神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

いま問い直す最弱スライム論

最弱スライム 基礎知識編

RPG世界の最弱モンスターといえばスライム。定期的に話題になるネタですが内容を再確認する。
日本において、スライムが最弱モンスターのイメージを最も広めたのはドラクエで間違いない。だが、ドラクエはその認識を最初に持ち込んだゲームではない。それより前に、有名なゲームに最弱スライムは登場していた。
一つは日本に輸入されていた初期コンピューターRPG『Wizardry』。
次にアーケードでヒットした『ドルアーガの塔』。
そしてPCで大ヒットした『ハイドライド』もかなりの影響を与えていたと思われる。
だが、これらと比べても圧倒的な知名度があるのは、やはりドラゴンクエスト。

だいたいは遠藤雅伸氏が言ってる通りになります。
元はといえばWizardryの最初のフロアに登場する「バブリースライム」が弱いのであり、遠藤氏はその直接の影響でドルアーガの塔のスライムを弱くした。
日本に与えたインパクトという点では、Wizardryよりドルアーガのほうが上であろう。さらにドルアーガは不定形モンスターからぷよぷよした形態にアレンジした。
また、遠藤氏は言及してないがハイドライドもドルアーガの塔の影響が強い作品。最弱スライムはドラゴンクエスト以前から結構広まっていた。そして遠藤雅伸はその歴史の重要人物。
けどドラクエはさらに大きく広めた。

堀井雄二の考え

ただ、ドラゴンクエストについては、ここでドルアーガの影響ですよと言って終わりではない。

ドラクエのスライムは堀井雄二が描いたラフをもとに鳥山明がデザインしたものだった。このスライムの原案は有名で、現在いろんなところで目にすることができる。たとえばこの記事とか。

堀井さんのラフにはこう書いてある。

スライム
不定形
ゼリー状の ドロドロしたモンスター
人の顔などにはりついて ちっそく死させる

堀井雄二の考えたスライムは、「ゼリー状」とは書いてあるが、『ドルアーガの塔』以降に見られたプルプルしたタイプではなかった。明らかにドロドロしている。
堀井雄二のイメージしたスライムは、不定形タイプで、ちっそく死させてくる、結構おそろしいイメージのものだったのだ。
そして、ドルアーガの影響が肯定できない。

これを踏まえて、別のインタビューが載ってる本を見てみる。PLANETS vol.7より、堀井雄二のインタビューを引用。

>―― 一番最初に出会う弱いモンスターみたいなのをスライムにしたのは、どういう意図だったのでしょうか? 『ウィザードリィ』なんかでは、スライム系ってけっこうマニアックなモンスターだったと思うんですが。

>堀井 鳥山さんから上がってきた絵が、ダントツに弱そうだったから(笑)。

Wizardryの影響が強い堀井雄二だが、スライムはそうではなく、絵を見て弱そうだったから弱くした。どうやら原案時点では、そこまで弱いつもりはなかった?

おわかりだろうが、このインタビューは聞き手側の認識に不備がある。遠藤雅伸の言ってる通り『ウィザードリィ』には最弱種バブリースライムがおり、それほどマニアックな種類ではない。インタビュアーは完全に忘れてたか、ウィザードリィ1や5などを知らないで聞いてるのだろう。
では聞かれている堀井さんはバブリースライムのことを忘れていたのだろうか。これは、そうだとは言い切れない。堀井さんが間違いに気づいてもインタビュアーに流されてる可能性もあるため…

(なおフォローしておきますと、本インタビューは堀井さんの初期のキャリアからドラクエ10前の頃のMMORPGへの思いまで網羅した優れた内容です。全体的に読む価値あります)

というわけで、日本ではハイドライドまでにかなり定着していた最弱スライムのイメージだが、「ドルアーガ→ドラクエ」へのリンクは、確認できない。
むしろ堀井雄二がドルアーガから影響を受けたという考えについては、ラフ画から否定的に受け取れる。「ゼリー状」という表現がドルアーガから来ている可能性は否定できないが。
そして、ウィザードリィの影響も肯定されていない。
スライムが弱くなったのは、鳥山明のスライムが弱そうだったからだ。ドルアーガやウィザードリィを真似したという証拠はない。

バブリースライム論

Wizardry#1の最弱モンスターがBUBBLY SLIME。日本語に訳すなら「泡っぽいネバネバ」と言ったところだろうか。
その性能はとてつもなく低く、一切の特殊能力を持たず、HPも攻撃力も防御も最低ランク。レベル1冒険者が装備を買い忘れた状態でも苦労はしないだろう。なぜか結構知らない・間違えてる人が多いのだが、正真正銘、完全な本物の最弱モンスターです。
あまりにも弱いため、そのままスライムと訳すのも抵抗がある。これは「ただのネバネバがモンスターに見えてるだけ」ではないのか?

バブリースライムは最弱モンスターとして目立つポジションにいるように見えるが、実はプレイヤーによってはそうでもないかもしれない。出現するのは浅いフロアのみで、短い序盤戦でしか遭遇することはない。
実力的には、レベル1の冒険者にとっても脅威ではなく、そのかわり得られる経験値も極小。
1階には同様にオークという弱いモンスターがいる。何度か戦っているとわかるが、同じくレベル1でも倒せるオークに比べてもバブリースライムの経験値は1/4以下という大差で、格段に実入りが少ない。
かけだしの冒険者にとっても、できれば会いたくないほうのモンスター。それが最弱モンスターのバブリースライムだった。
このポジションは、ドラクエのスライムとうまく対応していない。ドラクエスライムに近い性能をしてるのはオークやコボルドのほう。これらはレベル1なら十分儲かる相手だが、油断するとやられかねないくらいの強さはある。バブリースライムは、ドラクエスライムよりもっと下。
もちろん序盤でしか相手することはないので、人によってはマーフィーやグレーターデーモンのほうがよっぽど記憶に残ってる人が多いのでは。
だから、プレイヤーによって印象が違うはずである。バブリースライムをすごい弱いやつとして記憶してる人もいるだろうが、オークなどと比較するほど印象がない人も多いはず。

