2008年03月29日

安里屋ユンタ(八重山民謡、竹富島)

安里屋ユンタ
'あさどやゆんた
'asadoya yuNta

(八重山民謡、竹富島)


、(ひや)安里屋ぬくやまに(よう さあゆいゆい)目差主ぬくよたら(よう はーりぬちんだらかぬしゃまよー またはーりぬちんだらかぬしゃまよー)
(ひや)'あさどやぬ くやまに (よー さーゆいゆい)みざししゅぬくよたら(よー はーりぬちんだらかぬしゃまよー またはーりぬちんだらかぬしゃまよー)
(hiya)'asadoya nu kuyama ni (yoo saa yuiyui)mizashishu nu kuyotara (yoo haari nu chiNdara kanushama yoo mata haari nu chiNdara kanushama yoo)
安里屋のクヤマに目差主が請うたら(括弧内の囃子は以下省略する)


二、目差主やばなんぱ あたる親やくりゃおいす
みざししゅ や ばな'んぱ' あたるしゅ や くりゃ 'おいす
mizashishu ya bana 'Npa 'atarushu ya kurya 'oisu
目差主は 私は嫌 与人親は これ(わたし)差し上げる


三、んぱてぃからみささみ べーるてぃからゆくさみ
'んぱてぃから みささみ べーるてぃから ゆくさみ
'Npa ti kara misasami beeru ti kara yukusami
嫌と言うならよろしいのだよ 駄目と言うなら良いのだよ
語句(安里屋節参照)


四、んぱてぃすぬみるみん べーるてぃすぬ しくみん
'んぱ てぃ すぬ みるみん べーる てぃ すぬ しくみん
'Npa ti sunu mirumiN beeru ti sunu shikumiN
嫌と言った人の目に見よとばかりに 駄目と言った人の耳に聞けとばかりに
語句(安里屋節参照)


五、中筋に走りおーり ふんかどぅにとぅびおーり
なかすじに ぱりおーり ふんかどぅにとぅびおーり
nakasuji ni parioori huNkadu ni tubioori
中筋(地名)に走られて 町内に飛んで(行か)れて
語句・おーり いらっしゃって。尊敬体 「連用形1、または2にオールン['ooruN](いらっしゃる)という補助動詞がついて、尊敬の意を表す」(石)。 ・ふんかどぅ 町内。 「フンは組でカドゥと同じ。琉球時代の集落の小さな区画。今の隣組、町内班くらいの集まり」(石)。


六、道廻りしみりばどぅ 村くりし聞きばどぅ
みちまーりし みりばどぅ むら くりし しきばどぅ
michi maari shi miriba du mura kuri shi shikiba du
道(を)廻って見ると 村(に)来て聞けば


七、あばれ子にいかゆてぃ みやらびにすなゆてぃ
'あばれふぁに'いかゆてぃ みやらびにすなゆてぃ
'abare hwa ni 'ikayuti miyarabi ni sunayuti
綺麗な子に出会って 美しい娘に見初めて
語句・あばれ 綺麗な <あふぁりしゃーん 'ahwarishaaN 美しい。あっぱりしゃーん'apparishaaN 美しい。 「abare」という語句は辞書にはない。(石)にはさらに「アッパレ 'appare」(あっぱれ えらい)が「古謡にでてくる」とある。「あふぁりしゃーん」などは「美しい、きれいである。『あはれ』と同系のことば。『美しい』を意味する方言『あっぱい』(徳島県、高知市、山口県、福岡県などにある)も同系か」(石)とある。 ・いかゆてぃ 出会って <いかうん。 いこーん。
 ・すなゆてぃ これも辞書にない。「すないるん」は①列を整える②準備する。妻を準備する=縁談を整える。と(石)にある。さらに沖縄語の「すぬん」(染まる)と同系だと思われる。それで「見初めて」と訳す。



「安里屋」関連の歌でもっとも古いと思われるのがこの竹富島に伝わる「安里屋ゆんた」。
「ゆんた」は農作業のときに男女やグループに分かれて掛けあいながら歌う「作業歌」。
三線もない時代からの歌で、これを元に三線に載せたものが「節歌」。
「節歌」の「安里屋節」と「安里屋ゆんた」とは曲がまったく違う。
したがって三線の演奏方も調弦も違う。
そして歌詞も。

ここでとりあげたのものは竹富島で「舞踊安里屋節」として伝承されているものだ。
舞踊では「安里屋節」→「安里屋ゆんた」という順番になっている。

さていくつか問題がある。

「くりゃ おいす」の二つの解釈

「安里屋ゆんた」の歌詞の解釈に微妙な違いがある。
上勢頭芳徳さん(竹富島 喜宝院蒐集館)さんが、「沖縄(ウチナー)のうた」(音楽之友社)に書かれたものを見てみよう。

二番が、
「目差主や我な んぱヨー あたる親や 乞りゃおいすヨー」
と書いてある。
「くりゃ おいす」に当て字がしてあり、「おいす」が「すでに乞われている」意味で使われている。
私が最初にあげた「くりゃ おいす」は「これ(私は)さしあげる」と訳した。
対句形式であるから「ばな んぱ」に対応すると考えてもそちらが自然だと考えた。

しかし、いくつかの解説本で「目差主の求めを断った理由は、すでに目差主の上司である与人親から賄い方の求めがあったから」と書かれたものも多く、それは「くりゃ」を「乞りゃ」と解釈しているところからきているのだろう。
どちらが、どうなのか、私には判断がつかない。

「くやまに」の「に」はなんだろう?

