水を守る・第2話 リニアは民営化の徒花か~リニア中央新幹線と石油パイプラインとの闘い~
- 2022/06/10
- 14:38
1987年の国鉄分割民営化に尽力し、JR東海の社長、会長などを歴任した葛西敬之(かさい・よしゆき)さんが死去したことが27日、分かった。81歳。@YahooNewsTopics
(1940年兵庫県生まれ東京育ち。東大法学部を卒業して国鉄入社。1995年にJR東海社長、2004年から会長に就任。代表権のある会長としてJR東海に君臨。安倍元総理のブレーン役を務める。写真は毎日新聞)
【葛西敬之が死んだ。その人類史的罪を認めさせることも償わせることもできずに逝かれてしまったことが悔しくてたまりません。(中略)葛西は最期までリニア中央新幹線建設に執念を燃やしていたことがわかります。葛西敬之とともにリニア中央新幹線を葬り去りましょう!】@stop_linear
【組合潰しに奔走し国鉄を極めて歪な形で分割。安倍晋三の復権に手を貸し、リニアという壮大なる税金の無駄遣いをさせようとしている張本人。通り一遍の追悼コメントは今日で終わりだ。明日以降の各紙に期待する】 @gaitifuji
【死去が報じられた葛西敬之・JR東海名誉会長の極右思想、国家公安委員会で在特会のヘイトデモを擁護したことも…】 @litera_web
【民営化で20万人の国鉄労働者が職場を追われ、自殺者は200人に。7600人がJRから採用拒否。これだけ多くの労働者のクビを切り、自殺に追い込んだことに痛みを感じたことはあっただろうか。】@ohtsubakiyuko
【リニアにこだわっていた張本人が亡くなったのだ。JRは計画を白紙にしたらどうだ。静岡の綺麗な水を枯らしてまでリニア建設を強行する必要はないよ。】@nishimuta62
リニア中央新幹線とは国鉄民営化の“あだ花”か?
南アルプストンネル工事で静岡県民62万人の水を奪ってしまう可能性が高いリニア新幹線とは何でしょう。葛西敬之氏が推し進めたリニア新幹線とは、なんのためでしょうか。
JR東海が掲げる目的は二つ。
① 大阪・名古屋・東京の3大都市圏を短時間で結ぶことで約7000万人の巨大首都圏を誕生させて、経済活性化につなげること。
② 東海道新幹線との二重系化により、東海道新幹線の経年劣化や大規模災害などに備えるため。
としています。しかし、物流を担えないリニア新幹線が大規模災害に、本当に役立つのでしょうか。役立つどころか東京から名古屋まで86%が地下トンネル走行、しかも7つの活断層を横切るリニア新幹線自体が、更なる災害を引き起こすリスクがあると指摘する専門家(注1)もいます。
また、7000万人の首都圏創設による経済活性化などという古ぼけた成長神話を、未だに受け入れる人がいるのでしょうか。
(2016年10月南アルプストンネル工事を始めた山梨工区。写真はSankei Biz)
さて、リニア新幹線が本格工事を始める2年前の2013年9月、JR東海の山田佳臣社長(現相談役)が驚くべき発言をしています。
「リニアは絶対にペイしない」(注2)と公言。その翌月には「リニアだけでは採算はとれない。新幹線と一体運用をして会社をパンクさせずにやっていく」と、JR東海の本音をポロリと吐露したのです。
要するに、ドル箱の東海道新幹線の利益をどんどんつぎ込まないと、リニア新幹線はやっていけません、と公言したのです。それまでは「9兆円の建設費は自前、開業の暁には健全経営」と謳っていたのですから、驚愕です。
国交省はこの時点で認可事業として適切か否かを慎重に判断するべきでした。また、それをやらせなかった安倍政権の責任は重大です。
JRは民営化されたとはいえ公益事業です。もし採算を無視した巨大事業が頓挫したり、大惨事を起こしたときに、そのつけを払わされるのは国民になります。
そもそも論になりますが、国鉄を6社に分割(注3)する際に、収益力のある事業体から他の事業体に資金を融通できる制度設計が必要でした。
