uneyama記録

はてなダイアリー過去ログ(更新予定無し)

はじめに

このサイトは消費者庁の栄養成分表示検討会に関連する話題を整理・検討するためのものです。
消費者庁の栄養成分表示検討会サイト
http://www.caa.go.jp/foods/index9.html

検討会は半年ほどで意見をまとめる予定になっており、時間がないなかで重要なことをもれなく議論する必要があります。メディア報道が特定の先入観に基づいて偏っていること、パブコメでは時間的に間に合わないことなどから、消費者を含めた関係者の方々にできるだけ正確な論点を提示することと幅広い意見を聞きたいということから、私(uneyama)個人の立場で開設しています。

なおohira-yさんとdoramaoさんにお手伝いしてもらっています。

検討会と報告書についての感想

書こうと思っていたところにPfさんのコメントを頂きました。
ほんとうに、メディア報道による間違った先入観で見ていた方も多かったのではないかと思います。
でも、報告書や資料を素直に読めばそうではないことがわかるのでは。
私の立場は多分学術関係者だったと思うので、報告書の最後の部分にこの↓文章が入っていることで最低限の役割は果たせたかなと思っています。

栄養表示については、国民の栄養摂取状況からみて、その不足や過剰な摂取が国民の健康の保持増進に影響することから、日本人のデータに基づく科学的根拠を常に把握しておくことが重要となる。
しかし、現在、日本人を対象とした科学的データは極めて不足しているため、今後、不足している日本人を対象とした栄養疫学などの健康関連データや、消費者行動などの社会科学的データを収集する等の研究を進めることも重要である。
さらに、消費者の商品選択や食生活の実践に栄養表示がどう役立てられ、消費者の健康の保持増進を支援する観点からどう貢献できているかについて、今後、継続的に成果を検証し、見直していくことが必要である。

事業者の皆様にとっては、今後の細かい部分でのツメのほうが気になるかもしれないのですが、それについては今後のワーキングチームや一元化法検討会で検討されることになるのでしょう。そちらについては私はあまり関係がないので、今回の検討会のメンバーからは生協の鬼武さんや事業者代表者などが参加なさるのではと思います。
(消費者庁の「とりまとめ」によるとタイムスケールがかなりタイトなので、法案には細かい部分は書けないのではないかと思っていたりしますが。その場合は表示の具体的詳細についてつめるのはさらに先になるかもしれません。)
いずれにせよ、検討会の提案した「事業者にとって実行可能性の高い設定方法」のためのデータベース作成などには時間(とお金)が必要です。それまで各事業者や消費者、行政担当者などにも、何のための表示か、どうすればみんなにとって良い結果が得られるのか、といったことを考えて準備していくことが求められます。

このサイトが役に立ったかどうかわかりませんが、しばらく書き込みできる状態でおいておきます。

報告書

栄養成分表示検討会報告書
および
栄養成分表示検討会報告書の取りまとめについて
が発表されました。
事務局の人事異動などもあってやや遅くなっていましたが、これが最終版です。
とりあえずそれだけ。

第8回(最終回)検討会

7月20日の検討会で最終となりました。
案の微修正のあと最終報告書が公表されることになるでしょう。

第一回目の時はカメラも来ていたように思うのですが、最後はいなかったかな?メディアが想定していたのと違うので飽きたのでしょうか?
日本人にとって一番重要と考えられる栄養素としてナトリウムを一番上に持ってきた「画期的」な提案なのですが。

検討会のメンバーは、私は異分野なので初めてお目にかかる先生も多かったりしたのですが、個人的に坂本先生のご発言が印象に残っています。
議事録には

私の経験で、26年間4、5歳の子供から成人病検診をやってきましたけれども、それで一番悪いのは母親なんですね。それでその母親は、中学校で家庭科が終わったら高等学校では生活科学になりますので、授業で調理する機会がないんです、ほとんど。それで卒業して大学へ行きます。大学で、家政科へ行くなら別として、法学部、経済学部を出ていった人たちが今度は結婚します。お母さんと一緒に住んでいるというような人は少なくなりますので、子どもの育て方というよりも、夫婦の食生活自体からおかしくなってきて、自分は細い身細い身できたために、生まれてくる子供は2,500kg以下というのが、私がやっていた農村地帯でも10%いるというのがもう20年続いておりました。

