都会の「微気象」を数メートル単位で予測し、安全で快適な生活を

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編集委員 増満浩志

アメダスが翌年に稼働する予定を伝えた1973年の読売新聞記事(8月17日付)。当時は雨などの観測を学校などに委託し、電報で連絡してもらっていたため、観測結果が気象庁に届くまでに1時間以上かかったと書かれている
アメダスが翌年に稼働する予定を伝えた1973年の読売新聞記事(8月17日付)。当時は雨などの観測を学校などに委託し、電報で連絡してもらっていたため、観測結果が気象庁に届くまでに1時間以上かかったと書かれている

 50年前、小学生だった私は、下校中に友人と靴を飛ばして天気を占う遊びによく興じた。そんな占いの方が当たりそうに思えるほど、当時の天気予報は頼りなかった。まだ気象庁の地域気象観測システム(アメダス)も気象衛星「ひまわり」も整備される前の時代。予報は県単位の粗さで、降水確率も発表されていなかった。

 最近はスマートフォンを見ると、市町村など細かい地域の予報が表示され、天気や風は1時間刻み、雨雲の動きに至っては5分ごとの変化を教えてくれる。技術の進化は、まさに隔世の感がある。

 だが、進化は止まらない。大西 (りょう) ・東京工業大准教授(45)は、数メートル単位という驚くべき細かさで都会の気象を予測する技術の実現に挑む。

膨大すぎる計算を人工知能が軽減してくれる

【上】ある夏の午後2時頃、東京駅周辺2キロ四方の気温分布。スパコンで計算した。青から黄、赤へと高温になる【下】上図の銀座通りを拡大した様子。大人と子どもの深部体温を示す図は、「SUNNY」が日なた側(左手)、「SHADE」が日陰側(右手)を歩いた場合の予測(いずれも大西研究室のホームページ掲載の動画から)
【上】ある夏の午後2時頃、東京駅周辺2キロ四方の気温分布。スパコンで計算した。青から黄、赤へと高温になる【下】上図の銀座通りを拡大した様子。大人と子どもの深部体温を示す図は、「SUNNY」が日なた側(左手)、「SHADE」が日陰側(右手)を歩いた場合の予測(いずれも大西研究室のホームページ掲載の動画から)

 都会では、建物や車など人工物からの排熱や反射熱が、相当な量に上る。それが時々刻々変化し、空気や熱が複雑に動く。現在の天気予報に比べると、桁違いに微細なスケールだ。大西さんはそういった「微気象」を捉え、「この道路を歩く時、日なた側と日陰側では熱中症のリスクがどう違うか」といった予測まで可能にする未来を描く。

 現在、2キロ・メートル四方の範囲にわたり、30分後までの気温や風などを5メートル間隔の細かさで予測しようとしている。しかし、物理学や化学の法則に基づいて大気などの変化を予測する「数値シミュレーション」は、この細かさで行うと計算量が膨大になり、スーパーコンピューターで数時間もかかった。無論それでは「30分後の予測」にならない。

 そこで大西さんらは、計算量を減らす工夫に取り組んできた。数値シミュレーションは20メートル間隔の粗い計算にとどめる。そして、「超解像」という人工知能(AI)の技術で、その解像度を5メートル間隔に高める。

 粗い画像から精細な画像を得るなんて魔法のようだが、もちろん科学的な裏付けがある。このAIは、5メートル間隔での計算結果と20メートル間隔での計算結果を多数あらかじめ学習し、「20メートル間隔の計算がこういう結果の時は、5メートル間隔だとこういう画像になる」という関係をつかんであるのだ。

 これにより、5メートル間隔で数値シミュレーションを行うと数時間かかっていた30分後の予測が、1分ほどで済むようになってきた。「事前の学習には高性能のコンピューターが必要だが、予測計算は普通のパソコンでできるようにしたい」という。

ドローンやドライブレコーダーから有用な気象データ

 計算手法と並んで重要なのは、計算に取り込む気象データの収集だ。気象庁が天気予報のために降水や気温などのデータを収集するアメダス観測点は、全国で約20キロ・メートル間隔。これに対し、微気象の予測には数メートルから数十メートル間隔のデータが欲しい。

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