人間の脳は1秒間に1016回という現存するいかなるコンピューターよりも強力な処理を行うことができる。だが、人間の認知には偏りがある。このおかげで、しばしば判断が狂い、誤った結論を下す。
そうした認知バイアスを紹介する前に、論理的誤謬(ごびゅう)との違いをはっきりさせておこう。論理的誤謬(ごびゅう)とは、論理的な論証における間違いだ。
例えば、人格攻撃論法、すべり坂論法、循環論法、威力に訴える論証などが挙げえる。他方、認知バイアスとは、思考上の欠陥や制限、すなわち記憶の誤り、社会的帰属の誤り、記憶の誤りなどに起因する判断の欠陥のことだ。
社会心理学者の中には、認知バイアスは効率的な情報処理に役立っていると主張する者もいる。それでも、このせいで酷い間違いを犯すことはよくある。ここに覚えておいて損はない認知バイアスを挙げておこう。
1. 確証バイアス
人は自分に同意する人物に同意したがる。人が自分と同じ政治的意見を持つサイトにばかりアクセスしたり、同じ価値観や趣味の持ち主とばかり付き合うのもこのためだ。
同様に、自分の価値観を揺るがすような人や集団、あるいは情報源からは遠ざかる。こうした選好が、行動心理学者バラス・スキナーが言う確証バイアスだ。
人は無意識のうちに、自分の偏った意見を増強する意見のみを参考にし、そうでないものはいかに正当なものであろうとも無視してしまう。逆説的ではあるが、インターネットはこうした傾向をさらに助長した。
2. 内集団バイアス
確証バイアスに多少似ているのが内集団バイアスだ。これは生まれ持った部族的な傾向であり、その大部分がいわゆる「愛情ホルモン」オキシトシンに関連している。
この神経伝達物質は、グループ内の人との絆の強化を促すが、部外者に対しては逆の効果を発揮する。余所者を怪しく感じたり、恐れたり、軽蔑したりさせるのだ。こうして、見知らぬ者を差し置いて、仲間の能力や価値を過大評価してしまう。
3. 賭博者の誤謬(ごびゅう)
誤謬というが、思考傾向のバイアスである。人は過去の出来事が未来の結果に影響を与えると考え過ぎてしまう。
その典型的な例がコイン投げだ。5回連続で表が出たとしたら、人は次は裏が出る可能性が高いと考えがちだ。しかし、確率的には裏も表も相変わらず50%で変わらない。統計学者が言うように、各回の結果はそれぞれ独立しており、表と裏が出る確率はそれぞれ50%なのだ。
これに関連して、ギャンブル依存症の要因にもなるポジティブな期待バイアスもある。つまり、運の流れはやがて変わるはずで、幸運はそこまで来ていると錯覚させるのだ。
また、ホットハンドの誤謬にも関連する。これは新しい人間関係は前回よりも良いものになるという感覚と同じものだ。
4. 無駄遣いの正当化
無駄遣いをしてしまったとき、その買い物がお買い得だったと正当化したことがあるだろうか? これこそが購入後の正当化という、買い物などでまずい決断をした後に気分を良くさせる一種の心理メカニズムだ。
買主のストックホルム症候群とも呼ばれ、特に高価な買い物をしてしまった後に無意識のうちにそれを正当化しようとする。
社会心理学者によれば、一貫性を貫き、認知的な不協和音を避けようとする心理的欲求に起因するそうだ。
5. 蓋然性(がいぜんせい)無視
車のドライブに恐れを抱く人は少ないが、飛行機恐怖症の人は結構いる。空を飛ぶことは非常に不自然で危険な行為に思えるかもしれないが、実際には交通事故で死ぬ確率は、飛行機が墜落して死ぬ確率よりもはるかに高い。
統計的には、交通事故に遭う確率は84回に1回であるのに対して、飛行機墜落事故に遭う確率は5,000回に1回だ。にもかかわらず、人間の脳はこの明白な理屈が分からない。
同様にして、階段からの転落や食中毒など蓋然性の高い事故よりも、テロに巻き込まれることを恐れる。
社会心理学者キャス・サンスティーンはこれを蓋然性の無視と呼んだ。人間はリスク感覚はしばしば正確ではなく、比較的無害な行為のリスクを過大評価し、より危険なものを過少評価する。
6. 観測選択バイアス
それまで気づかなかった物事に気づくと、その頻度が増加したと思い込んでしまう効果のことだ。その格好の例が、新車を買った後で、同じ車種を色々なところで見かけるようなるケースだ。
妊娠すると、周囲に妊婦が大勢いることに気がつき出すのも同じだ。私たちは心で選択した物事に意識を向けるようにできている。
