なんだかんだイデオロギーへの興味が捨てられない.
図書館で面白いタイトルを見つけてしまったので読んでまとめる.
本書でも冒頭に述べられているが,歴史として見る期間の定義は難しい.
私は小学校入学前に911テロがあり,それを教科書でも習った記憶はある.
ただ普通の公立学校だったからか,単語として覚える程度でその社会背景にはほとんど触れなかった.
まったく本質的でない.歴史とは特にその失敗はその原因を追求して繰り返さないことが肝要だろう.
一方でこうした直近の事柄を扱おうにも,今日の政治との関連性が深く扱いにくいのも事実だ.仮に歴史の担当の先生がイスラム教徒だったら,あっさり済ませたいかもしれないし,右派左派で態度が分かれるのは火を見るより明らかで,また日教組がどうとかと言われたりもするわけだ.
しかしだからといって,現代史に無知な態度が許されるわけではない.
ましてやイデオロギーに関してネットで意見を書くくらいなら.
さらにイギリスというのも肝だ.
歴史で扱うイギリスは,東インド会社を作り,産業革命も成し,植民地支配を広げ,大英帝国であり最強だった.
第二次大戦中や冷戦後は徐々に影を潜めていったが,その背景に私は明るくない.
枢軸や米ソが台頭しただけでなく,英側に立って見ることも重要だろう.
「賢者は歴史に学ぶ」というわけで.
また留学に行った親近感もある.当時はBREXITの対立が深まっていて,実際にロンドンの議員の事務所の前でデモが行われていた場面にも遭遇した.
前置きが長くなったが,読むモチベーションは非常に高いのだ.
本書の構成は10年ごとに区切って,いわゆるX0年代という言い回しで,各年を分析した.また現代史として戦後に注目している.
これを読んでいて思ったのは,この期間が前述の通り義務教育であまり扱われず,高専にいったため中・高等教育でも触れることができなかった.そのため私が母国の同時期のこともよく知らないということをひどく痛感した.田中角栄や佐藤栄作も名前くらいで,ぶっちゃけ具体的な政策もその背景もあまり知れていないのだ.これは今後の課題だ.
まず戦後というか戦争終盤からチャーチル政権から話は始まる.このあたりは映画でもいくつか観たことがある.
映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』オフィシャルサイト
そこで3つの輪という構想が挙げられ,これは後の時代の考察にも用いられる.
簡単にすると以下の通りで,これがイギリスの国としてのアイデンティティでもあり,外交や安全保障上のキーでもあるわけだ.
- 連合としての英国
- ヨーロッパ圏
- 米国を巻き込んだ大西洋圏
ただいずれも問題をはらんでいたわけだ.連合国内からは独立志向が台頭し,EUへの加盟も難しく結局は辞め,米国が世界的リーダになるにつれ対等な外交も難しくなる.
イギリスは二大政党制で議院内閣制であり,日本と政治システムが似ていて面白い.だからこそ,本記事にこのタイトルをつけたところもある.
チャーチルは保守党出身だったが,戦後一度は政権を労働党に奪われアトリー政権が生まれるものの再び政権の座に着く.
アトリーは反対に左派寄りの労働党で社会保障に非常に力を入れた.「ゆりかごから墓場まで」の至言もここに由来する.
しかし復興のためのマーシャル・プランで米国とは屈辱的な関係になり,帝国の影は薄れていく.
ぶっちゃけ歴史の概要は教科書やWebでも足りるだろうから先に進める.
その後はインフレや後のEUに繋がるECなどの交渉の悶着も多くあり,政権の入れ替わりでケインズに代表される経済政策なども修正されていった.
個人的に最も面白いと思ったのはサッチャー政権だ.
新自由主義の申し子と言えるだろう.彼女も保守党出身で,ポピュリズムも加味すると個人的に小泉政権を思い出す.
