日産ノート オーラAUTECHスポーツスペック プロトタイプ(FWD)
懐の深い爽快スポーティー 2024.12.19 試乗記 増殖を続ける「日産ノート」ファミリーに、今度は「ノート オーラAUTECHスポーツスペック」が登場。専用チューンで走りの質感を鍛え上げたスポーティーなコンパクトハッチバックだ。日産のテストコースでプロトタイプモデルをドライブした。茅ヶ崎生まれのコンパクトカー
「セレナ」に続き、湘南発のスペシャルモデルが登場した。ノート オーラAUTECHスポーツスペックは、茅ヶ崎を本拠地とするAUTECHの手が入れられている。日産車のカスタマイズを手がける日産モータースポーツ&カスタマイズは、NISMOとAUTECHの2つのブランドを持つ。モータースポーツをルーツとするNISMOに対し、AUTECHはもともと特装部門で、「プレミアムスポーティー」がコンセプトだ。
2024年6月のマイナーチェンジで「オーラAUTECH」がラインナップされていたが、これは内外装に独自装備を採用したもの。スポーツスペックはそれに加えてパフォーマンスチューンが施されている。シャシーやパワートレインなどをカスタマイズし、「蒼海(そうかい)の息吹をまとった上質な爽快ドライブコンパクト」に仕立てたという。ちょっとダジャレが入っているのが気になるが、要するにプレミアムスポーティーコンパクトカーということだろう。
ドットパターンのフロントグリルは、AUTECH車共通の意匠だ。「海面のエレガントなきらめき」を表現したということで、湘南ブランドをアピールしている。シグネチャーLEDランプは「クルーザーの衝撃波」、メタル調フィニッシュパーツは「波打ち際に光る白波の勢いと美しさ」ということで、湘南イメージがめじろ押しだ。
ロゴステッチなどがブルーなのは、AUTECHのアイコニックカラーだからである。NISMOのレッドと好対照で分かりやすい。ボディーカラーもブルーが人気だそうだが、試乗車は「サンライズカッパー」というオレンジ色。湘南の朝日を表現しているとも受け取れるが、これはAUTECH専用色ではない。空の映り込みが映えて、これもオーラに似合う色だと感じた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ノーマルでもスポーティー
エンジンやモーターはベースモデルと変わらない。専用のビークルコントロールモジュール(VCM)を使い、加速性能を向上させている。ドライブモードが「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の3種というのは同じだが、中身はまったく違う。AUTECHスポーツスペックのノーマルは、アクセルレスポンスがベースモデルのスポーツを上回る。
試乗したのは、日産の追浜工場に併設されたグランドライブで。公道の道路状況を再現した周回テストコースだ。まずはドライブモードでエコを選び、ゆっくりと走ってみる。車内が静かなのは、オーラがもともと持っている美点である。AUTECHモデルには特別な遮音装備が採用されているわけではないが、エンジンがかかっても静粛性は上々だ。コースの速度表示のままに走る限りでは、力不足感はなかった。ベースモデルのノーマルに近い設定なのだから当然である。
ノーマルに変えると確かにレスポンスが向上する。コース内の最高速度となっている100km/hのパートで素早くスピードを上げようとすると、エコのままでは少々もどかしい。スポーツを選ぶとさらに鋭さが増すが、荒々しい加速というほどではなかった。節度を失うことなく、上品さを保って走行する。アップダウンのあるタイトなコーナーも設定されていて、リズミカルに走るにはやはりスポーツモードがいい。
スポーティーな運転を楽しむにはちょうどいい仕立てである。これがAUTECHらしさなのだ。以前、もっと突出したスポーツ性能を持つオーラに試乗したことがある。「オーラNISMOチューンドe-POWER 4WD」だ。マイナーチェンジで新たに設定されたグレードで、ノート オーラNISMOとしては初の4WDである。最高出力82PS、最大トルク150N・mのリアモーターを備えるパワフルなモデルだ。
控えめながら高性能
目の覚めるような走りということでは、やはりNISMOに分がある。優劣の話ではなく、求めるものが違うのだ。NISMOは「速さと高揚感」、AUTECHは「上質さと爽快感」を掲げており、異なる性格を持たせている。AUTECHスポーツスペックは操縦性と制動はNISMOに譲るが、加速感は同等で、静粛性、安定性、乗り心地は上回るという説明である。オーラNISMOの試乗会ではパイロンスラロームが用意されていたのに今回なかったのは、クルマのキャラクターが違うからだ。
