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50年前、小学生だった私は、下校中に友人と靴を飛ばして天気を占う遊びによく興じた。そんな占いの方が当たりそうに思えるほど、当時の天気予報は頼りなかった。まだ気象庁の地域気象観測システム(アメダス)も気象衛星「ひまわり」も整備される前の時代。予報は県単位の粗さで、降水確率も発表されていなかった。
最近はスマートフォンを見ると、市町村など細かい地域の予報が表示され、天気や風は1時間刻み、雨雲の動きに至っては5分ごとの変化を教えてくれる。技術の進化は、まさに隔世の感がある。
だが、進化は止まらない。大西
膨大すぎる計算を人工知能が軽減してくれる
都会では、建物や車など人工物からの排熱や反射熱が、相当な量に上る。それが時々刻々変化し、空気や熱が複雑に動く。現在の天気予報に比べると、桁違いに微細なスケールだ。大西さんはそういった「微気象」を捉え、「この道路を歩く時、日なた側と日陰側では熱中症のリスクがどう違うか」といった予測まで可能にする未来を描く。
現在、2キロ・メートル四方の範囲にわたり、30分後までの気温や風などを5メートル間隔の細かさで予測しようとしている。しかし、物理学や化学の法則に基づいて大気などの変化を予測する「数値シミュレーション」は、この細かさで行うと計算量が膨大になり、スーパーコンピューターで数時間もかかった。無論それでは「30分後の予測」にならない。
そこで大西さんらは、計算量を減らす工夫に取り組んできた。数値シミュレーションは20メートル間隔の粗い計算にとどめる。そして、「超解像」という人工知能(AI)の技術で、その解像度を5メートル間隔に高める。
粗い画像から精細な画像を得るなんて魔法のようだが、もちろん科学的な裏付けがある。このAIは、5メートル間隔での計算結果と20メートル間隔での計算結果を多数あらかじめ学習し、「20メートル間隔の計算がこういう結果の時は、5メートル間隔だとこういう画像になる」という関係をつかんであるのだ。
これにより、5メートル間隔で数値シミュレーションを行うと数時間かかっていた30分後の予測が、1分ほどで済むようになってきた。「事前の学習には高性能のコンピューターが必要だが、予測計算は普通のパソコンでできるようにしたい」という。
ドローンやドライブレコーダーから有用な気象データ
計算手法と並んで重要なのは、計算に取り込む気象データの収集だ。気象庁が天気予報のために降水や気温などのデータを収集するアメダス観測点は、全国で約20キロ・メートル間隔。これに対し、微気象の予測には数メートルから数十メートル間隔のデータが欲しい。
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