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【新薬】ボクロスポリン(ルプキネス)
ループス腎炎のカルシニューリン阻害薬に選択肢

2024/12/13
北村 正樹=医薬情報アドバイザー

 2024年11月20日、免疫抑制薬ボクロスポリン(商品名ルプキネスカプセル7.9mg)が薬価収載と同時に発売された。適応は「ループス腎炎」、用法用量は「成人に1回23.7mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」となっている。

 ループス腎炎(LN)は、慢性自己免疫疾患の全身性エリテマトーデス(SLE)の主要な症状の一つだ。過剰に産生された抗DNA抗体などの自己抗体による免疫複合体が腎組織に沈着、または炎症を誘導することで糸球体が障害される、高度な尿蛋白を伴う糸球体腎炎である。日本では、SLEの患者数は約6万~10万人と推定され、女性が9割を占め、特に20~40歳の女性に好発する。LNはSLE患者の約半数で発症し、またLN患者の10~30%に末期腎疾患を発症するとされており、末期腎疾患のあるLN患者の死亡リスクは非常に高い。

 国内の診療ガイドラインでは、LNの治療にはステロイド(グルココルチコイド)と、免疫抑制薬であるミコフェノール酸モフェチル(MMF;セルセプト他)もしくはシクロホスファミド水和物(エンドキサン)間欠静脈療法(IVCY)の併用が推奨されている。中でも免疫抑制薬は、IVCYによる卵巣機能障害の懸念から、MMFがより広く使用されている。

 近年、上記の治療にタクロリムス水和物(TAC;プログラフ他)やシクロスポリン(CsA;サンディミュンネオーラル他)といった、カルシニューリンインヒビター(CNI)を追加するマルチターゲット療法が検討され、治療効果も向上している。一方、CNIでは血糖上昇や脂質異常などの副作用の問題があり、治療を受けられない患者も存在していた。

 ボクロスポリンは、既存のCsA分子内のアミノ酸-1残基の側鎖が変換された、新規のCNIである。T細胞においてシクロフィリンと複合体を形成し、カルシニューリンに結合することで、カルシニューリンのカルシウムおよびカルモジュリン依存性セリン-トレオニンホスファターゼ活性を阻害する。これにより、リンパ球増殖、T細胞サイトカイン産生およびT細胞活性化表面抗原の発現が抑制され、免疫抑制作用を発揮する。同薬は、既存のCNIに比べて副作用のリスクが低く、活動性の高いLNに対する既存の治療に早期に追加することで、疾患のコントロールに加え、ステロイドの使用を抑えることによる副作用の軽減が期待される。

 小規模探索的非盲検試験(AURION試験)、第II相および第III相の二重盲検プラセボ対照試験(AURA-LV試験およびAURORA1試験)、第III相長期継続試験(AURORA2試験)の4試験により、同薬の有効性および安全性が確認された。海外において、2024年10月現在、米国、欧州、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、英国、スイスの33カ国で承認されている。

 重大な副作用として、肺炎(4.1%)、胃腸炎(1.5%)、尿路感染(1.1%)などの重篤な感染症(10.1%)、急性腎障害(3.4%)が報告されているので、十分注意する必要がある。また、その他の副作用として主なものに、糸球体濾過率減少(26.2%)、上気道感染(24.0%)、高血圧(20.6%)、貧血、頭痛、咳嗽、下痢、腹痛(各10%以上)などがある。

 薬剤使用に際して、下記の事項についても留意しておかなければならない。

●同薬の投与開始時は、原則として、ステロイドおよびMMFを併用すること(添付文書の「臨床成績」の項を参照)

●強いCYP3A4阻害作用を有する薬剤とは、併用禁忌である(添付文書の「禁忌」「相互作用」の項を参照)

●重度の腎機能障害患者(推算糸球体濾過量[eGFR]30mL/分/1.73m2 未満)への投与は可能な限り避けること。やむを得ず投与する場合は、1回15.8mgを1日2回投与すること(添付文書の「効能又は効果に関連する注意」「重要な基本的注意」「特定の背景を有する患者に関する注意」「副作用」「薬物動態」の項を参照)

●軽度または中等度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類AおよびB)では、1回15.8mgを1日2回投与すること(添付文書の「特定の背景を有する患者に関する注意」「薬物動態」の項を参照)

●中程度のCYP3A4阻害作用を有する薬剤と併用する場合、1日量を23.7mg(朝15.8mg、夜7.9mg)とすること(添付文書の「相互作用」「薬物動態」の項を参照)

●腎機能が悪化した場合、添付文書の「用法及び用量に関連する注意」に記載のある基準を目安に、減量または中止すること(添付文書の「効能又は効果に関連する注意」「重要な基本的注意」「特定の背景を有する患者に関する注意」「副作用」「薬物動態」の項も参照)

●投与開始後6カ月以内に治療の効果を確認し、投与継続の要否を検討すること

●医薬品リスク管理計画書(RMP)では、重要な潜在的リスクとして「心血管系事象」「神経毒性」「電解質異常(低マグネシウム、高カリウム)」「耐糖能異常」「長期使用に伴う悪性腫瘍」が挙げられている

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