進化の不思議

 人間の身体というのは実によくできていると常々思う。

 たとえば、苦痛があると、「ああ、なんでこんな苦しい目に会わんといかんのだ」などと思う。しかし、一歩引いて眺めて見ると、苦痛というのは「このままだとやばいっすよ」という信号であって、もし苦痛がなければそのやばさに気づかずに下手すると死に至ることすらある。

 あるいは、熱が出るなんていうのは困ったものだが、あれは人体の防御反応で、熱を高めることによって免疫の効果を高めるということであるらしい。炎症なんていうのも防御反応のひとつであって、免疫方面の細胞なりなんなりが炎症を起こしている場所にわっと集まって、悪さするやつらを蹴散らす、とまあ、そんなふうに身体というのはできている。

 こういう身体のいろいろな仕組みが、何億年だか知らないが、放っておいたら自然にできてしまったというのが進化の実に不思議なところだ。基本的には適者生存の法則というものらしく、いろんな少しずつ違った個体のうち、環境に適応して生き残った仕組みを持つやつが次世代にそれを伝えてきた。一方で、次世代もちょっとずつ違ったいろんな仕組みを持っていて、その中でさらに生き残ったやつが仕組みを次世代に伝えて・・・とそんな仕組みで進化というのは起きたようだ。

 もっとも、なぜこんな仕組みが残ってしまったんだろうか、というものもある。たとえば、人間の頭髪。あれは放っておくとだらだらと伸びる。生きるうえで大して必要でなく、かえって邪魔だと思うのだが、「人間の当初は相当な長さまで伸びる」という仕組みが残ってしまった。生き残るうえで、どうでもいいことだから(死命を決するほどのことでもないことだから)、かえって残ってしまったのだろうか。

 あるいは、爪というのも伸び放題に伸びるが、割れたり、剥がれたりしたら不便と言えば不便だ。それでも伸びる爪というのは人間に残されている。進化上の何か意味があったのだろうか。