堀井さんがバブリースライムを忘れていたのか、ということについては、ちっそくさせてくる堀井スライムは、確かにバブリースライムのイメージとはだいぶ違うようには思える。堀井さんがバブリースライムへの意識があまりなかった、忘れてたというのは、ありえる。
付け足すと、ドラクエ1はモンスターについては全体的にオリジナリティを出そうとしており、Wizardryの影響がそれほど感じられない。意識して遠ざけているのかも。
これはドラクエ2にWizardry由来のモンスターが結構いるのと対比できる。1から2の間に方針が変わったのだろう。

堀井雄二のスライムのイメージは過去のゲーム作品の影響が確認できない。ドラクエのスライムと対応してるのは、どっちかというと後発のハイドライドのほうなのだが、その影響も確認はできず。
ドラクエスライムが弱いのは、堀井さんの言葉通り「弱そうだったから弱くした」が説得力がある。
ドルアーガ経由という定説と異なってくるが、これは堀井さんが適当言ってるというわけではないと考える。

鳥山明の見たもの

弱そうなデザインの経緯も探りたい。
スライムのイメージが全然違ったことは堀井さんも言ってるが、鳥山先生のイメージには元ネタがあったのかも?

以前の記事に書いた通り、『Dr.スランプ』の単行本から鳥山先生は83年あたりまでゲームセンターに行ってたことが確認できた。
また87年の『広告批評』のインタビューより、ファミコンは持っており、ゼビウスとスパルタンXをやってたことは判明している。
そのゲーム歴に見事にドルアーガの塔(84年)が確認できないわけだが…
ゲーセン好きが84年以降も継続していたなら知っててもおかしくないとは言える……またも裏付けが取れない。

逆に鳥山先生がドルアーガを全く知らず、堀井ラフだけからデザインしたということが、またありえなくもないラインである。

堀井さんのラフには不定形とは言うものの、顔のような凸凹もあるように見えるし、頭部の膨らんだシルエットは完成版とそれなりに一致してたりする。そして「ゼリー状」という説明は確かに書かれていた。鳥山先生は全体の形だけ見て、ドロドロではなくプルプルのゼリーと再解釈してパッとデザインを決めたのかも。

いっぽうで、「顔のついたスライム」は堀井さんが知っている初期Wizardryのイメージとは異なるが、もっと古い70年代にも既にあったようだ(マテルの「SLIME MONSTER GAME」という玩具が77年に流行ったらしい)。
鳥山先生も、そういうものをどこかで見ていたこともありえる。

というわけで、鳥山先生がドルアーガを知ってて意識していた可能性は、それなりにある。
ファミコン神拳でもドルアーガは扱ってたし、鳥山先生も既存のファンタジーゲームの資料くらいは見てたかもしれない。
ドルアーガの「ぷよぷよスライム」のイメージに、堀井雄二のラフから読み取れた顔っぽいディテール、または鳥山先生の引き出しのどこかにあった「顔つきスライム」と融合したのかも。
弱そうにデザインしたのも、それ自体ドルアーガが念頭にあったかも。
堀井さんの意識にドルアーガがなかったとしても、鳥山先生にはあったかもしれない。

だが全て証拠はない。ドラクエスライムは、ドルアーガを経由していなくても説明がつく。

周囲はどう見たか

堀井さんの発言からはハイドライドやドルアーガへの思い入れがあまり感じられないのだが、それぞれは間違いなく知ってはいた。ハイドライドへの言及は昔の本になら書いてあるし、ファミコン神拳でもドルアーガは扱ってる。
それらがドラクエスライムに影響した根拠はいまだ見つからないが、堀井雄二周辺はどうか。特に宮岡寛や中村光一ほかスタッフには同じくWizardry愛好者で、他のRPGにも詳しいものが多数いた。
堀井さんがバブリースライムのことを忘れていても、周囲の全員が忘れていたこともなかろう。ハイドライドだって知ってる人もいただろう。
だから堀井さんがスライムを弱くしようと言い出したら、それは周囲にとっては全く自然な判断。反対はなかったはずである。
それで特に齟齬もなく話は過ぎていくと…

そんなわけで、ドラクエスライムに対する過去のゲームからの影響は、可能性は高めであるものの、全て裏付けが取れなかった。
しかも、堀井さんが大好きだったWizardryの影響さえも確認できない。むしろ無意識に否定したと受け取れるインタビューがここに残っている。

  • 最弱スライムを日本に定着させたのはドラゴンクエストである。
  • ドラクエ以前にも多数の最弱スライムは見られる。
  • だがそれら既存作品からドラクエへの影響は全く裏付けられなかった。

定説を肯定できないまま第一部完。なぜこんなことに…

マニアック?なWizardryスライム

一応見ておくが、スライムが最弱モンスターというイメージ自体、そこまで共有されてもいないだろう。

wizardry#1において不確定名がスライムになっているものは2種類。バブリースライムとクリーピングクラッドのみ。
2階に出現するCREEPING CRUD(這いずるベトベト)はバブリースライムより格段に嫌なモンスターだ。ゲーム中で初めて毒攻撃をしてくる。
Wizardryは毒のダメージが大きめで、毒の治療魔法も習得が遅く、2階だと毒を食らった時点で退却の可能性も出てくる。
と言ってもすごい強いわけでもなく、攻撃呪文で全滅するし、殴られる前に殴って倒せる。
2階の敵では中ランクくらいか(2階にはバブリースライムと同じくらい弱いクリーピングコインが出る)。印象が薄いモンスターでもなく、そのポジションはドラクエのバブルスライムと通じる。

