格子エネルギー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/19 06:56 UTC 版)
格子エネルギー(こうしエネルギー、lattice energy)は結晶格子を構成する原子、分子あるいはイオンが気体状態から固体結晶になるときの凝集エネルギーである。
格子エネルギーは絶対零度における凝集エンタルピー変化ΔH0の負として定義される。金属結晶および分子結晶では絶対零度における昇華熱に相当する[1]。格子エネルギーは特にイオン結晶に関連して論じられることが多い。
- Na+(g) + Cl−(g) → NaCl (s), ΔH0 = −785.53 kJ mol−1[2](格子エネルギー:U = 785.53 kJ mol−1)
格子エネルギーの算出
ボルン・ハーバーサイクルより
イオン結晶の格子エネルギーは、イオン化エネルギー、電子親和力、成分元素の原子化熱、および生成熱からボルン・ハーバーサイクルを用いて求めることができる。塩化カリウムを例に取ると以下のようになる。
カリウムの原子化熱(昇華熱) | K(s) → K(g) | S = 90.14 kJ mol−1 |
塩素の原子化熱(解離熱) | 1/2 Cl2(g) → Cl(g) | 1/2D = 120.00 kJ mol−1 |
カリウムの第一イオン化エネルギー | K(g) → K+(g) + e− | IE = 418.80 kJ mol−1 |
塩素の電子親和力 | Cl(g) + e− → Cl−(g) | −EA = −348.61 kJ mol−1 |
塩化カリウムの生成熱 | K(s) + 1/2 Cl2(g) → KCl(s) | ΔfH0 = −436.43 kJ mol−1 |
塩化カリウムの格子エネルギー | K+(g) + Cl−(g) → KCl(s) | −U = −716.76 kJ mol−1 |
ボルン・ハーバーサイクルに基づくハロゲン化アルカリの格子エネルギーは以下のようになる[2]。格子エネルギーはイオン半径が小さいほど大きく、また電荷が大きいほど大きくなる。格子エネルギーは0 Kにおける値であるが*印のものは298.15 Kにおける値である。しかし温度が異なっても1〜2 kJ mol−1程度の差でしかない。
U / kJ mol−1 | F− | Cl− | Br− | I− |
---|---|---|---|---|
Li+ | LiF 1040.67 | LiCl 858.11 | LiBr *817.93 | LiI 760.6 |
Na+ | NaF 923.74 | NaCl 785.53 | NaBr 750.54 | NaI 702.4 |
K+ | KF 823.75 | KCl 716.76 | KBr 688.78 | KI 647.9 |
Rb+ | RbF *792.41 | RbCl 692.06 | RbBr 666.29 | RbI 630.3 |
Cs+ | CsF 755.47 | CsCl 667.87 | CsBr 645.44 | CsI 611.1 |
ハロゲン化銀の298.15 Kにおける格子エネルギーは以下の通りである[2]。これらについては単純なイオン結合ではなく共有結合の寄与が大きい。
ハロゲン化銀 U / kJ mol−1 | |||
---|---|---|---|
AgF *970.94 | AgCl *915.67 | AgBr *903.03 | AgI *886.57 |
2価陽イオンであるアルカリ土類金属化合物では格子エネルギーは大きくなる[2][3]。*印のものは298.15 Kにおける値である。
U / kJ mol−1 | O2− | F− | Cl− |
---|---|---|---|
Mg2+ | MgO *3760 | MgF2 *3216.5 | MgCl2 2747.21 |
Ca2+ | CaO *3371 | CaF2 *2890.1 | CaCl2 *2488.57 |
Sr2+ | SrO *3197 | SrF2 *2751.45 | SrCl2 *2386.3 |
Ba2+ | BaO *3019 | BaF2 2603.66 | BaCl2 2279.40 |
静電エネルギーに基づく計算
格子エネルギーは結晶格子の静電エネルギーにより理論的に推定することができる[4]。この式は1918年にマックス・ボルン(Max Born)とAlfred Landéにより導出されたものである。 まず、
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