雑草の言葉

『経済成長』考 <前半>

2013/10/05
Sustainability 16
現在、日本は低成長時代を迎え、政党は与党も野党もこぞって経済成長による日本の再生などと主張しています。与野党とも、経済成長が無限にできるとの前提での主張のように思われます。しかし、たとえば水槽で飼える魚の数の上限は、水槽の大きさにより決まります。地球も巨大であることを除けば、水槽のように閉じた系であるので、この中で生き物が安定して存続できる数の上限は決まっているはずです。その有限の世界の中で無限の経済成長をすることが可能なのでしょうか。
そもそも経済とは何でしょうか。経済とは現在「人間の活動の生活に必要な財貨・サービスを生産・分配・消費する活動」、「衣食住など物財の生産・流通・消費にかかわる人間関係の全体である。」等と定義されています。この定義にしたがい、過去と現在を考えてみます。
人類は約20万年前に現生人類に進化したと考えられていますが、初期人類時代は基本的に狩猟採取による自給自足社会でした。上記の定義によるとこの時代はまだ経済がないことになります。
交換(経済社会)が始まったのは約7万5千年前の火山による急激な寒冷化の時代に、生存戦略として始まったという研究成果があります(『なぜ人類になれたか』参照)。具体的には、食糧難のときに助けてもらった場合、余裕が出来た時に返すという、時間差での交換だと考えられているようです。現在でもアフリカではこのような助け合い(交換)がなされているそうです。
また経済成長とは、ネットで検索すると『経済の規模が拡大することを、経済成長という。国の経済規模は、GDP(国内総生産)の大きさで表される。』等の文章が見つけられます。上記の水槽の例から、また、歴史的にもイースター島のような文明崩壊の例から考えるとこの経済成長には物理的な制限があると考えざるをえません。
しかし、日本の江戸時代は日本という閉じた系の中で限界まで経済成長した後、少なくとも江戸周辺の武蔵野では、疎林であった所に森林を育てました。歴史から考えて経済成長は最終的に文明を環境ごと破壊する悪しき存在であるとは言い切れないようです。
そこで思考実験として、文明崩壊しない経済成長が存在しえるかどうかを検討してみました。
検討内容は文明崩壊に向かう経済成長を悪い経済成長、文明崩壊を起こさない経済成長を良い経済成長と定義し、現代社会[悪い経済成長]と、これの対比として、貨幣の代わりに資産として森林を溜める社会を仮定し(税法、会計基準を変える等をして)[良い経済成長]、この二つを対比させてみることにしました。この二つを取り巻く環境は、現代そのままで、森林を破壊して農地にし、これを収奪しきって、砂漠として放棄し続けている状況としてみました。
 悪い経済成長は、森林を破壊し、都市と農地に変換しており、農地は損耗のため放棄されます。「経済の規模が拡大する」との定義から考えて、人類社会の外にある森林を、人類社会の中に取り込み、収奪した残りを砂漠として廃棄しています。したがって、農地の損耗を補える条件を備えた森林が無くなれば(農地が、人類の人口を支えられないぐらいまで減少すれば)、文明維持に必要な人口を維持できなくなり、文明は崩壊するでしょう。
それに対し、良い経済成長は、廃棄された荒れ地を森林に変換して蓄積するので、理屈上はもう一度農地にすることも可能です。したがって、良い経済成長は文明崩壊を起こさないであろうと考えられます。しかし、財産として蓄積した森林をもう一度農地にし、損耗したら廃棄するのはまさにマッチポンプで、実際に行うには無意味です。また、地球の面積が有限ということを考慮すれば、森林を増やす速度と、農地を廃棄する速度が同じになった時点で経済成長はできなくなります。地球の面積という、物理的な制限により、経済成長はどうあがいても不可能であろうという結論になります。
 ここまで考えたところで、私は森林とともに1万数千年の間存続し、ただの一種類の生物も絶滅させなかったといわれる縄文時代を思い出しました。縄文人は、生態系と対決せず、溶け込む狩猟採取生活をしていたと考えられています。しかし縄文人は少なくとも、三内丸遺跡周辺では栗を栽培していたようです。森林自体が農地であったとも考えられるでしょう。日本列島に最初に縄文人がたどり着いたところから、日本全土に広がるまでを考えてみます。縄文人の数がゼロから最盛期には26万人まで人口が増えています。≪人口の超長期推移≫また、交易も行われていたようです。≪縄文時代の再考


