2045年、政府発行の法定通貨は信用を失い、世界の経済は完全にブロックチェーン上で回るようになっていた。
銀行は過去の遺物となり、人々は自らの「ウォレットアドレス」と「トークンID」によってアイデンティティを証明し、取引を行う。
デジタルは透明で、すべてが記録され、消去できない。だが、それは本当に”自由”だったのだろうか?
俺はただの小市民だ。
かつて、月に1〜2万をビットコインに積み立てる慎ましい生活を送っていた。
「老後資金の足しになれば」なんて思っていたが、2045年の今、そんな考えは遺物となった。
「資産」は「流動性」であり、「価値」は「動き」の中にしか存在しない。
止まることは死ぬことと同じだ。俺は、自分が持つビットコインのことを考えるとき、それが本当に”持っている”ものなのか、疑問に思う。
そんなある日、俺のウォレットに見覚えのないトランザクションが記録された。
“0x085BTC”、俺のアドレス宛に送られたのはETHOS-66――未知の暗号資産へのアクセスキーだった。
誰が送ったのか、なぜ俺なのか、答えはなかった。ただ、そこに記録があるだけだ。
AI駆動のスマートコントラクトは意思を持ち始め、国家や中央銀行に依存しない自律型経済システムが誕生しつつあると噂されていた。
だが、それは都市伝説の類だったはずだ。
ビットコインが生まれたとき、「ブロックチェーンは誰にもコントロールできない」と言われた。
だが、それは「誰か」がコントロールすることを前提としていた。
俺は夢を見ているのか?
それとも、これは現実か?
目の前のモニターに映る66億の数字を見つめながら、俺はふと、自分の手を眺めた。
肌の上を指が滑る。冷たい。
関節の奥に、微かな作動音を感じる。
“俺は……何者なんだ?”
66億の夢を見るのは、俺なのか。