またスライムのグラフィックのモンスターは他にFLACKという恐ろしい種がいる。フラックは謎の多いモンスターであり、日本版のグラフィックでは人間型になってるが、これもスライム系のモンスターだと思えるが未確認。参考
Wizardryのスライムは物理攻撃で倒せるものばかりではあるが、決して最弱種だけで構成されているグループではない。

Wizardry#2にもコロゥシブスライムやブロッブがいる。
他にフォーミングモールドがおそらくスライム。日本版の絵では「メトロイドみたいに浮遊するカビ玉」になってるが、どうも名前からするとスライム寄りのモンスターと見る。このへんは結構マニアックなモンスターになってくる。

遅れて88年のWizardry#5にはグリーンスライムという最弱モンスターが出てくる。バブリースライムとほぼ同じポジションを継承。
もちろんドラクエなど国産作品の影響は考えにくい。Wiz5以降から日本のスライムへの影響はあまりなさそうだが、海外RPGにおいても最弱スライムはバブリースライムより前から確認されている概念で、それを順当に継承している。
しかし冷気のブレスを連発してくるフリージーという恐ろしいスライムもいる。

また「顔のついたスライム」、これもwizardry以前からあるのだが、Wizardryにおいても1985年ごろの移植以降、ドラクエよりは先に採用している。

得物屋24時間 BOLTAC'S TRADING POST

最弱スライムの系譜はドラクエと別に継続しており、進化していたのである。

国産スライム初期

明確に意識して最弱種とされたドルアーガの塔のスライムだが、これも有名な話だが、ドルアーガのスライムはそこまで弱くはない。最弱のグリーンスライムにしろ動きがランダムという強力な特徴があり、警戒していても普通にやられることがある。
もっと恐ろしいのはスペルを使う中位以上のスライムで、遠距離からランダム攻撃で殺しにくる明確に危険な相手となっている。これらはフラックにも匹敵する恐ろしい存在感がある。

その点では、ドルアーガを意識したハイドライドのスライムは普通に弱い。ハイドライドはWizardryの影響を受けてないらしいのだが、弱いものは仕方ない。上位種も登場しない。コボルドとどっちが弱いかは微妙。

ドラクエより先にゼルダの伝説にも「ゾル」「ゲル」というスライム的なモンスターが出ている。
ゾルは大きなスライムで、ダメージを受けると小さなスライムのゲル2匹に分裂する。序盤の迷宮にはゲル単体でもよく出てくる。
ゲルは初代ゼルダの最弱モンスターの一角でもある。行動は適当に床を動き回るだけで、剣を使わなくてもブーメランでも倒せてしまう。だがダンジョンに入らないと出てこないので、ゲーム開始直後に出会うことはない。だからシリーズの顔的な扱いは受けていない。
ゼルダの伝説は影響元がけっこう謎のゲームなのだが、おそらくは、ドルアーガやハイドライドの影響下にあるスライム。

ドラクエスライムにもまだ続きがある。

以前紹介したwii版収録資料に、ドラクエ2のバブルスライムの原案ラフも収録されている。

こちらのラフは、たぶん堀井雄二ではなく宮岡寛の作。不定形、液状で顔もない。モチーフはバブリースライムの可能性が高い。鳥山明のスライムが登場した後で、ドラクエは従来型のスライムも取り戻そうとしたようだ。で、顔のついたバブルスライムがデザインされてきた。

もちろんバブルスライムも強くはないものの、それなりに厄介なモンスター。その後のドラクエスライムは多彩な種類へと分化し、キングスライムやスライムつむりのような非常に強力な種類も登場する。
最弱種のイメージがあるのは青いスライムや「ぶちスライム」などごく一部だけである。

エフエフのスライム

ドラゴンクエストへのアンチテーゼを意識した初代『ファイナルファンタジー』にもスライムは登場した。
最弱種のグリーンスライムは、前半の難所である沼の洞窟で遭遇するザコ。毒を持ち、これも最弱種でバブルスライムくらいの存在感がある。しかもTRPG由来の設定を採用し、物理攻撃が全く効かないようになっている(序盤の敵なのに物理防御力がカンストしている)。クリティカルヒットか攻撃魔法でないと1ダメージしか当たらない。
で、魔法なら最弱魔法でも倒せるし、クリティカルはけっこう出るゲームなので、そんな強いわけでもないのだが…最弱のイメージとは遠いモンスターだ。

FFのスライムのいくつかは、この「物理攻撃が効かない、効きにくい」設定を採用している。デザインも何だかわからない不定形だった1とは変わり、2以降はドロドロながら憎たらしい表情のモンスターとして定着する。

ドラクエと近い特徴もあるが、それほど寄せてはいない。

シリーズ通して必ずしも物理無効とは限らないが、多くの種で魔法のほうが有効な設定は維持。最弱モンスターじゃないし、むしろ結構厄介なモンスターとして記憶に残るはずだ。

スライム以外の最弱モンスター

初期FFの最弱モンスターはゴブリンだが、FF6から出ないことが多くなった。初期ナイトガンダムもゴブリンザクがいたのはFF意識だろうか。
FF6だと最弱種はガード?シルバリオ?
聖剣伝説はラビ。ロマサガならコロコロムシだが1にしかいない。レーシングラグーンなら一夜目のWagon660か?
強襲サイヤ人ならカイワレマン。激神フリーザなら何か名前も思い出せないフリーザ軍のザコ。
スーパーマリオならクリボー。ゼルダの伝説はオクタロックは最弱ではなく、ゲルかキースか。世界樹の迷宮なら森ネズミが最弱だったけどナンバリングによって立場が変わる。
ウルティマの最弱敵ってどれだ?
wiz3はガリアンレイダーか?

