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「学校のぶたぶた」(矢崎存美)/おじさん声のぬいぐるみが活躍する心温まる童話のような物語

 中学生というのは子どもから大人になる途中で、子どもでもなく大人でもなく青年でもないという、なんとなく中途半端な時期だったような気がする。小学生時代と違って悩みもそれなりに出てきたり、学年が上がっていくと高校受験という今まで体験したことのない競争に駆り立てられたりと、環境の変化が著しかった時期でもあった。

 私は九州鹿児島の地方都市で中学生時代を過ごしたが、市内全域の中学校では男子生徒は校則で全員丸刈りだった。いわゆる「坊主頭」というやつで、今では考えられないことだが、小学校を卒業すると皆一斉に床屋に行って五分刈りにするのが中学生になる儀式のようなものだった。

 不思議なもので、五分刈りにした頭を撫でると中学生になるんだなという気分になり、そのことで小学生気分が一気に吹き飛んだことを思い出す。

中学校が舞台の心温まる物語

学校のぶたぶた (光文社文庫)

 矢崎存美さんの書かれる「ぶたぶたシリーズ」が大好きなで、シリーズすべての物語を読んできた。つい先日発売された「学校のぶたぶた (光文社文庫)」も発売後すぐに買い求めたが、いつもどおりの心温まる物語だった。

 主人公はピンクのぬいぐるみ。名前は「山崎ぶたぶた」。『バレーボールくらいの桜色のぬいぐるみで、手足の先には濃いピンク色の布が張ってある。黒ビーズの点目に、突き出た鼻、大きな耳は右側がそっくり返っている』というのがぶたぶたの姿形だ。

 今回はぶたぶたが、中学校のスクールカウンセラーとして登場。新たに着任した中学校でいろいろな生徒と交流を持っていく。

 学校生活や家庭生活に特に不満はないものの、なんとなくモヤモヤとした気分を抱えている女子生徒。中学生になってから急に無口になってしまい、必要最低限のことしか話さないなった男子生徒。友達を階段から突き落としてけがをさせてしまった女子生徒など、いろいろな生徒がスクールカウンセラーのぶたぶたと交流し、自分自身を見つめ直すきっかけを得ていく。

 さらに、生徒だけではなく生徒たちを見守る先生たちや親にとっても、スクールカウンセラーのぶたぶたは心を穏やかにさせる存在となっていく。

  物語の舞台は中学校でありそこに通う中学生が中心だが、中学生ならではの悩みや心の動きには、ずいぶん前に中学生だった私にも共感できるものや懐かしく感じるものがあった。大人になって思い返すとなんでもなかったことも、中学生当時は心の底から悩んだということはあったなと思い出す。

 「ぶたぶたシリーズ」の主人公はピンクのぬいぐるみだが、ただのぬいぐるみではなく、歩いて、しゃべって、仕事をしていて、料理が上手な優しい中年男性。綺麗な奥さんと可愛い娘さん二人がいるが、奥さんと娘さんはぬいぐるみではなく普通の人間という設定だ。

 そんな"ぶたぶた"と知り合った人々は、心に抱えていた悩みや悲しみが徐々に薄れていき、ぶたぶたと知り合ったことで幸せになっていくというストーリー展開が一貫している。今回はぶたぶたの日常や家族に関することなどは出てこないものの、他のシリーズ作品と同様に周囲の人の心が癒されていくという、童話のような心温まる物語となっていた。

 今回の作品はシリーズ化されて21作目。どの作品もほのぼのとした心温まる物語であるうえに、書き下ろし作品ばかりなのでシリーズのどこから読んでも楽しめる。読んだ人を必ず元気にしてくれる、心のサプリメントのようなシリーズだと思う。

学校のぶたぶた (光文社文庫)

学校のぶたぶた (光文社文庫)

 

スクールカウンセラーという仕事

 中学生になると徐々に思春期に入ってきて、訳もなくイライラしたり友達関係などで悩みが出てきたりする時期だ。私が中学生だった頃は、悩みがあっても先生や親になかなか相談できず、結局は友達に相談したり雑誌やラジオの情報で解決していたと思う。

 1995年から旧文部省が開始したスクールカウンセラー事業がさらに発展してきていて、最近では中学校や高校へのスクールカウンセラー配備が推進されてきているようだ

 悩み多き思春期の中学生・高校生にとっては、安心して相談のできるスクールカウンセラーがいることはとても助けになるだろうと思うし、安心して相談できる事業としてこれからも発展して欲しい。

 それ以上、私たち大人は子どもたちの見本となるような大人でいたいし、親として大人として次代を担う子どもたちが安心して相談ができる存在でありたいと思う。