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その深遠な謎の解明に、東北大の常松友美助教(39)が挑む。実験動物のマウスも人間と同じように夢を見ていることをまず確かめ、夢をもたらす仕組みをマウスで解明していこうと考えている。
カギは「PGO波」か…視覚情報と似た伝達経路
睡眠中には、眼球が活発に動く「レム睡眠」という状態の時間がある。レム(REM)はRapid Eye Movement(急速眼球運動)の頭文字だ。現実離れした奇想天外な夢は、このレム睡眠の最中によく見るらしい。
レム睡眠の最中、波形に特徴のある「PGO波」という脳波が現れることが、ネコなどの動物実験で知られている。これが夢に関わるのではないかと、約半世紀前から考えられてきた。
「脳内で視覚の情報が伝わる経路と、PGO波の伝わる経路が似ているんです。視覚の情報は、目の網膜から、脳の中心近くにある『
なるほど、橋で発生した信号を、目からの信号と同じように受け取って「見る」ことにつながるのだとしたら、何となく合点がいく。
「マウスも夢を見る」を証明へ
しかし、PGO波をめぐる研究は長年、あまり進んでいなかった。というのも、PGO波を検出するには脳の中へ電極を入れる必要があり、人間では研究しにくい。一方、代表的な実験動物であるマウスではPGO波の検出例がなかった。
常松さんは2014~17年に留学した英ストラスクライド大で、マウスからの検出に挑んだ。マウスの脳は大豆くらいの大きさで、その中の橋は極めて小さい。そこへ太さ0.1ミリの電極2本を正確に入れる手術は至難の業だ。電極の位置がコンマ数ミリずれると計測できなくなる。同じ研究室の仲間から「クレージー」と言われるほど大量の実験をこなし、PGO波特有の波形を橋で測定することに成功した。
脳の中で記憶に関わる重要な器官「海馬」の活動が、PGO波と連動することも突き止めた。レム睡眠や夢は、記憶の整理や消去に関係するとも言われており、実際、夢の中では過去の記憶がしばしばよみがえる。
脳科学では近年、遺伝子を操作し、特定の神経細胞の活動だけを自在に制御する技術などが発達しているが、実験用のモデル動物であるマウスは、そういった技術を特に適用しやすい。常松さんは「夢を見る時にどのような神経回路が重要な役割を果たすのかを、これから解明していきたい」と語る。
ただ、それはマウスが人間と同じように夢を見ていることが前提となる。その証明が目下の課題だ。人間と違って「いま夢見た?」と尋ねることはできないが、マウスの脳波を測定し、人工知能で活用されている「深層学習」の技術なども駆使すれば確認できると考えている。
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