昔話 ダムに抗うウサギの里-その2-
- 2024/12/16
- 18:41
今から80年ほど前になりますが、この昔話の時代には“学校”というところがありました。子どもたちは“学校”に集められてお勉強をしていたのです。今では子供たちによる自主学習が中心ですから相談役の大人はいても先生などはいません。
しかし、知事や議員を選挙で選んでいたこの時代は、先生がすべてを指導していました。子供たちは学校では“覚える”ことばかりで、“考える”ことはあまりしませんでした。
そんなある日、ダムに抗う村里に暮らす少女が通う学校で、クラス委員を選ぶことになりました。ところが、立候補する子がいません。
「くじ引きで選んだら」と少女が提案しますと、子供たちは一瞬息をのんでから、「うそ~っ!」「あみだ?」「ふまじめ!」とざわつき始めました。
その日からです。少女は「へんなこ、ダムっこ」とクラスで仲間外れにされるようになりました。少女は先生に「わたしって、へんな子ですか?」と相談すると、翌日先生は生徒たちにこう注意しました。
「ダムは水道水を貯めたり、川の洪水を防いだり、みんなの命を守る大切な施設です。でもね、そのために立ち退いてもらうには、これからの生活のための補償金が必要ですよね。村里の人たちはもっとお金が欲しいって交渉しているんですよ。話し合いがつけば、いずれ立ち退きます。ですから、みんな仲良くしましょうね」
少女は先生の顔をまじまじと見つめて、キャベツだと思いました。この先生、むいてもむいても、芯までバカ!
少女は学校に行くのを止めました。村里の大人たちはそんな学校に行くことはないよ、と笑顔でうなずいたそうです。
ひとつ。村里を出て行く自由。いつでも村里を去ることも、帰ってくることもできる自由です。
ひとつ。服従しない自由。あらゆる命令(この評議会の指示にも)に従わなくてもよい自由です。
ひとつ。よりよい村里を創ることの自由。現在の決まり事をつくり変えることができる自由です。
この評議会の決定をHPに掲載しますと、
「こんな自由を認めたら、ダムの反対運動はガタガタになるぞ!」
「評議会の指示にも従わないなんて、変だろう」
「くじ引きで選んだ評議会、存在意義なくなっちゃうよ」などと、批判が殺到しました。それに対して、
「評議会だって小さな権力になることがあります。服従しない自由は大事です」
「そうだよ。服従しない自由がなければ、よりよい村里を創ることの自由が生まれないぞ」
などという反論も数多く寄せられました。さらに、
「これって、地域自治の基本だね」とか、
「アナーキーで面白い!」など、支援者などからさまざまな声が寄せられ、HPの閲覧者がどんどん増えました。SNSではハッシュタグ<#ウサギの里の3つ自由>がトレンドにもなったそうです。
少女は「当たり前の自由なのに、なんでこんなに騒ぐのかしら」と首を傾げました。「学校に行かないのも自由だよね」
その夏はとっても暑い日が続きました。
日本には51種類のウサギがいます。村里にはそのなかで人気の20種類ほどが飼われていましたので、ウサギ愛好家が遠くからやってきます。そのウサギが猛暑でバタバタと死にました。
(写真は楽天保険の比較サイトより)
この時代の人びとは温暖化がこのまま進むと大変なことになると分かっていました。分かっていましたが何もしませんでした。
そしてほぼ60年後、グリーンランドの氷床崩壊をきっかけに気候変動のティッピングポイント(転換点)を超え、温暖化は爆発的に加速。北半球の永久凍土は溶解してメタンガスを噴出、海洋循環が止まり海洋はCO2の吸収能力を失いました。
干ばつと豪雨災害、それに伴う疫病と飢餓。ヒトは生存適応地を求めて大移動。国境は消滅、国家の枠組みが崩壊したのも記憶に新しいところですよね。
その秋のことです。
村里のはずれに小さな社(やしろ)があります。社はダム堰堤が造られるちょうど真下にありました。県はその社に通じる道路の拡張工事をはじめると表明。村里に緊張が走ります。
(ac-illust.comから借用)
評議会はあれこれと対策を協議。その一つとして、縁起も定かではない社ですが、あらためて村里の守り神として祀ることにしました。神主を呼んで祭祀を執り行うことにしましたが、
「私たちの守り神なんだから、神主も私たちでやりませんか」
「そうだよ、よそから呼ぶことはないよ」
「でも、だれがやるの」
「だったら、くじ引きで選びましょうか」
ということで、43歳の主婦が神主(任期3年)に選ばれたんですよ。
新聞に「神主をくじ引きで決めたウサギの里」と小さな記事が掲載されました。それがまた評判を呼び、社の復興祭祀には多くの支援者がかけつけ、おばさん神主はこんな祝詞(のりと)を捧げました。
「この地にダムはいりません。この地に変わらぬ四季がおとずれ、美しい村里がいつまでも続きますように、願いたてまつります」
祭祀の模様はインスタグラムで生中継されて、各地から「いいね」「がんばれ」とスタンプが送られてきました。なぜかメキシコのチアパスという所からも「いいね」が届いたそうですよ。
村里の評議会は更に、
地域通貨の導入を検討。
生活必需品そして食糧品を半径100キロ圏内の生産者からなるべく購入。
エネルギーの地産地消をめざす。
井戸(地下水)の共有化などの議案をHPに公開していきました。
その翌春、この村里に住んでみたいと、ある一家が移住してきました。その一家には丸いトンボのメガネをかけた女の子がいました。少女はこの子を“トンボちゃん”とひそかに名付けます。
トンボちゃんもウサギ好き。2人は仲良しになって、足だんだんなどウサギ語を交えておしゃべりをするようになりました。
ある日、トンボちゃんはちょっと声をひそめて、
「私のパパとママは、実はテロリストなの」と耳打ちをすると、
「うっふ」と、笑いました。
(この昔話は次回に続きます)
ダムに抗うウサギの里ーその1-
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2024・12・16記 文責 山本喜浩