縄文時代も経済成長をしていたのです。

そこで縄文時代を参考に、極相林自体が農地であり、人間が生態系の一部として存在している社会でかつ、現代のような貨幣経済である社会を仮定してみます(森林自体も金額で表せる)。このような社会であれば、新天地全てが、入植者の財産と見ることが出来ます。この社会では、経済成長は人間が、その地域に広がることそのものとなります。財産としては、広がる前も、広がった後も価値として全く変わらないことになります。この社会では、極相林の生産力の上限までなら人口を増やすことが出来切るでしょう。しかし、人口が森林の生産力(太陽エネルギーを固定できる能力)を超えると、過去の滅びた文明と同じく、生態系を劣化させ、養える人口が減少し、最終的には文明崩壊するでしょう。文明崩壊を回避するためには、森林の生産力を超えないように人口のマイナスフィードバックをかけなければならないということになります。
以上の考察をまとめると、経済成長は、理屈上は、ある一定の条件下では成長でき、場合によっては生態系も豊かに出来るでしょうが、無限に続けることは不可能であるとの結論が導き出されます。


以上、ここのサイトの大きな主題である「反経済成長」に関して、このサイトの常連である HN guyver1092さんに書いて頂いた『経済成長』考の前半です。私とは違った切り口での議論の展開となりました。この続きである後半は次回アップする予定です。

関連記事

Comments 16

There are no comments yet.

雑草Z

無節操な経済成長

 ここのサイトでは繰り返し経済成長志向の愚かさを強調していますが、私の切り口とはちょっと違った議論の展開で興味深いです。

 政治家の殆どはいまだに「経済成長」を叫んでいますが、明らかに過剰な部分ですね。
その対策はもう既に、guyver1092さんのおっしゃるところの
>マッチポンプ
的なものばかりです。日本に限らず世界中
>[悪い経済成長]
ばかりが進行していると言えましょう。
かなりGDPの低い、いわゆる「未開」の地でも、「良い経済成長」が行われているところは殆ど無いと思われます。いわゆる「先進国」によって、文明崩壊への導火線に火を点けられてしまったと考えますが如何に?

2013/10/05 (Sat) 07:20

guyver1092

、「良い経済成長」

 現実には「良い経済成長」は存在できないと考えています。しようとすれば理論的に矛盾したことをしなければならないですし。
 地球は一つで、交換可能な貨幣ですべてつながっているのは明白ですし。おっしやるように文明崩壊と言う爆弾の導火線には、火が付いているとしか考えられないですね。

2013/10/06 (Sun) 00:20

雑草Z

Re:「良い経済成長」

経済成長をした後、生態系に悪影響が無く、逆に生態系が活気を帯びて定常状態が続いた場合、良い経済成長と言えましょう。その定常状態出の経済規模は、勿論現在と比べて桁違いに低いレベルです。guyver1092 さんも言及されている江戸時代の日本ですね。国民全体に良識があれば可能かもしれませんが、資本主義社会、モラルハザードでもやった者勝ちの自由経済では実現は無理でしょう。既に持続可能なフローは越えていますし・・・。
短期的に見た見掛け上の「良い経済成長」はあっても長期的にはやはり経済成長は破局に至るでしょう。

 guyver1092 さんとの記事を読んで再認識した事は、「経済成長自体」を目標にする事自体が非常に愚かな本末転倒だと言う事です。インフレターゲットなど以ての外。アベノミクスは愚の骨頂です。資本家や金融業の為の政策です。近い将来必ず破綻するでしょうね。

2013/10/06 (Sun) 23:29

guyver1092

目的と手段

 現代人は明らかに目的と手段を取り違えてしまったようですね。昔は「幸せになるために経済成長しよう。」であったのが、小泉時代から「経済成長のために痛みを我慢しよう。」になりました。
 TPP反対と言って自民党は大勝しましたが、現在TPPは推進で、さらには、聖域を命がけで死守すると言っていたのを聖域放棄もやむなしと言い出しました。
 日本の農民はマゾばかりなのでしょうか。選挙の前、どこかの県農協が共産党支持に変わったようですが、少なすぎたようですね。
 全国の県農協が共産党を支持していればまた結果も違ってきたでしょうが、このままうやむやのうちに日本の農業は壊滅するのでしょうね。 

