登りのときにすぐに息が切れる……どうしたらいい?
「登山中に足がつる」「下山時に膝が痛くなる」「岩場が苦手」「どうしたら地図読みが上達する?」など、登山をしていると何かしらの悩みや疑問が出てくるもの。安全に登山を楽しむためにも、モヤモヤしたままは嫌ですよね。
そこで今回は、よく耳にする登山者の悩みの中から、「登りですぐにぜぇぜぇはぁはぁしてしまう……、どうしたら息切れしにくくなる?」に注目。この悩みを解消するための方法を探ってみたいと思います。
運動不足だけじゃない!? 「息が切れる」のメカニズム
階段を上ったときなど、日常生活でも多々ある“息切れ”をする場面。そんなとき、「運動不足のせいかな?」「歳をとって体力が落ちたかな?」と考えたことがあるのではないでしょうか。
そもそも“息切れ”をするのはなぜ?
私たちは呼吸により酸素を肺に取り入れ、酸素は血液中に取り込まれて全身の各組織へと運ばれます。同時に、二酸化炭素を多く含む古い血液は、心臓から肺へ送り出され、不要な二酸化炭素が体外へと排出。このとき、何らかの原因で体が必要としている量の酸素を供給できないと”息切れ”が起こります。
この“何らかの原因”は人により様々ですが、日々の運動不足により、心臓が血液を送り出す能力の低下が”息切れ”の原因の一つ。特に、登山では登りにエネルギーが必要となるため、登りで”息切れ”することが多くなるのです。
登山の登りのように特にエネルギーが必要になる運動中は、体に必要な酸素量も増加。もっと呼吸をするようにと脳から呼吸筋に指令がでるため、”息切れ”しやすくなります。
つまり、必要な量の酸素をきちんと体に供給できれば、“息切れ”しにくくなるということ。では、上手に酸素を取り込むためにはどうしたらよいのでしょうか。
”息切れ”予防のポイント3つ
登山時にすぐに息が上がらないようにするために、意識したいことは以下の3つ。
【1】持久力を高める
【2】正しい呼吸法を身につける
【3】呼吸筋を鍛える
ここからは、この3つのポイントをひとつずつ詳しくみていきましょう。おすすめのトレーニングも紹介します。
【1】心拍数が鍵! 持久力を高めるトレーニング
登りでは自分の体重と荷物重量を持ち上げる動作が必要となってくるため、筋力だけでなく、心肺機能にも負担がかかります。すぐに息が上がらないようにするためには、持久力を高めることも必要です。
持久力アップのトレーニングというと、「長時間の運動」を想像する人も多いのではないでしょうか。しかし、必ずしもそうではありません。
長い時間をとれないときには運動強度を高めたり、強度の高いトレーニングができないときには時間や頻度を増やしたりと、下記①~③を上手く組み合わせることで、登山のための効率的なトレーニングが可能になります。
①強度(トレーニングをどのくらいの強さで行うか)
②時間(1回に何分間行うか)
③頻度(1週間に何回行うか)
■登山の運動強度は「他の運動」や「生活活動」と比較するとどのくらいか? | ||||
運動 | 生活活動 | |||
ハイキング | ジョギングと歩行の組み合わせ、バスケットボール、水泳(ゆっくり)、エアロビクス | 家具の移動、スコップで雪かきをする | ||
普通の登山 | ジョギング、サッカー、テニス、スケート、スキー | |||
本格的な登山 | ランニング(分速134m)、サイクリング(時速20km)、水泳(中くらいの速さ) | 重い荷物を上の階に運ぶ |
登山の運動強度を他の運動に当てはめてみると、図のようになるので参考にしてみてください。平地でのジョギングでは運動強度が足りないというのであれば、荷物を背負ってジョギングをしたり、坂道を選んだりすると運動強度は高くなります。スケジュールや体調、気候に合わせて、無理なく効果的なトレーニングを行いましょう。
心拍数で運動強度を確認してみよう!
