美の特攻隊

てのひら小説

2015-01-01から1年間の記事一覧

革命的な日常

22世紀の夢遊病者

夕暮れどきの浴槽にはとけおちそうになる甘い果実があらかじめ浮かんでいるのか、あるいは沈める秘宝が夜明けを待ち望んでいるのか、薄く透けた湯気が窓外へ流れると、反対に生真面目で慈愛をはらんだような冷気が頬に降りてくる。その刹那、背中から首筋あ…

SHADOW PLAY

ノスフェラトゥ

有益な情報は尽きた、、、いつか訪ねてきた青年に、関心事はさておき澄んだ瞳にくすぶる仄暗さをもち、身震いを闇夜に捧げようとしている相手にむかってフランツはそう答えた。さながら叙事詩のピリオドにふさわしい響きをもたせたつもりだったけれど、実際…

夢のはじまり

メデューサ(後編)

見果てぬ夢を思い浮かべてみる愉悦が、いかに艱苦とは無縁の居場所でつぼみをひろげようとしていたのか、当時のジャンに限らずとも、薄っぺらでありながら強固なその花弁はとりとめない揺籃からこぼれ落ちたであろうし、おのずと近づいてくる恋情の魅惑に淡…

晩秋

メデューサ(前編)

北極星の瞬きが港に落ちるころ、泥をかぶった酒場の裏に転がることを忘れた樽の影に、その奥へどっしり腰をすえた煤けた瓶にたまった汚水の上に、かがやきを失わないひかりの矢が降り注ぐと、ふて寝をきめこんでいた野良猫や、酩酊しても笑みをしめさない呑…

明るい部屋

青春怪談ぬま少女〜19(最終話)

あきらめとつぶやいてみましたが、登校2日目なのにこのありさまではどうしたって意気消沈です。帰りの足取りの重かったこと。その重さに様々な思惑がかぶさってくる。あまりに分厚くしかも煙り状にたなびいているので、あたまがうっすら痛くなってきました…

秋のソナタ

青春怪談ぬま少女〜18

きのうのこともあり校舎が近づくにつれ多少は緊張するのかなって思ったけど、なんか日々の流れに乗っかっているようで、わりと気安い足音を意識していました。早くも習慣に毒されたのでしょうか。まあ、わたしの場合10年学級とやらにも在籍していたみたい…

陽炎座

青春怪談ぬま少女〜17

空腹だったのかな、いや違うわ、それほど食欲はなかった。ならどうしてなんだろう、食べもので釣られていないはずなのに。ヤモリさんの顔つきはあの優しい笑みを取り戻しているし、わたし自身の気持ちがあやふやなままなら、冷徹な目線はとりあえず引き下げ…

ニーチェの馬

青春怪談ぬま少女〜16

「地縛霊ってそれ、、、」わたしは挑むような目つきで先生の顔をうかがった。「志呉さん、あのね、さっきもお話した通り、あなたはすでに霊なんだから、その言い方は少し変だと思います」「じゃあ、人間を人間って呼ぶのもおかしいのでしょうか」「人間は生…

Presence

青春怪談ぬま少女〜15

着席とともに授業がはじまる。薄霧に被われたような沈黙が教室全体をゆるく束ねだし、わたしは貯めおいたつもりだった余裕をなくしてしまった。そんなもの元々あったわけじゃない、なんて自己弁護してみても粛然とした空気は時間にブレーキをかけたのか、微…

薮の中

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」

青春怪談ぬま少女〜14

学校の廊下ってこんなに静かだったかしら。今はわたしと先生だけだからそう感じてしまうかも、しかし実際には人数の問題ではなくて、これは変かも知れないけど何者かがこの廊下を、いや、おそらく教室を学校全体を制圧しているような気配がする。管理者らし…

彼岸過迄

青春怪談ぬま少女〜13

燦々と降り注ぐ太陽、まぶしそうに目を細めたりしてみる。朝食をすませ身支度を整えたわたしは、いつも迎えてはちょっとだけ背伸びする朝のように玄関をあとにした。見送りのヤモリさんは口ぶりのわりには淡々とした態度で、もっともこのひとはそういう気質…

恋のエチュード

青春怪談ぬま少女〜12

今日一日はもう語らなくていい。あっ、違うんです。取り澄ましたふうな口調ですけど、そんなに覚めた感情ではありません。始まりの一日だからとても大切なのは承知してるし、気構えだってちゃんと備わってます。それに家のなかを隅々まで探ってみたあげくの…

秋刀魚の味

青春怪談ぬま少女〜11

封筒をビリビリじゃなくそれはそれはありがたくね、といっても実際は震えつつ開封しました。読んで話すほどのことでもないんだけど、、、明日から登校するよう、遅刻は厳禁、きちんと制服を着用する、あれこれ質問しないなどという事務的かつ高圧的な文面で…

東へ西へ

青春怪談ぬま少女〜10

世界の豹変に目を見張り、感動にひたっているのは素晴らしいことだけど、お腹がへっていてはままなりません。うっかり忘れていました。昂った気分にも限界はある。こう言うと身も蓋もないですが、裏返せば限りある感動にふたたび出会うには日常の連鎖を排斥…

眠れぬ夜のために

青春怪談ぬま少女〜9

コンパスの矢は精確な位置をしめしている。目的地をさとす使命を担ってるわりには、小さな手のひらにおさまってしまう頼り気のない丸みと軽さだった。けどその軽さがわたしの足付きをハラハラさせ、緊張にはばまれながらも優美で不遜な意識へと先走りさせて…