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巨大です。シロナガスクジラの心臓標本の作り方

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 先日、カナダのトロントの王立オンタリオ博物館にてシロナガスクジラの巨大な心臓の標本が展示された。しかもこれは模型ではなく、実物に特別な加工が施されたものだというから驚きだ。

 この心臓はおよそ3年前、カナダの川岸に上がったクジラの遺体のものなのだが、非常に状態が良かったため、組織をまるごと合成樹脂に置き換える特殊技術、プラスティネーションによって標本化されたのだ。

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 希少なクジラの心臓をどうにかしてきれいな形のまま保存したい。そんなカナダの科学者たちの努力が実り、見事な標本ができあがるまでの行程が公開されていた。

海で亡くなったクジラを見つけた研究者

 2014年、カナダ東部の沖合で氷に囲まれた9頭のクジラが亡くなるという痛ましい出来事があった。

 クジラの研究者たちにとって、その亡骸は貴重な標本の一部だ。だが非常に重いクジラの体は沈んだ状態になり、海岸に上がるころには鳥やサメに食い荒らされて無残な姿になっていることが多い。

 しかし、珍しいことにそのうちの2体はニューファンドランド・ラブラドール州を流れる川岸に打ち上げられ状態も良かった。そこで研究者たちはその2体をこれまで行うことができなかったクジラの臓器の研究に役立てることにした。

貴重な心臓を取り出す解体作業に四苦八苦

 心臓を摘出する作業には10人もの人手が必要だった。尾の部分から取り掛かって肉を削ぎ、脂肪と組織を切り分けていく。心臓にたどり着くと、研究者たちは血管を切断して心膜を切り開き、胸郭から心臓を押し出した。

 のちに標本となったこの心臓は、なんと約200kgもあった。なお、この作業を行った研究者たちは、クジラの内臓に膝まで埋まって身動きが取れず、泥の中でレスリングしているような気分だったという。

特殊な標本に最適な見事な心臓

 一拍につき220リットルもの血液を送り出し、高さ1.5m、幅1.2m、厚さ1.2mもある大きなクジラの心臓。その状態はとても良かったため、科学者たちはプラスティネーションに最適だと確信した。

 その加工自体はドイツの専門施設に頼ることになるが、取り出した心臓をそのまま送り付けるわけにはいかない。まずは心臓の形を保ち、防腐処理をする必要があるのだ。彼らはさっそく下準備にかかった。

加工のための下準備がスタート

 まずは心臓を膨らませたまま、ホルマリン溶液で筋肉を硬直させ腐敗を食い止めなければならない。血液を抜いた心臓は平らだったため、彼らは2つの血管にホースを差し込むなどし、心臓に2650リットル以上ものホルマリン溶液を注いだ。

 それが済んだら発送の準備だ。研究者たちは濡れた心臓を吸水性マットで三重に包み、フォークリフトで釣り上げ、パッド入りのスチール製タンクの中に入れた。そこに大量の緩衝材を放り込んで封をし、ドイツに空輸した。

専門施設でのプラスティネーション加工

 ドイツのグーベンにあるプラスティネーション加工施設は、あの「人体の不思議展」(関連記事)と同じ敷地にある。カナダから届いた巨大な荷物を受け取った解剖学者は、さっそく心臓をアセトンに浸し、こまめにその液を取り換えた。

 それからおよそ6か月後、組織の水分子がすべてアセトンに置き換わった心臓は、シリコンポリマー溶液に浸されたのち真空チャンバーに詰められ、およそ4か月ほど真空に置かれた。この過程でアセトンが気化し、そこにポリマーが浸透するのだ。

ついに合成樹脂の心臓標本が完成!

