで G というのは下から数えて2番目なのでコレクターはあまり手を出さない)となっていたが、裏ジャケに茶色いシミと小さな書き込みがあるだけだし、表ジャケなんてキレイなもので45年前のレコードとして考えれば極上品だ。
 さて、いよいよ肝心の盤質である。恐る恐る盤を取り出してみると、確かにセンターレーベルにはスピンドル・マークがコレでもかとばかりに盛大に付いているが、盤そのものの傷は予想に反して数えるぐらいしかないし、そのどれもが浅いもので、オルトフォンの太いモノ針ならこの程度の傷など笑い飛ばしてしまいそうだ。きっと前オーナーはこのレコードが大好きでかなり聴き込んだのだろう。そして愛情を持って大切に扱ってきたのだろう。こんな風に色々と妄想するのもアナログLP蒐集の楽しみの一つなのだ。まぁコンディションが予想よりも遥かに良かったからこんな悠長なことを言うてられるのだが... (つづく)

↓キース・ムーン中心のカメラ・ワークに注目!
The Who - My Generation

The Kids Are Alright DVD / The Who (Pt. 2)

2011-06-01 | Rolling Stones / The Who
 (32)「スパークス」は彼らとしては珍しいインスト・ナンバーで、アルバム「トミー」収録のスタジオ・ヴァージョンよりも「ライヴ・アット・リーズ」のボートラとして世に出た火の出るようなライヴ・ヴァージョンの方が圧倒的にカッコイイ。この映画ではウッドストックでのライヴ映像が使われており、白いつなぎのジャンプスーツで切っ先鋭いソロを連発するピート、何かに憑りつかれたかのように髪を振り乱しながら一心不乱にタンバリンを乱打するロジャー、あんまり画面には映ってないけど地響きを立てるような轟音ベースでサウンドの基盤を支えるジョン、奇人が鬼神と化して背後から猛烈にフロントマンをプッシュしまくるキースと、彼らのレベルの高さを改めて知らしめるようなハードボイルドな演奏で、まさに “ザ・フーは男でござる” を地で行くダイナミックなプレイの応酬が圧巻だ。
 (33)「バーバラ・アン」は言わずと知れたビーチ・ボーイズの大ヒット曲(←オリジナルはリージェンツなんやけど、今やもう完全に “BB5の曲” ですな...)のカヴァー。キース・ムーンはザ・フーに加入する前はサーフィン・バンドに入っていて、自身ビーチ・ボーイズの大ファンというから人は見かけによらないものだ。ピートは “俺が嫌いなビーチ・ボーイズを奴は大好きなんだ。” と言っているし、キースとプライベートでも仲の良かったロジャーは “もしもビーチ・ボーイズのメンバーになれるチャンスがあったなら彼は喜んでザ・フーを辞めていただろう。僕らはキースを喜ばせるためによくこの曲をやってたんだ。” とインタビューで語っている。キース・ムーンがドラムを叩くビーチ・ボーイズというのも聴いてみたい気がするが(←でもそれってハーマンズ・ハーミッツのドラムをボンゾがやるようなモンやな...)、ここではシェパートン・フィルム・スタジオでの和気あいあいとしたリハーサル風景が楽しめる。
 キーをもっと上げて歌えと促すロジャー、それに応えて渾身のファルセットで歌うキース、ニコニコ笑いながらゆったりとベースをつま弾くジョン、BB5は嫌いとか言いながらダック・ウォークまで披露してノリノリのソロを聴かせるピートと、みんなホンマに楽しそうだ。特にピートのラウドなギターが爆裂した瞬間にホンワカ・ムードのポップ・ソングからバリバリのロック曲へと変化する所が最大の聴き所。ただ、同じ歌詞を繰り返すキースに対してピートが言った “We did that bit there. Does it come in twice, that bit?” を日本語字幕で “同じこと2回できる?” となってるのは意味不明。 “それ、さっきと同じやん。その歌詞2回も続くんか?” という意味だと思うのだが...(>_<)
