石破茂首相が掲げる「防災省」構想への第一歩となる「防災庁」の設置準備室が11月1日、内閣府に設置された。10月の衆院選で少数与党に転落した政権にとって前途多難な船出となったが、そもそも「防災省」が政権内部で俎上に乗るのは初めてではない。「国難」とも言われる南海トラフ巨大地震や首都直下地震などが懸念される中で、防災行政の強化は国民的支持を得られるテーマだが、残念ながら今回も「防災省」が実現する見通しは立っていない。
与野党とも防災行政の強化には前向き
「今まさに皆さんは、我が国の災害対策が新たなステージに立つ、時代の転換点に立ち会っていただいております」(石破首相)
「もうほとんど政治家人生のかなりの部分をかけてこれ(防災)をやってきた。そういう思いがこもった防災庁であります。国民に顔向けができるように、南海トラフ巨大地震が起きたとき、やれることをやったと本当に言えるかということを全力で追求していただきたい」(防災庁設置準備担当の赤澤亮正経済再生担当相)
防災庁設置準備室が発足した際、石破氏と最側近の赤沢氏は準備室の職員を前にこう力説した。長らく自民党内で非主流派に甘んじてきた2人にとって、やっと日の目を見た「防災省」構想の前身となる「防災庁」設置は、それほど思い入れのある政策だったに違いない。
石破首相は9月の自民党総裁選で、頻発化・激甚化する自然災害に対処するため、令和8(2026)年度中に「防災庁」を創設し、専任閣僚を置いた上で「防災省」への昇格を検討すると主張していた。「防災庁」は現在の内閣府防災部門(通称・内防)の人員と予算を強化し、災害対応の司令塔として機能することとしている。
日本の防災行政は1995年の阪神・淡路大震災から本格化したと言えるが、1000年に1度規模の巨大津波に襲われた2011年の東日本大震災でも犠牲者約1万8000人の被害が出た。水害も頻発化している。15年の関東・東北豪雨、16年の岩手県岩泉町の台風災害、17年の九州北部豪雨、18年の西日本豪雨と、名前が付くような災害がほぼ毎年のように発生している。
さらに今後、30年以内の発生確率が7~8割ともされる南海トラフ地震が起きれば、震度7の揺れや10メートルを超える大津波が太平洋沿岸を襲い、最悪の想定で死者32万人超、経済被害は220兆円超。首都直下地震では死者約2万3000人、経済被害約95兆円に達し、首都機能はマヒする。北海道・東北地方の太平洋岸を襲う日本海溝・千島海溝沿い地震も冬の発生という最悪ケースで死者最大19万9000人(日本海溝地震)が想定される。南海トラフ地震と連動する恐れもあり、首都圏に大きな被害を与える富士山噴火も無視できない。防災行政の強化は待ったなしの状況にあり、衆院選でも与野党が一定の主張を展開していた。
大規模災害時の司令塔は「河川屋」主体のわずか20人ほど
現在、内防の人員は計150人。約40人は地方自治体から主に防災訓練担当として派遣される出向者なので、内閣府の定員としては110人になる。詳細な内訳は明らかではないが、そのうち防災対応の政策立案を担う調査企画担当は20人ほどだ。
問題なのは、大規模災害発生時に政府が立ち上げる、他省庁からの応援も含めて数百人体制になる緊急災害対策本部の事務局を、この内防が担うということだ。中でも、防災計画や法律に精通している調査企画担当が事態対処の中心的役割を担うことになる。
従って、大規模災害が発生している状況では、長期的なスパンでの計画立案機能はいったん停止する。実際に、策定から10年が経過する南海トラフ地震の対策推進基本計画は当初、今春をめどに見直しが行われる予定だったが、1月に発生した能登半島地震に対応するために半年以上遅れており、現在も見直しが済んでいない。
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