日本固有種の常緑針葉樹「シラビソ・オオシラビソ」
シラビソ・オオシラビソはマツ科モミ属の常緑針葉樹。亜高山帯から高山帯で生育するため、一般的にはなじみが薄い樹木ですが、標高が高いエリアを登山するとよく目にする樹木です。
寿命は100年程度でスギ・ヒノキなどに比べれば短いですが、南アルプスのシラビソは樹齢240年のものもあります。
蔵王や八甲田山などで厳冬期に見られる樹氷の“スノーモンスター”はあまりにも有名ですが、実はこの元になっている木がアオモリトドマツ、つまりオオシラビソ。
高くそびえて冬も葉がたくさんついている常緑針葉樹だからこそ出来上がる、自然の芸術作品なのです。
広いエリアで見られるシラビソ
シラビソ(白檜曾)は日本固有種で別名シラベ(白檜)とも呼ばれます。森の中でひときわ高くそびえ、高さ25~30m、まれに35mに達するものも。
本州と四国にのみに分布し、本州は福島県吾妻山から中部山岳地帯と紀伊半島の大峰山系まで、四国は剣山・石鎚山で見られ、広いエリアに分布しています。
花期:5~6月
結実:9月~10月
雪が多く冷涼なエリアに限られるオオシラビソ
オオシラビソも日本固有種ですが、雪が多く冷涼なエリアに限られた特産種です。高さはシラビソと大差は無く、最大で40mほど。
過酷な環境で生育するため、ほとんどの場合それ以上の高さになりません。
別名「アオモリトドマツ」とも呼ばれるように、青森県の八甲田山を北限とし、南アルプスが南限。中部エリアはシラビソと混在するエリアになります。
花期:6~7月
結実:9月~10月
シラビソとオオシラビソの違い
シラビソとオオシラビソはよく似ており、混在するエリアでは判別が難しいですが、以下の点で区別することができます。
- シラビソ
- オオシラビソ
- 分布
- 広いエリアに分布
- 冷涼なエリアに限定
- 葉と枝
- 広く短く、上から見ると枝が良く見える
- 葉が枝を隠すように生えている
- 雌花
- 暗赤色で先がとがっている
- 濃い青紫色で丸みを帯びている
- 球果(松ぼっくり)
- 先が尖っており、長さ4~6cm
- 丸みを帯びて大きく、長さ10cm程度
それぞれの見極め方としては、雌花ができる夏や、球果がある秋はそれぞれで確認できますが、それらが無い季節は、葉や枝で確認します。
実は多くの登山者が触れあったことがあるかも…?
一般的にはなじみが薄い樹木ですが、登山者にとっては触れ合う機会が多い木かもしれません。実は知らずに近くを歩いていることも。
ここからはシラビソ・オオシラビソにまつわるエピソードをいくつか紹介していきます。
ちょっと奇妙な雌花と球果(松ぼっくり)が印象的
誰もが印象に残るのは、天空に突き出る形の雌花と球果(松ぼっくり)でしょう。多くの人がこの姿を見てシラビソをおぼえるのではないでしょうか?