作品を越えて定番化するほど知名度の高い最弱モンスターというのが、どうも世間にあまりいない気がする。スライム類以外だと、印象にあるのゴブリンくらいかも。
そうすると…「最弱モンスター」という概念それ自体がスライム以外あまり目立たない環境ということか。

いやしかし、スライムそれなりに強いゲーム多いでしょう。FFがそうなんだから。

まとめ

  • スライムが弱いイメージはドラクエ固有のものではない。
  • 実はスライム以外に「有名な最弱モンスター」が存在しない可能性がある。
  • それはそうと、スライムだってそんな弱いイメージで統一されてなくね?

このような前提を踏まえて、TRPGのスライムは強かったのに…と嘆くのはもう古い認識であろうというか、そのツッコミ自体がテンプレ化してるのではないか?

私はTRPGをよく知らん。堀井さんも知らんようだ。
FF1を作った人たちは知ってるのだが、そのイメージで作られたのが強いというほどでもないFFスライムだということは、私の認識です。

参考文献

ロールプレイングゲームサイド Vol.2。

hally (VORC)氏による「コンピュータRPGモンスター辞典[第一回 スライム]」という記事が掲載。(現時点で第二回はありません)

スライムの起源として20世紀初頭の小説に始まり、映画、TRPG、黎明期コンピュータRPG、さらに玩具のスライムまで全部詳しい記事です。
古い最弱スライムとしては1978年の『Beneath Apple Manor』を紹介。また1979年PLATOの『Avatar』にも最弱ではないが1階からスライムが出ているとのこと。しかしこれらがWizardryへの影響元と明言はされず、最弱イメージの経緯として玩具スライムの影響という説で書いていますが、はっきりはわからない感じです。

参考文献としましたがドルアーガ→ドラクエの流れについては見解が異なる部分があるため、本記事を書きました。
なお記事中に「堀井氏と鳥山氏は」「鳥山氏上京の折には一緒に朝までゲームセンターに行く仲だったという」という話が『ゲームセンターCX #106『ドラクエ』を作った男 堀井雄二スペシャル』を情報源に書かれておりますが、DVD-BOX8に収録の当該のエピソードを確認したところ、これは堀井さんと別にインタビューを受けている「さくまあきら氏が」鳥山先生と一緒に行ってたということではないかと…?
鳥山先生と鳥嶋和彦氏、さくまあきら氏、堀井さん、それぞれがゲーセン好きだったようですので、当然鳥山先生がドルアーガを見知っていた可能性もあるわけですが、「堀井・鳥山」の組み合せでゲーセンに行ったことがあったかということだと、現状肯定されてはいないと思います。

日米Wizardry版権史1981-2024

本記事を読む前に、以下の記事を必ずお読みください。

めでたしめでたしと書いたのはそのままの意味で、ウィザードリィの版権問題はもう解決しており、良いところに収まっている、という意見です。
現在の版権はわかりやすい形で約2社に分かれ、彼らは持っている権利を生かし、長年動きの止まっていた一作目のリメイクを行い、そして北米主導のリメイクながらも日本に対しても十分な販売展開を行いました。

限定版の発売に際し、現在権利を保有しているシロテック兄弟も、メディアを通じて日本向けにコメントを発しています。

過去の権利をめぐる動きには一定の疑問を残してはいますが、2024年現在とくに心配するようなことはないでしょう。

そのリメイクの出来に文句があるぞということなら、まあないわけじゃないとして。

今回は現在の話ではなく、「過去の疑問」についての話、ついに書いていこうということです。前の記事を書いたあと、そのような心境になりました。

この記事で書くこと

本記事の目的は、過去に「グレーゾーン」などと呼ばれてきた「ウィザードリィ版権問題」とは何だったのか、それをつきとめることです。それは過去の話です。現在そのグレーゾーンは存在しないものと考えています。
しかし、これは日本だけの認識ではなく、どうも本国北米方面でもよくわかっていないらしいことが、直近のインタビューで明らかになってきています。

1作目『狂王の試練場』のリメイクが2023年に発表されるまで、ウィザードリィ5までの過去作は約20年ほど移植もリメイクもされてきませんでした。その原因はなんであったのか。
その問題が解決していることを今ここで新たに示し、余計な不安を払しょくすることができればよいと考えています。

それから、今後の希望も少しは書くことです。

やはり、憶測をそれなりに含むものとなります。多くの疑問を本記事では提起しますが、その回答があるとは限りません。

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ウィザードリィ 旧呪文名の権利の考察

Wizardry Variants Daphneでは、呪文名はこんなふうになってる。

知らない呪文もかなり増えてるけど、ディオスやラツモフィスなどの旧シリーズの魔法が普通に使われてます。

もともとウィザードリィは独特な呪文名(カティノ=敵を眠らせる)が使われていたが、これはウィザードリィ6以降変更され、「スリープ」「ファイアボール」といった普通の英語に変更されたのは周知の通りである。

その後、日本展開では旧呪文名の使用は基本的には避けられていた。それで、この「旧呪文名の使用権」は、どうやら日本企業の持っている版権には含まれていないと、長いこと考えられていた。

この呪文名をめぐる重要な動きとして、2022年に小説『ブレイド&バスタード』で旧呪文名が使われたということがあった。
本作はドリコムから出版され、ウィザードリィのタイトルを冠しているが、ドリコムが持たないウィザードリィ1から5の権利は表記されていない。
つまり、呪文名の使用の問題は解決したのでは、いやゲームじゃなくて小説だから権利が違うのかも、など憶測を生んだが。

ウィザードリィダフネもタイトル画面に「© Drecom Co.,Ltd.」しか書かれておらず、「1から5の著作権」が関わるタイトルではない。ドリコムの権利だけで作られている。
どうやらドリコムが旧呪文名を使うのは問題なくなったようだ。
なくなった?
まず本当に問題なんてあったのか?