そう考えると,前述の通り日本政権は構造がイギリスに似ていることもあって,政治的には欧州の方が先進的な印象があるから,日本の政治は特に政治家はそこに倣っているのではないかと私は思う.
私の読んだ印象として,筆者はサッチャー政権を批判しているように受け取れた.もちろん部分的に肯定できる政策もあるが.これは以下に述べるように私自身のイデオロギーによるバイアスが含まれていることは全く否定できない.ただ「鉄の女」を正しく認知する必要はあるだろう.
まず筆者は簡単にこうまとめる.
2 サッチャーの勝利
サッチャリズムとは,一般的には新保守主義と新自由主義とのイデオロギー的混成体であるといわれる.イギリスのマルクス主義理論家スチュアート・ホールの適切な表現を借りれば,国家,国民,家族,法と秩序といった伝統的なトーリー党的保守主義のテーマを,新自由主義経済政策と結びつけた「権威主義的ポピュリズム」こそが,その本質であった.
新自由主義やそれに関連する政策はまとめないが,国有企業を民営化したり,労組を弱体化したり,セーフティネットを狭め,財政の圧縮を至上命題とした.
個人的にはこの政策は誤りだと思っていて以下の意見はその根拠の1つだ.
おお!
— ゲーテちゃん🤡🦉⚖️ (@goethe_chan) 2020年11月12日
IMF、今度は各国は公共投資を増やし雇用を守れとな。ようやくここまで来たか…
IMF「先進国や新興国が公共投資を対国内総生産(GDP)比で1%増やせば2千万~3300万人の雇用創出につながる」
「最も急速で深刻な世界経済の崩壊からの景気回復を促す」 https://t.co/fj4ExxfS6l
さらに引用する.
歴史家のラファエル・サミュエルは,次のように述べている.「サッチャー氏が政権にいた10年間に,彼女の言うところのヴィクトリア的価値(勤労の美徳,家族の絆,家庭の安らぎ)を最も体現した存在を探そうとするならば,それはサッチャー自身ではなく,1984-85年のストライキにおいて「内なる敵」とされた炭鉱労働者たちではなかったのか」と.
先述の国有化に加え,時代の流れとして炭鉱の閉鎖,その圧力が増大し,ストライキの権利も失われ(非合法化),プロパガンダによって批判されるように仕向けられてしまった.
また,
総選挙のあと,サッチャーは「社会などというものは存在しない」という有名な台詞を『女性自身』誌で述べ,自助を説く個人主義的原理を鮮明にして,教育,医療,行政に関する改革を進めていった.
とある.ここでいう総選挙は1987年のもので3期目の是非を問うものだった.ここにある自助は,直近の菅総理の就任時の「自助・共助・公助」を挙げたことを思い出させる.
新型コロナ:内閣支持率58%に低下 コロナ対応「評価せず」48% :日本経済新聞
しかし一連の政策により格差は広まっていくことになる.これはアベノミクスとも通ずるだろうか.筆者は,「サッチャー時代の社会の複雑な性格は,社会的不平等の増大と社会的上昇との奇妙なる結合であったといわれている.」と両義性を紹介する.
またサッチャーのパーソナリティとも言える部分への言及もあり,冒頭で生い立ちなども紹介された.食料雑貨店出身,いわゆる庶民であったことも政治活動に有利ではないかと考察される.
その後,メージャー政権を経て,'97~'10は労働党政権に交代となる.
背景としては格差の拡大,労働者の不満の増加があるようだった.
こうした問題は今日にも影を落としている側面があり,極右政権UKIPの台頭が象徴的と筆者は指摘する.
1997年にアメリカの『ニューズウィーク』誌が,イギリスでの新たな文化の急激な台頭に対して「クール・ブリタニア」という表現を与えた.これに便乗して,労働党政権は若くてモダンな文化を新労働党と結びつけようとして,さまざまな政策をおこなった.文化産業を抱き込みながら,「文化・メディア・スポーツ庁」を新設し,宝くじの収益金が文化,IT教育などに流れ込むシステムを構築して,グローバル化されたポスト産業社会における国家ブランド政策としてクール・ブリタニアを打ち出したのである.
