2024年11月20日、抗悪性腫瘍薬レポトレクチニブ(商品名オータイロカプセル40mg)が薬価収載と同時に発売された。同薬は9月24日に製造販売が承認されていた。適応は「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」、用法用量は「成人に1日1回160mgを14日間経口投与する。その後、1回160mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」となっている。
肺癌は日本人の癌による部位別死亡原因のトップであり、約85%は非小細胞肺癌(NSCLC)とされる。また、診断時点で進行や転移がある症例も少なくない。NSCLCの発症は、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)融合遺伝子、間葉上皮転換因子(MET)遺伝子など複数のドライバー遺伝子との関連が報告されており、これらの変異に対する分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬;TKI)が臨床使用されてきた。
NSCLCのドライバー遺伝子として、ROS1融合遺伝子も知られている。NSCLC患者の約1~2%がROS1融合遺伝子陽性で、制御不能な細胞増殖をもたらすROS1遺伝子の変異が見られる。ROS1融合遺伝子から産生されるROS1融合蛋白は、内在するチロシンキナーゼが恒常的に活性化することにより癌化能を有する。
現在、ROS1融合遺伝子陽性のNSCLCには、クリゾチニブ(ザーコリ)、エヌトレクチニブ(ロズリートレク)といった選択的TKIが使用され、治療効果も向上している。一方、ROS1に遺伝子変異が生じ、既存の薬剤が効果を十分に発揮できない症例も存在する。
レポトレクチニブは、クリゾチニブとエヌトレクチニブに次ぐROS1を標的とするTKIである。ROS1融合遺伝子によってコードされるROS1受容体チロシンキナーゼの阻害活性を有し、細胞増殖に関わるシグナル伝達を阻害することで抗腫瘍効果を示す。また、分子量が355.37と小さく、大環状構造を有したATP競合型の阻害薬であるため、ATP結合部位へ正確かつ強力に結合する。そのため、既存のTKIに臨床で生じる耐性変異に対しても有効な治療選択肢として期待されている。
ROS1、神経栄養因子受容体キナーゼ(NTRK)またはALK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌患者を対象とした国際共同第I/II相試験(TRIDENT-1試験)から、同薬の有効性および安全性が確認された。海外では、2024年8月現在、米国で承認されている。
重大な副作用として、間質性肺疾患(2.6%)のほか、中枢神経系障害の可能性があるので十分注意する必要がある。また、その他の副作用として主なものに、味覚不全(味覚障害、味覚消失、感覚障害、異痛症、味覚減退、感覚消失)(52.9%)、錯感覚(知覚過敏、感覚鈍麻、異常感覚、灼熱感、無感覚、蟻走感)(36.9%)、便秘(26.3%)、貧血(25.3%)などがある。
薬剤使用に際して、下記の事項についても留意しておかなければならない。
●ROS1融合遺伝子の検出のため、コンパニオン診断薬「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」を用いて、同薬を投与する該当患者を事前に確認すること
●投与開始後14日間において忍容性が認められない場合は、1日2回投与に増量しないこと
●投与により副作用が発現した場合は、添付文書の「用法及び用量に関連する注意」の項に記載された表(減量する場合の投与量、休薬・減量・中止の基準)を参考に、休薬、減量または中止すること
●医薬品リスク管理計画書(RMP)では、重要な潜在的リスクとして「胚・胎児毒性」が挙げられている
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