現在、ドリコムが旧呪文名を使用していることに問題があるとは考えられません。
今回のお話の結論はこれで終わりです。
これでは終わってない、もっと情報がほしいという方のために、下に情報を用意しました。
しかし以前書いた記事と比べて憶測も多くなっています。責任はご自分でお取りください。

版権の前提を再確認

以下の記事に書いた内容を繰り返しますが、

ウィザードリィに関する権利は、現在2社に分かれて所有されている。
「ウィザードリィ」のタイトルその他の権利と、Wizardry6から8の著作権は、2020年以降は日本のドリコムが持っている。
ドリコムは「Wizardry1から5の著作権」は持っていない。この権利を現在持っているのは「SirTech Entertainment Corp.」(サーテック)。
(また今年になって関連企業と思われる「FRPG Corporation」という名前も発見されているが、今回の記事ではあまり関係ないので気にしないことにする)

「5までの独特な呪文名の使用権」は、現在日本企業が持っていない権利に含まれているのではないかと、従来は考えられていた。
旧版権の所有者と連絡が途絶えていた過去は、一部の例外を除いてこの呪文名を使用することはできなかった、と思われていた。

この解釈が間違いだったというのが、現在の私の見立てである。すなわち「旧呪文名の権利が存在する」という考え自体が間違っていたのではないかと。
だからダフネではドリコムの権利だけで問題なく作れている。そういうことではないでしょうか。

その見立てで軽く調べ始めたところで、権利表記にとんでもない見逃しがあったことに気づいてしまったのだが…
まあ呪文名に関わる部分だけ考えていきましょうか。

ドリコムとサーテックの関係

現在ドリコムは1から5の権利者である新サーテックとは友好的な関係に見える。しかしダフネには1から5の版権は関わっておらず、ストーリーのつながりも一切ない。
つまり、「1から5の著作権」というのはストーリーその他の要素、旧作の移植やリメイクを作るために使う権利であり、呪文名や細かい固有名詞にまでは及んでいないのではないか。
サーテック側から呪文名の権利だけが譲渡されたという話は伝わっていないし、そういう半端な譲渡がされたと考える理由がない。
タイトル画面の表記通り、ドリコムの持ってる権利だけで足りている可能性がきわめて高い。

だが、どこまでが使える権利でどこまでがダメなのか、ドリコムはサーテックに確認できる立場にあるはずだ。だから使用に問題ないことを確認した上で使ってる状態なのではないかと。
すなわち、呪文名の使用だけなら権利表記の必要もないと考えられるが、表記が必要ない形での何らかの合意もされている可能性はある。
なおリメイクを作り始めたタイミングは推定2021年ごろ。その頃にドリコムとサーテックは接点を持っていたはずで、権利の及ぶ範囲についても再確認した可能性は大。ブレイド&バスタードはたまたまその後に発表できたのだとも想像できる。

旧サーテック時代のこと

時は戻り90年代の話。まだ最初の販売元の旧サーテック社が存在していた頃だ。
ウィザードリィ1から5の移植と、アスキーのウィザードリィ外伝シリーズ(外伝1から4とDIMGUIL)では旧呪文名を使っていた。
対して、99年以降に登場したウィザードリィエンパイアなどの日本独自展開のウィザードリィは、アスキーの外伝シリーズを除いて旧呪文名を使っていなかった。(PS版エンパイアはカティノを「カティドレイ」というふうに似た名前でごまかしていた)

とりあえず手元にあったPSの『ウィザードリィ エンパイア ~古の王女~』(2000年)の権利表記。ベスト盤なので2001になってる。
なんか長々と書いてあるが、要はエンパイアは「Wizardryの権利」だけしか表記されていない。ウィザードリィには「1から5」だけでなく、「6や7のシナリオの著作権」も別にあるのだが、本作にはいずれも無関係。
エンパイアは「タイトルの権利のみで旧ウィザードリィらしいゲームを作った」という理解でいいと思う。
この中の「1259190 Ontario」というのは、あからさまに変な名前だが、サーテックの関連会社…みたいなもん。今回はサーテックそのものだと思っておいていい。
で、1259190 Ontarioからライセンスを受けた「Four Winds」を介してスターフィッシュにサブライセンスがおろされている。この時期のウィザードリィの日本展開には、Four Winds(フォーウィンズ)という日本の会社が間に入っているものがあり、サターン版6&7やウィザードリィエクスなどにも記載されていたようだ。

いっぽう、アスキーの本編シリーズ、たとえばGBC版の1(2001年)ならこう。

長い、GBCの小さな箱の側面にびっしり書かれているが、どうやら難しいことは書いてない。
Proving Grounds of The Mad Overlord(狂王の試練場)の著作権はアンドリュー・グリーンバーグとサーテックにある。
WIZARDRYの商標は1259190 Ontarioにある。
また「Copyrighted Program」とあるが、どうも1のプログラム自体の権利がサーテックにあるのかな?それがアスキーにライセンスされ、ファミコン用に提供された。
ファミコン版の翻訳物の権利はゲームスタジオにある、とも書いてあるようだ。
そしてまたプログラムはローカスにライセンスされ、ゲームボーイカラー用に提供された。
最後にGung-Ho!(GBC版の開発元で、パズドラのガンホー社とは別)がGBC版のプログラムを書いた、と。

ともかく、1の移植なのだから、当時アンドリューとサーテックが共同で持っていた扱いと思われる「1の著作権」が当然使われている。
エンパイアとGBC版1の権利を比べると、「WIZARDRY」と「Wizardry」で権利は違うのか、1259190 Ontarioとサーテックで分担が違うのはなぜなのか、フォーウィンズが入ってるとどう違うのか、
不明点はいくつかあるものの、エンパイアとGBC版の重要な違いは「1から5の著作権」が使われているか、だけであろう。
呪文名はたぶんこの「1の著作権」に含まれてるのだ、そのように思ってしまうのはまあ自然ではあった、かも…

呪文名の権利いらない疑惑

…気になって。念のため。持ってないけどヤフオクなどに出ているWizardry dimguil(2000年)のパッケージを確認させてもらったが。
ディンギルの著作権表記は以下のようになってるようだ。

>Copyright ©1998-2000 by 1259190 Ontario, Inc. All rights reserved
>Wizardry is a registered trademark of 1259190 Ontario, Inc. All rights reserved
>Wizardry is a series of copyrighted programs licensed to ASCII Corporation. Modifications for the Playstation format "DIMGUIL"
>Copyright ©1998-2000 by ASCII Corporation. All rights reserved.