としかないのですが、このときこの期間で生まれてくる赤ちゃんの体重が1kg減ったとおっしゃっておられたと思うのです。大体3500gから2500gという感じでしょうか。学校教育のせいというより、もっと広い意味で社会から受け取るメッセージみたいなものが若い女性に、とにかく痩せることを要請しているような感じです。
ある助産士さんから、特定の食事や自然出産とかにこだわる人たちの中には妊娠前後で10kg体重を落とすようなことがあるという話を聞きました。出産後ではなくて、妊娠する前の体重から、です。

坂本先生

男性は痩せさせなきゃいけないし、女性は太らせなきゃいけないんですよ。

肥満ばかりが問題だという風潮に違和感があったので、この道の第一人者の先生がこういう認識であるということが確認できたのでちょっと安心しました。

報告書の素案など

第7回検討会の資料が掲載されています。
http://www.caa.go.jp/foods/index9.html#m01
今回は
栄養成分表示検討会報告書(素案)
に対して文句をつける(?)回だったのですが、時間ぎりぎりまでいろいろな意見が出されました。
この報告書では栄養成分表示の課題を指摘するという構造になっていて、表示の優先項目をいくつか挙げています。
文中、「食品表示に関する一元的な法体系」という言葉が何度も出てきますが、最終的にどの項目がどう表示されるのかは別途検討されることになります。
現時点での事務局案を見るとなんとなく事務局の考え方がわかるのではと思います。上位5番目までが現在の表示に相当する部分なのですが、ナトリウムの優先順位が上がっていることが特筆すべきことでしょうか。塩でなくてナトリウムなのは使いにくいとかいう意見もありそうですが。

すでに多くの指摘があったのですが、この案に意見があればコメントをどうぞ。

検討会では座長の坂本先生が、表示の制度を生かせるかどうかは消費者にかかっているんですよと強調しておられたことが印象的でした。


doramaoさんのエントリに頂いたPfさんの質問については、多分そういう技術的なことまで詰めるのはずっと先になるのではと思うのですが、表示の幅についても成分ごとに異なる考え方を採用する可能性があるということは記述されていたと思います。

エントリがないとコメントしにくいだろうと思ったので、取り急ぎ。

「委員発表等の概要」を読んで感じたことなどをid doramaoが記します

 一つ前のエントリで畝山さんが紹介している「委員発表等の概要」での各委員の方から出た意見を改めて読みなおしましたが、論点は色々とでているものの、これらを具体的な報告書にまとめるのは難しいのでは、という印象を持ちました。特に消費者教育の話にまで広がると、表示のあり方のみの検討会の範囲を大きく超えてしまう事でしょう。まず、絶対必要な項目や改善が求められるものだけについて、提言を持つ事が大切なのかな、そんな風に考えます。
 今回は委員発表等の概要に記されていた各委員の発言などに対し、議事録の遣り取りなども踏まえ個人的に感じたことを幾つか書かせていただきたいと思います。


■前提に対する疑問

リンク先の資料p2より
・平成17年度の国民健康・栄養調査のデータを再解析した結果、栄養成分表示を参考にしている人は、食環境に対するニーズも高く、自分の食生活に対しても意識が高い傾向にある。しかし、栄養摂取状況に関しては、男性では参考にしている人の方が食塩摂取量が多い。また、体格や健康状態に関しても、男性では参考にしている人の方が、血圧は高く、糖尿病と言われた人の割合が多いという結果である。(赤松委員)
・推測としては、「血圧が高い」「糖尿病」と言われたため、関心を持って栄養成分表示を参考にしているのではないか。すなわち、健康増進といったような一次予防というよりも、早期治療には役立っているのが現状ではないか。(赤松委員)