そうであったなら、東海道新幹線の利益分を北海道などに回して、赤字路線を廃線から救えます。また、“絶対にペイしない”リニア新幹線構想なども浮上しなかったことでしょう。リニア中央新幹線とは国鉄民営化が咲かせた“あだ花”なのかもしれません。
正義とは、わたしたちが飲む水のこと
日本ではリニア新幹線が、アメリカでは石油パイプラインが、命の水を奪おうとしています。
先住民スタンディングロック・スー族の居留地を横切るダコタ・アクセス・パイプラインはスー族の聖地を破壊するだけではなく、命を守る水を汚染する恐れがありました。
水の守り人を自称するスー族の全身全霊の闘いは、広範な全米市民の支持を集めるだけではなく、南米エクアドルの先住民からも連帯のメッセージを受け取っています。
そしてこの闘いは、アメリカの気候変動対策を一変させた政治家を誕生させます。AOCの略称を持つアレクサンドリア・オカシオ・コルテスです。
(民主党下院議員。1989年NYブロンクス生まれ、ボストン大学で経済学を修め、2018年の中間選挙で下院議員に。カーボンゼロ社会を実現する過程で新たな産業と雇用を創出、格差社会を是正。貧困ゼロを目指すグリーンニューディル(注4)の提唱者。写真は日刊ゲンダイ)
サウスダコタの現場を訪れたオカシオ・コルテスは、先住民たちが「人生のすべて、もてるもののすべてを投げうってコミュニティを守ろうとしていること」を見て、自らも政治に参加して、よりよいコミュニティ創りの役に立ちたいと激しく気持ちを揺さぶられました。
民主党の予備選挙(ニューヨーク州第14区)を勝ち上がった無名のオカシオ・コルテスは、2018年11月の本選挙(中期選挙)で大方のメディア予想を覆して当選。28歳のヒスパニック系・史上最年少の下院議員の誕生は全米のトップニュースとなります。
翌2019年1月、彼女はNY州のウィメンズマーチでマイクを握って(注5)いました。その演説の一部を紹介します。
「みんな、大騒ぎする用意はいい?
みんな、私たちの権利のために闘う用意はいい?
みんな、私たちの国アメリカ合衆国では、誰もが愛され、誰もが正義を受けるに値し、誰もが平等な保護と繁栄を受けるに値すると言う用意はいい?
(中略)
「正義は、本で読む概念ではない。
正義は、私たちが飲む水のこと。
正義は、私たちが吸う空気のこと。
正義は、いとも容易く投票できること。
正義は、女性たちの賃金がいくらかということ。
正義は、母たち、父たち、すべての両親が子供たちと一緒にちゃんと時間を過
ごせること。
正義は、お行儀いいのと黙っているのは同じじゃないと確かめること。
事実、しばしば最も正しい行動は、テーブルを揺さぶること。
(後略)
オカシオ・コルテスの稿は、水を守る・その3に続きます。
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注1)恐れがあることを指摘する専門家:石橋克彦神戸大名誉教授は、著書「リニア新幹線と南海トラフ巨大地震」集英社新書2021年刊にて地質学者の立場から警鐘。
注2)「リニアは絶対にペイしない」:FACTA ONLINE
https://facta.co.jp/article/201312041.html
注3)国鉄を6社に分割:1987年第3次中曽根内閣が実施。当初、自民党内部には田中角栄などを
中心に全国一体民営化論が強かったが、田中派の弱体化を期に分割民営化が主流に。中曽根 元総理の民営化の目的が国鉄の組合潰しであったことはサッチャー&レーガンと同じ。
注4)グリーンニューディル:オカシオ・コルテスらの提唱は下院で決議案として採決され、バイ デン政権の温暖化対策の下支えとなっている。
注5)マイクを握って:この演説は:Courrier japanより転載。全文は下段URLから。動画もありま す。
https://courrier.jp/news/archives/150572/
2022・6・6記 文 山本喜浩