球磨川氾濫 その1気象 水のニュース・別巻
- 2020/09/17
- 19:49
2020年(令和2年)7月豪雨
~球磨川氾濫 その1気象~
令和2年7月豪雨(気象庁が命名)とは、2020年7月3日から7月31日にかけて、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨です。
この豪雨により、熊本県を流れる球磨川水系では、八代市、芦北町、球磨村、人吉市、相良村の計13箇所で氾濫・決壊し、約1060ヘクタールが浸水。球磨村にある特別養護老人ホーム「千寿園」では、水没した施設で入所者14人が死亡するなど、流域全体で甚大な被害を受けました。
(日経新聞7月7日作成の写真とマップ)
今年6月12日発表した環境白書は、近年の気象災害などについて「気候危機」との言葉を初めて遣い、地球温暖化の進行とその影響は「もはや単なる『気候変動』ではない」としました。そのうえで「国内外で深刻な気象災害が多発、地球温暖化で今後気象災害のリスクが更に高まると予測される」と、強い危機感をにじませています。 2020年7月豪雨は、この環境白書の閣議決定から3週後に起きました。
気象庁はこの大雨に関する二つの要因を挙げる。一つ目はインド洋の海水温の高さだ。6~7月の海水温が平年より0・5度高く、積乱雲とともに上昇気流が発達し、上昇した大気がフィリピン海近くで下降。結果、例年は北側に膨らんで梅雨前線を押し上げる太平洋高気圧が南西側に張り出し、梅雨前線を日本付近に停滞させている。
二つ目は偏西風の蛇行によって、黄海付近の気圧が低くなっていることだ。大気は気圧が高い方から低い方に流れるため、暖かく湿った空気が太平洋高気圧に沿って南から梅雨前線に向かって、大量に流れ込んでいる。
福岡管区気象台の川口弘人予報官は「同じ気圧配置がこれほど長く続いて、梅雨前線が停滞する事態は記憶にない」と困惑する。』
上の西日本新聞社の記事を、気象予報会社「ウエザーニュース」のHPが、大変分かりやすく解説しています。インド洋の海水温の上昇はエルニーニョ現象ともリンクしているようです。以下は、7月10日の「ウエザーニュース」社の記事です。
『気象庁の解析では、この春のインド洋熱帯域の平均海面水温は、2016年以来の高い水準でした。
このため、インド洋では雲の発生・発達が起こりやすい状況で、その反動で相対的にフィリピン付近の北西太平洋では下降気流が強まり、太平洋高気圧が普段よりも西側にも張り出すことに繋がっているものとみられます。
この現象は「インド洋キャパシタ」と呼ばれることがあり、エルニーニョ(熱帯太平洋の東部で海面水温が平年より高く、西部で海面水温が低くなります。日本では冷夏、暖冬となる傾向があります。)の収束から少し遅れて発生することがあるといわれます。因みに、エルニーニョは2016年に発生して、2017年からほぼ平常にもどっています。
その結果、太平洋高気圧の周囲をまわってフィリピン海方面からやってくる暖かく湿った空気の流れが強まり、さらに梅雨前線に沿って西から流れてくるインドモンスーンの暖かく湿った空気の流れと合流し、南西から大量の水蒸気を送り込んでいます。
これらの影響に加え、上空のジェット気流の蛇行により日本の西に気圧の谷が顕在化し、日本付近で雨雲を発達させやすい状況となっていることも理由のひとつです。
特に今回の一連の大雨では、運ばれてきた水蒸気の量やその空間的・時間的な輸送密度(水蒸気フラックス)が際だって多いことが特徴です』
球磨川は、今までにない線状降水帯による豪雨に襲われました。
気象庁(7月17日)によると、
球磨川流域の線状降水帯は11時間半にわたって停滞する、異例の長さでした。
2018年(平成30年)7月豪雨では、東海以西の広い範囲で15事例の線状降水帯が発生しましたが、今回は九州地方だけで2018年7月豪雨に匹敵する線状降水帯が確認されました。
それでは、熊本県にはどれくらいの雨が降ったのでしょう。
気象庁は概況で以下のように伝えています。
『【大雨の状況】 4日未明から朝にかけて県の南部を中心に局地的に猛烈な雨や非常に激しい雨が降り、芦北町付近では3時20分に約 110ミリの猛烈な雨を記録し、記録的短時間大雨情報を発表した。その後も天草市、芦北町、津奈木町、人吉市、あさぎり町、 球磨村、八代市付近で1時間に約110ミリから120ミリ以上の猛烈な雨を記録し、記録的短時間大雨情報を発表した。また、 4日4時50分に天草・芦北地方、球磨地方、宇城八代に大雨特別警報を発表した。この大雨特別警報は4日11時50分にす べて警報に切り替えた。
この大雨で1時間降水量では牛深(天草市)の98.0ミリを含む2地点、3時間降水量では牛深(天草市)の205.5ミリを含む7 地点、6時間降水量では田浦(芦北町)の325.5ミリを含む9地点、12時間降水量では水俣(水俣市)の415.0ミリを含む9地 点、24時間降水量では湯前横谷(湯前町)の489.5ミリを含む7地点、48時間降水量では多良木(多良木町)の418.5ミリが 観測史上1位の値を更新した。』
この概況でわかるように、観測史上1位の雨量が県下各地で記録さています。 以下の7月3日から4日にかけての「気象レーダー画像」が、熊本県にかかる線状降水帯の消長を時間経過で物語っています。
7月3日の21時から4日の09時まで、おびただしい降雨であったことが見てとれます。
熊本県の雨量を時間推移で示したひとつが下図のグラフです。上段の「牛深」は天草。下段の「一勝地」とは人吉から球磨川を下流にほぼ13キロ下った地点です。 なお、赤線は積算降水量です。
次の図は毎日新聞(7月5日)が国土交通省のデータを元に作成した「千寿園」付近の水位と雨量のグラフです。
このグラフによると、この付近での雨量は7月4日午前2時頃にピークを迎えていますが、水位は雨量のピークの前後に急速に上昇しています。これ以降の水位は観測器が破損したために計測されていません。また正確な水位に関しては今後の検証が必要なようです。
被災後の現地を足繁く訪れている森 明香さん(高知大地域共働学部助教)は高知新聞8月12日号に「熊本南部豪雨被災地を歩く(下)」のタイトルで、以下の記事を寄稿しています。その抜粋です。
『熊本県南部の豪雨災害を伝えるニュースでは、屋根の上に取り残された人たちが度々映しだされた。これは人々の予測をはるか超える急速な水位上上昇があったことを意味している。
球磨川流域の6、7月の1か月あたりの平均雨量は500~600㍉。だが今回はわずか9時間の間に300~400㍉の雨が降った。「大水が出るのは年中行事」と語る流域の人々にとってすら異常な降雨量だった。逃げ遅れる人々が続出したのも無理はない』
被災したみなさまには心かお見舞い申し上げます。
この稿は「その2」に続きます。
2020・9・15記 (文 山本喜浩)