現代の企業にとって、「クリエイティビティ」つまり創造性は競争の結果を左右する重大な要素だ。情報技術が発展し製品やビジネスモデルの模倣が容易な時代において、イノベーションを生む画期的なアイデアが無ければ競合との差別化が難しいためである。
それでは、そもそも企業にとって創造性とは何だろうか。または、ある企業の創造性の高さをどのように測定すればよいだろうか。
本書『Ideaflow』(アイデアフロー)はこの問いに対して非常にシンプルな答えを提示する。創造性とは、アイデアの「量」だという。ある課題に対してある時間内に人や組織が生み出したアイデアのボリューム、それが創造性を測る指標である。そしてより多くのアイデアを出すほど、より質の良いアイデアにたどり着ける。「量が質を決める」(Quantity drives quality)のである。
著者のペリー・クレバーンは、スタンフォード大学の経営者向け教育機関であるHasso Plattner Institute of Design、通称「d.school」の教授である。起業家、プロダクト・デザイナー、経営者として20年以上の経験を有しており、d.schoolのスタートアップ養成コースであるLaunchpadの創設メンバーとして、多数の企業の設立にも関わっている。共著者であるジェレミー・アトレーもd.schoolで教職に就いている。
全ての課題は「アイデア」の課題である
創造性と聞くと、アーティストやデザイナー、企画職といった特定の人間にだけ関連する能力と思われるかもしれない。しかし、本書が定義する創造性はもっと広い概念である。オハイオ州のある中学教師が語ったという創造性の定義を援用しながら、「創造性とは、最初に頭に浮かんだ以上の何かをする事」と本書は定義する。言い換えるならば、十分に良いと思える最初の考えが生まれた後も、別のアイデアを生み出し続ける能力が創造性であるとも言える。
こう定義するならば、創造性とは、何かしらの課題を解かねばならない全ての人にとって必要な能力だ。創造性とは課題解決の技術であり、絵画や詩を書くときにだけ必要となる能力ではなく、例えば企業買収の交渉を行うときや、たった一本の重要なメールを書くときにも必要となる。創造性とは複式簿記と同じくらいビジネスの根幹をなす実務的な能力であり、他のあらゆる努力の成果を拡大させるものである、と本書は述べる。
そして、ある課題をどう解決するかが既に分かっているのであれば、それはもう「課題」ではない。単なる「タスク」であり、必要な時間とリソースを割り当てれば完了できるものなのである。課題とは、解決するための「アイデア」を必要とするものなのだ。クレバーンとアトレーは「全ての課題はアイデアの課題である」と述べる。
2000のアイデアを生み出す「アイデアフロー」
そして本書は、組織が一定の時間で生み出すアイデアの総量を「アイデアフロー」と定義して、これが組織の創造性を測る唯一の重要な指標であると唱える。
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