前回書こうと思ったのだが八重山の安里屋ゆんたといわれたもには
「安里屋のクヤマヨー あん美らさ まりばしよ」
とクヤマさんが美人だということを一番、二番で説明する歌詞がある。
この場合の「に」がどうしても腑に落ちなかった。

どうして「や」(は)でないのだろう、と。
直訳すると「クヤマに美しく生まれて」になってしまう。
「クヤマは美人」だというなら「クヤマや・・」となるだろう。

しかし上にとりあげた竹富の安里屋ゆんたを見て気がついた。

一番の「安里屋のクヤマに」「目差主やくよたら」を分離して
その間に「あん美らさまりばし」と二番「くゆさから・・・」を後から挿入したものだろうと。
そしてその際に「に」はそのまま残した、と。

「に」の用法を石垣方言辞典で調べたが動作の方向、場所、主体などはあれど「主格」をあらわすものはない。
「に、おかれては」という敬語表現とも考えたが平民の「くやま」にはふさわしくない。
ということで「後から挿入」説にたどりつくのである。

元歌の主人公はクヤマではなく目差主

ところで、この「安里屋ゆんた」では主人公はクヤマではなく目差主。与人親も二番でしか出てこない。
続く歌詞を書いておこう。24番まで続き、断られた目差主が腹いせに探した美人との間に子どもをつくるところまでが描かれている。目差主のゴシップ記事のようで、ちょっとHな描写もあり、仕事をしながらの「娯楽、癒し」にはもってこいだったのかもしれない。訳はまたいずれ。

(本文の続き)

たるが子で 名問だら じりが子で 名聞だら
かまどぅ子ぬ乙女よ かねまふなぬ いしけまよ
兼間家に走りおりよ 蒲戸家に飛びやおりよ
蒲戸子や くりんおいしよ 兼間子やばぬんひりよ
欲しやでから さりおりよ 望むから まきおりよ
あまぬさにしゃんかい抱ぎ 走りきゃんゆう
どぅぐぬ んぞさん地よ ちょんかむさなよ
んぶふりぃ道から 石ふだぎぃ 道から
玻座真村 さりおりよ 親村に 抱きおりよ
ういか家ぬ 浦座によ 目差家ぬ 座敷によ
台取らし みりばどぅよ 酌取らし しきばどぅよ
台取りぬ かいしゃぬよ 酌取りぬ 美らさぬよ
八折屏風ぬ 中なんがよ 絵書屏風ぬ 内なんがよ
腕やらし寝びどしょうる 股やらし ゆくいどぅしょうる
男子ん くぬみどう(ぅ?)しょうる 女子ん作りどぅしょうる
男子や島持ち生りばし 女子や家持ち生りばし

最後に囃子について一言。
囃子も竹富と他では違う。

竹富:「ひや」で始まる。
石垣、他島:「さー」。

竹富:最後の囃子は「はーりぬ・・・ 」と歌い、それを繰り返す意味で「また はーりぬ・・」としている。
石垣、他島:「また はーりぬ・・」とくりかえさず歌う。

クヤマさんの墓(2014年2月筆者撮影。竹富島にて。)




クヤマさんの生家(同上)


他の「安里屋ゆんた」などの解説のリンクは以下の通り。
1、竹富島の安里屋ゆんた
2、石垣島などの安里屋ゆんた
3、八重山古典(節歌)としての安里屋節
4、琉球古典としての安里屋節(早弾き)
5、新安里屋ゆんた









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Posted by たる一 at 11:18│Comments(2)あ行八重山民謡
この記事へのコメント
初めまして、こんにちは。
以前から、何回か訪問させていただいていたのですが、
この度、自分のブログ開設したものですから、勝手ながらお気に入りに登録させていただいております。事後承諾で、ごめんなさい。

竹富の安里屋ゆんたの工工四を以前石垣島で戴いたのですが、
歌詞がよくわからなかったので、これで、はっきりしました。
(貰ったのとずいぶん違っていて、びっくりですが)
とても好きな曲などで、唄い込んで、自信つけます。
Posted by 山田先生山田先生 at 2008年05月03日 09:04
山田先生さん
お気に入りへの登録ありがとうございます。
最近、いろんな方が登録してくださって
ありがたいことだとは思います。
とくに唄三線をされている方に
好評をいただいています。

ただ、歌詞の訳はあくまで私の訳であり、直訳です。
地元の方や、専門家の訳とはすこし異なるかもしれません。

そのあたりを考慮してくださって、ひとつの参考になればうれしいです。
今後ともよろしく。
Posted by たるー(せきひろし)たるー(せきひろし) at 2008年05月05日 11:08
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