分子雲とは? わかりやすく解説

ぶんし‐うん【分子雲】

読み方:ぶんしうん

星間空間存在する低温高密度のガス雲主成分水素分子のほか、一酸化炭素一硫化炭素アンモニアシアン化水素エチルアルコールなどを含む。センチ波からサブミリ波にかけての電波観測によって確認された。星間分子雲分子ガス雲


分子雲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/03 08:19 UTC 版)

分子雲[1] (molecular cloud[1]) または星間分子雲[2] (interstellar molecular cloud[1]) は、主に水素分子 (H2) からなる星間ガス雲のこと。分子雲の中でも特に密度の濃い分子雲コアは星が誕生する母体となる[3]


観測方法

分子雲は10 K程度の低温であり、主成分である水素分子は電磁波を放射できない。そのため、分子雲の研究には水素分子やヘリウムについで存在量が大きい一酸化炭素分子 (CO) が使われることが多い[4]。他の銀河ではともかく、天の川銀河内ではCOの光度とH2の質量の比は一定と想定されている[5]

起源

バーナード68英語版

銀河系では、分子ガスは星間物質全体の体積の1%以下であるが、太陽系の軌道の内側にある質量の約半分を占めるほど、密度が高い領域である。分子ガスの塊は銀河系の中心から3.5-7.5キロパーセクの距離に環状に広がっている(太陽系は銀河系の中心から約8.5キロパーセクである)[6]。銀河系の一酸化炭素の大規模なマップを見ると、ガスは銀河の渦状腕に沿って分布していることが分かる[7]。分子ガスの大部分は銀河の渦状腕にあるため、分子雲は渦状腕を通過する時間である1000万年の間に形成されるとする説がある[8]

分子雲は銀河のディスクから垂直方向に約50-75パーセクの範囲に広がっており、特徴的なスケールハイトを持つ。これは、熱原子の130-400パーセク、熱イオンの1000パーセクと比べても狭い範囲である[9]

分子雲の分布は長距離的に見ると平均的であるが、詳しく見ると非常に不規則である[6]

太陽近傍の分子雲は非常に大きく見えるため、星座の一部分を覆い、オリオン座分子雲やおうし座分子雲のようにその星座の名前で呼ばれることがある。これらの分子雲は、グールド・ベルトと呼ばれる環状の構造に配置されている[10]。銀河中心の周りには半径約200~300パーセクの分子ガスの環があり、この中にはいて座B2と呼ばれる巨大分子雲複合体がある。いて座B2は化学種が豊富で、天文学者が新しい星間分子を探す対象の領域となっている[11]

分子雲のタイプ

暗黒星雲

104太陽質量 (M) 未満の質量の分子雲を暗黒星雲と呼ぶ[12][注釈 1]。暗黒星雲では1M程度かそれ以下の小質量星のみが形成される[13]

巨大分子雲

104M以上の質量を持つ分子雲を巨大分子雲 (giant molecular clouds) と呼ぶ[14]。巨大分子雲では、小質量星だけでなく数Mから数十Mの質量を持つ中質量星~大質量星も形成される[12]

分子雲コア

分子雲は、繊維状、シート状、泡状、不規則な塊状などの複雑な内部構造を持つ[8]。その中で密度が大きい塊は「分子雲コア (molecular cloud core, dense molecular core) 」と呼ばれる。分子雲コアの温度は10K程度、直径0.1pc程度で質量は10太陽質量程度。水素分子密度は1万~100万個cm−3。分子雲コアにある高密度の塵は、背景からの恒星の光を遮り、暗黒星雲と呼ばれるシルエットのように見える[15]

グロビュール

周辺の分子雲から孤立した小型の分子雲はグロビュール (globule) と呼ばれる[12]。中でも10~102Mほどの質量を持つ大型のものはボック・グロビュールと呼ばれ、内部で星形成をするものもある[12]

高緯度拡散分子雲

1984年、IRASは新しいタイプの拡散した分子雲を発見した[16]。これらは銀河座標の高緯度領域に繊維状に分布した分子雲で、水素分子密度は約30個cm−3である[17]

過程

星形成

ケフェウス座Bの分子雲の中や回りには若い恒星がある。

星形成は分子雲でのみ起こると信じられている。これは低い温度と高い密度の結果、分子雲を崩壊させる重力が内部からの圧力を上回ることで起きる。また観測の結果、分子雲は空ののように外部からの圧力によってまとまっているのではなく、恒星や惑星、銀河のように自身の重力の影響の方が大きいことが明らかになった。

分子雲では、数100万~数1000万年にわって星が作り続けられるとされる。[18]

物理学

分子雲の物理学についてはまだ分かっていないことが多く、議論の最中にある。内部の運動は、冷たく磁性を持ったガスの乱流に支配される。乱流の速度は超音速で磁場の撹乱の速度と匹敵し、この状態は急速にエネルギーを失って、エネルギーの再注入がなければ完全に崩壊すると考えられている。同時に、分子雲はその質量が恒星になる前に、例えば巨大な恒星の質量の影響等によって崩壊させられることがあることも知られている。