 健康を害した事が切っ掛けとなり、食生活に気を配るようになるというのは感覚的にも納得のいく推測だと思います。栄養成分表示が有効に活用される為には、そうではない多くの方にも注目してもらえるような働きかけが大切になるのでしょう。ところで、引用文中には一つ気になるところがあります。それは『男性では参考にしている人の方が食塩摂取量が多い』という部分です。推測通りの順序であるとすれば、栄養成分表示に関心を持ち、参考にした結果が高い塩分摂取量となって現れたという事になってしまいます。これはどういう事なのでしょう?
 憶測になりますが、いわゆる健康に良い食習慣のモデルとして示された食品を選択した結果、高い塩分摂取量になってしまった。つまり日本型食生活推奨の弊害では無いかと私は考えます。栄養成分表示の意義は、自分にとってどのような食事が適しているのか、という教育や啓発などにより知識が身についていて、表示を上手に活用することで、目標とする栄養摂取バランスに近づけるという部分にあると思います。ところが、理想と考える食習慣に近づける事が現状では高塩分食を誘発してしまうのだとしたら、活用の前段階で大きな問題を抱えているといえそうです。科学的根拠を・・・と述べるのであれば、日本食ありきの食育活動についても見直しをする必要があると思います。


■消費者教育
 せっかく栄養成分表示が充実してもそれを有効に活用する術を多くの人が身につけないと意味がありません。消費者の表示に対する理解を深めてもらう為には消費者教育の充実が必要であると多くの委員が述べております。

資料p1-2より
・国民の健康増進の重要性を消費者に正しく伝えるためには、レギュラトリー・サイエンス(科学的根拠のある情報をどのように作るか)とコンシューマー・サイエンス(消費者の理解を促進するための施策や指針をどのように作るか)は、車の両輪となっている。(清水教授)
・オピニオンリーダーを育成、活用して啓蒙活動を進め、消費者のレベルを上げて、消費者の行動変容、健康増進につなげられるコンシューマー・サイエンスを進めていくべき。(清水教授)

資料p3-4より
・メディア等から発信されるフードファディズム情報(特定の食べ物だけを食べていれば健康になる等、健康や病気へ与える影響を課題に信じたり、評価すること)に流されてしまうのは、消費者だけの問題ではなく、正確な情報の不足、消費者への教育の機会の不足、さらに長い目で自分の栄養状態を正しくとらえるための情報を消費者に認識させる環境の不足等の要因が指摘できる。(蒲生委員)

 知らなければ何も改善することは出来ませんし、その為には教育と普及啓発が不可欠なのは間違いありません。
 清水教授はその一つの例として、オピニオンリーダーの育成によるコンシューマー・サイエンスの推進を挙げておられますが、個人的には今回の原発事故後のサイエンスコミュニケーション問題を思い出してしまいます。
 おそらくオピニオンリーダーはボランティア的な位置づけだと思いますが、これは従来から活用されている食生活改善推進員とは違うものなのでしょうか?国の重要な栄養施策の大事な所を任せるのに、ボランティア的な位置づけの方が中心で良いのかどうかは色々考えなければならないと思うのです。これに関連して先日の榎木英介氏のブログ記事に書かれていたことを思い出しました。少し引用します。

【コミュニケーションを担うのは誰か】http://d.hatena.ne.jp/scicom/20110606/p1

ボランティアやNPOとして情報発信を続け、その責任を負うというのは、野尻氏が述べるように並大抵のことではない。
 サイエンス・コミュニケーションを担う人達の多くは、ボランティアか、あるいはたとえ大学の職にあったとしても、任期付きの不安定な職に就いている。まさに社会が切実に求めていることを、こうした人達に依存してよいのか…
 これは「新しい公共」にも向けられる懸念だ。公共、インフラといった、人々が生きていくのに極めて重要なことを、ある種脆弱なNPOなどに任せてもよいのか…
 Twitter上で情報発信を続けた科学者が、大学や研究機関の教授、准教授であったことは、象徴的なことのように思う。もちろん、教授位の学識がないと情報発信ができない、ということでもあろうが、不安定な立場であったら、果たしてできたのか。
 「サイエンス・コミュニケーターは職ではなく役割である」と言われるが、もし、中間者が切実に世の中に求められているのなら、その必要性に見合うだけの地位や権限を、必要だと思う人達が与えるべきではないか…
 非常に厳しいサイエンス・コミュニケーター批判が多方面で起きているが、地位も名誉もなく批判だけある、そんな「火中の栗」を、自発的に拾いに行く人がどれだけいるのだろうか。それは「ないものねだり」ではないのか。