問題は、大抵の人がこのバイアスに気がついておらず、その物事が増えたのだと勘違いすることだ。ある出来事が偶然のはずがないと思わせるのも、この認知バイアスのせいだ。
7. 現状維持バイアス
人間は変化を恐れる傾向にある。こうして、なるべく変化が少なそうな現状を維持できる選択をするようになる。
言うまでもなく、これは経済から政治まで様々な場面において当てはまる。選挙ではこれまでと同じ党に投票し、レストランでは毎回同じものを注文するのもこのせいだ。
このバイアスの問題点は、別の選択肢が劣っており、状況を悪くすると思い込ませることだ。「壊れてないものを直すな」という諺にすべてが要約されている。
8. ネガティブバイアス
人は悪いニュースにばかり目がいく傾向がある。また、悪いニュースをやたらと信用し、良いニュースは疑いの目で見る。進化的には、悪いニュースに注目する方が適応的だったのだろう。だが、今日では本当に良いニュースを無視して、悪いニュースの中で生活している恐れがある。
例えば、心理学者スティーブン・ピンカーは、犯罪、暴力、戦争などの不正義は確実に減少しているのに、人々は世の中が悪くなっていると考えていると論じる。これこそが負バイアスの典型例だ。
9. バンドワゴン効果
意識されることはあまりないが、人は右へならえが大好きだ。世の中にあることが流行ると、個人の脳は機能を停止して一種の集合意識状態になり、それに追従しようとする。
これは必ずしも大きな集団である必要はない。家族や職場の同僚のような小さな集団でも起こりうるのだ。
バンドワゴン効果とは、集団の中に普及した行動や社会規範、あるいはミームの原因となる効果だ。これに証拠や動機などは関係がない。世論調査が個人の意見を操作するものとして批判されるのもこのためだ。このバイアスは周囲に順応したいという欲求に根ざしている。
10. 投影バイアス
人は常に心に囚われているため、しばしば意識や選好の外にあるものを予測することが困難になる。
つまり、殆どの人間が自分と同じように考えると根拠もなく想定しがちだ。これは投影バイアスあるいは偽の合意効果という、他人が自分と同じように考え、自分に同意するはずだと思い込むことの原因になる。
これによって、自分がごく普通であると勘違いをし、ありもしない総意があるかのように振る舞うようになる。
過激派グループが自分たち以外にも同じ意見の人間が大勢いると考えたり、ある人が選挙の当選者や試合の勝者の予測に自信過剰になるのも、これが原因だ。
11. 現在バイアス
人間は未来の自分を想像することが本当に苦手で、行動や予測はその影響を受けている。
大抵の人間は楽しいことは今すぐ味わい、嫌なことは後廻しにしたがる。貯金をするより今すぐ使いたがるのも同じ例だろう。
それゆえに特に経済学者や医療関係者に注目される理論だ。1998年の研究では、被験者に今後一週間の食事メニューを決めてもらうと74%がフルーツを選択したが、その日のメニューを決めてもらうと70%がチョコレートを選択した。
12. アンカリング効果
相対性の罠とも呼ばれるこのバイアスは、人が限定的な要素しか比較しない傾向を指す。典型的な例は、セール中の商品を買い物するとき、その値段の違いは気にするが、絶対的な値段自体はあまり気にしないケースだ。
レストランがメニューに非常に高価な料理とより手頃に見える料理を載せておくのはこのためだ。高価過ぎず、安過ぎもない、中間の選択肢が良く選ばれる理由でもある。
via:io9・Translated hiroching
というわけで、どんなに公明正大で偏見を持たずに判断しようとしても、脳にはなんらかのバイアスがかかっている事実を認める必要があるだろう。
いかに自分が理性的で理論的であると思っていても、実はそうでもないということを自身で理解する必要があるのかもしれない。
自分で自分を客観的に見る事は難しいけどたぶんどれも当てはまらないように思った、昔にそういう考え方をしてたなと思うものは多々あるけど。自分の場合は自閉症でもあるのでそのせいもあるのかも。
結構実感した奴があるね。
俺が気付いた、最近の若い子は高身長が多いなんてのはきっと「6. 観測選択バイアス」なんだろうな
平均身長自体はここ30年変わってないしけど、高い子が多く見えてしょうがないわ
※2
いや、30年前と比べるなら男女ともに平均身長は数センチ伸びてるけど??