これは昨今のクールジャパンにそっくりびっくりだ.言われるまでイギリスのパクリだとは知らなかった.しかしこの政策自体は日本でも成功していると思う.アニメなどに修正できているのも感心だ.
この90年代は多文化主義が進んだと指摘する.ジェンダーなどのマイノリティに配慮する社会だ.こうして見ると,日本でもそうした側面は遅れていると指摘せざるを得ない.性的マイノリティーは最近,日本も一般化したが,年配者を中心に懐疑的な保守的な態度が残っていて,社会浸透は道半ばだ.
イギリスは古くから階級主義だったが,こうして階級が社会から段々と薄れているのかもしれない..?
階級社会のイギリスでは「アクセントの違い」で差別を受ける - GIGAZINE
また同時代の文化として以下のようなものが挙げられる.誰もが知るイギリス有名人だ.これは時代が近い,文化的同世代というのもあるかもしれないが.
- オアシス
- ベッカム
- ハリポタ
またイデオロギーとしては,左右に2大政党で大きくブレるのではなく,第三の道が開かれたと筆者は考察する.また特徴として,単純な金銭の再分配ではなく,教育や起業が整備され,「機会」が均等になるように設計された.これは巧みだと私も思った.UBIと並行して議論されてもいいと思う.
ブレアの手腕を筆者は評価しているように読めた.聖金曜日協定の成果もある.合意形成は非常に難しい問題なので,確かにそうだ.
しかし現在はキャメロン政権からの保守党政権になっている.
そこで新自由主義的ユニバーサルクレジットの導入が検討されたが,UBIと異なり労働が優位になるよう設計される.また難民の流入も増加し,ポピュリズムが台頭し,これまでの労働者層が追いやられる社会になってしまった.これにより貧困が進み社会的緊張も高まったと指摘する.フードバンクが増加し,BREXITも起こるわけだ.
またイギリス国内の地政学として,首都ロンドンを有するイングランドはホワイトカラーの集積が進み,所得水準も高く,保守党の支持基盤になっている.一方,それ以外は既存の製造業などの依存度が高く,保守党政権への不満も高まり,独立志向が高まった.スコットランド国民党はアトリーなどにあったような原始的福祉国家的流れを組み,こうした国家の独立を目論む.独立の国民選挙は否決されたものの拮抗し投票率も極めて高かった.
大小でナショナリズムが再興していると言えるかもしれない.そういえばトランプ大統領もそんあ感じはあった.
メイ前首相はコービンと対立した.コービンは労働党党首で影の総理とも呼ばれるそうだ.サッチャー的民営化の流れを否定したり,イラク戦争に反対したり,党内でも左派的で独特である.これはサッチャリズム2.0の流れへの国民の拒絶の顕在化と考察する.ケンジントンの火災も象徴的かもしれないと指摘した.
これが大きな流れで随所で現代日本と関連しそうなテーマが多くあった.課題先進国として威厳を失っていく現在の日本と,戦後衰退していった英国は似ている.歴史的に参考になる部分は多くあるだろう.
再三言う通り,私のイデオロギーは含まれる.新自由主義的イデオロギーは失敗といえる.これはイギリスでは保守党が積極的に進めており,盤石な日本の自民党も同じ流れを汲んでいくものと考えられる.これはよろしくない.私としては労働党的政策を支持したく,野党はそういう面があるものの,失態や内部の混乱が目立つ.したがって融和的な右派をチラつかせる自民党に心が動く.ゆえに野党には頑張ってもらいたい.
またこれまでの議論を実際に見学したビックベンの真下で行われているというのは面白い.ちなみに国会議事堂は中にはいったことはない.