筆者も初めて見た時は、樹上に小鳥がたくさん乗っているように見え、ちょっとかわいらしく感じました。
結実は木々ごとに、おおむね3年周期で、数年に一度、一斉に付く当たり年があり、たくさん見ることができます。その年に当たったらラッキーですね。
白いヒノキをあらわす「白檜曾」
シラビソの和名は「白檜曾」で、オオシラビソは「大白檜曾」。ヒソ(ビソ)とはヒノキの材木を意味し、言葉通りでは「白いヒノキ」となります。しかし、ヒノキとシラビソは別種。一般的には馴染が少ないシラビソは、人々に身近なヒノキに例えられ、白いヒノキをあらわす「白檜曾」になったということです(諸説あり)。
シラビソ特有の縞枯れ現象
山の木々が枯れ、縞模様のように見える「縞枯れ現象」は、シラビソやオオシラビソが多く占める優占林において発生する特有の現象。世代交代・天然更新などの山の自浄作用と考えられていますが、はっきりとした原因はわかっていません。
八ヶ岳山系や木曽山系などで見られ、「蓼科山」や、その名の通り「縞枯山」で大規模に発生することが知られています。
白馬地方では「栂(ツガ)の木」とよばれるオオシラビソ
長野県白馬(はくば)地方では、オオシラビソのことを「栂(ツガ)の木」と呼んでいます。白馬岳(しろうまだけ 標高2,932m)の登山口「栂池(ツガイケ)」は、この呼び方が由来。
ただし、本来の栂は別の樹木。よく似ていますが、球果が垂れ下がるところが大きく違います。
シラビソ・オオシラビソの森を歩くならココ
最後に、シラビソ・オオシラビソを見ることができるおすすめの登山スポットを紹介します。
八甲田山(青森県)
オオシラビソ(アオモリトドマツ)の北限
八甲田山(はっこうださん 標高1,613m)は、オオシラビソ(アオモリトドマツ)の北限になり、寒冷で厳しい環境なので、全体的に背が低いのが特徴です。
冬は見事な樹氷(スノーモンスター)が楽しめます。
八幡平(秋田県・岩手県)
広大なエリアにブナとアオモリトドマツを主体とする自然林が広がる
山と高原台地が広がる八幡平(はちまんたい 標高1,613m)は、広大なエリアにブナとアオモリトドマツを主体とする自然林が広がります。八幡沼を中心としたトレッキングルートでは、森の中のトレッキングや、冬は樹氷原も楽しむことができます。
吾妻山(福島県)
シラビソの北限
吾妻山(あづまやま 標高2,035m)はシラビソの日本北限の地。1500mから2000mの高山と東吾妻山の鞍部に生育しており、そのほか、コメツガやオオシラビソも混在する森になっています。
栂池高原(長野県)
オオシラビソが広がる森。地元では栂の木(ツガノキ)と呼ばれる
栂池高原はスキー場や白馬岳の登山口としてにぎわうエリア。高原に広がる森や、高山植物の自然公園である「栂池自然園」に、シラビソやオオシラビソが生育しています。
なお、この近辺ではオオシラビソを「栂の木」と呼ぶことから、この名称に。つがいけロープウェイからは、オオシラビソの球果を上から見ることができます。
縞枯山(長野県)
大規模な縞枯れ現象がみられる山
シラビソやオオシラビソの森で、大規模な「縞枯れ現象」が起こることで有名な縞枯山(しまがれやま 標高2,403m)。遠方から山の斜面を見ると、何列もの白い縞を見ることができます。
乗鞍山麓 五色ヶ原の森(長野県)
ネイチャートレイルエリアに広がるオオシラビソ・シラビソの混成林
岐阜県と長野県にまたがる乗鞍岳(のりくらだけ 標高3,026m)の山麓に広がる五色ヶ原の森は、シラビソの森とともに、貴重な自然を満喫できるトレッキングコースが整備されています。なお、入山規制や入山時におけるガイドの同伴が義務付けられているので確認するようにしましょう。
恵那山(長野県・岐阜県)
オオシラビソの南限
恵那山(えなさん)はオオシラビソの南限。標高2,191mの山頂部などに広がる針葉樹林帯にシラビソやオオシラビソが生育しています。
白山(富山県・石川県・福井県・岐阜県)
オオシラビソの西端
白山(標高2,702m)はオオシラビソの西端。白山の森林の中では、もっとも高いところに生育しています。登山ルートの観光新道などで、日本でもっとも西の端のオオシラビソを見ることができます。
大峰山(奈良県)
シラビソの本州南限。本種としては日本の南限
シラビソの本州南限とされている大峰山(おおみねさん 標高1,719m)。後述する四国のシラビソは変種なので、本種としては日本南限。最高峰の八経ヶ岳山頂部はシラビソ、トウヒの原生林が広がり「仏生ケ岳原始林」として天然記念物に指定されていますが、近年、立ち枯れが進み、保護が進められています。
石鎚山(愛媛県)
危急種の変種シコクシラベ。シラビソの日本の南限
石鎚山(標高1,982m)とその周辺部はシラビソ生育地の南限です。石鎚山に生育するシラビソは、シコクシラベという変種。樹高が15m~20mと低く、球果も小さめなのが特徴です。
地球温暖化などにより絶滅が危惧されており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは危急種とされています。
シラビソの森で森林浴を楽しもう!
シラビソ・オオシラビソの森では、柑橘系のフレッシュな独特の甘い香りが漂います。この香りには、心身のリフレッシュ効果がある「フィトンチッド」が含まれており、アロマオイルにも使われています。今回紹介したシラビソの森を参考に、ぜひ、森林浴を楽しんでみてください。