※22
カエサル曰く「多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」
だからモラルとか規範みたいな大枠から法律というキッチリした囲いが必要なんです。
人間は工業製品ではありませんから。
そして、それらは大体良心に基づいて居ますので、時にひょいっとそれらを飛び越えます。
厳密に言えば刑罰に値するような事だって「その程度」と思ってしまえばやる人が居るのは良心の咎めが緩い場合でしょう、そして時に大変な狂気をはらんだ人物が何食わぬ枠の中から時々大きくはみ出して重大事件を起こしたりするわけです。
でも、といって性悪説に基づいて規範や法律を作ってしまうと、今度は恐らく大半の人がストレスを感じることでしょう。
偏見はあって当然、でもそれを一つ一つ乗り越えて「平均化」する事は、特に個人個人の付き合いの場合、相手が「余程」で無い限りは不可能ではありません。
問題なのはそれが集団化したときです。
美しかったはずの理念を泥だらけにして相手のせいにする事に何の違和感も抱かなくなってしまいます。
>逆説的ではあるが、インターネットはこうした傾向をさらに助長した
さて、ネット上でこの1文がどれくらいバイアスかけられずに理解されるかな。
電車の中吊り広告、テレビ、インターネット。
不動産買おうかなって考えたら初めて広告が目に入るよね
>>5.”車のドライブに恐れを抱く人は少ない”が、飛行機恐怖症の人は結構いる。
何かこの文章になにか論理的な裏付けがあるんでしょうか?
視力の落ちた年配だと夜間や雨の運転が怖いといいますし雪が降ろうものなら健康な若者でも恐れ戦きます
一回のドライブ単位で見ても車間距離の短い後続車、強引な割り込み、一時停止をしない合流車、夕日が沈んでもライトをつけない車などプロから見ても怖いと感じる要素がある
さらに国内旅行でマイカーでの長距離運転がつらい(怖い)から電車や飛行機での移動にするというケースもある
※42
確かに飛行機恐怖症の人より高齢で事故が怖くて運転をやめた人の方が多そうだ
マスコミ「ダイオウイカが次々に水揚げ!」
さかなクン「観測選択バイアスによるものです」
1016じゃなくて
10^16
真空管かよ!
まあ正確性も大事なんだけど、確定的に予測可能な範囲でしか物事を見ていないと、大きな成果というのは得られない。少なくとも、自分で作ることはできないんだよ。
小指をよくぶつけてる気がするのも観測選択バイアスか。
最近地震が多いなーとか思ってたのも、震災の後になって観測選択バイアスがかかったためなのかな
あと、占いで悪いときはその日が悪い1日に感じて、良いときは良く感じるってのもこれかな?
多分、人類に限らず生物には一般にこういう意識傾向があって、
それは合理性では計れない、種の保存にまつわる何らかのメリットがあるんだろうと思うなあ。
一回の失敗が生死につながる時、それは単なる確率の評価では済まない。
論語を読んでて、孔子いわく「最近の若者は礼儀を知らないっ」て怒って書いてて
笑った。若者とは太古でも未来でも一律礼儀を欠くものなんでしょう。
人類がこれから作り上げていくであろう人工知能はこういうバイアスからどの程度逃れられるか興味があるねえ。
こう言うの積極的に利用して煽動する人がいるからなあ
TVや新聞からの情報がかなり偏ってた事が分かってから何事も鵜呑みにしないようにはしてる
気になることは自力で調べて多面的に見るように心がけてはいるね
時計の4:44をタイミングよく見てしまうのも観測選択バイアスなのだろうか
※15 大人の事情ガン無視のロボット怪獣軍団出現に期待
他人の不幸を心の奥では喜ぶ部分もバイアスなんだろうな・・・
生きていくうえでバイアス無しの人はいないだろうなあ
特に確証バイアスは恐ろしい
事象観測にバイアスが掛かるのはある意味、自己保存本能も関係しているかも。
これを研究し、結論付けたのも人間だし、その逆の結論が出ていた可能性も有りますね。
常識とは大人になるまでに集めた偏見のコレクションである。
人は、見たいものしか見ないということを最近よく感じるんや
一々ぐさりぐさりと突き刺さったw
悲しいかな列挙されたすべてのバイアスかかってる俺
色んな意味で寛容さがない人間になってしまったなあと思うよ
こういうのも遺伝子のコードでプログラミングされているのかな。
それとも後天的な学習によるもの?
