k-takahashi's blog

個人雑記用

食のリスク学

食のリスク学―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点

食のリスク学―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点

先生ご自身による紹介はこちら

 参加者の多くの方から、こういう話を聞くのは初めてだという賛辞をいただき、その「はじめて」という言葉ではずみがつきました。
 「はじめて」とは何か? いただいたご意見を参考にしてまとめると、こういうことだと思います。
まず、食の安全問題について、危険の程度を定量的に算定し、それを基にいろいろ判断していることです。食の安全を食のリスクととらえ、安全度を定量化していることです。
第二は、リスクの裏側には必ずベネフィット(良いこと)があるので、そのことも考えてリスク削減の対策を論じていることです。
第三が、時々刻々動いているリスクを取り上げていることです。この日のスピーチでも、ある危険な事件が起きたとき、そのときに予測できるリスクの大きさは時々刻々変化すること、それに対応して対策を実行するにはどうすればよいかを述べたのですが、そのことは、リスク管理の現場のヒトに強い印象を与えたようでした。(まえがき、より)

というまえがきを読んだときに、たしかにこれは大事だという感想と、すくなくとも第2,第3の点はプロジェクトマネジメントの世界では普通にやっているのだがな、という感想とを持った。

 ただ、第1の定量化の部分は非常にうまくやっていて、素直に凄いなと思った。

 まず技術解説として、リスク推定の方法の解説が非常にうまい。厳密な数理的背景の説明まではしていないが、推定の仕方と情報が増えることによりリスクの推定値が下がる理由などが分かりやすく説明されている。(1頭見つかったというのが、1頭調べて1頭見つかったのと、300頭調べて1頭見つかったのとがどう違うか、という話)

 もう一つが閾値のあるものを確率として計算する手法の紹介。ここが感心したところで、一人の人間の閾値を使うのではなく、人間の集団では閾値正規分布していると仮定することで確率表現が可能となるとしている。こうすれば他のリスクと比較できるわけである。


 第2章は高橋久仁子氏との対談、第3章は松永和紀氏との対談になっており、それぞれフードファディズム、食の安全問題を扱っている。そして第4章は先生のウェブページの記事から幾つか再構成したものが掲載されている。ここは幾つか抜き書きで。

  • 当初、砂糖有害論を批判していたら、砂糖会社側が「砂糖で記録力を高めよう」とやりだしたので、おつきあいを断った。
  • いわゆる健康食品の中に健康障害を起こすものが少なくない。
  • 市民参加で研究するのはいいけれど、研究デザインが思いつきレベル。市民参加の意義と専門家の役割が混ざってしまっている。
  • 安全と地球環境保全は相当に矛盾する。
  • 遺伝毒性という言葉の誤解。(遺伝子が変異して害をなす話と、生殖遺伝子が異常を起こす話とが混ざっている)
  • 市民運動の問題点は、一つのスローガンを言い続けるため時代が変わると間違った活動になってしまうこと。
  • ポリフェノール環境ホルモン
  • 食生活は欧米化していない(すくなくともこの20年は。他のアジア諸国もこのレベルにとどまる可能性が高い。だとすると、食糧不足問題の推定にもかなり違いがでてくる)


 読んで面白かったのはなんと言っても第一章。フードファディズムや恐怖商法対策には、2章・3章が役に立ちそう。