きれいな水を守りたい~水量の保全 小山美香
きれいな水を守るためには「水質」を保全するだけでなく、「水量」を保全することも大事です。小金井市は地下水・湧水の量を保全するために、「雨水浸透ますの設置」と「雨水貯留タンクの設置」をすすめています。
世界一の設置率 小金井市の雨水浸透ます
「雨水浸透ます」をご存知でしょうか?
地球上で水は循環していますが、家や道路などで地面が覆われて地下に雨が浸透できなくなっており、地下水が減っています。そこで、せめて屋根に降った雨を地下(降った場所)に戻そうと雨水浸透ますの設置が進められました。
家の屋根には雨どいがあり、雨はといを流れて雨水ますに落ちます。一般的にはそこから下水管に流れていくのですが、下水管に入ると行きつく先は下水処理場。でも、雨って下水処理する必要があるのでしょうか?
処理しなくていい雨水は下水管に流すのではなく、降った場所に浸透させるのが一番です。そこで、雨水浸透ますの出番です。雨水浸透ますは、雨水ますに穴を空けて雨が地下に浸み込むようになっています。また、下水管につながる管も浸透管にすることで、ますから流れ出た雨も下水に行く前に地面に浸み込んで地下水になるのです。
(図:小金井市のHPから)
小金井市の雨水浸透ますの設置率は67.7%(2021年3月末現在)で、世界一と言われています。市内の建物の半分以上に設置されています。でも、そもそもなぜ小金井市でそんなに進んだのでしょうか。
小金井市では、1969(昭和44)から下水道事業に着手し、81(昭和56)年に市内全域に下水道が普及しました。公共下水道の普及により、屋根に降った雨も全て下水道に流れ、汚水として処理されることになりました。こうした雨水と汚水が一緒に下水道に流れる「合流区域」は、特に大雨が降った時には処理場の負担が増大します。
汚水とは別に雨水だけを河川に流す「雨水管」を設置しているところは「分流区域」といいますが、それはそれで河川の水量が急激に増え氾濫等の原因になったりします。
小金井市では、農地の宅地化、道路の舗装などの都市化による雨水の地下浸透率の低下から、地下水や湧水の減少、樹木の育成阻害などの環境への影響が心配されました。
野川の再生と雨水浸透ますの普及
(野川は東京都を流れる一級河川。国分寺市東部を水源とし、小金井・調布・三鷹市を抜けて世田谷区区南部の二子玉川で多摩川と合流する。全長20.5km。写真は小金井子育て子育ち支援サイトから)
下水道の普及により、小金井市を流れる野川は悲惨な状態になりました。下水道が整備されるまでは野川には生活排水が流れ込んでいたのですが、湧水が減り、下水道普及により汚水さえも流れ込まなくなり、野川は枯渇して悪臭を放つどぶ川のようになってしまったそうです。野川を暗渠にするという案もあったとか。
もともと野川は湧水と玉川上水から水路を流れてくる水とで流れの豊かな川だったそうです。湧水が減り水量の減少が深刻な問題になった時、立ち上がったのは市民でした。
雨水の流出を抑制し、地下水の涵養、湧水の復活等を図り、水と緑の豊かな自然環境を実現させるために、雨水を地下へ還元させることが効果的であると考え、野川の再生にも取組むことにしたのです。
まず、どの程度の水が地下に浸み込むのかを検証することになり、市下水道課の職員や水道の指定工事店の方にも立ち合ってもらい、地面に穴を掘り、その穴にバケツで水を入れると・・・ 何杯入れてもあっという間に吸い込まれていくのを目にし、雨水浸透ますの効果を実感したそうです。
ここでざっくりと、小金井市に雨水浸透ますが普及した経緯を紹介します。
1983(昭和58)年、開発指導要綱により口頭で浸透ます設置のお願いが始まりました。
5年後の1988年、「雨水浸透施設の技術指導基準」を作成し、原則として、新築、増改築の時に排水設置計画届を義務付けられているものについて、屋根に降る雨水に適用することになりました。雨どいの下には「雨水ます」を設置するので、それを「雨水浸透ます」にしてもらうお願いです。これは、個人負担での設置のお願いでした。
さらに、1991(平成3)~93年度に、小金井市立の既存施設に、2年後には、国、都の既存施設に、雨水浸透施設が設置されました。
そして、1993(平成5)年からは、1988(昭和63)年の「雨水浸透施設の技術指導基準」が適用される以前の個人の既存住宅には、雨水浸透ますを設置するための助成金がでることになりました。ただし、新築や増改築の場合は、従来通りの個人負担でのお願いになっています。
◆雨水浸透ます:小金井市のパンフレット
https://www.city.koganei.lg.jp/kurashi/478/20190822164812538.files/shitteimasuka-usuishintou.pdf
こうして雨水浸透ますが設置されてきた背景には、むかし野川はきれいで子どもの頃に泳いだ記憶があるという方が多かったことや、水道の指定工事店の方々の協力を得られたということも大きな特徴です。新築や増改築の時に指定工事店の方々が浸透ますの設置を施主にお願いし、市民と行政の仲介を続けるという地道な活動があるのです。
(野川のカモ親子。小金井市の弁天橋付近。写真は小山)
しかし、こんなに雨水浸透ますを設置しても湧水量に変化がないのでは? という声も聞こえてきます。確かに、地表の被覆率の増加、都市化に追いついていないのかも知れません。でも、もし設置していなかったら、湧水はとっくに枯れていたのではないでしょうか。健全な水循環を取り戻し、次世代の子どもたちに、自然を守る心を育てるような効果もある「雨水の地下浸透」。これは、地下水や湧水の保全のために「水量」を確保する最低限の取り組みだと思うのです。
2022・6・24記 文・小山美香