2013/10/07 (Mon) 22:29

雑草Z

Re:目的と手段

>現代人は明らかに目的と手段を取り違えてしまった。

これは、かなり愚かな事ですが、経済成長がその典型例ですね。
 「地球温暖化防止の為に二酸化炭素を減らす」と言う事も、いつの間にか「二酸化炭素排出削減」が目的のように唱えられ、「二酸化炭素地下貯留」のような理性のある人間が考えれば明らかに愚か過ぎる事をやろうとしています。既に実験されています。結局これも「経済の為」なのでしょう。
『目的と手段の取り違え』をテーマとして記事が描けますね。

>小泉時代から「経済成長のために痛みを我慢しよう。」になりました。

言われてみれば、「痛みを伴った改革」は経済成長が目的だったとも言えそうですね。しかし、「経済成長の為に」の言葉で色々犠牲にされて来たのはもっと以前の高度経済成長期からではなかったでしょうか?・・・近いところでは中国も「経済成長」の為にとんでもない犠牲を払って来ましたね。「経済成長至上主義」は世界を破局へ導く宗教のようです。

>このままうやむやのうちに日本の農業は壊滅するのでしょうね。

それは困ります。自国の農業が破壊されて食料危機が来ない筈がありません。食料不足までのカウントダウンが始まったと言えましょうか!?

2013/10/08 (Tue) 22:31

guyver1092

Re:食料危機

 今まで、自民党が本心を隠して、うやむやのうちに悪事を働くパターンは、「これこれの条件が満たされない限りはしない」と言って選挙に勝ち、反対意見をごちゃごちゃと話し合っているうちに反対意見を言う者はいなくなり、あとは地位の高いものが「苦渋の決断をする」という物ですが、何度でも騙されるということは、実は本心は苦しむのがうれしくてしょうがないのではないかと感じてしまうのです。
 食糧危機は、現代日本にとってとてつもない破壊力をもっているのは自明の理でしょうが、マゾヒストはそれさえも嬉しいのかもしれませんね。

2013/10/09 (Wed) 20:35

雑草Z

Re:Re:食料危機

>自民党が本心を隠して、うやむやのうちに悪事を働くパターンは、「これこれの条件が満たされない限りはしない」と言って選挙に勝ち、反対意見をごちゃごちゃと話し合っているうちに反対意見を言う者はいなくなり、あとは地位の高いものが「苦渋の決断をする」という物

なるほど、面白い、そして真を突いた御指摘ですね。自民党のやり方も詐欺的ですね。

>食糧危機は、現代日本にとってとてつもない破壊力をもっているのは自明の理

それでもTPPに参加して、関税を無くし、海外の食料の入り放題にして儲けようと言うのですから、酷いものです。それなのに彼等は「日本の為にTPP参加」と謳っていますね。モラルハザードです。

2013/10/10 (Thu) 22:54

guyver1092

モラルハザード

 実は企業にモラルを求めることは、八百屋で魚を買おうとするようなものだそうですよ。戦前に、日本政府が金解禁という失政をしたときに、それに乗じて私腹を肥やしたのが財閥の三井です。今回のTPP参加も企業は推進の立場です。日本を奈落の底に落として、自分たちだけはその反動で天に昇れると信じているのでしょうね。