 最後の仕上げは、ガス状の硬化剤でシリコンを固める作業が行われた。そしてついに3か月後、心臓は巨大なプラスチックの塊となり、ようやく展示に耐えうる標本になった。

 プラスティネーション加工の標本は、組織をほとんど保った状態となり、腐ることもなければ悪臭も出ず、素手で触れることもできるという。

この展示は4カ月ほど前から行われていたようだ

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そのシロナガスクジラの骨格標本も一緒に飾られた

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image credit:dailymail

 こうしてできた巨大な標本は、今月9月4日まで「シロナガスクジラの物語」の一部として展示された。今回の作業に関わった博物館の研究者たちは、完成したクジラの心臓標本を心から誇りに思っているという。

via:wired / dailymailなど / translated by D/ edited by parumo

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この記事へのコメント、47件

コメントを書く

  1. とにかく色んなにおいに耐えないと出来上がらない、というのはわかった

  2. Happy Tree Friends の “Change of Heart” っていうエピソードを思い出した。

  3. うちの大学の教授が牛の心臓のプラスチネーション標本触らせてくれたけど、すっごく細い繊維までちゃんと残ってて感動したのを覚えている…クジラでやると労力もコストも並大抵ではないな…見に行きたい

  4. いちいちすべての作業が大変そう
    そして画像では判断できないけど多分追い打ちをかけるようにすごい悪臭がしそう(標本になる前は)

  5. 心臓デケェ!

    でも「プラスティネーション」って言葉で記事にもあるが中国の「人体の不思議展」を
    想起してしまう。

  6. ハツ串何人分?うまいの?
    って考えちゃうのは日本人だからなのかな?

    自分で調べてみたんだけど心臓も食べられたみたいね

    ぱるもとかワイらがガキの頃はクジラの竜田揚げが給食に出てたよね
    カッチカチのカッピカピでくそまずいと思ってたけど

  7. 水中であの巨体を動かすにはこんなバカでかい心臓必要なんだねぇ
    しかもその持ち主が人間と同じ哺乳類とは…なかなか信じられんね

    1. ※13
      「日本では動物の骨格標本作製の技術を十分に学べないからドイツに留学した」という方の話を聞いたことがあるので、高い技術があり、かつ標本を作製するスペシャリストの育成に熱心なのかも。

  8. こんだけホルマリンあったら死ぬぞ…と思ったらガスマスクしてて安心w

  9. すごいなぁ
    心臓だけで200kgなんてやっぱクジラっておおきいんだなぁ

  10. 図鑑でしか知らない「知識の中の生き物」を、この心臓標本なり骨格標本なりで実際に見たり触れたり(は無理だろうけど)できるのはいい体験だよね。
    日本にもこういう企画来ないかなー。

  11. 赤い部分は心臓の一部をカットして見せてるわけではないのか

  12. 「クジラの動脈は人間が通れるくらい太い」って聞いたことあるけど本当だったんだ。
    まるで土管だ。

  13. じゅるるるぅ…(ΦωΦ)「で、残りのお肉はどうしたのかにゃ?」

  14. 凄い、スケール感の違いに圧倒される!
    良い記事ありがとう。

  15. 記事を読んで、最初の写真が本物の心臓だったことに気付き衝撃!
    スゲー。見に行きたいね。上野に来ないかなー。

  16. 閲覧注意ってなってるけど、手足がない海洋生物ってだけで、見てもあまり気持ち悪くないし、なんとなく食べることが頭をよぎるのは俺が日本人だからなのか?

  17. クジラは栄養価高くて死んだ直後から内部で細菌が繁殖して発酵して温度は上がるしガスは溜まるわで大変なんだよねえ
    臭いもそりゃあ、ね

  18. 160センチくらいの身長の人も一緒に写してほしかった
    面白い記事なのに大きさがイマイチわからない(´・ω・`)

  19. 設置の時に左側のおっさんは鏡面仕様の床に傷をつけないためか
    乗る時に毛布をきちんと敷いてるのに
    右側のおっさんが我関せずでそのまま乗っててワロタ
    アドリブだったんだろうな…きちんと保護するなら事前にしておくし

  20. シロナガスクジラの骨格標本だけなら日本にもあるんだっけ?
    下関の水族館に

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