旧呪文名を使用しているDIMGUILに、1から5の著作権は使われていない。少なくともそのような表記は無い。
エンパイアと比較すると、プログラムの権利が使われているのと、間にフォーウィンズが入ってないという違いはある。だがそれだけだ。
こうなってるのはディンギルだけではなく、外伝1から4までずっとそうであることが今回の調べでわかった。外伝1のみ、発売時期の関係かロバート・ウッドヘッドとアンドリュー・グリーンバーグの名前が記載されているが、5までの著作権を外伝1に使ったという確認は取れない。
これは素で気づいてなかったですね…

つまり、エンパイアは「タイトルの権利のみで旧ウィザードリィらしいゲームを作った」という理解をしたが、外伝も同じだったんじゃないだろうか?
違うのはアスキーは原作のプログラムの権利を使っているから「らしいゲーム」じゃなくて全く同じプログラムで動いてても大丈夫そうなことだが、呪文名の権利はどうも「1から5の著作権」には含まれていなかった可能性が高い。91年の外伝1から、ずっと。

この件、アスキーが何かを踏み越えていたとはさすがに考えにくい。
旧「ウィザードリィ外伝」は10年近く展開されたシリーズで、90年代後半に復刻もされてるし、その後アスキーはGBC版まで版権をしっかり明記して作ってた。そこを誰も確認してないとは考えられない。
やはり呪文名の使用は「1から5の著作権」に含まれない。その裏付けとして、外伝1からディンギルの版権表記がある。
アスキーはその認識でやってたはずである。

呪文名に著作権はあるのか

創作物のキャラクターの名前のみでは著作権は認められない、みたいな判例はあるようですが、こうした事例がウィザードリィの例にあてはまるのかはわからない。
商標登録されていれば別だが、まずアンドリューおよびサーテックが魔法ひとつひとつを商標として登録してたということはない、と思う。

とりあえず、許されてる事例として「ドラクエじゃないのにホイミが使えるゲーム」なら知ってる。
スクウェアの『ルドラの秘宝』。本作は魔法の名前をプレイヤーが決めると効果が自動で決まる「言霊」というシステムを採用している。
この言霊はドラクエの魔法が一部対応しており、明らかに意図的にホイミやメガンテが有効になっていた。

ホイミをドラクエ以外で出すくらいならセーフなのか?
ルドラの秘宝の事例は以下のような事情も考えるべきだろう。

  • スクウェアはドラクエ言霊の使用を推奨していたわけではない。公式な情報では全く公表していなかった(はず)
  • 当時のドラクエの呪文全てに対応しているわけではない。
  • 対応している呪文の回復量や消費MPなども完全一致するわけではない。
  • ホイミに対応するプログラムを作ったのはスクウェアだが、あくまで呪文名を作るのはユーザー側である。
  • このゲームシステムでホイミを試すプレイヤーが大量にいることは事前に予想される。

また当時のスクウェアとエニックス、そして堀井雄二の関係は良好だったはずで、裏で許可を取ってる可能性も…あるかどうかはわからないが。

常識的に考えて、ホイミが使えるくらいはパロディやオマージュの範囲だろう。ホイミに著作権が認められるのかは不明だけど、あったとしても、ルドラくらいなら許されてる引用の範疇で済む気がする。ロトの墓や「ふなのりのほね」が出てくるゲームと同じレベル。

ルドラの例であれば、仮にもっと悪質に「当時のドラクエの呪文全部に対応!」などしていたら、またそれを発売前から売り出してなどいたら、問題は生じると思う。
『ルドラの秘宝』がドラクエの関連作品だとユーザーに誤認させたりしたら、呪文名だけで済む問題ではなくなってくる。
それから権利的にセーフでも、あまりにもドラクエ呪文率が高すぎるとパクリゲーとしてユーザーの印象が悪くなるということはありえる。
そこまではしてないから、ルドラのホイミは笑い話として許されるわけである。

ウィザードリィの場合は?
カティノに著作権はあるのか?
「旧呪文名を使うことで、ウィザードリィ旧版権を使ってるゲームだと誤認させる」ということは、困ったことにありえるのだが…
ウィザードリィをウィザードリィと誤認させるってどんな状況だという疑問もある。そのくらい、ええんとちゃうか…?