さらに、トレーニングを行う際に、心拍数(1分間に心臓が血液を送り出す回数)を指標とすると、より効果的なトレーニングができます。心拍数には個人差がありますが、運動不足の人は自身の最大心拍数の60%、普段から運動を行っている人は80%の強度でトレーニングを行うと良いでしょう。
触診で心拍数を測定する場合は、歩きながら、もしくは少し立ち止まって行い、6秒間の値を測定。その値を10倍します。心拍計付き腕時計を活用するのも◎。自身の心拍数を把握することは、自分に合った登山のペースを見つけることにも役立ちます。
持久力トレーニングのための目標心拍数は、「カルボーネン法」と呼ばれるこちらの式で求めることができます。
目標心拍数を求める式には、他にも「ゼロ・トゥ・ビェトン法」や「マフェトン法」などがありますが、今のところ「カルボーネン法」が一般的です。
【ポイント】
目標心拍数以下や以上でトレーニングを行っても非効率。目標心拍数でトレーニングを続けていくと、同じ心拍数でも楽に感じるようになったり、同じペースでも心拍数が低くなったりします。その効果が見られたら、再度、目標心拍数を計算し直すことが大事です。
【2】行動中の呼吸を楽に! 呼吸筋トレーニング
『息が切れるのメカニズム』で説明した通り、私たちは呼吸によって肺で酸素と二酸化炭素の入れ替えを行っています。呼吸するたびに活動しているのが、肋骨の間にある肋間筋や横隔膜などの「呼吸筋」です。
きつい登りや標高が高いところでは、「呼吸筋」の活動が増加。重い荷物を背負って長時間行動を続ける登山の場合、「呼吸筋」は常に緊張している状態です。足腰や体幹を鍛えるのと同様に、「呼吸筋」もしっかりと鍛えることが必要。トレーニングやケアを続けることで、深く呼吸ができるようになり、登山中の呼吸が楽になるはずです。
呼吸筋トレーニング➀ ストロー吹き
意識的に息を吐くことで、呼吸筋を鍛えることができます。簡単な方法としては、ストローを使ったトレーニング。用意するものはストローと綿棒だけ。
綿棒の先端をストローに差し込み、勢いよくストローを吹きす。まさに吹き矢のようなイメージで綿棒を飛ばしましょう。毎日意識して行うことで、呼吸筋が強くなります。
呼吸筋トレーニング② 高強度運動
「ぜぇぜぇはぁはぁ」するような強度の高い運動を行うことも、呼吸筋を鍛える方法のひとつ。日常的にジョギングやランニングをしている人は、途中の100~200mを全速力で走ってみたり、登山の登りでペースを上げて歩いてみたりすると呼吸筋のトレーニングになります。
ただし、普段行っているウォーキングや登山のペースを急に速くすると、膝や腰に負担がかかります。思わぬ怪我につながる可能性もありますので、十分に注意して行いましょう。
続いて、呼吸筋のケア方法を紹介します。
呼吸筋ケア①筋膜リリース
筋肉を包む膜を柔らかくすることで、筋肉がスムーズに動くようになります。呼吸筋の一つである肋間筋を指でほぐしてあげましょう。肋間筋は、肋骨と肋骨の間にある筋肉。呼吸の際に、肋骨を上下に動かす働きをしています。
呼吸筋ケア②ストレッチ
他の筋肉と同様に、呼吸筋も加齢と共にどうしても硬くなってしまいます。滑らかな動き保つためにも、ストレッチが欠かせません。
呼吸筋のストレッチは、仰向けに寝て、肩甲骨のあたりに柔らかいボールやクッションなどを挟んで行います。今回は収納した寝袋を代用。
寝袋を挟んで仰向けに寝た状態で両手を伸ばし、ゆっくりと下へおろします。その際、息を止めず、大きく呼吸をしながら続けることがポイントです。
深く呼吸ができるようになると、リラックスしているときに働く神経「副交感神経」が働き、気分もよくなります。呼吸筋のトレーニングやケアは、登山のためだけでなく、日常生活でストレスを感じている場合にもおすすめです。
【3】体を楽に! 登山のときの正しい呼吸法
重い荷物を背負った登山では、体に大きな負荷がかかります。登りのような運動負荷が高い場面では、体幹を安定させ、力が発揮できるようにすることが重要です。そのためには、お腹にしっかりと力が入るように息を吐くことがポイント。お腹を凹ませるのではなく、腹圧を高めるように意識して呼吸をしてみましょう。また、息を吐くときには、長く吐くよりも短く吐く方がお腹に力が入りやすくなります。
息を吐く量については、体の大きさや呼吸機能の強さ、運動負荷の強さによって変わってきます。基本的には、以下のように呼吸することを覚えておきましょう。
運動負荷が小さい⇒「短く小さく息を吐く」
運動負荷が大きい⇒「短く大きく息を吐く」
呼吸法に慣れてくると、どのように呼吸をしたときが体が楽になるかが分かるようになってきますので、ぜひ試してみてください。
登山でバテない体を”効率的”につくろう!
登山ですぐに息があがらないようにするためには、毎日厳しいトレーニング積まなければならないようなイメージがありますよね。しかし、闇雲にトレーニングをするよりも、呼吸が少しでも楽になるような呼吸法や筋肉、心肺機能をしっかりと意識して取り組む方が効果的。強度や時間の組み合わせ、心拍数を目安にし、自分に合ったトレーニングで登山に必要なバテない体を効率的につくりましょう!
講談社 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術 山本 正嘉 (著)
東京新聞出版局 登山の運動生理学とトレーニング学 山本正嘉 (著)
エイ出版社 一生、山に登るための体づくり 石田 良恵 (著)