 この DVD の日本語字幕には他にも酷い誤訳が一杯あって、ロジャーが “My main ambition is to get back on the road... with the horrible Who, the worst rock 'n roll group in the world.” と語っているのを “世界最低のバンド、フーをもう一度軌道に乗せたい。” はいくら何でもアカンやろ。 “俺はこの愛すべき騒音バンド、フーともう一度ツアーに出たいんだよ。” という意味じゃないのか? そーいえばピートが言った the Fillmore in New York (←ロック・ファンなら誰でも知ってるライヴの殿堂フィルモア・イーストのことですね)を “フィルムホール” とやられた日にゃあ、もう開いた口が塞がらない。その昔、ライヴ・エイドで再結成したゼッペリンのメンバー紹介の時に、フジテレビが雇ったド素人同時通訳がメンバーの名前すら知らずに “ロバート・パワーズとジョン・トンプソンです!” (←誰やそれ???)とやって大笑いさせてもらって以来のアホバカ訳。ロック関係の字幕はせめて最低限の音楽知識を持ったプロにやってもらいたいものだ。
 (37)「フー・アー・ユー」は元々大好きな曲だったが、この楽しさ溢れるビデオクリップを見てますます好きになった。ヘッドフォンをした頭に黒いガムテープをグルグル巻き、赤いTシャツを着て張り切るキースの百面相(?)ドラミング、そしてジョン、キース、ピートの3人でじゃれ合いながら(笑)仲良くコーラス・ハーモニーをキメる姿が微笑ましくて心が和む。めちゃくちゃキャッチーな曲でありながらロック魂溢れるプレイで要所要所をキッチリ引き締めるあたりはさすがという他ない名曲名演だ。
 (41)「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」は「フーズ・ネクスト」の時に貼り付けたリカット・ヴァージョンが極めつけだと思うが、あの映像の元になったのがこの映画で使われたシェパートン・ライヴの時のもの。跳んだりはねたりと元気一杯の“人間風車”ピート・タウンゼンド、マイクを “いつもより多めに回しております” ロジャー・ダルトリー、 “男は黙ってサッポロビール” を貫きながら驚異の速弾きで魅せるジョン・エントウィッスル、そして巨星墜つる直前の最後の輝きを見せるキース・ムーンという、ザ・フーの魅力を凝縮したような素晴らしい映像で、ロジャーとピートのシンクロナイズド風車(←4分30秒あたり)は見ていて楽しいし、シンセのインターバルを突き破るかのようにロジャーが雄叫びを上げ、ピートがジャンプ&スライディングをキメるシーンがスローで映し出される瞬間(←7分50秒あたり)なんかもう鳥肌モノだ。
 演奏を終え、ドラム・セットを飛び越えてヨロヨロと前に出てきたキースにピートが “よぉやった!” とばかりに抱きつくシーンもこの数ヶ月後にキースが急死することを考えれば万感胸に迫るものがある。ピートにはこれがキースとの最後のギグになるかもという予感があったのかもしれない。その後、エンド・ロールのバックに「ロング・リヴ・ロック」が流れ、過去の様々なライヴのエンディング・シーンが走馬灯のようにフラッシュバックされる演出もニクイなぁ...(^o^)丿
 この映画には演奏シーン以外にも、73年にメンバー4人で「ラッセル・ハーティ・プラス」という番組に出た時のハチャメチャ・インタビュー(←キースがどんどん服を脱いでいってパンツ一丁になったり、ピートの服を破いたりと、ムチャクチャやりたい放題してます...)や音楽的リーダーとしての苦悩を吐露するピートの単独インタビュー、キース・ムーンとリンゴ・スターの掛け合い漫才(?)みたいなお喋りなど、ファンにとっては見所満載である。
 ボーナス・ディスクでは「ババ・オライリー」と「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」の演奏シーンでメンバー一人一人を単独で追ったマルチアングルが面白く、特にジョン・エントウィッスルの凄腕ベースには驚倒させられること間違いなし! “ディレクターズ・カット” と銘打ってはいるが、ディスク1の内容は通常盤と同じようなので、カタギのファンは通常盤、コアなファンはこちら、ということでいいと思う。
 最高に “人間臭い” バンド、ザ・フー。そんな彼らの魅力を見事に捉えたこの DVD はザ・フーのファンだけでなくすべてのロック・ファン必見のロック・ドキュメンタリー映画の傑作だと思う。

The Who Bust Out (Sparks at Woodstock)


Keith Moon - The Who (Barbara Ann)


Who are You


Wont Get Fooled Again