ではなぜエンパイアは呪文名の使用を回避したのか?
常識的に考えて、5までの権利がないことはスターフィッシュなどは知っていただろう。言われてなくても5までの固有名詞を避けるのは別に不自然なことではない。
あるいはアスキー作品と別シリーズであることを強調する意図があって、あえて遠慮して使わなかったのかも。
…まあ、派生ウィザードリィの中でも特に『古の王女』はそういう遠慮はしてないタイトルな気はしますが、その件は今回は言わないことにする。

ドリコムは許されてると考える

ダフネで旧呪文名が許されているのは、やはり「呪文名の著作権」それ自体が最初から無かったのではないか、と私は想像しています。

しかし、この想像が間違いで仮に「呪文名の著作権」が本当に存在したと仮定した場合は、逆にその権利はドリコム側の持っているウィザードリィの権利の中にあるのでしょう。
だとすれば他社のゲームでカティノは出せないが、ドリコムの関わるウィザードリィでは問題なく出せる。
そして、外伝シリーズを見るに、この権利の所在はたぶんドリコムに移るより前、旧サーテックが健在だった頃からずっとその形だった。

では、現に呪文名が長いこと使えなかった理由はなんだろう。
エンパイア以降の一連の作品が影響して、どこかで「旧呪文名には問題がある」と誤認が起きたのではないか。
または、著作権的には大丈夫そうでも(アスキー以外では)使わないでくれという、強制力の低いお願いがあった可能性は否定はできない。著作権とは別に、「権利者が嫌がってるみたいだからやらない」は遠慮する理由としては十分成立する。
だとしたら今許されてるのは何なんだということだが、旧サーテックと新サーテックは同じような会社ではあるが、20年の間に気持ちが変わっていても別に不思議はないわけで。

リスクの問題はある。既に法的にセーフと線引きがされている事例でも、訴訟は起こせる。
セーフなつもりでドラクエの呪文を出したゲームがあったとして、万が一エニックスなどに訴えられたりしたら。
法廷で負けたらまずいのはもちろん、勝てたとしても無駄に喧嘩売ったやつとして、これまたユーザー側に悪いイメージのほうが残ることもあるかもしれませんし、単に裁判やるのはめんどくさいというのもあるだろう。
ウィザードリィ1から5の権利者がどこにいたかは知らなくても、どこかにいることは確かだった。「少々使っても合法だけど使わない」という考えも別に不自然なことではないと思います。

この呪文名の件、実は問題などなくても単に遠慮していただけという可能性もあるが、日本とサーテックで長いこと連絡が取れてなかったこと、「問題がどこにあるかを確認してこなかった」こそが問題の本質であろうと私は思うわけです。
ドリコムはその問題を権利のやり取りではなく、話し合いだけで綺麗に解決したのだというのが、私の想像です。

憶測の多い記事で申し訳ありませんが、ダフネは堂々と海外展開もしており、現在問題になっている様子はありません。
本記事の憶測がどれだけ正確かはともかく、今後も呪文名で問題となることは考えにくいです。

まだ呪文名を使わない事例

『五つの試練』のSteam版の場合であれば、現在も旧呪文名の採用はされていない。それどころかSteam版の説明に

>旧作『ウィザードリィ』#1~5との関係について

>本作は『ウィザードリィ』#1~5とは何ら関係がなく、それらのダンジョン構造や、ユニークな名称(モンスター・呪文・街名など)や、それらそのもののグラフィック・UI素材なども利用していません。

って、はっきりと書いてある。
五つの試練の権利表記はドリコム作品と同じようなものだ。

だが五つの試練は「旧作の権利を取ってないけど旧作を強く思わせるゲーム」なのも事実である。(ダフネはそこまで旧作を思わせないので違う)
上記で仮定した「現ウィザードリィを旧ウィザードリィだと誤認させる」を避ける意味で、こういうことを書いてるんだと思うんだが…
また、15年前にPCで売ってた時代から使ってきた呪文名をいまさら変えたくないという気持ちもあるのかも…?

『五つの試練』の件も不明点はありますが、想像はできる。ダフネと違って、いまだ上記の注意書きが残っているわけですが、説明できる仮説なら思いつくので、それほど不自然な状況ではないと考えます。
けど、まあわかんないですね。

謎のカタカナセーフ理論への疑問

いよいよ憶測の多かった本記事の締めくくりだが、困ったことがひとつ。
呪文名はNGというはっきりしたソースは、あるのだ。

ドリコムの前の権利者であるゲームポットのWizardry Onlineについてのインタビュー。

>結局あれって誰が権利持ってるのか曖昧なままなんですよね。でもやっぱり「KATINO」(※)で眠らせたいですよねえ。

>……実はこれ,英字そのままでは版権に引っかかるかもしれませんけど,「カティノ」とカナ表記した場合には,その限りではないんですよ。例えば「MALOR」なら,カナにした場合には「マラー」なのか「マロール」なのか正確には決まっていませんし。

この解釈により、前版権者のGMOゲームポット時代、ウィザードリィオンラインやWizrogueなど一部作品でカタカナの旧呪文名も使われていた。

…本当か?
上記でもゲームスタジオの権利がちょっと出てきたが、ふつう英語から翻訳したものは「二次的著作物」とされ、元著作者の権利も当然残る。それどころか翻訳した人の権利も追加される。
もちろん読み方が何種類あろうと「マロール」がMALORなのは明らかだ。言い訳不可能。「マラーがMALORではないと断言できる状況」に持っていければ別だが、ウィザードリィのタイトルつけといてそんなこと言い張れるわけがない。言い逃れどころか、こうしてインタビューで物証まで残してる。
これが許されるとすれば、既に上記で想像した2パターン、「そもそも呪文名には著作権がなかった」もしくは「呪文名の権利は日本側が買った版権でまかなえていた」のいずれかしか考えられない。
さもなくば、グレーではなく許されてなどいなかった。

何より、これは上記で仮定した「権利的にはセーフだとしても遠慮して使わない事例も考えられる」の真逆。
「権利的にはグレーだと思ってるけどカタカナならセーフだから未知の権利者に遠慮せず使った」と自分から言ってるわけである。
これは憶測ではない。そうとしか読めない。
公式側の人間(当時)が堂々と、なんでそんな自白を、大手のメディア上で?

呪文名の使用はセーフだったと現在の私は考えているが、当時のメーカーの認識は明確なグレーだったんですよ。ドリコムと連絡のついた現在と違い、ゲームポットは1から5の権利者が誰か、本当に知らなかった。
知らないまま、グレーゾーンをグレーのまま、日本人の解釈のみで乗り切ったつもりでいた。
どこにいるかもわからない権利者の持っている権利がセーフかアウトか、どうしてわかるというんです?
後でブラックだと判明したらどうするつもりだったんだ?