それで上手く行ってるんならそれで良いじゃん。
全ての要素を把握して過不足無く正確な判断を下せ、な~んて人間のキャパ超えてるよ。
絶対公平では自分がなくなってしまうからな。
自分が自分であるということは自分独自の認識を持つことだし。それを主張すること。
それを認めてくれる他者に肩入れするのは当然の結果。
重要なのは最大公約数の相対的公平性を理解できるかどうかで評価が変わる。
あくまでもドグマを押し通すならアウトサイダーになってしまう。
84回に1回の交通事故と5000回に1回の飛行機墜落事故
どっちのが死亡率高いんじゃい
視野が狭いと色々と気づかないうちに損をしていることが多い
素直に聞いて様々な意見を聞き自分の考えとそれらを照らし合わせ考え、より良い形を探す事が自分にってプラスになる
※27
それこそまさに、現状維持バイアスだね。
もっとこういった知識が周知されれば、さらに世の中が善くなると自分は思うけどね。
ネットでよくメディアからの情報が偏っていると言われてるのも確証バイアスの仕業かもね。
あるある、わかっててもやる
心と理性はやっぱり違うなーと思いながらやる
本当の偶然と心の思う「偶然らしさ」も違うしね
だから科学にはデータの裏付けが必要なんだよな
「そうに違いない」と思われることほど、特に
車とか階段とか自転車とかときどき本気で怖くて困る。バイアスもぜんぜんなくなったら生きづらいよね。
哲学のジレンマみたいな。
自らの偏向を自覚しなければ悲劇を招く。
自らの偏向を疑い続けようとすると死を招く。
>投影バイアス
サッカー代表戦の度に「夕べ本田がさ!」と騒いでいた先輩は、やがて職場で居場所を無くし、退職しました(マジ)
サッカーに興味あるのが1人しかいなかったんだよ。それなのに、サッカー見た前提で話されても周りも困ってたんだよ(泣)
この種の話は、株だとかの本でよくみかけるが、
並べてあるとある意味壮観。
10番はサイレント・マジョリティだな。
当時アンケート結果を完全無視した、あのぶっ飛び理論には驚いた
蓋然性無視はおかしくないだろ
確率高いほうはまだ助かる可能性あるけど
確率低いほうはほぼ確実に死ぬやつばっかやん
そりゃ怖がるに決まってる
ちょっと疑問に思うんだけど蓋然性無視のところに書かれている
「交通事故にあう確率84回に1回」って一体どういうデータからどういう計算をして
導き出したんだろう?
おそらく毎日通勤に自動車使う人とかは「本当だったら毎年事故にあってるよw」と
まったく実感の湧かない数値なのではないだろうか
どうも飛行機墜落事故に対して不公平な計算方法が採られたような気がしてならない
(飛行機事故を「墜落」に限定しているのに対し交通事故は「道路上で起きた全ての事故」をカウントしてるとか)
まあ交通事故はともかくとして飛行機墜落事故の5000回に1回という確率は
実感が湧くし十分低い確率なんだけどね…
心理学ついてもう一つ書きますと
現状の心理学は物理学で言う古典力学も出来ていないような感じで
また事実と解釈や価値判断の違いを区別する研究者とあまりしない研究者どちらも多かったりと研究者でも間違う人も少なくなく学問的にまだ確立したと言える感じではないというのが妥当な所です
現状の断片的な研究を理詰めで考えればそれなりに色々分かる所もありますが
心理学でこう言ってるから正しいと鵜呑みにするのは止めた方が良いでしょう
『有名な心理学研究のうち「再現性がある」ものはわずか39%だった』
あとリンクが貼れないようですが
最近のニュースでこういう話もありますね
この記事で挙がっている事についてもう一つ軽く言いますと
『賭博者の誤謬』は価値判断があまり絡まないのでともかく
それ以外はどれも事実と解釈や価値判断の区別があまりついていなかったり
複雑性やこの記事的な事があるかないか
あってもバイアスと言えるような事か偏見か否か等は人によるという事が著しく蔑ろにされていたり
一元的に語れない事を一元的に語っていたりで
どの用語も間違った解釈と言えます
偏見や偏見の直接的原因でもありません(偏見そのものの要因は別です)
また『賭博者の誤謬』にせよどのくらい持つかは人によるというのはあります
ちなみに『賭博者の誤謬』は偏見とも言えますが良くない偏見が多い中結構穏当な部類のですね
義務教育で教えた方が良いんじゃねぇかと思う
感情的ではない説明をしろと言う奴に限って感情的。理性的に説明しろと言う奴に限って理性的でない。
気分が落ちている時はそういう情報ばかり拾っちゃうし、反対にポジティブな時は良い風に捉えられるし、なんかバイアスかかっちゃうのは仕方ないから今自分がどういう状態かを知る尺度にしてるお。
人間だもの みつを