 健康増進の重要性を伝えるオピニオンリーダーは単なる善意のボランティアでなく、正統な対価が支払われ、それに見合った地位や権限が与えられなければ実効性のあるシステムとして長続きしないと思うのです。人にものを伝える、正しく教えるというのはとても難しく責任のある行為ですが、個人の善意や信念などを公的な機関が頼りにしてしまうというのはやっぱり危険だと思うのですね。信念や善意は正しさを担保しませんし、さらに怪しい健康法の実践者などが信念や善意を持ち合わせている事が多いように思います。


■誰のための食品表示か

資料p4より
・表示については、消費者調査を行うなど、実際に使う消費者の意見を集めて分析検討することが重要。(蒲生委員)

 これに関しては、委員の方も参加している論文*1でも考察されているようですが、更に様々な角度から検討されても良いように思われます。アンケート調査の場合、ちょっとした言葉遣いの違いで結果に大きな差が出ることもあり得る話だからです。
 例えば、『栄養成分表示を充実させる事に貴方は賛成ですか?』という質問であれば、賛成と答える事に抵抗は少ないと思いますが、『栄養成分表示を充実させる為に商品一つ当たり○円の値上げをお願いすることになります。貴方は賛成ですか?』という質問だと賛成は少なくなるかも知れません。
 栄養成分表示が自分たちにとってどのような利益をもたらしうるのか、その為のコストはどれくらいで、自分は何を行う必要があるのかなど、キチンと理解してもらった上での答えでないと、アンケート結果は意味を持たない可能性があるでしょう。
 私は直接食品表示とは関係の無い調査や統計が参考になるような事もあるように思います。

農林水産省『平成21年度 食料・農業・農村白書』より

 30年前に比べて、消費支出全体は大きくなっているのにもかかわらず、食料消費支出が減少しております。つまり、食料にお金をかけたくない、かけることに抵抗があるという消費者心理が予想されます。

同報告資料より

 また、こちらのアンケート調査結果では、経済の低迷からか食の安全よりも経済性を重視する消費者の傾向が見いだせます。

 これらが実情をしっかりと反映しているかは分かりませんが、食の安全であったり健康に対して、できる事ならお金をかけたくないと言う消費者が少なからずいる事は予想できそうです。もし、食品表示を充実化させる事により食料品の値段が上がるような事があれば、表示を行わない安価な商品に手を伸ばす人が現れたり、値段上昇分を節約するため、食品の品目が少なくなる事もあり得るのでは?そんな心配もしてしまうのです。そのような食と健康に関心の薄い層にこそ届けたい情報であるはずなのですが・・・


■なるべく負担は少なくして欲しい

資料p1より
・同じ目標を達成できるのであれば規制や費用はできるだけ少ない方がよい。(畝山委員)

 必要な項目は絞り込んで、安価に抑えることが必要なんじゃないかと思います。
私個人的には、新たな食品成分の表示を急がなければならない理由は無いように思います。必要な情報をじっくり収拾し、十分な議論を行い、その間の健康教育も充実させ、準備万端になってから始めれば良いと考えます。


暴論、失礼いたしました。

*1:池上幸江ら:栄養・健康表示の社会的ニーズの解明と食育実践への活用に関する研究.栄養・食糧誌、61, 285-302 (2008)

第5回・6回検討会

しばらく更新をさぼっておりました。5.6回と続けて開催され、次回はもう報告書案が提示されることになります。
5・6回はなんとなくおさらいということで論点がつかみにくい話が多かったのですが、事務局が提示した「委員発表等の概要」を見て頂ければ報告書案の姿が予想できるのではないでしょうか。時間がない人は、これまでの議事録を読まなくてもこれだけ見ればいいと思います。
最終的には報告書に何が盛り込まれるかが大切なので、注目している人はこれからが大事でしょう。ただ表示を義務化するのかしないのかということ一つとっても、委員会で合意が得られているという感じはしなかったです。どうやってまとめるんだろう?というのが正直な感想です。
個人的には将来に向けてこういう方向性で、という提言で十分だとは思っているのですが。