イオンのベトナム戦略3/小型スーパー「シティマート」で都市部の中間層・若年層を狙う
2024年10月18日 10:00 / 流通最前線トレンド&マーケティング
イオングループはベトナムのスーパーマーケット市場において、小型スーパーマーケット(以下:SM)「Citimart(シティマート)」で攻勢をかける。シティマートを運営するDong Hung Integration Development Company Limitedの岩下良社長は「近い、安い、生鮮の品ぞろえに加え、デリカ・ベーカリーの充実、アプリ・ポイントの共通化などイオン経済圏で他社と差別化を図り、増え続ける若年層・中間所得層のマーケットを狙う」と話す。
「シティマート」は、1994年8月9日、ベトナム初の民間スーパーマーケット企業として、「Hoa Family」により設立された。2015年1月にイオンと資本・業務提携。従来は、衣料、住居余暇などの商品もそろうGMSだったが、現在は小型SMとして巻き返しを図っている。
2023年12月期の業績は、営業収益約30億円。店舗数は2024年9月末で13店舗(売り場面積150~900m2)、約270人の従業員が働いている。
ベトナムの小売市場は、個人商店やローカルマーケットで購入するトラディショナルトレードが一般的で、2018年のJETROのリポートによると、トラディショナルトレード8割、スーパーマーケットなどモダントレードは2割程度だと言われている。ローカルマーケットでは、生活者らがバイクで店先に乗り付け、商店主と現金でやり取りし、購入しているのが現状だ。
ただ、日本総合研究所の2015年度アジア主要都市コンシューマインサイト比較調査 によると、ベトナムの都市部における共働き率はハノイ99%、ホーチミン98%だという。2021年国際労働機関(ILO)ベトナムのリポートでは、女性の労働力率は世界平均が47.2%、アジア太平洋の平均が43.9%であるのに対し、ベトナム女性の労働力率は70%を上回っていることが報告されている。
女性の就業者は、家族経営の商店などで働いているケースが多い。労働市場における男女不平等などもあるものの、女性の社会進出や核家族化が進めば、朝5時位から営業を始め、15時頃には店を閉めてしまうローカルマーケットでは、生活者は買い物しづらくなる。
そこで、イオングループは、日本の「まいばすけっと」と同じく、都市部の生活者の住まいに近く、ワンストップショッピングが可能で、投資規模も大型店舗に比べ抑えられる、小型SMに商機があるとみている。
ただ、現在のベトナムでは、都市部への人口集中、不動産賃料の高騰、生活者のライフスタイルの変化に伴い、小型SM(約500m2以下)やコンビニエンスストアが増え続けている。競合ではWinmart(ウィンマート、約3600店舗、売り場面積100~200m2)、Bach hoa XANH(バックホアサイン、約1700店舗、同300~500m2)が、低価格の生鮮など価格競争力を武器に大きな市場シェアを持つ。
また、ヤオコーが今年4月に、食品スーパーマーケットを運営するGreen Sky Investment and Development Company Limited(以下:GS社)の完全親会社であるSOPHIE INVESTMENT JOINT STOCK COMPANYに出資することを発表した。GS社への人材派遣などを通じて、GS社によるベトナムでの食品スーパーマーケット・総菜外販事業の運営を支援するという。GS社はSM「3 sach(バーサック)」をホーチミンに9店舗運営しており、デリカ・ベーカリーに強みを持つ同社の存在も意識しているという。
このように競争環境の厳しい中、「シティマート」は、ベトナム都市部の小型SM市場にない、生鮮食品に加えてデリカ・ベーカリーが充実した小型SM業態を他社に先駆けて確立することで、成長を目指す。店舗面積200~250m2規模で、新たな事業モデルを確立する計画。
価格強化による中間所得層、デリカ・ベーカリー拡大による富裕層・若年層の獲得という、モデル店に最も近い店舗と位置付ける「サマセット店」では、生鮮・日配など加え、デリカ、ベーカリー、トップバリュ商品を充実させている。
デリカは自社プロセスセンター(以下:PC)で調理。一部商品は現在、イオンモールタンフーセラドン内のGMS「イオン」から配達している。
岩下社長は「現在のCitimartは、生鮮が中心で家庭の主婦層などがメインターゲット。しかし、ベトナム人は平均年齢約31歳で、中間層が拡大しており、デリカ・ベーカリー強化でこの層を取っていく。また、価格競争力のある商品を用意し、客層の拡大も図る。デリカのPC活用で店舗のバックヤード業務を減らし、店舗運営の効率化を図る」と説明している。
出店エリアは、ホーチミン周辺でドミナントを強化する。現在、ホーチミン市中心部の1区・7区を中心に店舗を構えている。従来は、外国人向けレジデンスなどの1階にテナントとして入居し、ミドルハイクラスの顧客を狙っていた。
しかし、同地区は、不動産賃料高騰、他社との競争も激化しているエリアのため、今後はタンソンニャット空港からホーチミン市中心部までに存在する、人口密集地帯のロードサイドに出店を広げたい考え。
岩下社長は、「ベトナム小型SM市場にまだない、都市部の生活に欠かせない店舗を他社に先駆けて実現する。イオンベトナムのECの店舗受け取りなども実施したい。今後グループの共通アプリで顧客利便性を向上させ、OMOを実現。顧客の生活に最も近い店舗として役割を果たしていく」と意気込みを語った。
取材・執筆 鹿野島智子
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- ベトナム基礎知識(出典:外務省、JETRO HP)
- 首都:ハノイ
- 面積:32万9241平方キロメートル
- 人口(2023年、越統計総局):約1億30万人
- 平均年齢:約31歳(2021年)
- 民族:キン族(越人)約86%、他に53の少数民族
- 言語:ベトナム語
- 宗教:仏教、カトリック、カオダイ教など
- 主要産業:農林水産業(GDPに占める割合11.96%)、鉱工業・建築業(同37.12%)、サービス業(同42.54%)
- GDP(2023年、越統計総局):約4300億米ドル(1京222兆ドン)
- 一人当たりGDP(2023年、越統計総局):4285米ドル(1億190万ドン)
- 経済成長率(2023年、年平均、越統計総局):5.05%
- 物価上昇率(2023年、年平均、越統計総局):3.25%
- 日本からの投資(2023年、越計画投資省):65.7億ドル(認可額、株式投資を含む)
- 在留邦人数(外務省海外在留邦人数調査統計):1万8949人(2023年10月現在)
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