2013/10/11 (Fri) 21:44

雑草Z

Re:モラルハザード

>企業にモラルを求めることは、八百屋で魚を買おうとするようなもの

なるほど、そこまで酷いのでしょうね。そんな酷い会社に限って大企業にまで「成長」するのでしょうか。

>戦前に、日本政府が金解禁という失政をしたときに、それに乗じて私腹を肥やしたのが財閥の三井

参考になる情報有難う御座います。確かに今回のTPP参加も非常に似ていますね。TPPを強く推進している経団連の会長の住友化学はモンサントと提携したようですし・・。

>日本を奈落の底に落として、自分たちだけはその反動で天に昇れると信じている

発想が典型的多国籍企業型と言えましょう。最低の人種です。

2013/10/12 (Sat) 23:52

guyver1092

Re:Re:モラルハザード

 後半で触れていますが、会計基準にはモラルは書いていないですよね。余裕のあるうちは、社会の目を気にしますが、「自社がつぶれる」となればモラルなどはゴミくずに見えるのでしょう。労働基準法もゴミくずです。本来基準をその通り運用すれればまだまだモラル低下を矯正する部分も出てくるでしょうが、公務員バッシングで人員削減され、まともな調査が出来ず、猛獣は野放しだそうです。さらには、労働基準法を改悪して、労働者は使い捨ての資源にしようと画策しているようです。なお、日本国民は自分たちが使い捨てになるのを望んでいるとしか思えない選挙結果です。

2013/10/14 (Mon) 22:39

雑草Z

Re:Re:Re:モラルハザード

>労働基準法もゴミくずです

>労働基準法を改悪して、労働者は使い捨ての資源にしようと画策しているよう

そうですね。言われてみれば労働基準法は、あってないような企業が多いように感じます。最近、労働条件は改善されているとは思えませんね。「労働資源」と言う言葉自体、資本家が労働者を資材や設備と同等に扱っている言葉に感じます。市場経済は、労働者を資材化、商品化し、人間の生活を破壊していくようです。

>猛獣は野放し

これが資本主義の行きつく先=末期症状でしょうか?

2013/10/16 (Wed) 17:38

guyver1092

末期症状

 最近ブラック企業が増殖しているようですね。一説によると日本政府もすでにブラックと言う皮肉が聞かれる今日この頃です。資本主義の限界が近いと言う人も増えているのではないでしょうか。つまりは末期的だと感じる人が増えているのでしょう(石川英輔さんもです)。
 当然私も末期的と考えています。

2013/10/16 (Wed) 22:48

雑草Z

Re:末期症状

>一説によると日本政府もすでにブラックと言う皮肉が聞かれる今日この頃

なるほどそうですね。大きく同意しました。日本政府はもはやブラックそのものですね。作業員が不足しているにもかかわらず、被曝労働者をあちこちから連れてきて、自分達は安全なところから再稼働などとのたまっています。TPPも日本を多国籍企業に売り渡すようなものです。日本の労働者をいいようにこき使って使い捨てにしようとする様は、ブラックジョークではなく、ブラック企業そのものですね。

2013/10/17 (Thu) 21:50

guyver1092

経済成長

 経済成長が正しいとして、それを求める政策を続ける限りブラック企業は増え続けるでしょうね。理由は簡単。経済成長を続けるということは、知己祐の大きさと言う物理的制限を無視した無理がそこに集中するからです。

2013/10/19 (Sat) 11:33

とおりすがりです

突然の投稿すいません、反映していただけなくても
しかたないとは知ってます。
ただ、以下の事実を知って欲しくて書き込みました。
ご了承ください、そしてブログご一読ください。

日本にエコビレッジ自給自足を名乗りながら
暴力(性的含む)と洗脳で支配するコミュニティがあります。
こちらは私のブログではありませんが
被害を増大させないためにシェア願います。
http://ameblo.jp/konohanafam/entry-11687642614.html

2013/11/16 (Sat) 15:28

雑草Z

削除しますね。

 記事の主題とも違いますし、内容もここの記事と比べれば取るに足らぬ事ですので、シェアしません。
あなたがどんな方かもわかりませんし、あなたの書き込みを見る限りに於いて個人的恨みとも読みとられても仕方ないですよ。

 何か追加が無ければ近々削除します。

2013/11/17 (Sun) 12:02
☘雑草Z☘
Admin: ☘雑草Z☘
無理に経済成長させようとするから無理に沢山働かなければなりません。あくせく働いて不要なものを生産して破局に向かっているのです。不要な経済や生産を縮小して、少ない労働時間で質素にゆったり暮らしましょうよ!「経済成長」はその定義からも明らかなように実態は「経済膨張」。20世紀に巨大化したカルト。
にほんブログ村 環境ブログ 地球環境へ
にほんブログ村
Sustainability