念のため確認しておくが、ダフネの場合はアルファベットでも呪文名変えるようなことはしていない。
ゲームポットの言ってた「カタカナセーフ理論」で乗り切ってるわけではない。ドリコムは世界で売ってるんだから当然。

カタカナならセーフというのは、過去の公式が確かに言ってたが、私はとても信じられない。
これは問題などなかったのに問題があると勘違いしたうえで、謎な解釈を持ち出している、ではないのか。それを推し進めたのは前権利者ではないのか。
だが、そう、それなりの企業である公式側の人が、謎な解釈をそんな堂々と出してくるものか…
もしかして私が勘違いしてるだけでカタカナならセーフになる国があるのか…?
いや、だが…

私は、はっきり言ってこの2011年のインタビューを疑っている。不信感を持っている。
仮定ならいくらでもできるので、2006年にサーテック側から前権利者に売り渡された際などに、呪文名は使用できないよという密約があった可能性も無ではないのだが…
「カタカナならいいよ」とは絶対言ってないだろう。言ってたらそいつが本当に権利を持ってるかを先に疑うレベル。

グレー化していった経緯について、「サーテックもしくは「別の何者か」から不正確な説明を日本人はされてきたのではないか?」このような疑いは、ないわけでない。
だがそうした根拠の薄い疑いとは別個に、グレーだと知ったうえでこうした態度であたった日本版の前権利者に対して、私は明確で深い疑念を向けている。
この13年前のインタビューに対する強い違和感を、本記事では今さら表明しなければならない。

おわりに

いくつか不明点を残しました。
特にサーテック社についての考察、整理していて気付いた情報は意図的に減らしています。
このことはいずれ続きの記事で書かざるを得ないでしょう。
それは現在一部で広まりつつあるサーテック=シロテック家へのネガティブなイメージが真実なのか、その検証も交えていくことになる。いつに書けるかはわかりません…

ですが、呪文名に関してはこれで決着、過去も現在も問題はなかったというのが私の見解です。
前権利者時代の妙な情報に推測は含みますが、現在のドリコムが自社の権利だけで呪文名を堂々と使える状況にあること、それは疑う余地を持ちません。
現時点での結論を出せるものとして、この記事だけ公開します。

FF1初期バージョンのバグ(未確認情報)

先日のラジオで言っていたこと、忘れないうちに書いておく。

こちらの番組

東京ゲームショウ2024で公開録音され、10月26日に放送された番組中で坂口博信がFF1の話をしていた。
87年12月に発売されたFF1の初回出荷版にはバグがあって、それを知らせるための用紙をスクウェア社員総出で入れたんだという。倉庫の10万本のFF1に、手作業で。
やってるうちにどんどん紙入れが上手くなっていったと坂口さんは語る。

この話は初出情報ではない。前にも坂口博信が言ってたし、これが手作業だったのは他の人も証言している。

市場にも捨てられず残っているものがあるようだが、あまり有名な話ではないと思います。
私も見たことない。

FF1の販売本数は52万本と言われるが、初回出荷数は40万本?(これも別のインタビューの坂口博信情報)とされている。
FF1のカセットは確かに2バージョン確認されており、裏面に「FFマーク」がついているものが存在する(88年以降に販売されたファミコンカセットにはみんなついてる)。
ただし内容に変更点があるかは不明。

このバグは修正された、ということを坂口さんは公開収録では言っていた。
バグ用紙が入っているのは10万本ということなんで、前のインタビューと合わせると残りの30万本は同じ初期出荷バージョンでも修正が間に合った、ということになる。
FF1の初回版は2種類あるのかもしれない。

で、疑問があるのはそこではなく。

>キャラクター設定を終えた後、ボタンを押すと
ゲームが始まりますが、このときキャラクターが変化して正常な画面にならない場合があります。このような場合リセットスイッチを押しながら電源を切り、カセットを取り出し、再度セットしてください。(一度で正常な画面に戻らない場合は同じことを数回くりかえしてください。)ゲームの進行・内容およびセーブされたデータにはまったく影響はありません。

この用紙に書かれているバグについて、私はこれまでまったく聞いたことがない。
FF1はかなり研究の進んでいるゲームだが、ゲーム開始直後に変な画面になるという話は、聞いた覚えはない。しかも電源を切らないと直らないと。
起こる現象も若干あやふやだ。「正常な画面にならない」とは一体。
そこでリセットするとセーブする前に戻っちゃうのだが、バグったままセーブしても大丈夫ですよってことだろうか。
この紙が入ってるカセットだと、本当にこういう現象は起こりうるんでしょうか?
FF1のバージョン違いについては情報不足。しかも初回版でも2種類あるかもしれないとは…

この紙を入れる状況にあったのは間違いないが、実はかなり限られた条件でしか起きないバグなのでは、という気がするが詳細は全くわかりません。
推定10万本も世に出てるのに、発売前から判明していた現象の報告が全くないというのは妙な話なのですが…

追記:
書いた直後に思いついたことですが、FF1のカセットに使われているSRAM。製造時などに入ったデフォルトのデータ(?)がカセットに残ってるのでは?
それを起動時に初期化するプログラムがうまく働いてない(つまりバグではある)のでは?
ということを、根拠のない憶測ですが考えました。
CHR-RAM(セーブとは別のSRAM)に入ってるキャラクターが異常になっているというのはありそう、という反応もいただきました。
この仮定だと、異常が発生するのは出荷直後など限られた条件のみで、現在出回っている中古のFF1では問題は発生しない…ということも考えられます。現在報告がないことの説明になる。