銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

メディアをあきらめるならば超優良不動産会社になる朝日新聞社

新聞大手の朝日新聞社が2023年3月期の決算を発表しました。朝日新聞社は2年前に大赤字を計上し、大規模なリストラを行い経営再建中です。新聞離れは止まっておらず、業績は低迷してきました。

今回は朝日新聞社の業績を簡単に確認していきたいと思います。

 

朝日新聞社の現在地

では、早速に朝日新聞社の業況を見ていきましょう。

まずは大きな話題となったリストラの状況です。従業員数を確認すると2023年3月末時点で、朝日新聞社の従業員数は連結で6,793名であり、前年度から201名(2.8%)減少しています。 過去最大の赤字となった2021年3月期から比べると513名の削減となっており、これは2021年3月期比で7.0%の減少となっています。更に平均臨時従業員数は2021年3月期の 2,017名から2023年3月期の1,780名まで減少しており、これは11.7%の減少となっています。

朝日新聞社の単体平均給与(連結ベースの給与は開示無し)は1,147万円です。平均年齢は46.6歳、平均勤続年数は22.3年でした。2021年3月期は1,164万円であり、平均年齢が45.8歳、平均勤続年数は21.5年ですので、平均年齢が上がりながらも平均給与は減少したことが分かります。但し、その落ち込み幅は限定的です。朝日新聞社は、従業員数そのものを減少させることでコストを削減していますが、残っている従業員の給与は、そこまで引き下げていないことになります。

従業員は減少し、コストを削減したものの、業績は以下の通りとなっており、厳しい業績状況が続いています。

  • 2021å¹´3月期 売上高 2,937億円、経常利益507億円、当期純利益441億円
  • 2022å¹´3月期 売上高 2,724億円、経常利益189億円、当期純利益129億円
  • 2023å¹´3月期 売上高 2,670億円、経常利益70億円、当期純利益2億円

朝日新聞の年間平均部数は2023年3月期が朝刊399.1万部(前期比▲56.6万部)、夕刊123.7万部(前期比▲10.5万部)と部数減が更に進んでいます。 特に朝刊は1割超の減少となっており、 朝日新聞離れは止まっていません。

新聞を含むメディア・コンテンツ事業は、売上高が前年比で▲3.9%の 2,299億円、営業利益(営業利益)は▲70億円と赤字転落(前期は45億円の黒字)と大幅に損益が悪化しています。新聞販売部数の減少に加え、読者層の高齢化や広告媒体の多様化等により、新聞広告市場や折込広告市場の縮小が続き、減収が継続しています。

一方、朝日新聞社を支える不動産事業は好調です。 コロナ禍によって多大な影響を受けてい たホテルや飲食店舗が回復基調が鮮明となってきたことから、不動産事業は業績好調です。2023年3月期の不動産事業における売上高は345億円、前期比+12.4%の増収、セグメント利益は、66億円と前期比+30.5%の増益となっています

業績は非常に苦戦していますが、財務体質は相変わらず良好です。2023年3月期は、純資産額3,643億円、総資産額5,620億円、自己資本比率63%となって います。朝日新聞社の財務体質は盤石としか表現が出来ません。 現預金は956億円、 投資有価証券が2,204 億円あります。総資産5,620億円のうち、キャッシュもしくは換価性が高くキャッシュに近い投資有価証券の合計は3,000億円を超えていますので、総資産の半分以上はキャッシュそのもの、もしくはキャッシュ化が容易と想定される資産です。ほぼ無借金(借入金は2023年3月末時点でわずか77億円)の会社であり、売掛金も少ない会社ですので、資金繰りで倒産する可能性はありません。

2023年3月期の販管費(=コスト)は602億円です。非常にざっくりとした計算になりますが、キャッシュ等があるので5年間は会社の収入が一切なかったとしても企業として存続が可能であると表現して問題ないでしょう。

また、賃貸等不動産(収益物件)は、連結貸借対照表に計上している額が1,212億円(簿価)ですが、期末時価は4,358億円とされています。すなわち、朝日新聞社は不動産の含み益だけでも3,000億円以上あることになります。

キャッシュとキャッシュに近い資産だけで3,000億円以上、不動産含み益も3,000億円以上となっており、朝日新聞社の業績はともかく、財務体質には死角は見当たりません。

 

朝日新聞社のこれから

これまで朝日新聞社の2023年3月期業績を見てきました。本業のメディア事業は厳しい状況が変わらず続いていることがお分かりになったと思います。

2023年4月度のABC部数(日本ABC協会が認証した新聞販売部数のことであり、新聞の発行部数を表す重要指標)では、読売新聞641万部(前年同月比▲42万部)、朝日新聞375万部(▲54万部)、毎日新聞178万部(▲14万部)、日経新聞157万部(▲17万部)、産経新聞97万部(▲5万部)となっています。発行部数の減少は止まらず、特に朝日新聞社の減少率は1割超もあり、他新聞社よりも購読者離れが進んでいます。

この販売部数の減少が続けば、朝日新聞社は10年経たずに新聞発行がゼロになります(もちろん、そこまでには至らないでしょうが)。それに対して、朝日新聞社としては、不動産を軸に収益の多角化を図り、メディア企業としての存続を目指しています。これはどの新聞社もあまり変わりません。日経新聞だけは、デジタルに対応したニュース、データ配信会社として生き残る可能性が高いと思われますが、それ以外の新聞社はメディアとしては苦しい状況が続きそうです。

そのような中で、顧客離れが著しい朝日新聞社は厳しい状況に追い込まれていくことが想定されています。メディアとして生き残るためには、電子版で有料の読者をどうやって増やすかにかかっています。情報が溢れる時代に、価値がある情報を発信し続けられるかがポイントとなりますが、捏造記事の問題含めて朝日新聞社の信頼は低くなってきている可能性があります。それが購読者離れにつながっているわけです。

もうそろそろメディアとしての存続を諦め、不動産会社になっても良いのではないかという意味合いのタイトルを筆者がつけたのは、記者や拠点の削減にまで踏み込んできた朝日新聞社は価値ある情報をむしろ発信できなくなっていくのではないかと懸念しているからです。ニュースの質が悪ければ顧客離れが進みますが、人を減らさないとメディア事業の黒字化が達成できず、人を減らすとニュースの質が悪化する訳ですから、朝日新聞社はかなり八方ふさがりの状態に陥っていると内部の社員は考えているでしょう。

民主主義の国においてマスメディアが果たす役割は重要です。しかし、捏造記事と執拗な反政府報道によって朝日新聞社はマスメディアとして重要な信頼を失っているように思われます。

マスメディア事業での赤字が続けば、盤石な財務体質にもいつかは亀裂は入って来るでしょう。そもそも赤字の事業をやっている意味があるのかと普通の会社であれば株主から問われます。朝日新聞社は非上場であり、外部株主から業績責任を責められることはないでしょうが、それでも赤字を喜ぶ株主がいるとは思えません。

朝日新聞社を黒字化させるのは非常に簡単です。それはメディア事業を完全に止めてしまえば良いのです。投資有価証券を多額に持つ不動産会社として再出発すれば、超優良企業であることは間違いありません。

あくまで数字遊びでしかありませんが、皆さんはどうお考えになるでしょうか。