美の特攻隊

てのひら小説

2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

七瀬ふたたび

ペルソナ〜19

小林古径の「髪」の魅せるものが、幼年の孝之を禁断の道筋へと案内しかけたのだとは言いがたい。深沢久道が語った妹と同じほどの年齢、まだ性が芽生えうるもなく、この絵があらわにしている乳房のなめらさから類推されるのは、湯船のなかで間近にされる母の…

ヒミツ

夢の一日

【第4回】短編小説の集い 参加作品 まだ日曜と平日の境界はなく、夜のしじまがゆっくりとまるで羽毛のように寝室へ舞い降りたころ、野山の獣は牙を隠してしまい、そして小鳥たちの羽ばたきが微かなものへ変わる外の気配に耳を傾けながら、さきほどまでのテ…

花のノートルダム

ペルソナ〜18

孝之も熱心に収集したには違いないのだったけれど、小学校に通いだした矢先であり、折からの切手ブームの余波がいつの間にやら到来していたのか、思い返してみてもよく定めきれない期間に訪れた没頭であったから、それも心底から欲して小さな絵柄のとりこに…

野性時代

ペルソナ〜17

息子の口ぶりにあらぬ気をめぐらせてみる疑心はどこへやら、怪訝な目つきを投げ返す素振りは、空っ風に吹かれて舞い上がる木の葉のように軽やかであった。片方の視力を失ったにもかかわらず半ば虚勢を張っている面持ちが痛々しくもあり、逆に初々しくもあり…

夜会服

ペルソナ〜16

そっと静かに聞こえてくるはずの虫の音まで消し去られたのか、どれだけ耳を澄ましてみても孝之の耳に伝わってくるものはなかった。書き記されたもの、断片的でいいから、とにかく何かの手がかりになるようなもの。「主人は読書の割合からしまして、不思議な…

白昼夢

ペルソナ〜15

「果たして深沢はすべてを語り尽くしたのだと了解するべきなのだろうか。少年時の恥じらいで清らかに擁護された記憶が奏でる綾を」孝之は自分の小首を傾げる仕草さえどこか見え透いた演技に思われ、淡い不快を感じた。 彼と妹との関わりを何もかも把握するの…

山の音

ペルソナ〜14

「さて磯辺さん、これまでの追想から実際に醜聞となってしまった美代の行為をある程度、結論づけることは不可能でないでしょう。動機はさておき、幼くしてかくも果敢な振る舞いをなしうる天稟には目をみはるものがありますし、兄妹であろうとも年長の私を見…

ヤモリ

ペルソナ〜13

「吸血鬼が首筋に残していくふたつの穴を説明するのは簡単でした。喉にかじりつくと云っても肉に食らいつく野獣みたいな手段とは違って、あくまで優雅に鋭い牙を食い込ませて血を吸い取ってしまう、どれくらいの量と聞かれたときには、それは本人の腹具合だ…

海辺にて

ペルソナ〜12

「まったく何が探偵だと、聞いて呆れる始末でしょう。しかしですね、けっこうあります。探偵自身が真犯人だったと云う小説。未読だったらいけないので題名は申しませんけど。怖がる妹をもっと怖がらせる増長の隠れ蓑に、どんな思惑があったのかはたやすく推…

冬の午後

ペルソナ〜11

「すでに問題の糸口が一気にほどけてしまった、そう思われても仕方ありませんね。磯辺さんの顔色にだって出ておりますし、原因究明に向っているなら、あまりに単純すぎて張り合いないのが当然です。しかしですよ、さきほど申しましたように私はあくまで補足…

花くもり

言語とは肌なのだ。わたしは自分の言語をあのひとにすりつける。

ペルソナ〜10

「怖いもの見たさなのでしょう。私が現在不可思議な現象からあたまを切り離せないのはおそらくその延長だと思うのですが。磯辺さんのおっしゃられるよう、多分に妹へ知らず知らずのうち影響を及ぼしてしまっていたかも知れません。ご質問には正直に申し上げ…

あしたへ

ペルソナ〜9

「ところで磯辺さん、美代の顔はごらんになったことありますか。新聞に顔写真は載っておりませんでしたが、ある週刊誌ではきわもの扱いで掲載され、しっかり実名で紹介されていたのです。紹介などと云うと軽卒に聞こえるかも知れませんけれど、見出しからし…