老化が一気に進む年齢は? 2024年の不思議で身近な「科学ニュース10選」

執筆者:五十嵐杏南 2024年12月26日
タグ: 宇宙 AI 野生生物
(C)Valentina R./stock.adobe.com
「火星で、月で、水を探せ」「ゾウが呼び合う“名前的”なもの」「人口培養肉がちょっとおいしく」「老化が一気に進む年齢は?」など、10のニュースをピックアップ。不思議で身近な科学で振り返る2024年。

 2024年は去年に引き続き、AI(人工知能)の発展や、実社会への浸透に関するニュースが話題となった。同時に、月や火星探索に関するニュースも多く、各国の宇宙競争の激化が目立つ。まさしく、宇宙開発の新時代に立ち会っていると実感する。

 まずは「インパクト大」のビッグニュースを紹介したい。

人工知能がタンパク質構造を予測

 タンパク質は、アミノ酸と呼ばれる分子がビーズのネックレスのように連なり、さまざまな形に折りたたまれ立体構造をとることで独特の機能を持つようになる。タンパク質の折りたたまれ方を理解することで、タンパク質の異常が原因で発症する病気の理解が深まったり、医薬品の開発を大幅に効率化したりできる可能性がある。

 これまで、タンパク質の構造解明は主に高性能な顕微鏡やX線の結晶構造解析などで地道に行われていた。だが、Google DeepMind社が開発したAIツールのAlphaFoldでは、何カ月もかけてタンパク質の構造を解明していたのが、ものの数分で予測できるようになった。データベースには、2億種類以上のタンパク質の立体構造が予測されている。AlphaFoldの開発を牽引したデミス・ハサビスとジョン・M・ジャンパーは、今年のノーベル化学賞を受賞した。

 AlphaFoldは「アミノ酸の並び方さえ決まればタンパク質の立体構造も決まる」という考え方を前提に、すでに解明されているタンパク質の構造を学習した結果から構造を予測する。最新版のAlphaFold 3はタンパク質が他の分子と結合した複合体の構造も予測でき、タンパク質が薬剤と結合したときの構造の予測など、創薬に向けて新たな可能性を開いている。AlphaFold 3はオープンソース化され、誰もが非営利目的で使える。

囲碁の井山裕太三冠と記念対局するGoogle DeepMind社CEOのハサビス博士(左)[2024年11月21日、東京都千代田区](C)時事

火星の地下深くに、大量の水が眠る可能性

 火星にはかつて、川や湖、そして海などの液体の水があったと考えられている。だが、その水は、どこへ消えたのか。今年8月には、火星の地下に大量の液体の水が眠っている可能性が浮上してきた。

 研究チームは、NASA(米航空宇宙局)の火星探査着陸機「インサイト」が観測した地震波の速度や、深さによる速度の変化を分析。地震波の速度は、岩石の構成、亀裂の有無、亀裂に詰まっているものにより変化するのだ。さらに重力の測定値や岩石物理学的モデルを組み合わせたところ、地殻の中間部の岩石に亀裂があり、亀裂が液体の水で満たされているという説明が最も合理的だという。火星の地表から約11.5~20キロに眠っていると考えられ、亀裂からすべての水を抽出した場合、火星全体を覆う1〜2キロの深さの海の水量に相当する。

 地下に液体の水があるならば、生命が生きられる環境が火星に今現在あることも考えられる。また、人類が火星に長期滞在するのならば、水は重要な資源となる。

「インサイト」が活動停止前に撮影した最後の画像の1つ。火星の地表に地震計が設置されている[2022年12月11日撮影](C)NASA/JPL-Caltech

JAXAの月探査機SLIMが月面着陸に成功

 日本では、今年の初めにJAXA(宇宙航空研究開発機構)の無人探査機「SLIM」が月面着陸に成功した。月面着陸は日本では初めてのことで、旧ソ連、アメリカ、中国、インドに続き着陸国の仲間入りを果たした。

 SLIMの主な目的は、目標地点から100メートル圏内に着陸する「ピンポイント着陸」を実証することだった。従来では目標地点から数キロメートルの範囲が標準的だが、正確にターゲット地点へ着陸する技術は今後の月惑星探索のカギとなる。そのような中、SLIMはターゲットから55メートル離れた地点で着陸し、史上最も正確な着陸となった。

カテゴリ: 医療・サイエンス
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執筆者プロフィール
五十嵐杏南(いからしあんな) サイエンスライター。カナダのトロント大学進化生態学・心理学専攻(学士)。英国のインペリアルカレッジロンドンサイエンスコミュニケーション専攻(修士)。幼少期アメリカで触れた大自然や野生動物の姿が印象に残り、大学では生物多様性や環境保全について学んだ。一般市民の関心を掴む面で環境保全に貢献したいと思うようになり、科学コミュニケーションを始めるべく沖縄科学技術大学院大学へ。その後、大学院で学ぶ傍らNHK Cosmomedia EuropeやBBCでフリーランスのリサーチャーを経て、京都大学企画・情報部広報課 国際広報室の広報官を務めた。2016年11月から英文サイエンスライターとして活動。著書に『生き物たちよ、なんでそうなった!?: ふしぎな生存戦略の謎を解く』(笠間書院/2022年)、『ヘンな科学 “イグノーベル賞" 研究40講』(総合法令出版/2020年)がある。近刊は『世界のヘンな研究 世界のトンデモ学問19選』(中央公論新社/2023年)
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