NISMOはスポーツ性能に秀でているが、乗り心地や安心感などではネガもあるのは事実だ。AUTECHはコーナリングでの限界性能よりマイルドなコントロール性を追求し、高速道路での安定性を重視している。見た目に関しても違いは明らかだ。オーラNISMOのエクステリアは赤の差し色がビビッドで、スタイリッシュではあるが目立ちすぎるきらいがある。閑静な住宅街で上品な奥さまが乗るのは気後れしてしまいそうだ。
オーラAUTECHはベースモデルよりも20mmローダウンされているが、ぱっと見では気づかない。リアには大型スポイラーが装着されているものの、これ見よがしな形状ではないから人目を引くことはないはずだ。控えめに見せながら内に高性能を秘めるというのがAUTECHの流儀である。
乗り心地に硬さがあることは否定できないが、不快ではなかった。スプリングやダンパーは専用のチューニングになっていて、足を引き締めている。それによってコーナリング性能を高めているわけだが、突起乗り越しショックはベースモデルよりもむしろ少なくなっているそうだ。プレミアムスポーティーをうたっている以上、そこは妥協できないポイントである。ヤマハの「パフォーマンスダンパー」を採用していることも、上質な乗り味に結びついているのかもしれない。
難波靖治と櫻井眞一郎
車高を高めた「ノートAUTECHクロスオーバー」もあり、ノートシリーズにはAUTECHとNISMOの名を持つモデルが4種類も用意されていることになる。バリエーションが広がるのは売れ筋であることの証明だ。そして、カスタマイズ部門を2つ有していることのメリットが最大限に生かされている。
NISMOは1984年に誕生しており、初代社長は1958年にオーストラリア一周ラリーに出場して「ダットサン210」でクラス優勝を遂げた難波靖治である。日産モータースポーツの礎を築いたレジェンドだ。AUTECHは2年遅れて1986年に発足し、「スカイラインの父」こと櫻井眞一郎が社長に就任した。こちらはプリンスの系列ということになるわけだ。
2つの部門が2022年に日産モータースポーツ&カスタマイズとして統合され、同じ会社となった。同じエンジニアが両方のブランドを担当しており、競合関係にはなっていない。コストダウンのために部品を共通化しながら製品の差別化を図れるのは、この体制がうまく機能しているということだろう。ほとんどの自動車メーカーが1つのカスタマイズ部門しか持たないなかで、これは大きなアドバンテージとなる。
オーラAUTECHスポーツスペックは、ほどよいチューニングのドライバーズカーであり、ファミリーユースとしても使える懐の深さを持つ。歴史をたどると、AUTECHスポーツスペックのオリジンとされるのは2003年の「マーチ12SR」だという。エンジンをライトチューンして高回転型にしたモデルで、5段MTで操るのが楽しかったことを覚えている。その伝統が今も受け継がれていることをことほぎたい。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
日産ノート オーラAUTECHスポーツスペック プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4085×1735×1525mm
ホイールベース:2580mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:82PS(60kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/4800rpm
モーター最高出力:136PS(100kW)/3183-8500rpm
モーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/0-3183rpm
タイヤ:(前)205/50R17 95W/(後)205/50R17 95W(ミシュランeプライマシー)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
フォルクスワーゲン・パサートeHybridエレガンス(FF/6AT)【試乗記】 2024.12.18 フォルクスワーゲンの世界的な大黒柱である「パサート」が、9代目にフルモデルチェンジ。新世代のプラットフォームを得た基幹車種の仕上がりを、プラグインハイブリッド車の「eHybridエレガンス」で確かめた。