特に巨大分子雲は、しばしば内部にメーザーを含むことがある。

脚注

注釈

  1. ^ 「可視光で暗く見える星雲」という意味での暗黒星雲とは必ずしも一致しない[12]

出典

  1. ^ a b c 分子雲”. 天文学辞典. 日本天文学会 (2018年3月9日). 2019年4月9日閲覧。
  2. ^ 星間分子雲”. 天文学辞典. 日本天文学会 (2018年3月12日). 2019年4月9日閲覧。
  3. ^ 土橋一仁 2008, p. 41.
  4. ^ 土橋一仁 2008, p. 39.
  5. ^ Craig Kulesa. “Overview: Molecular Astrophysics and Star Formation”. Research Projects. 2019年4月9日閲覧。
  6. ^ a b Ferrière, Katia M. (2001). “The interstellar environment of our galaxy”. Reviews of Modern Physics 73 (4): 1031-1066. arXiv:astro-ph/0106359. Bibcode2001RvMP...73.1031F. doi:10.1103/RevModPhys.73.1031. ISSN 0034-6861. 
  7. ^ Dame, T. M.; Ungerechts, H.; Cohen, R. S.; de Geus, E. J.; Grenier, I. A.; May, J.; Murphy, D. C.; Nyman, L.-A. et al. (1987). “A composite CO survey of the entire Milky Way”. The Astrophysical Journal 322: 706. doi:10.1086/165766. ISSN 0004-637X. 
  8. ^ a b Williams, J. P.; Blitz, L.; McKee, C. F. (2000). "The Structure and Evolution of Molecular Clouds: from Clumps to Cores to the IMF". Protostars and Planets IV. Tucson: University of Arizona Press. p. 97. arXiv:astro-ph/9902246. Bibcode:2000prpl.conf...97W
  9. ^ Cox, Donald P. (2005). “The Three-Phase Interstellar Medium Revisited”. Annual Review of Astronomy and Astrophysics 43 (1): 337-385. doi:10.1146/annurev.astro.43.072103.150615. ISSN 0066-4146. 
  10. ^ Grenier, Isabelle A. (2004). "The Gould Belt, star formation, and the local interstellar medium". The Young Local Universe. arXiv:astro-ph/0409096. Bibcode:2004astro.ph..9096G
  11. ^ Sagittarius B2 and its Line of Sight Archived 2007年3月12日, at the Wayback Machine.
  12. ^ a b c d e 土橋一仁 2008, p. 42.
  13. ^ 土橋一仁 2009, p. 42.
  14. ^ 土橋一仁 2008, pp. 41–42.
  15. ^ Di Francesco, J.,; et al. (2006). "An Observational Perspective of Low-Mass Dense Cores I: Internal Physical and Chemical Properties". Protostars and Planets V.
  16. ^ Low, F. J. et al. (1984). “Infrared cirrus - New components of the extended infrared emission”. The Astrophysical Journal 278: L19. Bibcode1984ApJ...278L..19L. doi:10.1086/184213. ISSN 0004-637X. 
  17. ^ Gillmon, Kristen et al. (2006). “Molecular Hydrogen in Infrared Cirrus”. The Astrophysical Journal 636 (2): 908-915. arXiv:astro-ph/0507587. Bibcode2006ApJ...636..908G. doi:10.1086/498055. ISSN 0004-637X. 
  18. ^ 「徹底図解 宇宙のしくみ」、新星出版社、2006年、p107

参考文献

  • 土橋一仁 著「第3章 分子雲」、福井康雄・犬塚修一郎・大西利和・中井直正・舞原俊憲・水野亮 編『星間物質と星形成』(初版第1刷)〈シリーズ現代の天文学 6〉、2008年9月15日。ISBN 978-4-535-60726-2 

分子雲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/20 04:59 UTC 版)

へびつかい座ロー星」の記事における「分子雲」の解説

へびつかい座ρ星の周りには、大きな分子雲が広がっている。この分は、へびつかい座ρ分子雲と呼ばれており、この分の詳しい科学観測始まった時、観測基準としてへびつかい座ρ星が参照されことによるへびつかい座ρ分子雲は、ガスと塵でからできている星雲で、へびつかい座ρ星もまた、その分中に埋もれている。太陽系から特に近い星形成領域一つであり、赤緯からして南北どちらの半球からでも観測できるので、全天でも特に観測容易な星形成領域となっている。 へびつかい座ρ星は、その周囲ガスや塵が豊富にあるため、それによって恒星からの光が吸収散乱され恒星本来の明るさよりも暗くなってみえる。どの程度暗くなるかを表す指標となる星間減光AV)は、へびつかい座ρ星系においては1.40等級から1.50等級測定されている。また、ガスや塵は、波長の短い光をより散乱しやすいので、大量ガス塵の中透過してきた光は、実際よりも赤く見える。この星間赤化指標となる色指数EB-V)は、へびつかい座ρ星系では概ね0.44から0.47である。

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「分子雲」を含む「へびつかい座ロー星」の記事については、「へびつかい座ロー星」の概要を参照ください。

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