人間の手足の指は、だんだんと生えてくるわけではない。土台となる”芽”から「彫刻」されるのだ。
このたび、ごく初期の人間の手足がどのようにして発達するのか詳細に表した、初の「ヒト細胞アトラス」が公開された。
それは発達初期の人間の手足で発現する遺伝子パターンを、細胞1つ1つのレベルで可視化したものだ。
手足の”芽”から私たちの器用さを支える指が現れる様子は、研究チーム曰く、彫刻家が大理石から作品を削り出すかのようだという。
人間の手足の指はどうやって発達するのか?
脊椎動物の手足の発生プロセスについては、これまでマウスやニワトリといったモデル生物の胚や、培養された幹細胞によって解明が進められてきた。
だが同じ脊椎動物といっても、人間とほかの動物では完全に同じなわけではない。共通点もあるが、違うところもある。
また手足の形成プロセスを調べるには、技術的な限界や倫理上の制約(例えば、ヒト胚を14日を超えて培養することは禁止されている)もある。
こうした制約がありながらも判明していることは、人間の手足は最初、ごく初期の体(胚胎)の側面から形のない”芽”として現れるということだ。
それから8週間後、すべてが順調に進めば、きちんと指がそろった手足へと発達している。
発達する人間の手足の細胞アトラス
今回、中国、中山大学の細胞生物学者チャン・バオ氏をはじめとする国際研究チームは、発生5~9週までのヒトの胚組織にある数千個の細胞を分析した。
これを元に、手足の発達プロセスを詳細に表した「ヒト細胞アトラス(細胞世界地図)」を作成した(なお別の研究者はハエの脳内接続の完全なるマッピングに成功している)。
細胞アトラスについて、『Nature』(2023年12月6日付)に掲載された研究では次のように説明する。
12万5955個の単一細胞から67の細胞群を特定し、最初の3ヶ月間の4時点におけるそれらの位置を調べることで、四肢の発生に新たな光を当てた
この細胞アトラスからは、これまで知れていなかったいくつかの細胞状態が発見されたという。
「私たちが明らかにしたのは、非常に複雑で精密に制御されたプロセスです」と、中山大学のチャン・ホンボ氏は説明する。
まるで、彫刻家が大理石を削って素晴らしい作品を作り上げるかのようです。この場合、彫刻家は自然で、作品が私たちの指やつま先の驚くべき複雑さなわけです
動画にまとめられた細胞アトラスが表しているのは、指の作り方を指示する遺伝子が発現する位置だ。
動画の冒頭では、どこか卓球のラケットにも似た手足の原型が映し出される。
水色で表されているのは、指の形成に重要な遺伝子「IRX1」、ピンク色は骨格の形成に不可欠な遺伝子「SOX9」が発現している様子だ。それはだんだんと5本の指の形に重なっていく。
また黄色で表されている遺伝子は「MSX1」だ。それが大きな役割を果たすようになるのは、発生7週目頃。この時期になると、指と指の間にある未分化細胞に自死するよう指令が入る。
すると不要な細胞が先端から根元へ向けてだんだんと消えていき、指の1本1本が現れる。研究チームが言うように、まるで大理石から彫刻作品が削り出されるかのようだ。
このプロセスにあるちょっとした不規則性は、500人に1人の赤ちゃんに見られる手足の奇形につながる可能性もある。
これに関係して、今回の研究では手足の発育がどこで狂うかを知るために、「短指症」や「合指症」といった先天性疾患に関係する遺伝子の発現もマッピングされている。
複雑な人体構造形成プロセスの理解に
英国ウェルカム・サンガー研究所のサラ・タイクマン氏は、「史上初めて、手足の発生という驚くべきプロセスを、空間的かつ時間的に単一細胞レベルでとらえることができました」と語る。
今回の細胞アトラスは、複雑な人体の構造がどのように形作られるのか理解を深め、私たち人間の発達の背後にある遺伝的・細胞的プロセスを明らかにする手がかりになるとのこと。
「それは研究や医療に多くの示唆を与えるでしょう」と、タイクマン氏は話す。
またもう1つ重要なこととして、発現する遺伝子や細胞の種類に多少の違いはあるものの、ヒトとマウスの手足の形成がほぼ同じようなプロセスを辿ることも明らかになったそうだ。
References:First map of human limb development reveals u | EurekAlert! / We’ve Finally Seen in Exquisite Detail How Human Fingers And Toes Grow : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
指と指の間が自死して指の形が現れてくるのはわかるんだけど、その大きさで切れ込みだけがどんどん鋭くなるだけではなく、手全体が他の部位と共に大きくなっていくのはどんな構造によってそうなるのかまでほんの少しだけさわりだけでも触れてほしかった
まだ手袋みたいな手ほんとかわいい
なんか、怖い。
元はイクラみたいな卵とオタマジャクシの出会いから始まってるんだよね