-
フィアット600eラプリマ(FWD)【試乗記】 2024.12.17 「フィアット600e」は愛らしいスタイリングで人気を集めるかもしれないが、多くのブランドを抱えるステランティスグループならではのジレンマがそこかしこに感じられる。デザインはまぎれもなくフィアット、ではそれ以外の個性をどこに見いだせばいいのだろうか。
-
トライアンフ・スピードツイン1200(6MT)/スピードツイン1200RS(6MT)【海外試乗記】 2024.12.16 英国の伝統的ブランド、トライアンフから「スピードツイン1200」の大幅改良モデルが登場。5年ぶりのマイナーチェンジで“走りのネオクラシック”はどのように進化したのか? スペイン・マヨルカ島で開催された国際試乗会から、ケニー佐川がリポートする。
-
マツダCX-80 XD Lパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2024.12.14 エンジン縦置きの「ラージプラットフォーム」を用いた、マツダの新しい3列シートフラッグシップSUV「CX-80」に試乗。先に登場した2列シートSUV「CX-60」との違いと、ハイブリッド機構をもたない3.3リッター直6ディーゼルエンジンの走りや燃費を確かめた。
-
BMW M440i xDriveカブリオレ(4WD/8AT)【試乗記】 2024.12.11 「BMW 4シリーズ カブリオレ」のマイナーチェンジモデルが登場。ただでさえカッコいい4座のオープントップだが、この「M440i xDrive」は泣く子も黙るストレートシックス搭載モデルだ。ぜいたくなボディーとぜいたくなエンジンの印象をリポートする。
-
NEW
ヒョンデ・アイオニック5ラウンジAWD(4WD)【試乗記】
2024.12.21試乗記「ヒョンデ・アイオニック5」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。「お客さまからの貴重なフィードバックを反映」したというだけあって、デザインの変更はそこそこながら、機能面では大きな進化を果たしている。ロングドライブの印象をリポートする。 -
新しい趣味にモータースポーツはいかが? マツダ主催のジムカーナ走行会に参加して
2024.12.20デイリーコラムwebCG編集部員が、マツダとズミックスプランニングが主催する「MAZDA SPIRIT RACING GYMKHANA EXPERIENCE」に挑戦! 自他ともに認める“万年ビギナー”が語る、モータースポーツの楽しさとは? イベントの様子とともにお届けする。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――MINIクーパー3ドアSE編
2024.12.19webCG Movies新世代の「MINIクーパー3ドア」には、中核モデルとしてEVバージョンがラインナップされている。EVに関心の高いレーシングドライバー山野哲也は、その走りをどのように評価するのだろうか? -
日産ノート オーラAUTECHスポーツスペック プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2024.12.19試乗記増殖を続ける「日産ノート」ファミリーに、今度は「ノート オーラAUTECHスポーツスペック」が登場。専用チューンで走りの質感を鍛え上げたスポーティーなコンパクトハッチバックだ。日産のテストコースでプロトタイプモデルをドライブした。 -
「308 GTハイブリッド」と「3008 GTハイブリッド4」の特性の違いを明らかにする
2024.12.19プジョーのPHEVはひと味違う<AD>プジョーの中核モデル「308」と「3008」では、どちらもプラグインハイブリッドモデルが選べる。電気の力は生活の幅を広げてくれるばかりか、プジョー伝統の走りのよさも一段上のステージに上げてくれるのだ。スポーツカーにもサルーンにもなる。それがプジョーのPHEVである。 -
webCG×DEFENDER Special Site |比類なきプレミアムクロスカントリーモデル「ディフェンダー」の魅力に迫る
2024.12.19DEFENDER Special Site<AD>あらゆる地形をものともしない世界屈指の走破性とタフな機能美が極まったデザイン、そしてどんなシーンでも頼れる日常性。1948年に登場し、綿々と進化を続けてきたプレミアムクロスカントリーモデル「ディフェンダー」が持つ“特別”に迫る。